燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第31話 響~小さな小さな艦娘~

秋刀魚漁の船が大湊まで戻り、警備府の明かりが見えてくると、奪還(ドロップ)の事が伝わっているのか例の如く迎えがやってきた。

但し、大型艦では無く朝霜達と同じ駆逐艦娘が2人であった。

1人は濃い青髪のロングヘアーが特徴的な艦娘………大湊の秘書艦である涼風と、岸波や朝霜と関わりの深い同じ夕雲型の沖波であった。

 

「おお、漁船は無事だな!流石歴戦の強者!護衛を頼んだあたいも誇らしいねぇ!」

「岸ちゃん、朝ちゃん大丈夫?特に岸ちゃんは擬似改二だから………。」

 

対照的な言葉を投げてくる2人に対し、朝霜が未だに甲板で膝を抱えて落ち込んでいる岸波を見て言葉を出す。

 

「無事は無事だけど、新鮮な秋刀魚を食べられなかった事で心にダメコン必須な状態かなぁ………。」

「あー………そりゃ、同情するわ。」

「ご、ごめんなさい岸ちゃん。私が行けば良かったかなぁ………。」

「いえ、ぼの先輩達と釣りを楽しめただけでも………うぅ………。」

 

もはや心が大破している状態の岸波をとりあえず置いておき、曙達から服を着せた狭霧を涼風達は預かる。

そして、警備府の裏手に回るように戻っていく。

 

「まだ、大湊でも奪還(ドロップ)の事を知らない艦娘がいるんだな………。」

「そりゃ、簡単には言えないわよ。鎮守府じゃ抱えきれないからって大湊での強化対象になった艦娘がアレじゃあねえ………。」

 

朝霜の疑問に曙は肩をすくめる。

朝霜も岸波も沖波も初めてその理由を知った時は大変驚いた物だ。

そうこうしている内に漁船は入港した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『わーい!!』

 

水揚げされる大量の秋刀魚の束を前に、幼い娘達が歓声を上げる。

この秋刀魚の一部は大湊警備府へ寄付される。

そして、食堂で食べられる事になっていた。

 

「なあ………あたい、駆逐艦だけどもっと幼い「艦娘」がいるなんて思っちゃいなかったぞ?流石にアレは犯罪だろ?」

「村雨も流石に最初にあの子達を見た時は驚いたわ。」

「大潮もまさか自分より小さい子達がいるなんて思いませんでした。」

「私も同様の感想だ。………彼女達は人間の時に何をしていたのだろうな。」

 

口々に無邪気に喜ぶ少女達の姿を見て駆逐艦娘達は複雑な気持ちになる。

大湊鎮守府で騒いでいるこの幼い少女達は朝霜の言う通り艦娘………「海防艦」と呼ばれる艦種の娘達である。

だが、その耐久力………というか体力は駆逐艦よりも劣っており、簡単に沈んでしまう。

何よりも、艦娘になった際に人間の記憶が消えて成長が止まってしまう事を考えれば、彼女達は明らかに普通の手段で選ばれたとは思えなかった。

無論、その手段というのを想像するのは恐ろしい物であるが………。

 

「考えても仕方ないわね。………でも、大湊も大変な任務を任された物だわ。」

「それはあたい達の提督に言っておくれよ。実際、頭悩ましてるし。」

 

新たな声に朝霜達が振り向いてみれば、そこには船渠(ドック)入りをして高速修復材(バケツ)で傷を治して来た岸波と秘書艦の涼風の姿があった。

また、曙と沖波は水揚げされている所を眺めていた海防艦の艦娘達を促し、食堂へと連れていっていた。

 

「アンタ達も見てないでお守を手伝いなさい!食堂に着いたら嫌という程武勇伝を聞かされるんだから!」

「そうだな………天龍や龍田との訓練を語ってみるのも悪く無いか。」

「大潮もそれなりには自慢出来る話はあるはずです!」

「村雨もちょっといい所見せちゃおっかなー♪」

「お、あたいも夕雲型の自慢をしちゃっていいのかな?行こうぜ!岸波、沖波!」

「今度こそ秋刀魚の塩焼きを食べるわ!」

「岸ちゃん、凄く根に持ってるね………。」

 

こうして駆逐艦娘達は艦種混合で成り立っている大湊の食堂に赴く事になる。

そこで無邪気な少女達の怒涛の質問攻めに合い疲労困憊になる事も知らずに………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数時間後、目を輝かせた少女達の質問に何とか答え切った沖波、岸波、朝霜を始めとした艦娘達は机の上に伸びていた。

少女達にとっては何もかも新鮮であり、貴重な経験であるのだ。

だからこそ、必要以上に細かく質問もしてきてしまい、娘によってはメモを取ろうとしている者までいた。

 

「よ、色んな意味でお疲れさん。秋刀魚の塩焼きはうまかったかい?」

「それ所じゃなかったわ………。」

「だよねぇ………。でもまあ、許してくれよ。アイツ等並に、色々経験談を聞いて強くなろうとしてるんだからさ。」

「あの、そう言えば………どうやって訓練をしているのですか?」

「提督自らが指揮してる。あたいも巻き添え。」

 

沖波の質問に涼風はさも当然と言ったように答える。

つまり事務仕事等は後回しという事だ。

それだけの事をこなす涼風達を思わず尊敬してしまった。

 

「アンタ………結構な凄腕だったのね………。」

「曙はあたいをどんな目で見てたんだい?でもま、大抵提督は寒中水泳で風邪引くからあたいが責任持ってる。」

「訂正………アンタは敏腕ってレベルじゃなかったわ………。」

 

以前から顔見知りであった曙はもはや達人の域だと素直に認める。

しかし、そこに響が一言。

 

「だが、あのはしゃぎっぷりを見るに、訓練は上手くいってないみたいだね。」

「そうだねぇ………。だから、釣りバカ………じゃなくてガチF作業の魂を持った駆逐艦娘達を集めたわけ。」

「え?待ってくれ。それは私達にここで嚮導になれという事かい?」

「一時的でいいよ。秋刀魚漁が終わったら横須賀に連れ戻されるだろうし。目標は来年彼女達にF作業の護衛を任せられるだけの練度を磨いて貰う事。」

「………やれやれ。美味しい秋刀魚が自力で食べられると思ったら、こういう事か。」

 

あくまで彼女達は転籍では無く一時的な貸し出しという形だ。

それでもF作業に釣られて大湊に来てみれば大変な取引を裏でされていたものだと思ってしまう。

 

「あのクソ提督は何て言ってたの?」

「上層部からの急な事後承諾だったから、「やられた………本当にすまん………。」だってさ。」

「やっぱり直接上に殴り込んで砲撃してきた方がいいかしら………。」

「曙さん、村雨は受け入れた方がいいと思うよ?」

「………村雨は旗艦経験があるから?」

「それもあるけど………あのままじゃあの子達、確実に沈んじゃうし………。」

 

現在の状勢だと、いきなりレ級やタ級に襲われる可能性すらあるのだ。

そうなった際にあの子達が生き残れるようにしなければならない。

そんな村雨の言葉を受けて、曙は思わず黙ってしまう。

そして一つ溜息を付くと、周りを見渡す。

 

「ある意味お守よりも大変な仕事よ。さっさと帰りたい娘は言って。涼風に責任もって直談判して貰うから。」

「大潮残ります!」

「村雨はさっき言った通り。」

「私も残ろう。ヒヨッコだったからヒヨッコの気持ちは分かる。」

 

ベテラン艦娘達の了承を得た曙は夕雲型を見る。

 

「アンタ達は?」

「ぼの先輩との釣りをまだ完全に満喫してないので………。」

「あたい、エース候補だし残らないとな!」

「一応姉ですから妹達含め、面倒を見ますよ?」

 

岸波、朝霜、沖波も曙の言葉に応える。

誰も帰ろうとする者はいなかった。

 

「悪いね、恩に着るよ。」

「そうと決まったらここの提督に挨拶ね。正式に部屋も確保して貰わないと。」

「曙さんのリーダーシップ頼もしい♪」

「調子に乗るな。………で、岸波達は何か言う事ある?」

「涼風、私達楽器を持ち込んでいるから保管場所や練習場所も確保したいわ。」

「任せな!ちゃんとそういう事情は鑑みるよ。まずは風邪引きを起こさないとね!」

 

そして、皆が揃って食堂から出ていく中で朝霜は1人思う。

 

(留守にする分、しばらく敷波達には悪い事するなぁ………。でも、横須賀は平和だからそんな心配しなくていっか。)

 

残念ながらその認識は甘かったという事を朝霜達は後で知る事になる。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

(一体全体どーしたものかなぁ………。)

 

横須賀鎮守府にある駆逐艦寮の一室………自室で長波はいびきを立てて眠っている、風雲に変わってやって来た同部屋の移住者を見て嘆息していた。

ロングヘアの明るめの茶髪を持っており、外すのも億劫だったのかアンダーリムの眼鏡を付けたままの駆逐艦娘………睦月型11番艦である望月である。

別に好きに眠っているだけならばいいのだ。

しかし、今は訓練開始時間をとっくに過ぎており、更に言えば長波は彼女の嚮導………と言ったら変かもしれないが、駆逐隊の旗艦を任されていた。

 

「おーい、目を覚ませ望月。」

「むにゃ~、後5分~。」

「あー、そうかそうか。じゃあ、実力行使と行こうか。」

「アイタッ!?」

 

長波はげんこつを一発。

望月は思わず頭を押さえ、気だるそうに身を起こす。

 

「なんだよ~、リーダーだからって暴力反対~。」

「訓練時間くらい守れ!待ってるのは長波サマだけじゃないんだぞ!?いいから早く起きて制服来て艤装持ってこい!」

 

長波は制服を投げつけると望月は仕方なくパジャマから着替えて面倒臭そうに支度をする。

 

(何でこんな問題児任される事になったんだ………?)

 

長波は数日前の事を思い出す。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「長波サマが………旗艦に任命!?」

「ああ。この秋までの間に、夕雲型は沖波、朝霜、そしてお前が改二になれるようになった。その成長を見込んでそろそろいいかと思ってな。」

「長波サマを指名するとは流石提督!見る目あるじゃない!!」

 

それは訓練後に五月雨に呼び出された時の事であった。

何事かと思って執務室に赴いた長波は、提督から旗艦に任命される事になったのだ。

 

「言っておくが、内容は難しいぞ?練度向上の一環として6人バラバラの形式で構成するからな。つまり、相手は全員夕雲型じゃない。それどころか同じ形式は1人もいない。これは第十四駆逐隊の陽炎すら経験の無い事だ。」

「寄せ集め軍団最ッ高!望む所よ!………って、その場合駆逐隊名は………?」

「欠番を特別にお前の為に再生しようと思う。第二十五駆逐隊が正式な名称になるだろう。」

「だ、第二十五駆逐隊!?ヤッホー!!」

 

長波は最高にテンションが上がった。

欠番の駆逐隊をわざわざ作って貰えるのだ。

それこそ夕雲が憧れていた陽炎のように。

 

「精進してくれるな?長波。」

「勿論だぜ、提督!」

「あんまり調子乗ってると痛い目見るわよ、長波。」

 

忠告をしたのは他ならぬ秘書艦補佐をしている陽炎。

第十四駆逐隊旗艦を経験している彼女だからこそ、その言葉は重みがある。

 

「どんな性格の艦娘が来るか分からない。場合によっては殴り合いになるかもしれない。艦娘として、色々な事が試されるわ。」

「分かってるよ、陽炎!………どんな狂犬でもやって来い!長波サマと殴り合って成長していこうぜ!!」

 

長波は即決でOKを出し、駆逐隊を編成する事になる。

意外にも風雲の時のように現在進行形で海がトラウマになっている艦娘は存在しなかった。

これならば、勇猛果敢な駆逐隊を作る事が出来るとその時は思った物だ。

 

(正直風雲姉に先を越された時は悔しさも半分あったんだよな………。)

 

だからこそ、訓練に明け暮れる日々を過ごす反面、いつか自分もと思っていた。

その日が来た事は嬉しかったのだが………。

 

(まさか、ここまで凄まじいダウナー系がピンポイントで来るとは………。)

 

そう、長波は望月を装備品保管庫へと連れて行きながら嘆息していた。

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