タウイタウイからやって来た新手の登場にネ級改は即座にそちらに向かい、ヌ級も艦載機を次々と飛ばす。
だが、ヌ級の攻撃機は瑞鳳の攻撃機と秋月の対空砲火に阻まれ思うように運用できない。
その中でネ級改は只、冷徹な視線を向けながら砲撃と魚雷を撃ちながら古鷹達へと迫る。
「ネ級改1体は私が担当するね!」
「じゃあ………可愛いヌ級達は如月が相手をしてあげる!」
「潮、ボク達はもう1体のネ級改だ!」
「分かりました!本気見せちゃいます!」
それに対し、古鷹、如月、皐月、潮は素早く役割分担をするとバラバラに動き出す。
古鷹は右腕の4門の砲と左肩の2門の砲を向けてネ級改と砲撃戦になり、皐月と潮は左右に分かれてもう1隻のネ級改を挟み撃ちにする。
如月は雨の中髪を靡かせると古鷹達へと狙いを定めようとしているフラッグシップ級のヌ級達に対し、ふとももの魚雷を3本撃ち注意を引く。
「さあ!如月に見惚れちゃって!」
ヌ級は如月に直接攻撃機をぶつけようと低空飛行で飛ばしてくるが、装備している艤装強化用の缶の力を最大限発揮し、何と華麗な側転で回避していく。
そして着地と同時に両手に持った単装砲と高角砲の同時発射で次々とヌ級を射抜いて海の藻屑にしていってしまう。
「仕方のない子達ねぇ………如月が楽にしてあげるわ!」
舞風もビックリの舞いを見せる如月は、残り3本の魚雷も的確に撃ってヌ級の数を更に減らして身軽に。
ヌ級は周囲を囲い込もうとするが、如月は全周囲に目があるかのようにヌ級の低空で飛ばされる攻撃機を回避し、逆に同士討ちを誘う。
氷上でスケートでも踊るかのように華麗に舞いながら、手持ちの火器を次々と至近距離で撃ち込んで数を減らすその姿は敵からしたら驚異であった。
「ほらほら!いいの?艦載機を空に飛ばさなくて。制空権取られちゃうわよ?」
尚も如月を沈めようと必死になるヌ級に対し如月は微笑む。
それを示すかのように、空を支配して有利に立った瑞鳳の攻撃機が次々と機銃を浴びせていき、ヌ級達を混乱させる。
不利になったのを知り、我先に逃げようとする深海棲艦まで現れた。
「あら?古鷹さんが言ってくれたでしょ?逃・が・さ・な・い………って!」
そんなヌ級達に対し………同じ睦月型を含めた仲間を嬲った敵に対し、如月は静かに攻撃的な笑みを浮かべてやった。
一方、古鷹は強力なネ級改と以前、撃ち合いを行っていた。
しかし、硬い上に魚雷も駆使する相手に対し、中々簡単に事は運ばなかった。
「ちょっと反則だけど、流石重巡………!でも負ける気は無いよ!」
魚雷を回避しつつ距離を詰めようとする古鷹。
しかし、相手は冷静に魚雷で逃げ場を失った彼女に砲撃を浴びせて艤装を破壊しようとする。
「だったら………!」
古鷹は左手で艤装の右腕基部から身体に巻き付けてある錨付きの鎖を投げつけてネ級改の動きを封じようとする。
だが、その拘束攻撃を狙っていたかのようにネ級改は投げつけられた錨を砲撃で破壊。
すかさず古鷹の死角………閉じられた左目の方へと敵は回り込む。
「………!!」
トドメの砲撃を放とうとした所で、古鷹はその左目を開いた。
ピカッ!!
「ッ!?」
その瞬間、左目………探照灯となっているその目は雨の中で輝き、目くらましになってネ級改の動きを今度こそ封じる。
敵は慌てて出鱈目に4門の尻尾の砲を放つが、3発は外れ、1発は古鷹の左肩の艤装を掠っただけ。
「たああああああああっ!!」
雄たけびを上げて一気に重巡の速力を活かして加速した古鷹は、右腕の艤装の4門の砲をネ級改の頭と左胸に突き付けて、一気に最大の火力で貫く。
その必殺の急所への攻撃を受けて、ネ級改は今度こそ沈んでいった。
「ふう………思ったより時間掛かっちゃった。皐月ちゃんと潮ちゃんは………?」
古鷹がもう1隻のネ級改と対峙している2人の駆逐艦娘を探すが心配はいらなかった。
皐月と潮に前後を挟まれたネ級改はどちらにも決定打を与えられず、むしろ積極的に至近距離で連装砲による主砲の砲撃を受けてしまう形となる。
「皐月さん、トドメ貰いますね!」
「OK!」
「もう大切な仲間は傷つけさせないよ!」
最後は皐月に気をひかれる内に、背後から尻尾にしがみついた潮によって後頭部を何度も砲撃され、ネ級改はうつ伏せに沈んでいった。
程なく瑞鳳と如月にヌ級達も1隻残らず沈められてパラオでの海戦は終了する。
重巡棲姫がいなくなったからなのか、空はいつの間にか雲が散り、晴れ間が覗いていた。
――――――――――――――――――――
長い海戦が終わって長波の艦隊と古鷹の艦隊は合流する事になる。
長波は挨拶も程々に、すぐにタウイタウイに向かい舞風と菊月、それに望月を船渠(ドック)入りさせて、高速修復材(バケツ)を使う事を懇願した。
「大丈夫、ちゃんと私達の提督はそこら辺準備しているから!」
「恩に着る!そうと決まれば、早く………!」
「ちょっと………待って………。」
「舞風?何言ってるんだ?早くお前の腕を………!」
「その………前に………あそこ………。ほら………桟橋の所………。水面に………光る物………が………。」
「え………?」
長波が抱えていた舞風が、残った左腕を何とか動かして指し示す。
見れば確かに桟橋の根本に陽光に反射して何かしら光る物があった。
「古鷹さん、ごめん。舞風をちょっと頼めるか?」
「うん。」
菊月を朧が、望月を山風が支えている以上、初霜の体格の関係で舞風を預けられるのが第二十五駆逐隊にいなかったので、重巡の古鷹に頼む。
そして、桟橋の所に向かうと潜ってその光る物を掴み上げる。
しばらく、長波はそれを入念に調べていた。
「……………。」
「長波………どうだった………?もしかしてって………思ったんだけど………。」
「ああ………ああ………!舞風、お前凄いお手柄だ!!」
1人歓喜に満ちた表情で舞風に笑いかける長波を見て、一同は首を傾げる。
長波はそのまま艦隊の所に戻ると、山風に支えられている望月の所に向かう。
「長波………?」
「望月、ちょっと手を洗え。」
「えっと、こう………?」
意味が分からず、とりあえず海水で自分と深海棲艦の血で塗れた手を洗った望月は長波から何かを受け取る。
それは、銀色に光るリング状の物………指輪だった。
「……………。」
「内側の刻印、見てみろよ。」
望月は長波に言われた通り、刻まれている文字を調べる。
指輪は年季が入っているのか、一部が掠れており男の名前は分からない。
だが、女の名前はハッキリと分かった。
「MOCHIZUKI」と。
「この………この指輪………もしかして………!?」
「待っててくれたんだよ、ずっとこの場所で。お前の提督は、お前がパラオに帰ってくるその時までずっと。」
「……………。」
「お前の提督は一緒に海に沈んだわけじゃなかったんだ。お前の心が………命が………海の上でちゃんと安心して過ごせるように………ずっとずっと同じ海の上で待っていてくれてたんだ!」
山風がそっと望月から手を離し座らせる。
ぺたんと海の上に座り込んだ望月はじっと見つめていた指輪を恐る恐る胸に抱えると、古鷹に抱えられている舞風の方を見た。
彼女は弱々しかったが、望月に笑顔で応えてくれた。
「良かった………ね………望月………。愛する人との………証………取り戻せて………。」
「………あ、あ………。」
自然と望月の瞳から先程とは違う意味の涙がこぼれていく。
それはみるみるうちに溢れていき、望月の頬を濡らす。
止められなかった。
止められるわけが無かった。
もう手に入らないと思っていた物が………永遠に失ったはずの契りの証が今この手にあるのだから。
「あ、ありがとう………舞風………っ!」
何とか絞り出した言葉は感謝だった。
仲間に対する………自分をここまで連れてきて生き残らせてくれた人たちに対する。
「ありがとう………山風!ありがとう………朧!ありがとう………初霜!ありがとう………菊月!ありがとう………長波!!ありがとう………ありがとう、みんなっ!!」
「良かったな………望月。」
「う、う………ああああああああああああああああっ!!」
掛けるべき言葉を何とか伝えられた望月は声を上げて泣き出す。
今度こそ、その愛の証を手放さないようにしっかりと抱えながら。
しばらく、みんなは温かい目で見守っていた。
愛する人との思い出を取り戻せた、一途な艦娘の姿を。
――――――――――――――――――――
パラオを襲った深海棲艦を撃沈してから数週間後。
長波達第二十五駆逐隊は、一時的にタウイタウイ泊地に転籍していた。
というのも、今回の襲撃で上層部もようやくパラオの重要性を理解し、再建を担おうと本腰を入れ始めたからだ。
つまり、長波達はその護衛と再建の協力をする事になったのだ。
(重罪になりそうな所を提督や五月雨、陽炎達が上手くやってくれたのは凄かったな………。)
横須賀に戻った時は裁判沙汰になると長波達は覚悟をしていた物だが、朧が言っていた通り、上層部が出撃を要請したのだから文句は無いはずだと提督が黙らせたものである。
また、奪還(ドロップ)で恐れられているとはいえ、五月雨が堂々と威圧してくれたのも効いていた。
望月が脅した衛兵に関しては妻と子供がいるらしく、彼女が素直に自分の過去を話したらもらい泣きをしながら許してくれた。
「私は横須賀に戻る。お前達との戦い、色々と勉強になった。」
タウイタウイで傷を癒した菊月は電や雷、それに偶然横須賀を訪れていた天龍に刀を黙って拝借して折った事を謝った。
それに対して天龍は、その時の武勇伝をたっぷり聞かせてくれと逆に喜んでいる様子であった。
但し、後で刀を完璧に使いこなせるように鍛えてやるという訓練付きであったが。
(一応、丸くは………収まったんだよな。)
舞風は傷が癒えたし擬似改二のトラウマも克服できた。
初霜も久々に愛するタウイタウイの提督に会う事が出来た。
山風も何だかんだ言いながらもそれなりに自分に信頼を置くようになった。
朧も第二十五駆逐隊という新たな居場所で自分なりの道を見つけてくれた。
そして、望月もパラオの提督との大切な指輪を取り戻す事が出来た。
(だけど、長波サマは………。)
ある日、パラオで再建の作業を手伝っていた長波は、休憩時間に桟橋の所から海を見つめていた。
その表情は何処か遠くを見つめており、憂鬱そうだ。
「どうしたのかな?そんな顔して。」
「古鷹さん………。」
再建は、皐月、潮、如月、秋月、瑞鳳と言った古鷹の艦隊と共同で行っていた。
秘書艦が出向くのはどうかと思ったが、タウイタウイにいると提督から初霜とのノロケ話を聞かされるから、むしろ気が楽であるらしい。
とにかく、そんな面倒見のいい重巡は、長波の許可を貰うと左隣に座る。
「辛そうだね。」
「古鷹さん、旗艦なんだよな………。長波サマは、旗艦として相応しいか?」
「やっぱり、そういう事で悩んでたんだね。」
「長波サマは………みんなを救いたかった。でも、結局は………。」
「救えたよ。みんな生きてるし。」
「結果論だよ。古鷹さん達が来なければ全滅か舞風達を見捨てていたか………どちらかしか選べてなかった。」
古鷹は少しだけ開いている右目を伏せながら、長波に話しかける。
「ちょっと話をしよっか。」
「話?古鷹さんの経験談か?」
「正確には私と如月ちゃんとの経験談。」
「如月………?」
言葉に右を見上げてみれば、いつの間にか如月も髪を靡かせてやってきており、許可を貰って長波の隣に座った。
「古鷹さんと如月の経験談って何だ?」
「私ね、昔から………艦娘になった時から左目はこうだったんだ。」
そう言うとここで初めて古鷹は探照灯になっている左目を開く。
相変わらず輝きが溢れ出し、周囲を照らしていた。
「それ、光を消せないのか?」
「うん、常に付けっぱなし。」
「何で、そんな目に?」
「分からない。でも、艦娘はともかく人間からは不気味に思われたかな?こんな事も出来るし。」
古鷹は器用に電磁波でハートを作りながら、ちょっと困ったように笑う。
艦娘によってはその適正を受けた際に、身体に不思議な現象が起こる娘もいるらしい。
古鷹はその代表例で、左目が探照灯になってしまったのだ。
「だから、その現実を受け入れたく無くて………昔から夜戦でも左目を閉じて戦ってたの。みんなが光りで顔を背けるのを見たくなかったから。」
「……………。」
「そしたらね、ある日こないだのネ級改みたいに死角に回るような頭のいい敵に出会っちゃって………。」
そこで、少しだけ間をおいて古鷹は如月を見る。
彼女は静かに頷くと古鷹は口を開く。
「その時同じ艦隊にいて、私を庇った如月ちゃんが………轟沈しちゃったんだ。」
「え………?」
長波は、その紡ぎ出された言葉に、思わず固まった。