燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第38話 長波~守る為に~

艦娘が7人に増えた事でヌ級は機銃を携えた戦闘機ではなく、爆弾を抱えた爆撃機に攻撃機を変更する。

角を折られた2隻のネ級改は長波達を睨みつけながら下がりつつ砲撃を放ち、魚雷も織り交ぜていく。

更に怒りに燃える重巡棲姫も海に飛び込み、砲撃と魚雷による攻撃を開始する。

 

「各艦、初霜の傍から離れるなよ!」

「え………?一気に行くの?」

「生憎、長波サマの改二時間は頑張って6分なんだ。速攻で決める!」

 

隊内無線で望月に状況を説明した長波は、初霜を中心に輪形陣の形を指示する。

彼女は得意の対空砲火で味方に爆弾を落としそうな攻撃機に狙いを絞って撃ち落とし、更に大発動艇をデコイとして流し、魚雷と相殺させる。

同じく山風も大発動艇をデコイとして流しながら、砲撃も織り交ぜてとにかく魚雷を破壊していく。

重巡3隻の砲火は先頭の長波がバルジで盾を作り防御を欠かさない。

 

「上手い物だな。」

「装甲版での防御術は雷や電に訓練中に習ったんだ。帰ったらアイツらにも頭を下げないとな。」

「私も恩師の刀を勝手に使っているから謝罪だな。………別行動を取る。ネ級改を怯ませておく。」

「大丈夫か?」

 

艦隊から距離を取ろうとする望月に対し、長波は心配をする。

初霜から離れたら当然、攻撃機に狙われるからだ。

 

「マズイと思ったら逃げてくる。それに、協力者もいるらしい。」

「舞風………?」

 

同じく艦隊から離れようとしている舞風の姿を見て更に心配になる。

彼女は沈む事に対してトラウマを背負っている。

これ以上の単独行動は危険だと思った。

だが、舞風は気丈に笑うと長波に言う。

 

「大丈夫。あたし、長波達を信じてるから。………只、沈みそうになってたら助けてくれるかな?」

「絶対に駆け付ける。」

「ありがと。」

 

それだけを言うと、2人は輪形陣から離れる。

中央突破を図る長波達にネ級改が立ち塞がろうとするが、それぞれ舞風と菊月が魚雷を浴びせて動きを止める。

5人はその隙に重巡棲姫へと向かっていく。

 

「リミットは?」

「後2分………でもヌ級が!」

 

山風の言葉にヌ級が割って入り艦載機を直接長波達にぶつけようと発艦させる。

 

「特攻かよ!邪魔するな!」

 

バルジで盾を作って爆弾を抱えた攻撃機の突貫を封じながら、長波は左太ももの魚雷を発射していく。

手が爆発の威力で痺れたがまだ持った。

魚雷は親玉に従順なヌ級に次々と炸裂して沈めていくが、その後ろから重巡棲姫がまた鉄骨を投げつけた。

 

「沈メーーーッ!!」

「それは悪手だよ!」

 

長波がバルジで弾いて傍に落ちた鉄骨を朧は掴むと、今度は巨大な槍のように構え、進路上にいるヌ級をどんどん貫いたり弾き飛ばしたりしていく。

慌てて重巡棲姫が先程の二の舞を防ぐ為に回避をするが、その隙を狙って長波が背中にマウントしてある魚雷を取り出し撃ち出す。

流石に腹から生えてうねっている蛇のような尻尾には届かなかったので、狙いは本体だ。

時間差で初霜、朧、そして望月が撃ち出していく。

 

「ヴェァァァアアアアアアアアッ!?」

 

次々と炸裂する魚雷の威力の前に何度も重巡棲姫は火柱に包まれるが、反撃で尻尾を振りかざす。

だが、これも長波がバルジで何度も何度も防いでいく。

しかし、本来の用途で無い為か、次第にバルジにもヒビが入っていく。

 

「長波さん、このままじゃ………!?」

「だな………!望月………援護する!お前の思い出は、最後はお前が守り抜け!」

「魚雷はさっき使ったよ………!?どうやって………?」

「望月………!その「刃」を忘れてるよ!」

「あ………!」

 

山風の説明を理解した望月は主機を加速させ、重巡棲姫へと向かっていく。向かって右から尻尾が降られたが、割って入った長波がバルジでそれを防ぐ。

左からも同じく振られるが、これは朧が鉄骨を投げつける事で相殺。

ならば………と両腰の連装砲を発射しようとするが、大発を放った山風が主砲と共に砲弾を撃ち出して破壊する。

 

「望月さん、今です………!」

 

望月の進路を防ごうとする攻撃機を破壊していた初霜の言葉に、望月は今度こそ燃料が補充された主機を唸らせその懐に迫る。

そして左手の主砲を突き付け、砲弾を左胸に乱射し、有りっ丈の数を撃ち込む。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

「艦娘ーーーーーッ!?」

 

どす黒い返り血を沢山浴びるが、望月は怯まない。

最後の抵抗と言わんばかりに重巡棲姫は、砲門の先を掴み力で捻じ曲げる。

その燃えるような眼を受けながら望月は砲を離すと、傷が再生する前に右手の刃を………鉄骨を防御した際に砕けて鋭利な刃になった盾をその心臓に突き刺した。

 

「ウァァァァァアアアアアアッ!?」

 

トドメとなる一撃に絶叫する重巡棲姫。

その姫クラスは最後まで口惜しそうに望月を見ると、口から血を吐きながら呟く。

 

「ソンナニ………ソコマデシテ………私ガ憎イカ………?」

「憎い………いや、憎かった………かな。」

 

望月は正直に答える。

確かに1人で戦っている時は憎さ全開だったと言えるだろう。

しかし、今は………こんな自分の為に駆け付けてくれた仲間の想いを無駄にしたくないという感情の方が強かった。

 

「あたしは………みんなに支えられたから、ここまで来れたんだ。」

「……………。」

「馬鹿な事言うけどさ、1つ頼まれてくれないか?海の底で司令官に………あの人に会ったら、望月が謝ってたって伝えといて欲しい。」

「フッ………。」

 

望月の真摯な瞳に、しかし重巡棲姫は鼻で笑うと静かに首を振った。

 

「イツカ全テガ終ワッタラ、自分デ伝エロ。」

「そっか………。」

 

それで重巡棲姫は力を失い沈んでいく。

しかし、その達成感に浸る間もなく望月は振り返り仲間の元へと向かう。

まだ海戦は終わっていないのだ。

 

「舞風、菊月!そっちは大丈夫か!?」

「菊月だ、状態は大破。刀を折ってしまった。だが、舞風が………。」

 

菊月の通信に長波は驚愕する。

ネ級改に右アームの高射砲で砲撃を浴びせていた舞風は全身傷だらけだ。

しかも、砲撃か爆撃を受けたのか、右肘から先が消失しており大量の血が流れている。

擬似改二も消えており、口から血反吐を吐いている状態だった。

 

「この野郎がぁぁぁっ!!」

 

文字通り全速力で駆け付けるついでに両腕のもう半分砕けていたバルジを投げつけてネ級改を怯ませる。

その隙に舞風を掻っ攫って初霜の所に合流する。

 

「舞風!おい、舞風!しっかりしろ!!」

「あ………約束………守ってくれたんだ………うれしい………な………。」

「誰がここまで我慢しろって言ったんだよ!?しっかり長波サマに捕まってろ!………って、こっちも時間切れか!?」

 

眩暈と共に長波も改二の姿から元に戻る。

菊月は山風が大発で牽制している間に朧が引っ張ってきてくれた。

望月も合流するが、武装のほとんどを失っている上に、肉体的にも精神的にもかなり限界が来ている。

 

「逃げては………くれないよな………!」

 

むしろ大将が倒れた事で、ネ級改2隻と大量のヌ級は余計に闘争心を沸かせている。

今の舞風や菊月の状況を考えれば逃げる事も出来なかった。

 

「初霜、弾は!?」

「残り僅かです!このままだと………!」

「どうする………!?」

「ねえ………菊月………いいかな………?」

「舞風?」

「元々覚悟は出来ている。」

「菊月?お前ら何を………。」

 

嫌な予感がした長波に対し、腕の中で力を失っている舞風が言う。

 

「置いてって………長波。5人だけでも………生き残って。」

「はぁ!?何言ってる!?沈むの嫌なんだろ!?」

「満足なんだ………やっとみんなの役に立てたって………それだけでも………。」

「だ、ダメだって!?あたしの為に舞風達が沈んじゃ………!?」

 

望月も抗議するが皆、頭の中では理解してしまっている。

これが最適な選択なのだと。

残酷だが、一番生存者を出せる選択なのだと。

 

「この任務は望月を連れ帰れば最低限達成だ。山風もいるし行け!」

「こんな時にあたしの名前を出さないで………!あたし、置いてくの嫌だからね!」

「今度こそアタシも抗議するよ!全員で生き残れって五月雨も言ってたじゃん!」

「私も反対です!こんな悲しみを経験する為にパラオまで来たわけじゃないです!」

「あたしも………!これじゃあ、本当にパラオの司令官に会わせる顔が無いよ!お願いだから………!お願いだからぁ………!長波ぃ………!!」

 

遂に涙を流し始める望月の言葉を聞いて長波は苦虫を噛み潰したような顔になる。

春に2隻の駆逐棲姫と遭遇した時と同じような状況になっている。

しかも、その時と違って旗艦は初風でなく自分だ。

更に言えば、より絶望的な状況になっている。

それでも選択をしなければならない。

大破状態の2人を置いて逃げるか。

全員でより絶望的な状況に踏み込むか。

 

「どれも違うに決まってるだろ………!」

 

長波の望む選択肢はそのどちらでもない。

ここに来た時に望月になんて言った?

夕雲から何が大事だって教わった?

 

「みんなで生きるんだよ………!」

 

思わず本音が漏れた。

今生きているこの命が大事なのだ。

何が何でも………いなくなった者の分まで、生きるのだ。

簡単に命を捨てる選択なんてしてはいけないのだ。

しかし………それに長波の実力が追いついていない。

だからこそ、せめて想いだけでも伝える為に、恥も捨てて彼女は思わず声の限りに叫んだ。

 

「みんなで生きるのが答えに決まってるだろーーーっ!!」

 

「分かったわ。その優しすぎる想い………守ってみせます!」

 

別の何処か幼くて………しかし優しい声に、長波はハッと空を見上げる。

空を飛び交っていたヌ級の攻撃機に別の戦闘機が………沢山の味方の戦闘機が攻撃を始める。

そして、音が鳴り響いたと思ったら………初霜の比では無い沢山の敵攻撃機が迎撃されていった。

 

「まさか………!?」

 

長波は右方を見る。

そちらには、速力を活かした艦娘達が………タウイタウイ泊地からの援軍が、雨の中を駆け抜けて来ていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

タウイタウイからの援軍は複縦陣を取ってきていた。

先頭にいるのは、セミロングの茶髪を紅白縞模様の鉢巻で縛った軽空母とダークブラウンのポニーテールが特徴的な駆逐艦である。

祥鳳型2番艦瑞鳳と秋月型1番艦秋月だ。

瑞鳳は軽空母という事で攻撃機を弓矢で撃ち出す事ができるのが特徴。

秋月は防空駆逐艦と呼ばれ、「長10cm砲ちゃん」とよばれる自立砲台による対空攻撃に特化した性能を持っていた。

 

「秋月ちゃん、敵の攻撃機は任せるわね!」

「はい、瑞鳳さん!この秋月、全て撃ち落としてみせます!」

「私達で制空権を奪ってしまいましょう!」

「秋月型の良さ………見せつけます!」

 

その後ろに並ぶのは左目を閉じている右腕に巨大な艤装を纏った重巡洋艦と栗色のロングヘアを雨の中不満そうに靡かせている駆逐艦。

古鷹型1番艦である古鷹と睦月型2番艦である如月だ。

古鷹は旗艦であり現タウイタウイの秘書艦で、真面目で気づかいのできる性格の艦娘だ。

如月もまた優しい性格で、艤装に搭載する強化型の缶を持っており、あの島風並の機動力を獲得していた。

 

「各艦、これより横須賀からの本隊への支援を開始します!如月ちゃん、無理しないでね。」

「うふっ、大丈夫ですよ、古鷹さん。私も駆逐艦だし、ちょっと本気出しちゃいますから!」

 

最後に皐月と潮が苦笑しながら並んでしんがりを務めていた。

これでも秋月以外は全員、正規の改二の姿を操れるのが特徴だ。

 

「長波ー、これで貸し更に増えるねー。」

「皐月に潮………間に合ったの………か………?」

「忘れるなんてひどいですよ。朧ちゃんも無事で良かったです。只………。」

「舞風ちゃんや菊月ちゃん、それに何より望月ちゃんを弄んだんだもの。それなりの覚悟はして貰わないとね!」

 

皐月や潮の言葉を最後に如月が引き継ぐ。

元々呑気そうだったり優しそうだったりする艦娘達だが、今は冷静に凄く怒っていた。

仲間を肉体的にも精神的にも傷つけられて黙っている駆逐艦はいない。

その想いを組んだ古鷹が号令を出す。

 

「攻撃開始!………1隻たりとも逃がさないから!」

 

そう叫ぶと後続の4人は主機を加速。

ヌ級の攻撃機の対処を瑞鳳と秋月に任せ、一気に戦場に殴り込んでいった。

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