燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第30話 村雨~ガチF作業モードの娘達~

「船に近づけてはいけないわね………単縦陣と輪形陣を交互に繰り返して一気に殴り込む!各自改二に!後、響………いえ、ヴェールヌイ!アイスドリル貸して!」

「本当に使うのか。高い特注品だが面白いから渡すよ。」

「左肩の装甲版も貸して!」

「意外と人使いが荒い旗艦だな。これでいいかい?」

 

抜錨した艦娘達は、旗艦岸波の号令で全員が身体をスパークさせて改二になる。

岸波も擬似改二の力を発動させ、彼女達と同等の戦闘能力にまで力を高めた。

朝霜以外は、艤装はともかく服装はライフジャケットのままであったが、問題は無い。

というのも、艦娘達が装備しているライフジャケットは制服と同じ素材で作られており、いざという時は海戦にも対応できる特注品であったからだ。

 

「全員、ライフジャケットでの出撃経験は!?」

「あるわよ。」

「じゃあ私が慣れれば問題ないわね。増速するわよ!」

 

背中にアイスドリルを掛けて、主砲を持っていない左腕に装甲版を無理やり装備した岸波を先頭に、曙、村雨、朝霜、大潮、響………ヴェールヌイと並んで一気に加速。

岸波と朝霜の改二になれる時間が5分ちょっとなので、それが海戦の制限時間であった。

 

そんな彼女達を目指して8機の攻撃機と偵察機が入り混じって飛行してくる。

爆弾を積んでいないのがタ級の偵察機で、放っておくと弾着観測射撃で狙われる危険性があった。

 

「数が多いね~。岸波さんはその装甲版で防ぐ気なの?」

「普通に撃ち落とすわ!朝霜を中心に輪形陣!!1人3機は撃ち落とす覚悟で!!」

「よっしゃ!いったろー!!」

「き、岸波ってもしかしなくても脳筋ですか!?」

「言ってる暇があるなら砲を構えろ!!」

 

戦闘モードに入っている岸波はどうやら先輩駆逐艦に対しても容赦がないらしい。

対空戦闘に長けた朝霜を中心に輪形陣になり全員が対空機銃の用意をする。

しかし、そこで電探によって奥に佇んでいるでいるレ級やタ級の砲門が岸波に向くのが分かった。

 

「先行する!少し距離を取って!!」

 

その意味を理解した曙の指示で後続は若干ブレーキ。

直後、ジグザグ航行を始めた岸波の周りで派手な水柱が上がる。

一方で攻撃機と偵察機に対し機銃による攻撃が加えられ、朝霜が3機、曙と村雨と大潮が2機、ヴェールヌイが1機撃ち落とす。

ヴェールヌイが一番少なかったのは、単純に一番後ろにいたからでそれだけ皆の手際が良いという事だ。

 

「朝霜、腕を上げてるね。カッコ良かったよ。」

「へへっ、なんたって次期エースだからな!」

「岸波さんは?」

「無事よ。」

 

戦艦の砲撃の雨を抜け、輪形陣の隊列に戻って来た岸波は曙の前に並ぶ。

ここら辺、朝霜も岸波も大分練度を上げている事を示していた。

 

「近づくまでに第二波が来るわ。次は………!?」

 

油断する事なく電探で状況を確認した岸波が見たのは、爆弾を抱えたまま突貫する勢いで、低空で突撃してきた攻撃機6機と同時に放たれた魚雷2本。

 

「全艦、主砲で………!」

「代わって!………その戦法は皐月から嫌という程聞いたわよ!」

「曙………?」

「こういう時はこうするの!」

 

岸波の前にでた曙は爆雷投射機で2つの爆雷を遠くに放り投げる。

それは先頭の攻撃機2機に当たり、後続と魚雷を巻き込み派手に爆発する。

 

「流石です………!」

「褒めるのは後で!戦闘モードを保ってなさい!」

 

その言葉に岸波は即座に単縦陣に戻し序に艦隊にジグザグ航行を指示する。

爆発の煙の向こうからまた戦艦の砲撃がどんどん飛んでくるが、全員が電探を装備している為、回避に成功する。

 

「次発までに敵との距離を縮められるわ!まずは通り抜け様に各艦種1隻ずつ3隻を落とす!」

「やっぱり脳筋ですよ!?どうやって!?」

 

大潮が悲鳴を上げるのも無理はない。

敵はレ級2隻を中心にタ級2隻、ワ級2隻と並んでおり、こちらに対し、T字有利の状況で待ち構えていたからだ。

最大限攻撃を活かす為の陣形が出来ており、そう簡単には沈められない。

 

「そういう時こそ個人技でどうにかしろ!レ級1隻は私が担当する!!」

「マジですか!?」

「面白いね。ならばワ級1隻は私に任せてくれないか?いい手段があるんだ。」

「だったら、タ級には4人掛かりで行けるわね!村雨、朝霜、大潮、付いてきなさい!」

「OK、村雨のちょっといいとこ見せたげる♪」

「こうなりゃ、やってやんよー!」

「みんなテンションアゲアゲ過ぎですって!」

 

そうこうしている内に射程に入りそうになるが、岸波から見て左翼の赤いオーラを放つレ級1隻が高速で接近してきて格闘戦を狙いに来る。

岸波はサインを出して曙達と離れるとレ級を見据える。

 

「ギャハハハハ!!」

「くっ………!?」

 

屈託な笑顔で繰り出して来たアッパーを主砲でガードし防ぐが、その一撃が重く思わず後ろに仰け反りそうになる。

そこに尻尾の口が岸波の右から襲い掛かろうとするが、素早く時計周りに回転し、ヴェールヌイから借りた装甲版を顎に突っ込み、外に向けて弾く。

 

「そこだァッ!」

「レ!?」

 

得物を食べ損なった事で今度はレ級がバランスを崩すがそこで岸波は素早く主砲のグリップを口で銜えると、背中から取り出したアイスドリルを何と両手で左胸に突き立てる。

 

「レギャ!?」

 

そのまま回転させ、強固なあばら骨を貫き心臓を抉る。

レ級の口と左胸から大量の黒い血が飛び出し、岸波の服を汚すがお構いなしだ。

そのまま胸に脚を掛けてドリルを引き抜くとレ級は血を吹きながら仰向けに倒れ沈んでいく。

 

「本当にぶっ刺す奴がいるなんて思ってなかったわよ………砲雷撃戦用意!」

「あたい、魚雷担当で!」

 

曙のサインで朝霜が左太ももの酸素魚雷をタ級に向けて放つ。

しかし、タ級は魚雷を主砲で撃ち落とす事を優先した為、到達する前に派手な水柱を上げてしまう。

ニヤリと笑うタ級であったが、突如その太ももに備えた主砲が吹き飛ぶ。

見れば、別の方角から船に乗った戦車が………大潮がいつの間にか放っていた大発動艇が狙いを付けていたのだ。

動揺した隙に曙と村雨が肉薄する。

 

「正に裸の王様………ね!」

 

2人の主砲の連射を胸に受けたタ級は悲鳴を上げて沈んでいく。

その後ろではワ級が砲撃をヴェールヌイに喰らわせようとしているが、彼女は逆に右肩の主砲でタ級に傷を負わす。

耐久力に自信のある輸送艦だけに、それだけでは身体の中のオイルを吹き出すだけで沈みはしないが、そこにヴェールヌイの狙いがあった。

 

「本当は秋刀魚を食べる時に乾杯をしようと思っていたが………。」

 

彼女は右手で懐から何とウイスキーを取り出すと口に含み、左手でマッチを取り出し加速。

そのままタ級とのすれ違い様にマッチにウイスキーを吹きかけ………火炎放射をオイルの吹き出した身体にたっぷりと浴びせる。

当然体内に貯蓄していたオイルに引火してしまい、大量の炎を撒き散らしながらタ級も沈んでいく。

 

「えげつないわね、アンタ………。」

「勝利の為さ。使える物は使うのが駆逐艦流。」

 

曙のツッコミを平然と受け流すヴェールヌイ。

そうしている内に岸波も艦隊に合流して、一同は反転。

流石に二度もT字不利になるわけにもいかないので、敵艦隊の後ろに付けるように速力を活かし一気に加速していく。

 

「ワ級を沈める!全艦主機の速度を落とすな!」

 

同じく速力のあるレ級とタ級は逃げながら後ろに砲撃や魚雷、攻撃機を放つがワ級はそうはいかない。

岸波が砲撃を躱し、曙が魚雷を起爆させ、朝霜が攻撃機を撃ち落としていく事で距離がぐんぐん迫る。

大潮の大発によって傷付いたワ級はまたすれ違い様にヴェールヌイに火炎放射を浴びせられてオイルを燃やして沈んでしまう。

これで敵艦は後2隻。

 

「レレレ!!」

 

流石に余裕を失ったのか笑顔を怒りに歪めたレ級が大潮の撒いている大発を撃ち落としながらこちらに突進してくる。

 

「ねえ、岸波さん。今度は村雨がやってもいい?」

「勿論!」

「ありがと♪」

 

村雨が大潮を連れ立って飛び出すと敵は彼女達から見て右側から巨大な口を向ける。

しかし、村雨はその瞬間、左の肩口から腕に巻いて来た鎖付きの小型の錨を投げつけ巻き付ける。

 

「この状態で砲弾や魚雷を撃ったらどうなるかな~?」

「レ!?」

「そ~れ!」

 

そのまま締め付けた村雨はレ級の左側を抜けた事により………巨大な口はレ級自身を向いてしまう。

そして、そのまま自分に向けて砲撃や魚雷をぶっ放してしまう羽目に。

 

「レギャァァァァァッ!?」

「村雨も十分恐怖です………。」

 

そう言いながら大潮は、痛みでもがくレ級の眼下に潜り込むと顎を左手で無理やり開き、右手の主砲を口の中に突っ込み連射。

去り際に魚雷も撃ち込み沈めていく。

最後に残ったタ級は自分達より小さな駆逐艦に恐怖を覚えたのか、無我夢中で砲弾を撒き散らすが岸波達には当たらない。

 

「よく狙え………!てぇっ!!」

 

旗艦である岸波の言葉で曙、朝霜、ヴェールヌイがそれぞれ順に魚雷を発射していく。

それはタ級にトドメを刺すには十分な威力であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

静かになった海では、岸波が予め持参したタオルで口を拭いていた。

擬似改二の副作用で、内臓にダメージを受けて吐血をしているからだ。

 

「慣れないわね、この現象には………。」

「幾度もこの力であたい達を救ってくれた人達には感謝だよな。」

「本当にそうね………あら?」

 

朝霜の言葉に同意していた岸波は、海面が光るのを見た。

確か、岸波がアイスドリルで貫き倒したレ級のいた所だ。

 

「奪還(ドロップ)………?」

「あれが………か!?」

 

この現象を初めて見る朝霜が驚く。

そして、慎重に近づく一同の傍で少女が浮いてくる。

一糸纏わぬ少女の姿は綺麗な銀髪であり思わず見入ってしまった。

 

「先輩………?」

「ん………ぼの先輩?」

「狭霧先輩!?狭霧先輩ですよね!?」

 

思わず叫んだ曙の言葉に狭霧と呼ばれた少女の目が開かれる。

 

「曙………ちゃん?私………。」

「良かった………!狭霧先輩も戻ってこれたんですね!天霧先輩も待ってます!」

「そう………天霧さんも………良かった………。」

 

嬉しそうに涙を流して瞳を閉じた狭霧と呼ばれた少女………艦娘に、岸波は返り血が付いていた事で少し抵抗があったが、着ていたコートを曙に渡す。

曙は狭霧にコートを着せると朝霜と村雨に彼女を支えて貰うように頼み、船に通信を送る。

 

「大丈夫なのか?漁船だろ?奪還(ドロップ)の秘密は………。」

「周知されてるわ。所謂、鎮守府お抱えの訳ありの船なの。」

 

朝霜の疑問に応えながら指揮権を岸波から引き継いだ曙は、先頭に大潮、しんがりにヴェールヌイから戻った響といった陣形を指示して漁船に戻っていく。

新しく戻って来た艦娘を連れながら。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「う………うう………。」

「な、泣くなよ岸波………。ほら、大湊で船渠(ドック)入りすれば幾らでも食べられるだろ?」

 

船の上で岸波は膝を抱えて泣いていた。

というのも擬似改二で内蔵にダメージを受けていた彼女は取れたての秋刀魚を食べられなかったからだ。

彼女達の周りでは曙達が嬉しそうに秋刀魚を頬張っており、満面の笑みを浮かべていた。

 

「ぼの先輩………美味しいですか?美味しいですよね、取れたての秋刀魚………。」

「そんなに言うなら岸波も食べればいいでしょ?」

「血の味しかしません………。取れたて秋刀魚の塩焼き………私も………食べたかった………。」

「ちょ、ちょっとのガマンだ!耐えろ、岸波!」

「秋刀魚を一緒に食べている朝ちゃんに言われても説得力が無いわ!」

 

岸波の涙の叫びが響き渡る。

そんなこんなで秋刀魚漁を終えた船は大湊警備府に戻っていく。

ガチF作業で明暗が分かれた艦娘達を乗せながら………。

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