燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第27話 風雲~絶対に沈まないから~

深海への勧誘が邪魔された為か、辺り中にはびこっている深海棲艦達の目が変わる。

彼女達は邪魔者である風雲に対し威圧すると、その牙や爪、砲塔や魚雷発射管を向ける。

圧倒的な絶望を醸し出す敵の群れだったが、風雲自身もそれに負けない程の燃えるような視線で倒すべき存在を睨みつけていた。

 

「アンタ達は…………よくも………!」

「か、風雲………何で?この状況分かってるの………?」

「分かってるわよ!コイツ等は、私の仲間をもう一度深海棲艦にしようと画策した最低な奴らよ!!」

 

風雲は怒っていた。

というよりブチ切れていた。

この敵達はよりにもよって神風に同じ過ちを繰り返させようとした。

甘い言葉で深海棲艦にして人類の敵にしようとした。

それが嚮導として………いや、1人の艦娘として許せなかったのだ。

 

「そ、それはそうかもしれないけど………姫クラスが4隻も………。」

「関係ない!………動くわよ!!」

「え!?………わ!?」

 

神風の返答を待たず、風雲は左手で彼女の右手を持つと主機を全開にして右に動く。

その途端、今いた場所に駆逐棲姫3隻と軽巡棲姫の砲撃が飛来し、派手な水柱が何本も上がった。

 

「ひぇ………!?」

「速度を落とさないで!ここから脱出する!」

 

幾ら許せないとはいえ、1人で十数隻の敵艦と対峙する程、風雲は無謀では無い。

とにかく、何とかして神風を連れて敵の包囲網を脱出する必要があった。

 

「逃ガスカ………!」

 

しかし、そこに本性を現した軽巡棲姫の声が響き渡る。

その命令で右手に速力のある駆逐艦ハ級、軽巡ツ級、重巡ネ級が数隻列を作って立ちはだかる。

完全な横一列の陣形にはなってなかったが、その必要も無いと相手は踏んでいるのか、一斉に魚雷発射管や砲門を風雲達に向ける。

 

「そこ、どいて!!」

 

だが、その前に風雲は両ふとももの8門の酸素魚雷を順に発射した。

電探を装備していた故に暗闇でも敵の位置がハッキリと分かり、その魚雷が次々と炸裂していく。

ハ級は粉々になり、ツ級は悲鳴を上げて沈み、ネ級は撃沈には至らないがひっくり返る。

 

(ネ級達の間を抜ければ………!)

 

混乱した敵の群れの間を抜けて脱出するのは駆逐艦ならではの定石だ。

だが………。

 

「か、風雲!ル級が!?」

「な!?」

 

神風の警告に風雲は驚愕する。

速力が遅い故に、まだ追いついていなかった敵戦艦ル級達の砲塔が味方の重巡が複数傍にいるのに風雲達を狙っていた。

 

「味方ごと撃つ気!?」

「撃テ!!」

 

軽巡棲姫の声が響き渡り左手に見えたル級の砲門が光る。

次の瞬間、地鳴りのような音と共に凄まじい砲撃が鳴り響き、風雲達の周りに凄まじい水柱を上げる。

それは、溺れかけていた近くのネ級達にトドメを刺し、海の藻屑としていく。

 

「ほ、本当に味方を巻き添えにして………!?」

「風雲、ダメ!このままじゃ貴女が………!」

「絶対に引っ張って春風や深雪達に謝らせ………!」

 

こんな敵に沈められるわけにはいかない。

しかし、そう誓った風雲の左肘に砲弾が掠り………無情にも、その細い腕を吹き飛ばしていく。

 

「ぐ………あああああああああああああ!?」

「風雲ぉっ!?」

 

響き渡る絶叫。

焼けつくような痛みを味わった風雲は思わず残った腕で傷口を押さえて蹲りかけるが、必死にこらえて右手の主砲を投げ捨てるとそちらの手で神風の右手を持ち身体をスパークさせる。

現在の練度だと1分半だけ使える改二状態になったのだ。

だが、左腕は復活しない。

 

「この………吹っ飛べぇぇぇっ!!」

 

そのまま左太ももに新たに備わった4門の強化された酸素魚雷をル級達に浴びせる。

片腕が吹っ飛んだ事でむき出しになった闘争心と魚雷の威力に気圧されたのか、ル級は2隻が撃沈し、残りも怯む。

 

「い、まの内に………!」

「逃ガサナイッテ言ッタデショ!?」

 

今度は左後方から砲撃の雨。

軽巡棲姫と駆逐棲姫3隻が追いついてきたのだ。

 

「し………つこいっ!神風………先行して!」

「で、でも………!」

「速力は私の方が上で追いつける!いいから!!」

 

無理やり神風を先に行かせると風雲は右手で左胸の爆雷の束を放り投げつつ右太ももの機銃を連射し空中で爆破させて目くらましにする。

しかし、同時に軽巡棲姫の探照灯が闇夜で輝き同時にこちらも目をくらまされる。

 

(まだ動いてよ、電探………!)

 

風雲は目を閉じると右手で背中にマウントした魚雷発射管を根こそぎ外す。

本来、現在失っている左腕で抱えて撃つ物の為、こうするしかない。

 

「でりゃあああああああああ!!」

 

そのまま気合を入れて駆逐棲姫の1隻に向けて放り投げる。

その姫クラスは足の部分に備わっている魚雷を発射しようとしていた為、投げつけられた酸素魚雷を至近距離で起爆させてしまい、自身も誘爆を起こして悲鳴を上げて沈んでいく。

 

「貴様!私ノ仲間ヲヨクモーーーッ!!」

「アンタだけには言われたくない!!」

 

残った駆逐棲姫と共に滅茶苦茶に主砲を撃ってくる軽巡棲姫の攻撃を躱しながら、風雲は神風の元へと向かう。

もう、改二の力を使ってから1分は軽く経過していた。

早くこの海域から逃げなければ危ない。

 

「高速深海魚雷ダ!!」

 

だが、その背後から軽巡棲姫達が一斉に魚雷を撃ってくる。

そのチグハグな軌道故に、途中で魚雷同士がぶつかりあって爆発し欠片を撒き散らしながら風雲達に迫る。

 

「きゃああああああ!?」

「くん………のぉ………!」

 

風雲は片腕を伸ばし仁王立ちになって神風を庇う。

神風の艤装の凹型フレームが傷だらけになって両脇の単装砲と対空機銃が吹き飛ぶ。

それでも神風自身は無事だ。

だが、風雲は………。

 

「げ………は………。」

 

大量の欠片が制服や艤装に突き刺さり、至る所から出血をして艤装からは煙と異音が出る。

右太ももの対空機銃も吹き飛び、攻撃手段を完全に失う。

ダメージを受けすぎた風雲自身は口から大量の血を吐き出して今度こそ倒れそうになる。

 

「風雲………!?」

「か、貸して………!」

 

それでも、神風からピストル状の単装砲を奪うと敵に向ける。

だが、もう狙いも定まらない状態だった。

敵はもう勝利を確信した顔をしている。

 

「こ、の………!」

「ゴメンね………風雲。」

 

背後で神風の涙声が聞こえた。

風雲は動かない………主機が壊れもう動けないのだ。

 

「私のせいで、風雲も沈むんだ………。風雲も死んじゃうんだ!」

「し………ずまない………から………。」

「でも………。」

「沈まないって………。」

「もう身体が………!」

「沈まない!!」

 

口から吐血するにも関わらず風雲は叫んだ。

そして、振り返ると神風に向かって笑みを浮かべて言う。

 

「私は絶対に沈まない!神風も沈まない!絶対に!!」

 

生き残れる確率なんてもう0%に近いのに。

それでも、本当に0%にならない限り風雲は戦う覚悟だった。

しかし………突如その瞳から光が失われ、改二の身体が元に戻ってしまう。

手に持っていた単装砲も落としてしまった。

 

「風雲ぉっ!お願い!もう………もう誰も………!!」

「参った………な………。カッコつけても………結局………。」

 

倒れそうになった風雲の身体を神風が必死に支える。

もう2人に出来る事はそれしか無かった。

軽巡棲姫はそんな彼女達の前に来ると、その左腕の口で喰らおうとする。

 

(ああ………どうか………。)

(お願い………どうか………。)

 

もしもこの世界に神という存在が居るのならば、

 

この辛い思いをしてきた娘だけは、

この優しすぎる娘だけは、

 

(助けてあげて下さい………!)

 

ゴシャァァァアアアッ!!

 

「ギャアァァァァアアアアッ!?」

 

突如響いた悲鳴に2人の目が見開かれる。

見れば、右方から飛んできた巨大な錨が軽巡棲姫の左腕の口をひしゃげさせ真っ黒な血を撒き散らす。

横合いから飛んできたとてつもない衝撃に、敵の親玉は文字通り吹き飛んで倒れ込んだ。

 

「な………にが………?」

「この世界に神はいないかもしれません。ですが………!」

「あ、ああ………!?」

 

電探から聞こえてきた声に、風雲は思わず涙を流す。

それは、彼女を心身共に救ってきてくれた小さくて、しかし誇りある優しい駆逐艦娘の声。

 

「風雲ちゃんの最高の先輩である………電がいるのです!!」

 

身体をスパークさせて全速力で駆けてきた、暁型駆逐艦4番艦である電を旗艦とした艦隊が救援に現れた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

水面を滑走しながら咄嗟に背中に担いだ錨を遠投した電の姿に、単縦陣でその後ろを航行していた深雪は呆れる。

 

「電………幾ら魚雷が誘爆で危ないからって錨をぶん投げるのはどうかと思うぜ?」

「それは電を旗艦に任命した深雪ちゃんの責任なのです。それに、「最高の後輩」をあそこまで痛めつけられて黙っている駆逐艦がいるのですか?」

「そこに関しては同意かな?」

 

いつもの能天気そうな口調でありながら静かな怒りをその瞳に携えた深雪は電に同意する。

深雪は横須賀で風雲と別れた後、様々な仲間達を集って抜錨したのだ。

そして、風雲に教えた自身の緊急用のチャンネルから、神風達の危機を察した彼女達は、ハイリスクな不完全な改二を迷う事無く発動させてやってきたのだ。

 

「電も深雪も何だかんだ言って相当頭に来てるわね。バカな真似はよしなさいよ?」

「何だよ、初風は風雲の嚮導だろ?怒らないのか?」

「冷静にブチ切れろって言ってるの。」

 

3列目の初風も容赦するつもりは無いらしく、魚雷発射管のアーム等を念入りに確認している。

 

「もう………みんな私がいなきゃダメなんだから。落ち着きなさいよね。」

「錨を頭上で振り回している雷ちゃんに言われたく無いのです。」

 

4列目の雷も錨をブンブンと振り回しており、いつでも遠投OKの状態を作り出している。

その後ろでは秘書艦である五月雨も出撃しており、いつもの柔和な笑顔で電達を見守っていた。

そして、最後尾にいたのは白銀の長髪の黒い制服の艦娘。

 

「菊月も来てくれてありがとね。」

「いや………姉貴達から散々話を聞いて、私もいつか夕雲型の勇姿を見てみたいと思っていた所だ。無論、手は抜かぬから心配しないでくれ。」

 

五月雨の言葉に応えるのは睦月型9番艦の菊月。

長月が「小さな軍曹」であるならば、菊月は「寡黙な軍人」のような雰囲気を醸し出していた。

そんな6人の駆逐艦娘に対し、2隻の駆逐棲姫は砲撃と雷撃を放つが、先頭の電は何と両腕の装甲板を盾にして、角度を調整してその主砲を弾いていく。

雷撃に関しては、電探を全員装備しているのか簡単に回避してしまう。

 

「雷ちゃん!!」

「そーれぇっと!!」

 

反撃と言わんばかりに雷が錨を投射。

軽巡棲姫の悲惨っぷりを見ていた駆逐棲姫の内の1隻は悲鳴を上げながら回避をするが、そこに立て続けに魚雷6本が次々と正確に武装に炸裂し、炎に包まれて沈む。

深雪が時間差攻撃を仕掛けたのだ。

 

「どうだ!深雪スペシャルは!!」

「五月雨、菊月!こっちもやるわよ!」

「了解です!」

「心得た。」

 

同胞が2隻も沈められた事で動揺した最後の駆逐棲姫には、初風が魚雷を撃ち込み、怯んだ所に五月雨が爆雷を投げつけ、目をくらまされた所に菊月が張り付いて連装砲を顔に何発も喰らわせて沈める。

あまりにも早すぎるコンビネーションに軽巡棲姫は錨を右手で何とか引き抜きながら叫ぶ。

 

「何ヲシテイル!?反撃ヲ!?」

 

バゴオオオオオン!!

 

その途端、今度はル級達の所から爆発。

見れば、陽炎、長月、皐月、霰、潮、曙の第十四駆逐隊が別の方角から奇襲をかけており、次々と敵を手玉に取っていた。

 

「軽巡棲姫って神通さんに似てるよね?遠慮しなくていいの?」

「神通さんなら味方を平然と犠牲にする軽巡は遠慮なく沈めろって言う。」

「そうだね。………じゃ、嚮導のお言葉に甘えて!」

 

陽炎と皐月が呑気に会話をしているが、その攻撃は容赦がない。

大切な仲間をボロボロにした奴らに遠慮なんてするはずが無かった。

 

「凄い………みんな、風雲の為に………。」

「アンタの為でもあるわよ、神風。」

「え?」

「その証拠に………見なさい。」

 

風雲の電探を通じて聞こえてきた陽炎の声に神風は見る。

少し遅れて朝風率いる神風型の4人も全速力でやってきていたのを。

特に春風に至っては制服の右袖が破れており、船渠(ドック)入りを終えた後、着替える間もなく来た事を示していた。

 

「は、春風………!」

「ウァァァァァァッ!?」

「!?」

 

しかし、そこで咆哮。

状況が変わった事で錯乱した軽巡棲姫が主砲を辺り一面に連射してきたのだ。

それは、神風達の元にも飛んでくる。

 

「危ない!!」

 

咄嗟に神風達の前に立ち、いつも常備している日傘を開く春風。

実は相当な防弾性能があるらしく、傘は砲弾を弾いた。

 

「春風………?」

「ご無事で何よりですわ、神風御姉様!」

 

振り向いたその顔は笑顔であり、いつの間にか神風達の周りには朝風、松風、旗風が集っていた。

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