燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第33話 舞風~豹変~

遠方に赴く際は、燃料の残りに気を付けないといけない。

更に、駆逐艦の役目は主に敵の種類と配置を確認する事であったから無理な海戦もしてはいけない。

ここら辺は初めて沖ノ島沖に出た際に、敷波にしっかり教わっていた。

長波はその言いつけを何度も心の中で復唱しながら、最後尾の初霜に隊内無線で言う。

 

「春に出た時は前後を囲まれてしまったから後ろにも気を付けてくれ。何かあったら遠慮なく言ってくれよ。」

「分かりました。任された以上はちゃんと守るわね。」

 

笑顔で応える初霜の姿に安堵を覚えながら長波は先行する。

陣形は単縦陣で、順番は長波、山風、舞風、朧、望月、初霜の順だ。

初霜が一番後ろなのは、一番練度が高い艦がしんがりを務めた方がいざという時に頼りになるから。

実は夕雲達と出撃していた時も、長波は初風に何回かしんがりを託されていた為、その重要性を理解していた。

 

(山風と舞風が爆弾である以上、逃げられない状態だけにはしたくないからな………。)

 

嘗ての自分の過去を思い出しながら長波は細心の注意を払っていく。

沖ノ島沖を抜ける時には、2回海戦を経験する事になった。

と言っても、どちらも精々軽巡洋艦ト級がいる位で、そこまで脅威となる構成では無く、魚雷を温存しておいても偵察どころか掃討にも困らなかった。

気になる点があるとすれば、1戦終える度に舞風が大きく息を吐いている事であろうか。

そうしている内に沖ノ島沖を抜けて南方海域に入ろうとする。

 

「それにしても、またこの海に来るなんてね………。」

 

意外にも言葉を発したのは最後尾の初霜。

彼女は懐かしそうに髪を靡かせた。

 

「何だ?初霜はこの海で戦った事があるのか?」

「ええ。………私、横須賀に来る前はタウイタウイ泊地で秘書艦をやっていたの。」

「え?」

 

更に告げられた意外な言葉に電探で警戒しながらも思わず後ろを向いてしまう。

その話題にビックリしたのは長波だけでは無かったらしく、全員が初霜の方を振り向いている。

 

「初霜………秘書艦だったのに、何で横須賀に来る事になったの?上の指示?」

 

珍しく興味を持った山風の言葉に、初霜は首を横に振る。

 

「提督と………距離を取りたくなったから………。」

「どういうこと?」

 

少し怪訝な顔をした舞風に対し、彼女は服の中から………首にかけているペンダントを取り出した。

その先端にあったのは………指輪だった。

 

「初霜ちゃん………ケッコンカッコカリしていたの!?」

「待て、朧!?何だ!?そのケッコンカッコカリっていうのは!?」

「長波ちゃん、知らないの!?提督と艦娘がその………永遠の契りを結ぶ事だよ!」

「何ィーーーっ!?」

 

思わず長波は叫んでしまう。

本来、この社会において艦娘は人間とは別個体として扱われる事が多い。

道具としか見ていない軍の上層部は勿論の事、一般社会においても物珍しい動物のような見方をされてしまう。

勿論、色んな意味で覚悟をしてから艦娘という道に踏み込むのだが、その艦娘と一番距離が近いとはいえ、提督と恋愛感情を結ぶ存在がいるとは長波は思っていなかったのだ。

仮に艦娘の方がそのような感情を抱いても、人間である提督がそのような感情を抱くなんて想像していなかったからとも言える。

 

「長波………田中少将の事散々口にしてたのに、知らなかったの………?」

「アレは只の憧れだって!?でも待て………その提督と距離を取りたくなったって………言ったよな?まさか、その………不穏な関係に………?」

「違うわ。」

 

良からぬ事を考え始めた長波にまた首を横に振って、初霜は寂しそうに笑いながらゆっくりと答えていく。

 

「契りの指輪をくれたのは提督の方。でも………今の私は恋愛に興味が無いから。」

「振ったのか!?」

「もう!振ったのならば、指輪は大切にはしてないわ。あの人は待っててくれるって言ったから………。」

「ええっとつまり………?」

「私ね、今の時間が好きなの。艦としての記憶の中には、激戦を戦って散っていった仲間達の事ばかり。でも、今はその仲間達と一緒に戦える。それが嬉しいの。」

 

当然、初霜ほどの練度の持ち主ならば、奪還(ドロップ)の事は耳に入っているだろう。

自分の力で深海棲艦と戦い、大切な人達を1人でも1隻でも守り救っていく日々は、彼女にとって何物にも代えがたい。

だからこそ、そのタウイタウイ泊地の提督とは今の関係のままでいたかったのだ。

勿論、艦娘との恋愛が発覚する事により、異端の目で見られる事も考慮したのだろうが。

 

「でも………確かに長波さんの言う通り、少しギクシャクしちゃったのは事実です。だから………ちょっと距離を取る為に、転籍をお願いしたの。」

「そ、そうなのか………色々な事情があるんだな………。」

「気にしなくていいわよ。私はみんながいてくれるだけで………。」

「そうやって、自分の気持ちから逃げ続けて満足なの?」

「え………?」

 

自分の事情を語っていた初霜は固まる。

非難の声は今まで黙っていた望月から投げかけられたのだ。

彼女は初霜を見ていない。

前を見たままだ。

だが………その瞳にはいつもの気だるさは無かった。

 

「望月さん………あの、別に私は………。」

「逃げだよ、無意識の内の。考えた事は無かったの?司令官が………初霜の大切な人がいつまでもそこに存在しているとは限らないって。」

「その時は………仕方ないわ。あの人は私よりもずっと大切な人を見つけられたって事だから………。」

「違う、そうじゃない。」

 

初霜の冷静な覚悟の言葉を、しかし望月は否定する。

その不穏な様子に長波達は明らかにいつもとは違う違和感を覚える。

 

「人間は艦娘ほど頑丈じゃない。ちょっとの傷で死んでしまうんだ。この南方海域は深海棲艦の侵攻が活発になっている。もしもそのタウイタウイ泊地が………奴らの襲撃を受けたらどうするのさ。初霜の司令官が………指輪をくれた人が死んだらどうするのさ?」

「っ!?………そ、それは………。」

「遅いんだよ、いなくなってからじゃ。パートナーが死んでから恋愛をしたいと思っても出来るわけがないんだ。初霜は間違った選択をしている。守れるだけの強さを持っていながら司令官の元を離れるなんて、初霜はその人を見殺しにするようなものだよ。」

「おい、望月!?」

 

思わず長波が叫ぶ。

初霜は閉口してしまい、指輪を両手で握りしめながら顔を青白くしている。

 

「言いすぎだろ!?初霜に謝れ!」

「事実だよ。実際パラオはそうやって滅んだんだ。パラオの司令官は………!」

「パラオって望月、お前なんで………?」

「待って。何かいる………!?」

 

割って入った山風の言葉に、全員が電探を注意深く調べる。

後方や左右に潜水艦を含めた敵の影は無い。

だが、前方に巨大な蛇を担いだ深海棲艦の姿が見えてくる。

一見すれば鬼の角の生えたパーカーを着た白い肌の女性だ。

だが、その腹から生えている巨大な2匹の蛇にはそれぞれ先端に連装砲と巨大な口が付いていた。

 

「朧、アレは確か………!?」

「重巡棲姫だよ!でも、何か変?」

 

よくよく見てみればその肌や蛇は所々傷が付いており、赤い炎が噴き出している。

過去の戦闘で傷ついたのか、手負いの重巡棲姫の顔は涼しい顔では無く鬼のような怒りの形相であった。

 

「「姫」クラスか………。でも、護衛はいない。叩くならば………。」

「アイツ………は………。」

「ん?望月?どうした?だから、重巡棲姫だぞ?」

「アイツは………。」

「望月?」

 

危険だと思いながらも声に反応して振り向いた長波は仰天する。

海上で棒立ち状態のまま重巡棲姫を見ていた望月は、ガチガチと歯を鳴らしておりその瞳がどんどん濁っていっている。

そして、歯を噛みしめると目を吊り上げて身体をスパークさせた。

 

「待て!指示も無しに擬似改二は………!?」

「アイツはぁぁぁあああああああああっ!!」

 

聞いた事も無い位の音量と明らかな怒りを持った望月の咆哮に、長波は完全に気圧される。

彼女は擬似改二を発動させると、それこそ鬼の形相で左手に主砲を右手に盾を構えて重巡棲姫へと突っ込んで行く。

隊列や指示なんてもはやお構いなしだ。

 

「何だ!?何があった!?」

「もしかして、あの深海棲艦………。」

「山風!?お前、何か知ってるのか!?」

 

意外にも望月の怒りに心当たりがありそうな山風の呟きに長波は思わず反応しそうになるが、そこに砲撃が飛んでくる。

重巡棲姫の方を見れば、何故か姫クラスも望月をターゲットにしていて、お互いが集中的に狙っている。

望月は主砲を放ちながら近づこうとするが、重巡棲姫は蛇の尻尾を振り回し彼女を防御に使った盾ごと吹き飛ばしていく。

しかし、それでも望月の闘争本能は失われる事は無く、むしろ更に燃え上がって爆雷を投げつけていく。

 

「お前だけはぁぁぁあああああっ!!」

「ヴェァァァアアアアアアアアッ!!」

 

お互いが憎くて仕方がない………と言わんばかりに魚雷まで使いだす1人と1隻。

このままじゃマズイと本能的に悟った長波は指示を出す。

 

「とにかく望月の援護をするぞ!各艦、改二と擬似改二用意!」

「敵大将の首を取るんだね!燃えて来た!!」

「い、嫌よ………。」

「何!?」

 

勇ましい朧の声に対して弱々しく聞こえてきた舞風の声に、また長波は振り向く。

見れば、舞風は顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。

 

「何言って………!?」

「だ、だって………擬似改二なんて使ったら………反動で沈むかもしれないじゃない!?」

「沈むって………!?」

「内臓にダメージを受けて血反吐を吐き出すんだよ!?もしも深刻な傷を負っていたらあたし、あたし………!?」

 

その顔にはいつもの明るさが無い。

むしろ恐怖に震えあがっており、それこそ棒立ちだ。

 

(そういう事かよ………!)

 

長波はようやく野分達が言っていた事を悟った。

恐らく舞風は擬似改二を初めて使った際に派手に反動のダメージを受けたのだろう。

そして、その際に過去の艦としてのトラウマを思い出し、擬似改二を使う事を恐れるようになってしまったのだ。

 

「嫌!あたし………沈むのは嫌!!」

「………っ!」

 

仲間を救う為に我慢をしろと言える程、長波は無茶を強いる事が出来なかった。

下手にその状態で戦わせて何かが起こったら、それこそ責任を負えなくなる。

 

「………朧、お前は擬似改二使えるな。舞風を連れて全速力で離脱しろ!」

「ええ!?ダメだって!ここはみんなで戦う場面じゃん!擬似改二が使えなくても………!」

「それで姫クラスを倒せる程甘い物じゃないって分かるだろ!?」

「でも!倒さないとアタシ!漣ちゃんや曙ちゃん、潮ちゃんみたいに………!」

 

バチンッ!

 

朧が左の頬を押さえる。

長波が叩いたのだ。

そして、そのまま彼女は頭を下げる。

 

「頼む、朧。お前までおかしくならないでくれ………!暴走1名、戦闘不能1名!………庇いながら戦えないって分かるだろ!」

「………っ!ゴメン、長波ちゃん!!」

 

今の本音に加え、戦えない悔しさもあっただろう。

それでも唇を噛みながらも、長波の叱咤と謝罪を受けて朧は従う道を選んでくれた。

身体をスパークさせて舞風を引っ張っていく彼女を横目で見送りながら、集まって来た山風と初霜を見る。

彼女達は既に身体をスパークさせて改二の姿になっていた。

山風は髪の一部が三つ編みになっており、初霜は頭に青と白のハチマキを巻いている。

 

「初霜は牽制射撃、何とか守ってくれ!山風は長波サマと一緒に望月を取っ捕まえてこの海域から逃げるぞ!」

 

長波もまた身体をスパークさせて改二の姿になる。

望月は果敢に戦っていたが、徐々に傷つき始めていた。

そこに初霜が横合いから腰の魚雷を3本撃ち込んで重巡棲姫の狙いを変えさせる。

 

「逃げるぞ、望月!その身体じゃ無理だ!」

「お前は!お前だけはーーーっ!!」

 

その間に長波と山風が望月の元に向かうが、彼女は長波の言う事を聞いてくれない。

山風も左側から望月の腕を押さえるが、ジタバタもがき始める。

 

「望月………!引いて!あたし、沈むのは嫌!」

「うああああああああ!!」

「それに、そんな事してもあの人は戻ってこないよ!」

「離せーーーっ!!」

「忠告したからね………!文句言わないでよ!」

 

口での説得が無理だと判断した途端、山風が思いっきり望月の腹を殴りつけた。

その衝撃で望月の目から光が消え、口からは擬似改二の効果時間が切れた事によって血が吐き出される。

 

「強引だが仕方ないか………!初霜、引くぞ!」

「はい!」

 

暴走した望月に代わって重巡棲姫を相手にしていた初霜は、爆雷を顔に投げつけ視界を封じ、そのついでに残りの3本の魚雷も撃ち込む。

そして、全速力で4人は苦しみ叫ぶ重巡棲姫から逃げていく。

様々な後悔と疑問を抱えながら………。

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