燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第36話 初霜~愛に狂う~

「な、何だこりゃぁ………!?」

 

当直である夕雲に駆逐艦寮の対処を頼み、装備品保管庫へと向かった長波達が目にしたのは、腰を抜かしている衛兵と内側から吹き飛んだ入り口の跡だった。

 

「あわわわわわわ………!?」

「おい、何があった!?」

「め、眼鏡をかけた茶髪の艦娘がいきなり装備品保管庫を開けろと拳銃で脅して来て………艤装を………!?」

 

その言葉に朧は衛兵の近くに転がっていた銃を手に取り確認する。

 

「モデルガンだよ、これ?」

「脅したのは十中八九望月だよな………。でも、何で入り口をわざわざ内側から爆破したんだ?」

「知らないの………?艤装の盗難防止をする為に、今のように不法侵入があったら扉にロックが掛かるようになってるんだよ?」

「だから望月は爆破して強引に艤装を持ち出したのか?でも、扉は厳重に作られてるんだろ?どうやって駆逐艦の砲の威力で………?」

 

山風の説明に長波は首を傾げる。

その傍でそーっと保管庫の中を覗き込んだ舞風がギョッとする。

 

「長波!伊勢さんの艤装が動かされて砲が入り口に向けられている!?」

「待て待て、戦艦の艤装で吹っ飛ばしたと!?でも、どうやって駆逐艦が………!?」

「リスクを覚悟で装着したのかも。」

「で、出来るのか!?」

 

初霜の言葉に長波は驚きを隠せない。

駆逐艦が戦艦の艤装を背負うなんて、夕雲型の末っ子である清霜が抱いているような夢物語だと思っていた。

だが………。

 

「五月雨さんの話は知っていますよね?練度が極端に高い艦娘ならば、短時間の間ならば別の艦種の艤装も装着して操れます。」

「ま、マジで戦艦清霜の実現が………!?」

「但し、相当の無茶を身体に強いるから今の望月さんの状態は………。」

「それだけパラオに向かいたいって気持ちが強かったのか………アイツ………!」

 

長波は無茶苦茶だ、と言いながら装備品保管庫の中に入ろうとする。

しかし、そこで背後から声が掛かった。

 

「ダメだよ、長波。今は出撃しちゃ。」

「五月雨か。提督の対応はどうした?」

「陽炎に任せてる。今、出撃するのは秘書艦権限で許可を出せないよ。」

「望月が暴走したからか?」

「前に神風がやった脱走とは比較にならないレベルの重大事件だよ。営倉入りじゃ済まされない。」

 

確かに衛兵とはいえ一般人を脅して、装備保管庫を破壊していったのだ。

確実に裁判沙汰になるレベルでの暴走であろう。

だが、長波は振り向くと五月雨を睨みつけて言う。

 

「だから望月を見捨てろっていうのか?………お前らしくない発言だな。」

「それで長波が裁判沙汰になったらもうどうしようもないって言いたいんだよ。第二十五駆逐隊も巻き込む事になるかもしれないんだよ?」

「分かった………じゃあ、その前に解体してくれ。」

「無理だよ。」

「だったら長波サマ1人の暴走という事で処理してくれ。」

「無茶だよ。」

 

長波はあくまで冷静に怒りの目を受け止めている五月雨と会話をする。

どうやら互いに譲る気は無いらしい。

旗艦としての意見と秘書艦としての意見を持っているのだから当然なのかもしれない。

仕方ない、と思い長波は拳を振り回し距離を詰めていく。

 

「秘書艦に逆らうんだね。」

「お前なら知ってるだろ、望月の過去。辛い過去を持ってるからこそ………せめて長波サマなりに支えてやりたい。」

「じゃあ、殴り合って決着を付けよっか。意外としぶといよ、私。」

 

五月雨も珍しく腕まくりをしてその決闘に応えようとする。

確かに喧嘩が強そうでは無いが熟練の秘書艦だ、そう簡単にはいかないだろう。

長波が覚悟を決めた時であった。

いきなり五月雨の後頭部に手刀が叩きこまれ気絶させられる。

何と初霜だった。

 

「は、初霜………?」

「ごめんなさい、五月雨さん。………私も一緒に行くわ。」

「おいおい、優等生なのに何やってるんだよ………。」

「愛に狂う気持ちは………少しは理解できるつもりだから。」

 

彼女はそう言うと、指輪の付いたペンダントを取り出し握りしめ、少しだけ笑う。

 

「それに、たまにはあの人にも迷惑かけたっていいわよね?」

「お前………。」

「連れてってくれますよね?」

 

戦力としてはこれ以上に無い位に有り難かった。

そんな2人を見ていた朧が続いて前に出てくる。

 

「朧、第二十五駆逐隊として………抜錨するよ!」

「いいのか?喧嘩どころじゃ済まなくなるぜ?」

「臨時で駆逐隊を編成してさっさと奪還して来いって言ったのはあの上の偉い人達じゃん。だったら、正規の出撃だよ、五月雨達が処理してくれれば………だけど。」

 

そう言うと、朧は寝転んで………気絶している「ふり」をしてくれている五月雨を笑顔で見る。

何だかんだ言って彼女もそこまでの覚悟があるのならば止めるつもりは無かったのだろう。

黙って気絶したふりを保ってくれていた。

 

「悪いな、初霜に朧。………それに五月雨も。」

「……………。」

「後で提督と一緒に長波サマを死ぬほど呪ってくれ。」

「………これは夢の中の話だよ。無断で出るならちゃんとそれなりの装備を拝借して必ず全員で戻ってきて。」

「ありがと。………山風と舞風は留守番な。」

「え!?どうして………。」

 

長波の言葉に思わず山風が驚く。

しかし、長波は静かに説明する。

 

「多分、向かう場所は激戦区だ。沈む確率が高くなる。」

「だから………あたし達は仲間外れなの?」

「沈むのはイヤなんじゃないの………イテッ!?」

 

いきなり頬を叩かれた事で長波は思わずビックリする。

山風は頬を膨らませて怒っていた。

 

「旗艦だったら………旗艦だったら、一緒に守ってやるってくらい言ってよ!」

「そ、それは責任転嫁じゃないのか!?」

「確かに沈むのは嫌だよ!でも………望月は仲間だから………放っておいて沈まれると………もっと嫌………。」

「お前………。」

 

山風が無理しているのは長波にも分かった。

それでも彼女は駆逐艦娘として仲間を守る道を選ぼうとしてくれている。

 

「悪いな、仲間外れにしてしまって………。じゃあ………。」

「あ、あたしも!あたしも仲間外れにしないで!」

「舞風………擬似改二無しじゃ、戦えないような場所だぜ?」

「分かってる!………でも、今度望月を見捨てたら………あたし、もう艦娘として戻れない!」

 

舞風は震えながらも、力の限り叫んでいた。

何だかんだ言って、みんな望月を見捨てられないのだ。

それは寄せ集め軍団を纏める長波にとっては非常に有り難かった。

 

「じゃあ、行こうぜ、みんな。本当はもう1人いてくれると有り難いけど………。」

「私が行こう。」

「ん?」

 

声に反応してみれば、銀髪の艦娘………菊月が立っていた。

確か、風雲を助けに行ってくれた事があったはずだ。

寡黙な彼女は既に制服に着替えており、準備に取り掛かれる状態であった。

 

「菊月。お前には関係無いと思うんだが………。」

「望月は睦月型の仲間だ。」

「裁判沙汰の無断出撃だぞ?」

「五月雨達を信じてる。無論、お前達も望月も………だ。」

「そっか………。」

 

他にも色々と思う所はあるのだろうが、軽く了承してくれる姿は非常に頼りになった。

長波は5人を促し艤装を装着して色々と荷物を纏めると、桟橋から抜錨していく。

 

「全速力で追いかけるぞ!第二十五駆逐隊………抜錨!!」

 

彼女達は追いかける。

同じ第二十五駆逐隊の仲間を。

自分の過去に苦しむ艦娘を助けに行く為に。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「う、うえぇ~~~………気持ち悪い………。」

 

日が昇り、南方海域に突入していた望月はもう何回も繰り返されている吐き気に襲われていた。

といっても既に胃の中の物は全部海に吐き出されている。

それでも辛いのだ………。

 

「分かってたとはいえ………これは………みんなに見せられないよな………はは………。」

 

四つん這いになって嗚咽を繰り返した後で望月は1人苦笑する。

自分の艤装を取り出す為とはいえ、戦艦である伊勢の艤装を無理やり装着して爆破したのだ。

艦種すら無視した適正外の艤装装着の代償は大きく、猛烈な体調不良に襲われていた。

嘔吐だけでなく、頭痛や意識の混濁までしてしまっている。

 

「それを除いても………長波とかブチ切れてるだろうなぁ………こんな違法行為、裁判じゃ済まされないし………。」

 

正直、今頃取り調べを受けている第二十五駆逐隊の仲間達には申し訳が無かった。

自分の身勝手で迷惑を掛けてしまってるのだから。

 

「でも………あたしは………パラオに………。」

 

それでもパラオ泊地に望月は行きたかった。

どれだけ再建がされているかは分からなかったが、自分の故郷に。

愛している人と共に過ごした思い出の場所に。

 

「多分、乗っ取ったのは………アイツだろうし………ね。」

 

望月はパラオを乗っ取ったのはあの重巡棲姫だと予測していた。

というより何故か心の中で確信があった。

それは今までの因縁からであろうか?

 

「さぁーて………久々に本気だすかなぁー………。」

 

敢えて呑気に自分を鼓舞する事でボロボロの身体を無理やり動かす。

主機は全開にしたので、もうすぐ見えてくるはずだ。

自分の故郷とそこにいるはずであろう重巡棲姫が。

 

「……………。」

 

そして望月は固まった。

その大切な故郷は瓦礫の山であった。

周りには、大量のフラッグシップ級の軽空母ヌ級がいて、まるで補佐官のように青い一本角が特徴的な重巡洋艦ネ級改が2隻佇んでいる。

そのネ級改の後ろで、海から上陸して瓦礫で即席の椅子を作って足を組んで座っているのは、あの重巡棲姫であった。

その姫クラスもまるで望月が来る事を予期しており、彼女に対しにあくどい笑顔を浮かべながら見せつけていた。

まるで、自分がこの泊地の王であるかのように。

 

「………どけよ。」

 

明らかな挑発だ。

それでも望月の頭は沸騰した。

事もあろうかこの深海棲艦達は、望月の大切な思い出を我が物顔で踏みつぶしている。

 

「その椅子は………その場所は………。」

 

奥歯をガチガチと噛みつぶす勢いで、無理やり集中力を高める。

身体が青白くスパークを始め、ボロボロの身体で擬似改二を発動させて艤装の性能を最高まで高める。

後の事なんて全く考えて無かった。

とにかく目の前の敵を………外道共を消し去る事だけを考えて主機を唸らせる。

 

「その思い出は………あの人のものだーーーっ!!」

 

望月は左手に主砲を、右手に盾を構えると目を吊り上げて突撃していった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

南方海域に突入した長波達は、初霜の意見でとある遠距離通信チャンネルを開いていた。

それは彼女がタウイタウイ泊地に在籍していた時に使っていた極秘チャンネルだ。

初霜はタウイタウイからも援軍を呼び寄せられないかと考えたのだ。

 

「コホン。こちら第二十五駆逐隊旗艦である長波。えー、タウイタウイの提督はいるか?」

「あー、長波?久しぶりだね、皐月だよ。」

「皐月!?お前タウイタウイに転籍になってたのか!?」

「そうだよ、潮と一緒にね。」

 

懐かしい声に驚く長波。

しかし、皐月の方はやれやれといった感じで長波に笑いかける。

 

「詳しい事情は五月雨から電話で届いてるよ。初霜が死地に突撃しちゃってるって。司令官、泡を食った表情になって慌てて艦隊編成してる。」

「ねえ、潮ちゃんは?」

「その声は朧だね。パラオから逃げて来た作業船と合流して今着いた所。補給をしたらボク達と一緒に出撃するよ。」

「皐月さんが新しい秘書艦をしているのでしょうか?」

「違うよ、秘書艦は重巡の人。艦隊編成で電話に出られる状態じゃないんだって。後、毎日司令官の初霜に関するノロケ話を聞いてノイローゼになりそうだって言ってた。」

 

笑顔で語る皐月に対し、思わず赤面する初霜。

そして、最後に皐月は真面目に言う。

 

「先に着くのはそっちだから足止め頼むね。こっちは出来る限りの支援はするから。」

「本当に悪い。五月雨といい、貸し作ってばかりだな………。」

「じゃあ、何処かで利子付きで返してよ。ボクも出撃準備に入るから頑張ってね。」

「提督に宜しく伝えといてくれ。初霜が愛してるって。」

「ちょ!?長波!?」

 

りょうかーいって皐月がチャンネルを切った事で珍しく慌てる初霜だったが、すぐにその顔が真面目に戻る。

前方に暗雲………強力な深海棲艦が出た時によく起こる現象が見えてきたからだ。

そこに望月が………大切な仲間はいる。

 

「待ってろよ望月。お前の思い出………一緒に守ろうぜ!」

 

長波達は全速力で嵐の中へ突入していった。

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