燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第40話 如月~後悔をする前に~

「如月って………改二になれるよな?」

「あら?沈んだ後で奪還(ドロップ)した艦娘が改二になれないとは限らないわよ?」

「練度も………かなり高いし………。」

「その先入観は良く無いわね。」

「ゴメン………。」

 

古鷹を庇って如月が轟沈した………という言葉を聞いて思わず長波は如月に真意を問いただしてしまった。

というのも長波自身、一度奪還(ドロップ)をされたのに、今まで改二になれるまでに実力を高めた艦娘を見た事が無かったからだ。

先入観に縛られていたとはいえ、如月はフラッグシップ級の大量のヌ級を相手取って無傷で帰って来たのだから、驚くのもある意味仕方ないのかもしれない。

実際、如月もそれを分かってくれているらしく怒ってはいなかった。

だが………。

 

「そうね………でも、長波ちゃんの言う通り、他の子とは練度が違うのかもしれないわね。」

「というと………。」

「深海棲艦として練度を上げたもの。」

「!?」

 

あっさりと言い切った衝撃的な事実に思わず長波は思わず口を塞ごうとした。

如月は五月雨や神風と同じく深海棲艦に実際になって人類の敵になってしまった艦娘だったのだ。

彼女の言う練度を上げたというのは、つまりは人を襲い、船を襲い、艦娘を襲い、破壊活動や大量殺戮を繰り広げたという意味である。

 

「軽蔑………する?」

「しない!したら色んな奴に会わせる顔が無い!本当だ!」

「ありがとう、そこまで必死になってくれて。」

 

嘘偽りの無い長波の言葉に対し、如月はまたあっさりと信じてくれた。

笑顔で応えてくれる如月であったが、やはりその瞳には影があった。

長波は反対側を振り返るが、古鷹も辛そうな顔をしていた。

 

「古鷹さんはその………後悔してるんだよな………。」

「うん。私の慢心で………如月ちゃんに業を背負わせちゃったから………。」

「それからなのか………?左目の封印を解いたというか、左目を海戦でも使うようになったのは?」

「そうだよ。普段は目を閉じていて、目くらましにする感じでの使い方だけどね。」

「あの………。」

「私が言いたいのはね、一度業を犯すと次々と連鎖して付いて回るって事なの。実際、しばらくは同じ古鷹型の妹である加古達には目を合わせられなかった。どんな目で見られるか怖くて………。それに………。」

「それに………?」

「一番顔を合わせられないのは、睦月ちゃんなの。」

「睦月………?1番艦のか?」

 

睦月型1番艦睦月は明るく何処か癖のある口調が特徴的な艦娘だ。

如月にとって唯一の姉であり、横須賀にいた時は同部屋だったとも聞いた事がある。

そんな楽天的な彼女であっても、可愛い妹の如月が古鷹を庇って轟沈したと聞けば………。

 

「罵声とか暴力とかは貰って無いよ。………必死に堪えて我慢してくれたんだ。本当は私の事、許せなかったはずなのに。」

「強い………1番艦なんだな。」

「だから、五月雨ちゃんから奪還(ドロップ)の話を聞いた私は、思い切って睦月ちゃんに言ったの。一緒に如月ちゃんを探そうって。」

「確かにそれで見つけられれば、睦月も喜んで………。」

「違うの!………私、焦るあまり選択を間違ってたの。」

 

頭を振る古鷹に対し、長波は自分の頭の中を整理する。

古鷹は睦月を連れたって如月を探しに行った。

それで如月を………深海棲艦になった如月を見つけて………。

 

「ま、まさか………。」

「私、古鷹さんや睦月ちゃんを襲っていたの。」

 

声は如月から掛けられた。

深海棲艦として破壊本能に支配された如月は古鷹や睦月を襲った。

よりにもよって如月自身が大切な人達を沈める為に。

 

「私自身は気づかなかったけれど、如月としての面影がかなりあったんだって。それこそ一発で如月だと分かる位には。」

「古鷹さんはその時、旗艦だったんか………?」

「そうだよ。」

「如月への攻撃命令は………。」

「出来なかった。それが私の2つ目の罪。3つ目の罪は………睦月ちゃんが旗艦としての役割を引き継いでしまった事。」

「攻撃命令出したのか、アイツ!?」

 

どういう意図があったのかは分からない。

だが、あの1番艦は艦隊の仲間が如月に沈められる前に………自分達で深海棲艦如月を沈める選択肢を選んだのだ。

 

「4つ目の罪はあろう事か睦月ちゃんと如月ちゃんを戦わせて………、ボロボロになった睦月ちゃんに如月ちゃんへのトドメをやらせてしまった事。」

「奪還(ドロップ)は!?」

「したよ。でも、戻って来た如月ちゃんもボロボロだった。睦月ちゃんは何度も涙を流して謝りながらその身体を抱きしめていたんだ。」

「何だよ………それ………。」

 

思わず長波は頭を抱えてしまう。

これでは古鷹も如月も睦月も救われない。

 

「まさか如月が睦月と離れているのは………。」

「睦月ちゃんが………あれ以来、私や古鷹さんとは顔を合わせにくくなっちゃって………。怒ってはいないんだけど、申し訳ない気持ちでいっぱいになるんだって。」

「……………。」

「私と古鷹さんは横須賀の司令官に頼んで、遠い泊地に転籍させて貰ったの。睦月ちゃんの傷が癒えるまで、少しの間………ね。」

「本当は傷を癒したいのは私達なのかもしれないけれど………でも、如月ちゃんが付いてきてくれるとは思わなかったな。」

「ここまで来たら、一蓮托生ですよ。私も襲った身なのに古鷹さんが受け入れてくれてホッとしているんですから。」

 

2人の会話を聞きながら長波は頭が痛くなる。

望月といい運命の神は何でここまで残酷な事をするのか。

そして古鷹の言葉の意味を理解する。

たった一度の慢心………見せたくない左目を閉じていただけで、ここまでの悲劇に発展したのだ。

今まで長波達は運もあって救われてきた。

だが、1つ道を間違えれば本当は………。

 

「ねえ、長波ちゃん。」

「古鷹さん………。」

「強くなって………後悔をする前に。」

「強く………もっとか?」

「そう、旗艦として肉体的にも精神的にも。私が言えるのはそれだけ。残酷な選択肢しか無いのならば、強くなって希望のある選択肢を作るしか無いんだよ。」

「長波サマがもっと強く………分かっていたつもりだったけど………でも、分かって無かったのかもな。」

 

長波は艦娘としての練度はまだ完成されていない。

だからこそ、もっと強くなるしか道は無いのだ。

旗艦を担うからこそ、猶更。

 

「付いてきてくれるかな………アイツ等。」

「………だそうだけど、どうなのかしら?」

「え?」

 

笑顔で振り向いた如月の言葉に、作業用に即興で作られた休憩室の柱の影から人が雪崩のように倒れ込む。

見れば第二十五駆逐隊の望月、初霜、山風、朧、舞風の姿。

更には古鷹の艦隊の皐月、潮、秋月、瑞鳳もいるでは無いか。

 

「い、いつの間に………。」

「別にいいわ。瑞鳳さん達は元々知っているし、望月ちゃん達にも聞いて貰った方がいいと思ったもの。」

「こういう気配の察知も練度の問題かな………。」

 

そう言うと長波は立ち上がり第二十五駆逐隊の仲間を見る。

 

「聞いての通りだ。長波サマはもっと成長しないと誰かを沈めて悲劇の連鎖を招くかもしれない。一番弱い旗艦っていうのも様にならないし、実際何度も初霜辺りに譲る選択肢も考えた事がある。それでもだ………。」

 

長波は1人1人の目を見た。

彼女達は形式がバラバラで性格もバラバラであったが、しっかりと長波を見ていた。

 

「聞くまでも無いか………。支えてくれ。長波サマが………本当の意味で第二十五駆逐隊の旗艦になって、みんなを守れるようになるまで。」

 

その言葉を聞いた5人の駆逐艦娘の仲間達がニカニカと笑う。

 

「相部屋の相棒がしっかりしてないと起こしてくれないからね~。あたしは賛成。」

「お前は自分で起きれるようになってくれ。毎日引きずるのは面倒だ。」

「ん~?考えておくよ。」

 

最初に言葉を発したのは相変わらず気だるそうにしながら、頭の後ろで腕を組んだ望月。

しかし、その左の薬指には、しっかりと皆の力で取り戻した証であるパラオの提督との指輪がはめ込まれていた。

 

「パラオの提督の為にも、もっとシャキッとしようとか思わないのか?」

「あら?たまにはぐーたらするのもいいと思いますよ?私もタウイタウイの提督と寝たし。」

「どういう意味だよ………。」

「想像に任せるわ。」

 

笑顔で左手をかざしたのは初霜。

彼女も首にかけていた指輪を左の薬指にはめて、その証を受け入れていた。

優等生っぽかった彼女も、良い意味で砕けてくれたのだろうか。

 

「望月といい初霜といい、愛に狂うとどうなるか分からないものだよな。」

「田中少将の事をいつも呟いてる長波が言っても、説得力無いよ………。」

「だから、アレは憧れだって!?山風も揚げ足取りをするな!」

「じゃあ、その前にもっと隙の無い艦娘になってね。」

 

クスリと笑ったのは山風。

当初は近寄りがたい雰囲気を持っていた彼女もまた、長波達と仲間意識を持ってくれた。

旗艦をからかう程度には馴染んでくれたとも言える。

 

「了承したのはこっちとはいえ、長波サマの艦隊にマトモなのいないな!?」

「長波がマトモじゃないからねぇ。旗艦に似るって言うのは案外事実なのかも。」

「朧、お前それ陽炎とかに言えるのか?というか満足なのか、そんな艦隊で!?」

「う~ん………アタシは逆立ちしてもアタシだし、それでいいのかも。」

 

敢えて悩むふりをしているのは朧。

漣や潮、曙といった第七駆逐隊の仲間達の背中を追いかけていた彼女もまた、自分の答えを見つけられたのかもしれない。

 

「こりゃ、本当に長波サマが強くならないと纏まらないぞ?………この艦隊。」

「最初から自分で言ってるじゃん。今度は腕が吹っ飛ぶ前に守ってね、長波!」

「舞風………お前にそれを言われるとある意味トドメだから勘弁してくれ………。」

「旗艦として期待してるんだから文句言わないの!」

 

そう背中に腕を組んで長波を見上げるのは舞風。

擬似改二のトラウマを克服した彼女もまた、何だかんだ言って長波に感謝をしていた。

結局の所、みんな長波の事を信じてくれているのかもしれない。

彼女の元ならば、最期の時まで戦っていいと思う位には………。

 

(だからこそ余計に………強くならないとな。)

 

古鷹と如月と………そして睦月の話を胸に刻みながら長波は誓う。

強くなってこの駆逐隊を守ると。

悲劇の連鎖を起こさせないように………大切な者や思い出を守れるようにすると。

それが長波の誓約であった。

 

「じゃあ………長波サマに付いて来い、みんな!目指すは世界一の駆逐隊だ!!」

『おーーーっ!!』

 

それぞれの想いを胸に強くなろうと誓った勇猛果敢な駆逐艦6名の腕が、一斉に上げられた。

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