燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第37話 山風~残されていた物~

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

単艦でパラオに赴いた望月は、雄たけびを上げながら重巡棲姫に迫る。

頭の中は相変わらずガンガンと頭痛がしたが、目の前の外道を倒すという闘争心が彼女の意識を保たせる。

左手の連装砲を構えると歯を食いしばり照準を定め砲撃を放つ。

 

ガキンッ!

 

「っ!?」

 

しかし、その望月の砲は左右に陣取っていたネ級改が尻尾をかざして盾とする事で防ぐ。

どうやら装甲は相当固いらしく、駆逐艦の砲では怯みもしない。

 

(魚雷は………!?ダメだ!3隻共、陸地の上にいる!?)

 

ならば………と爆雷を投げつけるがこの爆発も尻尾で易々と防がれてしまう。

 

「邪魔だ!自分で戦えよ、臆病者!」

 

この場合、ネ級改をどかすにしろ重巡棲姫に直接攻撃を当てるにしろ、望月は海に引きずり込んで魚雷を喰らわせるか陸地まで上がって装甲の脆そうな所を主砲で狙うしかない。

だが、近づく前にネ級改2隻が反撃の砲火を放つ。

 

「くぅっ!?」

 

現存確認されている重巡の中でも最上クラスの力を持つ戦闘能力を前に、望月は回避行動を強いられる。

更に、周りに控えていた大量のヌ級が攻撃機を口の中から放出する。

爆弾を抱えた爆撃機かと思ったが、それは何と全部機銃を搭載した戦闘機。

それは羽虫のような見た目通り望月の周りを飛びながら上空から機銃を浴びせかける。

 

(遊ばれてる………っ!?)

 

機銃を右腕の盾で防ぎながら望月は歯ぎしりする。

重巡棲姫は相変わらずあくどい笑みを浮かべたまま瓦礫の椅子に鎮座している。

駆逐艦1人に自分は出向く必要等無いと言わんばかりだ。

徹底的に惨めに痛めつけて、望月が無力さの前に屈辱を味わえばいいと言わんばかりだ。

だが、確かに彼女が幾ら熟練の艦で擬似改二も使っているとはいえ、実際に姫クラスに駆逐艦1人ではどうにかなるわけでもない。

これが現実なのだ。

それでも………。

 

(あたしは………!こんな奴らなんかに………っ!あの人の思い出を………っ!!)

 

望月は空中に爆雷を放り投げて群がる攻撃機を破壊すると、足首の魚雷発射管を片方重巡棲姫にぶん投げる。

それはネ級改が尻尾でまた防ぐが3本の魚雷が起爆して怯ませる。

すかさずもう片方の魚雷発射管も投げつけもう1隻のネ級改を怯ませる。

 

「喰らええええええええええええ!!」

 

そこに隙が出来たと判断した望月は主機を加速させ一気に重巡棲姫に迫る。

海上からボロボロの桟橋へと着地して走り………。

 

グラリ………。

 

(え?)

 

だが、その途中で望月の身体が急に固まる。

元々精神的にも肉体的にもボロボロではあったが、集中力はまだ持っているはずだ。

それなのに………。

 

「何で!?」

 

信じられない気持ちで自分の身体を見つめる望月に対し、重巡棲姫は座ったまま腹から生えた巨大な蛇のような尻尾を振って吹っ飛ばす。

望月は桟橋を飛び出して海面を転がりうつ伏せになって倒れる。

それでも何とか四つん這いになって起き上がろうとするが、何故か身体に力が入らない。

 

「どうしたんだよ………!?」

 

明らかな異常を感じた望月は身体を調べようとするが、そこで気づく。

艤装からずっとアラートが鳴り響いている事に。

 

「ね、燃料切れ………!?」

 

そこで望月は自分のミスを痛感する。

横須賀からパラオまでの道のりは遠い。

その為、本格的にパラオで戦闘を行うのならば、途中で給油をしなければならなかったのだ。

 

「そ、そんな………!?」

 

顔が青白くなった望月は更にギョッとする。

陸地の上の重巡棲姫は、適当な瓦礫の山に、蛇の尻尾の先にある口を突っ込むと巨大な鉄骨を持ち上げる。するとそれを立ち上がろうとした望月に放り投げる。

 

「うあああああああああああああ!?」

 

咄嗟に盾で防御するが、投げつけられた鉄骨の威力の前に砕けてしまい、衝撃が望月の軽い身体を更に吹っ飛ばす。

今度は派手に海面を転がり仰向けに倒れた。

 

「………………。」

 

望月は力なく空を見上げる。

いつの間にか雨が降り注いでおり、彼女の眼鏡を濡らしていく。

彼女はボロボロの身体を振り絞り、主砲を取り落とした左手を上げる。

 

(あたしは………もう沈むんだろうか………。)

 

艦娘である以上、沈んでも嘗て愛した司令官に会えるとは思えない。

謝罪も出来ない以上、望月に出来るのは思い出の地であるパラオを守る事だけだった。

それ位しか、もう彼女には残されていなかったのだ。

 

(でも、それも叶わないんだな………。)

 

あの重巡棲姫が更に巨大な鉄骨を携え桟橋へと歩いてくる。

望月にトドメを刺す為に。

 

(あたしは………結局奪還(ドロップ)されても心は海の底に沈んでいて………。)

 

そして、尻尾を振り上げ、叩きおろし………。

 

ガキィンッ!!

 

その巨大な一撃が、しかし割り込んできた影に遮られる。

メキメキと音を立てながらも、その影は倒れない。

 

「ぁ………れ………?」

「望月、生きろ。」

「長………波………?」

「生き抜け!命ある限り、お前の愛した提督の分も!この海の上で生き続けるんだよ!!」

「何で………ここに………?」

 

第二十五駆逐隊旗艦である長波が改二の姿で望月を振り返りながら叫ぶ。

その両腕には増加装甲であるバルジが巻き付けてあった。

下手な盾よりも丈夫なそれは、艦娘の強度も相まって鉄骨による一撃を受け止めていたのだ。

 

「艦隊を………今は望月さんを守るのが………私の望みです!」

 

そして、その鉄骨に改二となった初霜の砲撃が加えられ折られる。

更に、倒れた望月の首根っこを山風が後方に引っ張っていく。

こちらは改二の姿とは微妙に異なっており、魚雷発射管と爆雷投射機が、大発動艇とスロープに変更されていた。

「改二丁」と呼ばれるもう1つの山風の改二の姿である。

 

「何で………みんな………?」

「説明は後………!動かないで!」

 

山風は望月の艤装の背中のハッチを開くと持ってきたドラム缶からオイルを給油する。

望月はみるみるうちに自分の艤装に力が蓄えられていくのが分かった。

更に、山風はドラム缶を捨てると持参してきた睦月型の魚雷発射管を足首に付けてやる。

同じく連装砲も左手に持たせる事で望月の主兵装が元に戻った。

 

「落トセ!」

 

新たな艦娘の出現に、重巡棲姫の命令で2隻のネ級改が海に飛び込み砲撃を隙だらけの望月達に浴びせていく。

しかし、長波がバルジでその砲撃を防ぎ盾になる。

ヌ級も攻撃機を出すが、高角砲と高射装置という対空砲火に特化した装備を付けた初霜が次々と撃ち落としていく。

ネ級改は更に距離を詰めようとするが、そこに舞風と菊月が立ちふさがった。

 

「舞風、出来るな!」

「うん!………もう見捨てないから!!」

 

そう言うと舞風は歯を食いしばり、菊月と共にトラウマであった擬似改二を発動させる。

ネ級改は舞風を尻尾で薙ぎ払おうとするが、彼女は手持ちの高角砲を上に放り投げると、アームを折りたたんで膝を抱えて、何と華麗にバク宙をして回避。

更に着地と同時に左手で高角砲をキャッチすると、ネ級の顔面に撃ち込み角を折って怯ませる。

 

「それ!ワン、ツー!………菊月も!」

「任せろ。スイカ割りの経験で太刀筋には少し自信がある。」

 

一方、菊月は紫色の刀を取り出しネ級改の尻尾を防ぐ。

刀は相当頑丈に作られているらしく、ちょっとの衝撃では壊れなかった。

それどころか返しの刃で角を斬り落としてみせる。

実はこの刀は第六駆逐隊の電達の恩人である天龍が横須賀に置いておいたスペア。

その気になれば敵艦の砲弾すら弾き落とせる逸材であるらしい。

 

「みんな………?パラオに来るなんて………裁判沙汰じゃ………?」

「言ってる暇があるなら伏せて………!」

 

大発動艇を放って更にネ級改に追い打ちをかけていた山風が望月の頭を押さえ強引に海の上に伏せさせる。

すると、朧が何と近くにあった鉄骨を………重巡棲姫が望月にトドメを刺そうとして初霜に折られたそれを、両腕で掴むと歯を食いしばり擬似改二を発動させて思いっきり持ち上げる。

 

「せーのっ!」

 

そう叫ぶと朧は艤装の出力を最大まで上げて身体ごと回転する。

その凶悪な一撃は反応が遅れたネ級改2隻を弾き飛ばし、尚も回転して勢いを付ける。

 

「マ、マサカ………!?」

「そのまさか!望月ちゃんのお返しっ!!」

 

そして最大まで遠心力を付けた朧は、鉄骨を桟橋に立っていた重巡棲姫に向けてぶん投げる。

鉄骨は重巡棲姫の腹を貫き、大量の血を撒き散らしながら吹き飛ばし、ついでに偽りの瓦礫の玉座も破壊する。

 

「ヴェァァァアアアアアアアアッ!?」

 

そのまま重巡棲姫は瓦礫の山の上に派手な音を立てて倒れる。

あまりの大将の姿に僅かながらネ級改やヌ級は怯まされる。

 

「やるな、朧!意外と力があるじゃないか!」

「腹筋は鍛えてるからね!山風ちゃん、そっちは!?」

「望月はどうにかしたよ………!ほら、何か言う事は?」

「言う事って………だから何でみんな………?」

「第二十五駆逐隊の仲間だから………それだけで十分だろ?」

 

望月の疑問に長波は軽く答えると、心強い仲間達を促し集結させる。

怯んでいたネ級改が再び砲撃を始め、ヌ級が攻撃機を発艦し始めたからだ。

そして………。

 

「何処マデモ!何処マデモ邪魔スル艦娘共メェーーーッ!!」

 

瓦礫の山から重巡棲姫が鉄骨を腹から無理やり引き抜き、身体を無理やり再生させながら顔を怒りに歪める。

その憤怒の表情を前に、しかし第二十五駆逐隊の面々は怯まない。

望月は今更ながらに悟った。

彼女達は裁判沙汰になる事を覚悟で自分を助けに来てくれたのだと。

みんな、バラバラの形式であるのに。

みんな、望月が沈んだって何も失う物は無いはずなのに。

みんな、望月の命を救う為だけに………。

 

「ゴメン………。」

「違うだろ、こういう時に掛ける言葉。」

「あ………ありがとう。えっと、その………協力してくれる?」

 

おずおずと掛けられた言葉に、援軍に駆け付けた6人はニヤリと笑い言う。

 

「一番練度は低いけど旗艦だからな、長波サマに任せておけ!」

「今日の私は………貴女と一緒に愛に狂います!」

「面倒だから、今度からはちゃんとみんなに言ってから動いてよ………?」

「朧!もっと望月ちゃん達の事、知りたいからね!」

「あたし、絶対にもう見捨てないから………!舞風、舞うよ!」

「この席は本来望月の物だ。勝手に放棄するなよ。」

「うん………本当にありがと、みんな………。」

 

言う事はバラバラだったが、それでも頼もしい言葉。

その言霊に勇気を貰った望月は………今度こそ輪の中心で、倒すべき重巡棲姫を見据えた。

1人の力では無く、みんなの力で。

ここからが本当の勝負………第二ラウンドの開始である。

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