燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第34話 朧~1人1人少しずつ~

長波率いる第二十五駆逐隊は、その日の夜中に横須賀へと戻って来た。

彼女は手早く戦闘や擬似改二の反動で負傷した初霜、朧、そして望月を船渠(ドック)入りさせると高速修復材(バケツ)を提督に要求。

幸い秘書艦の五月雨から許可が出たので山風と舞風に自室に戻って今日は休むように命じる。

そして、長波自身は色んな意味で疲れた身体を引きずりながらも報告書を纏めて執務室に出しに行く。

だが提督は、もう就寝していた為に仕方なく五月雨に渡した。

 

「かなり疲れているね。」

「あの春の時に比べればまだマシさ。………で、どれだけ知ってたんだ?」

「誰の事?一応艦娘にもプライバシーはあるし、旗艦にも言えないようなトップレベルの機密事項は設定されているよ?」

「確かに五月雨の言う通りだ。長波サマの確認不足もあった。でも、ここまでみんな隠し事をしていたなんて思ってなかったよ………。」

 

長波は昼間の出撃の事を思い出し、盛大に溜息を付く。

初霜はケッコンカッコカリをしていた。

望月は重巡棲姫と何かしらの因縁があった。

山風はその望月の秘密に心当たりがあった。

舞風は擬似改二にトラウマを抱えていた。

朧は第七駆逐隊の中で焦りを抱いていた。

皆、それぞれ長波に対して黙っていたのだ。

それは旗艦である長波をそこまで信用していなかったとも言える。

 

「完成されている存在じゃないって分かっているつもりだったけど、いざその事実を目の当たりにするとショックだよな………。」

 

長波はチラリと隣で五月雨の事務作業を手伝っている秘書艦補佐の陽炎を見る。

 

「陽炎も第十四駆逐隊を結成したばかりの時はそうだったのか?」

「まあねぇ。夕雲辺りから聞いてると思うけど、みんないわくつきの艦娘だったし。」

「初出撃は?」

「トラウマを克服しようと暴走した曙を追っかけての無断出撃。高雄さんや愛宕さん、後は金剛さん達に助けられた。」

 

陽炎は説明する。

当時の曙は今よりも数倍は狂犬のような存在で、事あるごとに皆と揉めていたと。

そして、無断出撃の時にようやく潮からそのトラウマの事を教えて貰ったと。

 

「そんな所から立て直せるなんてやっぱ尊敬するわ………。」

「私の事よりも長波はどうするの?アンタの性格上、このままバラバラにしておくつもりは無いんでしょ?」

「まあな。でも………新米旗艦に対して、みんなちゃんと話してくれるかどうか分からない。」

「それでもやるんだよね?」

 

最後に言葉を発したのは陽炎では無く五月雨だ。

彼女はいつものように微笑みながら長波が動くのを待っていた。

 

「覚悟を決めるさ。ダメな時は旗艦の力不足で駆逐隊が解体されるだけだし。五月雨達の背負ってる物に比べればまだまだ軽いからな。」

 

元気づけてくれてありがと、と最後に付け加えて長波は去って行く。

その様子を見送った後、陽炎は五月雨に言う。

 

「ねえ、五月雨。」

「何?」

「特に初霜や望月の話は他人事じゃないんじゃないの?」

「私にはそんな資格は無いよ。」

「そう?………じゃあ今は、これ以上深くはツッコまないわ。」

 

それだけ言うと、陽炎はあくびをして就寝をする為に駆逐艦寮に戻る。

五月雨はいつもの通り、事務作業に戻った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

長波は、最初に舞風の部屋へと訪れた。

ノックをして舞風を呼び出すと、別の声が掛かった。

 

「長波………?」

「野分か、悪い。舞風と話をさせてくれないか?」

「見捨ててなかったんだね、良かった………。」

「長波サマは、一度誓った約束は守るつもりだし、1回の失敗で見限るほど心が狭いつもりは無い。………ま、口で言うだけならば簡単だけどな。」

「ちょっと待って。」

 

部屋の中で何か会話が聞こえる。

その詳細は分からなかったが、舞風が泣いているのだけはよく分かった。

 

「………ゴメン、会いたくないって。」

「別に長波は怒ってないぞ?」

「長波含め、みんなに会わせる顔が無いって言ってる。」

「それこそ甘えるな………やっちまった事はしっかり受け入れろ、と伝えてくれ。」

 

再び部屋で会話。

約束した以上、野分も必死に説得しようとしてくれているのだろう。

しばらくした後に、何とか扉が開く。

舞風は窓辺の机の椅子に腰かけ俯いていた。

野分は部屋から出ようとするが、長波は舞風の傍にいてやって欲しいと伝えると3人で部屋に入り扉を閉めた。

 

「舞風………まず大丈夫か?」

「………ゴメン………なさい。」

「だから別に怒ってない。むしろ擬似改二のトラウマに気づかなかったこっちに落ち度があった。」

「そんな!?でも、あたし………あたし………!」

 

舞風が涙に塗れた瞳で長波を見上げる。

目が腫れている事等から、かなり泣いていたのが分かった。

 

「恐怖のあまり………望月を………見捨てようとしたんだよ?」

「アレは望月が暴走したのが元々悪かったんだ。山風にマズイと感じたら迷わず引くと約束していた以上、止められなかった長波サマに責任がある。」

「そ、そんな事言っても………。」

「そうだな。こんな新米旗艦の言葉じゃ、幾ら責任って言葉を使ってもふざけてるって思うよな。」

「ち、違う………!あたしは………!」

「それでもまだ、心のどこかで長波サマをちょっとでも信用してくれるのならば、付いてきてくれないか?」

「付いていくって………何処へ?」

「勿論、望月達みんなの所に。そろそろ船渠(ドック)入りを終えて部屋に戻っているはずだからな。1人1人謝りに行く。」

「……………。」

 

長波は決して瞳を逸らさなかった。

今の自分が示せる事と言えば、精々如何に真剣にみんなの事を考えているかを伝えるかくらいしか無かったからだ。

しかし、その想いが通じたのか舞風は膝に置いていた手に力を加えると反動を付けて椅子から立ち上がる。

 

「のわっち、ちょっと行ってくる。………長波、お願い!」

「よし、まずは朧の所からだな。昼間の内容を聞いていると、同部屋の漣を起こさないようにしたいけど………。」

「それなら大丈夫だよ。」

 

意外にも野分が笑顔で腕を組む長波の疑問に答える。

 

「今、潮と曙が横須賀から離れているから、遅くなった時はそっちの部屋を使ってるんだ。」

「成程………ありがとな、野分。じゃ、舞風ちょっと借りるぜ。」

 

長波は笑顔で野分に感謝すると、舞風と共に部屋から出た。

これで、まずは第一関門突破である。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

廊下を歩いて来た長波と舞風は、潮と曙が横須賀で使っている部屋をノックする。

野分の言う通り、確かに部屋からは朧の声が聞こえてきた。

 

「長波ちゃん?ゴメン、今は会いたくないんだけど………。」

「鉄は熱いうちに打て………が長波流だ。舞風も謝りたがっている。」

「でも、会ったらアタシ………どんな顔をすれば。」

「どんな顔をしてもいい。怒りたければ怒ればいいし、泣きたければ泣けばいい。昼間の長波サマの行動に腹が立ってるならば、2、3発ぶん殴っても構わない。」

「それは流石に身体張り過ぎじゃないかなぁ………?」

「片腕吹っ飛ばして、魚雷の破片が全身に突き刺さって、死にかけた自慢の姉に文句を言ってくれ。」

 

最後はかなりぶっ飛んだ内容であったが、実際に風雲がそれだけの事をやってのけたのだから嘘偽りは無い。

そんな長波の想いが通じたのか、部屋の扉が開き朧は2人を中に招いてくれる。

部屋は、潮の所は勿論、曙の所もしっかり整理整頓されており、綺麗に片付いてあった。

長波は朧に椅子に座って貰うように促すと、舞風を横目で見て会話を促した。

 

「ゴメンね、朧。あたしのせいで、昼間の海戦がグダグダになっちゃって………。」

「別に舞風ちゃんが悪いわけじゃないよ。………何か色々と艦の記憶背負ってるんでしょ?」

「う、うん………。」

「そう言えば、長波も十分に確認してなかった。悪い、言える事があったら言える範囲で教えてくれないか?」

「そうだね、色々あるけど、強いて言えば………。」

 

舞風は説明する。

空母である赤城を雷撃処分した事があると。

同じく空母である加賀の凄まじい最期を見た事があると。

そして………自身は航行不能になって敵艦の集中砲火を浴びて船員全員戦死という悲惨な末路を迎えたと。

 

「風雲姉から聞いた事があるな。龍の最期を看取った夢を幾度も見るって。アレが真面目過ぎて不器用な性格を作り上げてしまったのかもしれないが………。」

「あたし、その出来事を何十回も悪夢で見てうなされるんだ。そうしている内に………沈むのが極端に怖くなっちゃって………臆病だよね。」

「生きたいって思う事は当然の事だぞ?長波サマだって生きて生きてもっとデッカイ存在になりたいからな。」

「非難しないんだ………。」

「怒ってないって言っただろ?トラウマをいきなり乗り越えろと言って乗り越えられるほど甘くは無いし、風雲姉みたいに上手い事乗り越える為の手段を考えられるほど長波サマはまだ器用じゃない。」

 

長波の正直すぎる言葉を聞いて、舞風は何処かホッとしたような顔をする。

少なくとも旗艦である長波は、臆病者として無理やり叱咤はしないらしい。

小さな事かもしれないが、それが舞風にとって本当に有り難い事であった。

 

「ありがとね、長波。あたし………貴女が旗艦で良かった。」

「ん?………まあ、いいや。で、朧。お前は何を焦ってたんだ?」

「昼間言った通りだよ。………アタシ、第七駆逐隊のみんなに置いて行かれて。」

「長波サマより数段練度は高いと思うんだが………。」

「確かに贅沢な悩みかもしれないけど………でも、それでも漣ちゃんは初期艦で熟練の力を持っているし、潮ちゃんと曙ちゃんは第十四駆逐隊で改二にも目覚めて………。」

 

気が付けば朧は1人、彼女達3人の背中を追いかける形になっていた。

初期艦としての絆や戦闘経験も無ければ、第十四駆逐隊としての絆や改二の力も無い。

それに気づいてしまった時、とても寂しい事だと彼女は感じてしまっていた。

 

「だから追いつきたくて重巡棲姫に挑もうとしたわけだ。」

「アタシこそ舞風ちゃんに無理させようとしたから謝らないとね。………ゴメンなさい。」

「そ、そんな………別に………。」

 

頭を下げる朧に舞風は思わず反射的に動揺してしまう。

長波はそんな姿を見ながら話しかける。

 

「じゃあさ………これから始めようぜ?」

「始めるって第二十五駆逐隊で?」

「そうそう。………陽炎に聞いたけど、第十四駆逐隊が出来た頃は凄く酷かったんだろ?」

「まあ………曙ちゃん、荒れに荒れまくっていたからね。」

「だったら、第二十五駆逐隊で喧嘩して殴り合って成長していくのはどうだ?」

「いや、殴り合うって………何かズレてない?」

「陽炎や風雲姉の発言を聞いてる限り、結構的を射ていると思ったんだが………。」

 

とにかくだ、と長波は咳払いをすると、不思議そうな朧の瞳を見つめる。

 

「提督にも言ったけど長波サマにとって寄せ集め軍団は最高だ。昼間のようにぶつかり合ったって別にいいじゃない。」

「でも、アタシはみんなを追いかけて焦って………。」

「止めてやるよ。アタシでもいいし、頼りないって思ったら初霜や山風に頼んでもいい。」

「アハハ………何それ?旗艦だよね?」

「旗艦がカチカチになってたら意味ないだろ?」

 

当たって砕けろ………というわけではないが、体当たりでぶつかっていきたいのが長波の考えだった。

そして、最後に夕雲姉達には内緒にしてくれよ、と前置きして言う。

 

「正直、焦ってるのは長波も同じだ。夕雲姉や風雲姉に早く追いつきたくてむしゃくしゃして肝心な事すっ飛ばしてた。もっとコツコツいかないといけなかったのに………。」

「長波ちゃん………。」

「そういう所は普段の望月を見習っていこうぜ?あそこまでぐーたらじゃいけないけど、のんびりする事も大事だからさ。」

「うん………何だろう、長波ちゃんの言葉って聞いてると安心する。やっぱり旗艦ってそういうカリスマがあるんだなって思った。」

「あ、あたしも。やっぱり長波が旗艦だと温かみがあるっていうか………。」

「そういう旗艦を目指しているわけじゃないが………まあ、いっか。じゃ、次は山風に謝りに行こうぜ。」

 

長波の言葉に朧も立ち上がる。

3人は山風に会いにまた部屋を出た。

第二関門突破である。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

山風は部屋に行く必要は無かった。

途中、当直であった菊月から彼女が長波の自室で待っていると伝言があったからだ。

余程伝えたい事があったのだろうと思い、長波達が部屋に向かうと扉の前で山風は待っていた。

 

「あ、長波………。舞風も朧も気分良くなったんだね。」

「ああ。………で、望月は?部屋の中か?」

「初霜と一緒に横須賀の岬にいるよ………。長波達を待ってるって。」

「分かった。山風は付いてくるか?」

「うん………あたしも関係あるし。」

 

長波は山風の案内で、あらかじめ菊月に頼んで開けて貰った窓から駆逐艦寮を出る。

岬は風雲が悩んだ時に朝日を見に行っていた場所だ。

よくよく彼女に縁のある日だな、と思いながら長波は望月の元へと向かっていった。

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