燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第32話 長波~サボり艦娘~

装備品保管庫で望月の艤装を付けさせた長波は、彼女を引っ張りながら訓練海域へと出る。

そこには4人の艦娘が………第二十五駆逐隊の艦娘に選ばれた駆逐艦達が待っていた。

 

「今日も遅かったね。」

「悪い。明日からはコイツ引きずってくるわ。」

 

無理やりあくびをする望月の頭を下げながら、岸に座っていた艦娘の言葉に長波は答える。

癖のある緑色の長い髪を高い位置でハーフアップにしている彼女は白露型8番艦で改白露型2番艦でもある山風。

望月に匹敵するダウナー系で他人を寄せ付けない雰囲気を持っていたが、しっかり訓練に出るだけあって彼女より数倍マシだと長波は思っている。

 

(艦の記憶から沈んだ夜が苦手だって言うから夜間訓練の時は心配したが………。)

 

驚くべき事に逆に戦闘マシーンのように冷徹な姿に変貌して、長波達の背筋を震え上がらせたものだ。

勿論、他にも懸念すべき材料はあるが、これでも何と複数の改二を使いこなせる主力候補であった。

 

「あたし、踊りたくてずっと待ってたよ~?」

「一応、訓練は踊りの練習じゃ無いんだけれどな………。」

 

次に声が飛んできたのは海の上で華麗にステップを踏んでいるショートの金髪をポニーテールに結んだ艦娘。

陽炎型18番艦の舞風である。

暗い雰囲気が嫌いで常にダンスを踊っているノリが良い娘である。

 

(ムードメーカー的な存在だけど、何か長波サマの頭が警鐘を鳴らしてるんだよな………。)

 

長波が警戒しているのは彼女を預かる事になった際に、岸波や朝霜とジャズバンドを組んでいる野分や嵐から、どんな事があっても第四駆逐隊仲間である彼女を助けてくれと頼まれたからである。

その内容までは分からなかったが、艦の記憶を持っているのだから明るい見た目に反して何かを抱えていてもおかしく無かった。

 

「とにかく、揃ったんだからさっさと訓練しよ!」

「そうだな、色々とキツイとは思うが付いてこれるか?」

「勿論、それで強くなれるなら!」

 

そう海上で力拳を作ったのは枯草色のショートボブと右頬の絆創膏が印象的な艦娘。

何故かカニやヒトデをくっつけているその娘は綾波型7番艦の朧。

元々は第七駆逐隊に所属しており、練度を上げていたはずだ。

 

(確か色んな意味で世話になった曙や潮、それに初期艦の漣がいる駆逐隊だっけ。)

 

その彼女が1人、こうして長波の第二十五駆逐隊に出向くことになった理由。

それが、どうしても長波にとっては頭に引っかかっていた。

 

「とりあえず、陣形練習からするか。」

「じゃあ、輪形陣ですね!」

「何で初霜は輪形陣がそんな好きなんだ?」

 

最後に喜びながら手を合わせた艦娘は長い黒髪を先端で縛っている艦娘。

初春型4番艦である初霜だ。

すこしでも命を助けたいという電に近い思考を持っている心優しい艦娘で、強力な改二の姿にもなれる練度の高い娘だ。

 

(真っ先に副艦に任命したけど………正直、今の長波サマにくっついてるより旗艦任せた方が鎮守府全体の戦力としてはいいんじゃね?)

 

輪形陣に拘る所を除けば完璧すぎるその存在の大きさに、長波は朧以上に謎を覚えたものだ。

とにかく、望月を含めこの5人が長波を旗艦とした第二十五駆逐隊の面々となっていた。

 

(まあいいや。やるからには長波サマ流でやる。それが提督の期待に応える形だしな!)

 

こうして頭を切り替えて長波達は訓練にのぞんでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

午前の訓練は問題なく行われた。

サボりたいと文句を言っていた望月もいざ訓練に入ればちゃんとやってくれたし、昼飯を食べた後の午後の訓練も問題なく行う事が出来た(望月は座学にしてほしいとごねたが)。

そして、午前の分を挽回しようと夕食後に夜間訓練を行い、程よい疲れを感じた後に一同は眠りに付く事になる(夜間時の山風の変貌ぶりには相変わらず慣れなかったが)。

 

(変だ………変だ………やっぱり変だ………!?)

 

しかし、その日の夜。

長波は強烈な違和感を覚えてしまい、中々寝付けなかった。

望月を含め艦隊の練度は皆高く、正直長波が一番劣っているのでは無いか?と思ってしまう程に訓練をこなしていた。

性格面で問題があるのかと思ってもいたが、いざ訓練に入れば5人共しっかりと協力し合ってくれていた。

それはとても良い事だが、予め覚悟していた問題点がほぼ見つからないのだ。

 

(これじゃ旗艦としてやる事ほとんど無いじゃないか!?長波サマはまだそこまで完成されてないぞ!?)

 

長波が改二になれる時間は5分半ちょっと。

当然、山風や初霜はずっと長い間改二の姿を保っていられるし、望月と朧も同等の擬似改二を使えるだけの練度は持っているはずだ。

舞風は自分と近い時期に就任したというだけあって少し練度が気になったが、それでも自分より上である事に変わりはない。

 

「長波サマは………長波は周りに守られるような艦娘じゃない。これなら、初風のような他の優秀な艦娘達の元で修業していた方がよっぽど………。」

「朝練すると言った割に夜更かし~?明日の朝、あたしと一緒に寝坊するよ?」

 

思わず考えている事が口に出てしまったのか、隣の望月に反応される。

 

「あ、悪い………起こしたか。」

「眠って無いよ。握り拳震わせてたら気になるしー。」

「マジか………。」

 

どうやら、声を発する前から変な前兆を見せていたらしい。

額を触るといつの間にか脂汗もかいていた。

タオルを取り出しそれを拭いながらふうっと息を吐く。

 

「旗艦に任命されて早々焦りすぎだよ~?もっとのんびり行こうよ。」

「お前のようなサボり艦娘がいたからだよ。何でそんなぐーたらなんだか………。」

「艦だった頃は忙しかったみたいだからゆっくりと過ごしたいの。」

「艦………か。」

 

意外とストレートに答えてくれた望月の言葉に、長波は考え込む。

艦としての記憶は人間としての記憶に上書きされてその艦娘達を縛る。

実際、長波も艦長であった田中少将の事を話題に出す事が多い。

もしかしたら、もっと強烈な事でそういったトラウマに縛られている艦娘がいるのだろうか?

しかし、意外にもそんな長波の心境を悟ったのか望月が続けて言葉を発する。

 

「長波、まだ旗艦になって数日じゃん。それで仲間の事全部理解する事自体がおこがましいんだって。」

「そうか………?」

「風雲の事を気にしてるのならば猶更じゃん?あの子、文字通り身体張っても神風型の5人を理解するまで数週間は掛かってたんだし。」

「そうだな………って、ビックリだな。お前が長波サマを諭してくれるなんて。このまま寝付けない方が寝坊する確率高いのに。」

「ん~?同部屋の相方の調子が狂ってる方が、あたしも気分悪いからね~。」

 

じゃー、お休みーって言って今度こそ望月はいびきを立てて眠り始める。

そのアッサリとした姿を見て、何となくだが長波は思ってしまう。

 

(案外、コイツが一番凄惨な経験しているのかもな………。)

 

んなわけ無いか、と1人で笑った長波は今度こそ布団を被り眠った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「え~、実戦~?」

「そうだ。南方海域に出てみようと思って、お前を起こす前に提督に許可を貰って来た。」

「あっちあんまり好きじゃないんだよねー。」

「出撃を渋るな。航路の安全の為にも、たまには深海棲艦を掃討しないといけないだろ?」

「はー………。」

 

次の日、宣言通り寝坊した望月を引きずりながら長波は訓練海域へと向かっていた。

南方海域は沖ノ島沖から更に南に向かった所だ。

以前より練度が上がった長波は、この二十五駆逐隊の面々だからこそ敢えて向かおうと考えたのだ。

 

「止めといた方がいいよ~?以前、南は深海棲艦の侵攻が激しかったし。」

「そうなのか?でも、リンガ泊地、ブルネイ泊地、タウイタウイ泊地、トラック泊地………みんな無事だぜ?」

「パラオ泊地が侵攻で潰されたんだよ。今再建中らしいけど資材が中々届いてない状態。」

「へー………って、ん?」

 

そこで長波は引きずっていた望月を離す。

体重を預けていた望月は思わずひっくり返り、仰向けで長波を見上げる形になった。

 

「お前………何でそこまで詳しいんだ?」

「ん~?博識じゃいけないの~?というか、長波が確認しておかないといけない事じゃん。」

「いや………まあ、確かにな。悪かった。現物で確認しないと気が済まないのが長波サマ流だったが………次からは気を付ける。」

 

そう謝ると、長波は望月を立ち上がらせてスカートのほこりを払ってやる。

 

「ほら、いい加減自分の足で歩け。」

「はいは~い。じゃあ、行きますか。」

 

望月はそう言うとのんびりと歩き出す。

その後ろ姿を長波は違和感を覚えながら追いかけていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『南方へ実戦!?』

 

望月を連れて訓練海域に赴いた長波は既に揃っていた4人に今後の計画を伝える。

実際訓練だけじゃ分からない事もあるし、実戦を経験してこそ糧になると長波は説明していく。

その中で、長波は各艦娘達の顔色をうかがうのを忘れなかった。

 

(コイツは………。)

 

初霜は至って普通だ。

朧は熱意に燃えている。

だが、山風は少し瞳に影が掛かっている。

そして、舞風は………それ以上に顔を背けたい様子であった。

 

「以上だ。山風、舞風………出たくないのか?」

 

実戦に対しマイナスな反応をした2人に長波は敢えてストレートに話題を振る。

ここら辺、回りくどい表現は苦手であったし相手の思っている事は事前に確認しておきたかったのが長波流であった。

その言葉にまず、山風がぼそりと呟く。

 

「あたし、沈みたくないから………。」

 

その言葉に隣に並んでいた舞風の肩がビクっと震えるのも長波は見落とさなかった。

複数の改二の力を手に入れていても、夜に強力な戦闘マシーンになっても、山風は沈むのが恐怖であるらしい。

死にたくないと思うのは、艦娘以前に生き物としての本能であった。

 

「そうか………。しかし、だから置いていくって言う程、長波サマは生易しくは無い。別に旗艦になれとは言わないから、付いてきてくれないか?」

「分かった………でも、危ないと思ったら引いてよ?」

「ああ。………舞風もいいな?」

「う、うん………そうだよね、大丈夫だよね!みんな強いし!」

 

舞風に至っては明らかに無理している様子が見受けられた。

もしかしたら野分達が危惧しているのは、ここにあるのかもしれない。

 

(陽炎が言ってたっけ………色々試されるって………それは多分、ここからだ………!)

 

長波はそう心の中で考えると油断しないように気を付ける。

そしてその数日後、長波達6人は桟橋から抜錨する事になる。

 

「第二十五駆逐隊………抜錨だ!」

 

その重みを長波は噛みしめながら。

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