燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第35話 望月~思い出~

横須賀の岬に向かった長波達4人が見たのは、仰向けに寝転んでいる望月とその傍で座っている初霜の姿であった。

その空を見上げる姿に、舞風を筆頭に何か話しかけようとするが………。

 

「悪かったよ。」

『え?』

「昼間の事。初霜を脅した事や、あの重巡棲姫を前にして感情をコントロールできなくなった事。そのせいで、みんなに色々と迷惑かけたよ………。」

「望月………。」

 

自分の非を認め一気に言い切った望月を見て、長波はしばらく考えた後に黙って隣に同じように仰向けに寝転ぶ。

そして、舞風達を見て促す。

彼女達は思わず行儀が悪いと思ったが、旗艦が真似ているのならば………と同じように寝転ぶ。

上から見て左から山風、初霜、望月、長波、舞風、朧の順に並んで一緒のポーズを取る形になった。

 

「綺麗だな………星。」

「そうだね、今日は横須賀にしては珍しく星が輝いてると思う。」

「好きなのか、星を見るの?」

「いや~?でも………前は好きだったかな。」

「そうか。」

 

しばらくそのまま時間が過ぎる。

6人の艦娘達は綺麗な夜空を見上げながら静かな時を過ごした。

 

「あたしさ………ここに来る前は、パラオで秘書艦やってたんだ。」

「そうか………。」

「ん~?驚かないんだね。」

「昼間アレだけパラオの名前出してたらな………。」

 

初霜に対して、後悔する前にタウイタウイ泊地に戻らないとパラオみたいに滅ぶと脅していた。

その前にも、南方海域………特にパラオに対してかなり博識であった。

それだけの要素があって、パラオとの繋がりを意識しないほど長波は鈍感では無かった。

 

「まあ………お前が秘書艦やっていたっていうのは驚きかもな。その頃は真面目だったのか?」

「いや~?普通に食っちゃ寝してたよ。むしろ、あたしのような艦娘を何で秘書艦にするのさ?って何度も司令官に言ってたっけ。」

 

夜空を見上げながら望月は語る。

長波は彼女の顔を見て無かったが、楽しい事を思い出しているのは雰囲気で分かった。

 

「教えてくれないか?望月のパラオでの思い出。」

「いいよ~。」

 

望月は更に語る。

作戦会議をしている途中でうたた寝をして、提督に叩き起こされた事。

装備品保管庫の掃除をサボっていた為、気づいたら艤装が苔だらけになっていた事。

豆まきのシーズンになったら、沢山の豆を提督達に投げつけられて、ムキになって爆雷を投げようとした事。

そして………こうして提督と一緒に綺麗な南海の夜空の星を見上げていた事。

 

「素敵な思い出だな………。」

「楽しかったよ。そうこうしている内に練度も上がってたし、秘書艦としての作業もちょっとだけどこなせるようになったし。気づいたら………パラオの中で一番強い駆逐艦になってた。」

「お前、やっぱり凄腕なんだな。長波サマよりもかなり上の実力を持った………。」

「改二にはなれないけどね~。」

「望月さん………聞いてもいい?」

 

最後の声は反対側で寝転んでいる初霜から掛かった。

彼女は意を決したような顔をすると、望月を見て言う。

 

「望月さんは………パラオの提督に………指輪を貰ったんですか?」

「そうだよ~。ケッコンカッコカリをした。」

 

望月の方は初霜を見ず………夜空を見上げたまま認める。

そして、それから彼女は初霜の方を見て、ニカっと笑って言う。

 

「司令官と一緒に寝た事もあるよ。」

「え!?それはどういう………。」

「想像に任せる。」

 

そして、再び夜空を見上げると懐かしそうに自分の左の薬指を上げながら言う。

その指に指輪は無かった。

 

「らしくないと思うかもしれないけどさ………惹かれてたんだ、あの人に………司令官に。」

「惹かれていたっていうのは………その………。」

「愛していた。………いや、今も愛しているのかもね。あたし、あの人を。」

 

望月はうーんと伸びをする。

そして、また初霜を見ると今度は真剣な顔で言う。

 

「あたしもね………初霜みたいに今が幸せならばそれでいいって考えだった。司令官との今の日々がずっと続けばそれでいいって思ってた。」

「でも、パラオは………。」

「そう………艦娘として戦っている以上………駆逐艦娘として刹那的な生活を送っている以上、そんな幸せな日々は続かない。あたしはそれに気づくのが遅すぎたんだ。」

 

望月の瞳に影が掛かる。

彼女は夜空を三度見上げると、また話し始める。

 

「泊地の艦娘達が出撃していた時だった………。その隙を狙ってあの重巡棲姫が………空母を沢山引き連れてパラオを襲ったんだ。」

 

幾ら一番強い駆逐艦とはいえ、たった1人で戦うには無理がある。

徐々に押されていき、攻撃機による爆弾や機銃、魚雷は次々と泊地を襲い破壊していった。

 

「あの重巡棲姫も手負いにしたんだけどね………あたしだけじゃどうにもならなくて………司令官を連れて脱出する道を選んだ。」

「それで………。」

「人間である司令官は、傷を負ってボロボロだった。何とか生きて欲しいと願いながらあたしは逃げようとした。でも………あの姫クラスにからは逃げきれなくて………結局2人で沈んじゃった。」

 

死にかけだった2人は海の底へと沈んでいった。

愛する者同士を最期まで抱きしめながら。

 

「正直ね………このまま沈んでもいいって思った。面倒な日々も楽しかったからさ、満足だったんだ。ここで愛する人と一緒に死んでしまえばそれでいいって………だけど………。」

「奪還(ドロップ)………。」

「そうだよ………。あの人は人間、あたしは艦娘。事もあろうか、あの人を海の底に置いて、あたしだけ………あたしだけ戻ってきてしまったんだよっ!」

 

思わず望月は声を荒げて起き上がり、左拳を握りしめる。

愛する者から誓いの証として貰った指輪も置いてきて、望月は奪還(ドロップ)されたのだ。

 

「まさか、山風は………。」

「うん………その時の艦隊にいた………。だから、望月の事も全部知っていた………。」

「そういう事………だったのか………。」

 

同じく身を起こした長波達は、左拳を押さえる望月の姿を見て何も言えなくなる。

嘗て長波はすべてを悟ったような望月の姿を見て、案外一番凄惨な経験をしているのかもしれないと冗談で思った物だ。

だが、それは冗談では無かった。

それどころか予想を遥かに超える悲劇であった。

この艦娘は………愛を知りながら、もう永遠に届かない想いを抱えてしまっている。

 

「ねえ………長波。答えられるなら教えてくれないかな?あたし、どうすればいいのかな?」

「望月………。」

「あの人の事、どうやっても忘れられないんだ。それどころか、あの人を海の底に捨てた後悔ばかり湧いて、どうしようもないんだ。」

「お前はずっと………。」

「教えてよ………。あたしは………あたしはこれからどうやって過ごしていけばいいんだよ………!教えてくれよぉ………!」

 

過去を振り返った事で、思わず涙が溢れてしまった望月に、長波はおろか初霜も山風も舞風も朧も………誰も答える事が出来ない。

そうこうしている内に、空が輝き出し朝日が昇る。

だが、水平線の向こうは望月の心情を示すかのように曇り空に包まれていて日が全く見えない。

最終関門は………とてつもなく険しい道のりであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日以降は、全員が訓練も実戦も無難にこなしていた。

舞風は擬似改二を使う機会は無かったし、望月もいつもの通り引きずられながらも程々に真面目に取り込んでいた。

南方海域へは、それ以降出向く事はなかった。

望月の心情を考えれば、とてもでは無いが近づけられなかったからだ。

だが、いつまでもそのままでいいのか?という悩みを抱えていた長波はある日の夜、同部屋の彼女が眠っているのを確認してから部屋の外に出る。

というのも、その日の当直は夕雲であり相談をしたかったからだ。

程なくして夕雲型の長女を見つけた長波は、望月の事をぼかしながら相談をする。

 

「珍しいですね、長波さんが相談だなんて。やっぱり第二十五駆逐隊の旗艦を務めるのは大変ですか?」

「一応、纏まっては来てるんだけどな。それでも致命的な問題点が幾つかあって………なあ、夕雲姉。もしも仲間の中に、もう永遠に叶わない後悔を抱いている奴がいる場合、どうしてあげればいいって思う?」

「もう永遠に叶わない後悔………轟沈とかでしょうか?」

「解釈は任せる。」

「………………。」

 

長波の言葉に対して、夕雲は何やら考え込む。

さばさばしている四女がここまで悩んでいる事なのだから、余程の事なのだろうと思っているのだろう。

しばらくして、彼女は静かに喋り始める。

 

「どうしようもないと思います。」

「そ、そう来るか………。」

「春に私がまだまだ練度が足りなかった時に、無謀な事をしたり慢心したりした事を覚えていますか?」

「あー………初風とか敷波とか電とか危ない目にあったよな。」

「岸波さん、朝霜さんといった夕雲型の姉妹も含まれています。もしも彼女達がみんな轟沈してしまっていたらどうなっていたか?と今でも悩む事はあるんです。」

 

その悩みの答えがどうしようもないという事なのだろう。

実際、奪還(ドロップ)はかなりの運の要素が必要とされるし、現在進行形で行われているという事は、それだけ沈んでいる娘は存在しているという事実を表している。

 

「仲間の轟沈未遂を起こしただけでも、私は自暴自棄になりました。あの時は巻雲さんが身体を張ってくれたお陰で自分を取り戻せましたが………。」

「じゃあ、どうすればいいんだ………?このままじゃアイツは本当に………。」

「その長波さんが助けたい人は、本当に全てを失っているのですか?何か取り戻せる物は無いのでしょうか?」

「取り戻せる物………ねえ………。」

「それがあるだけでも心境には大きく変化が出ます。それに………。」

 

夕雲は自分の左胸を押さえながら長波に言う。

 

「今ある「命」だって十二分に価値が有る物ですよ?大切な人達の命は勿論の事、自分自身の命も。」

「そうか………。」

 

夕雲の言葉で、長波の中である言葉が形成されていく。

望月を救えるかどうかは分からない。

でも、今真っ先に掛けるべき言葉、それは………。

 

「ありがとな、夕雲姉。やっぱ長女の経験談は頼りになる。長波サマももうちょっと踏み込んで………。」

「長波!大変だよ………!」

「山風?」

 

夜中なのにいきなり掛かった山風の声に、思わず長波達は驚く。

当直の夕雲がいるのに大声で叫ぶその姿は明らかに異常事態である事を示していた。

後ろには彼女が引っ張ってきたのか初霜、舞風、朧の姿もある。

 

「落ち着け、みんな寝てるぞ?どうした?」

「上層部の人間が大声でこの駆逐艦寮に入り込んでいて、鎮守府庁舎の鍵を開けて提督を出せって、自室にいる陽炎に怒鳴り込んでいて………!」

「はあ!?何でこんな時間に!?というか五月雨は!?」

「五月雨はその………奪還(ドロップ)の事で恐れられてるから………。とにかく、提督に会わせろって押しかけているの………!それで………!」

「それで上層部の方々は何を理由に押しかけているのですか、山風さん?まずは深呼吸をして下さい。」

 

暗闇でも分かる位に真っ青な顔をしている山風の様子を見て、肩を優しく押さえて夕雲が落ち着かせる。

山風は何回か息を吐くと2人に言う。

 

「再建中のパラオ泊地が深海棲艦に襲われたって話なの………!だから、今すぐ部隊を編成して取り戻してこいって………!」

「何!?その話、望月は………!?」

「あんな大きな声で叫んでたら嫌でも聞こえるよ!部屋から飛び出していった!あたしは第二十五駆逐隊の仲間を集めて長波を探すのが精一杯で………!」

 

思わず耳を手で押さえて首を振るわせる山風をなだめながら長波は近くの窓を開ける。

すると………。

 

バゴオオオオオオオオンッ!!

 

『!?』

 

装備品保管庫の方から派手な爆発音が響いた。

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