燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第41話 大潮~無理難題~

長波率いる第二十五駆逐隊が南方のパラオ泊地の復興に入った頃の話である。

沖波、岸波、朝霜を含む一時的に北方の大湊警備府に貸し出された駆逐艦娘達は、海防艦の練度強化に努めていた。

しかし………。

 

「何でこんな事になったんだっけ………?」

 

訓練海域で朝霜がその練度向上の様子を見ながら首を傾げる。

今、海防艦の皆が行っているのは基礎的な的当てである。

だが、手に持った単装砲を当てているわけでは無い。

何と爆雷を的に向けて投げつけているのだ。

 

「仕方ないでしょ、これしか有効な攻撃方法が無いんだから。」

 

隣では今日の訓練の嚮導の1人になった曙が肩をすくめながら言う。

海防艦の武装は単装砲と小さな体に大量に装備している爆雷しかない。

駆逐艦のような魚雷や速力も無く、耐久力は更に脆い為、普通に戦う事自体が難しいのだ。

彼女達の専門領域は対潜水艦。

潜って魚雷を放ってくる敵に対し、絶大な力を発揮してくれる。

但し………。

 

「潜水艦の群れなんて、ピンポイントで出てきませんよね………。」

 

そう説明するのは同じく今日の嚮導の1人である大潮。

大抵、深海棲艦の潜水艦は単体で偵察を行ったり他の艦種と一緒に行動したりする。

その為に、海防艦の練度向上は非常に難しかったのだ。

彼女達の為に、他の所から艦娘の潜水艦娘に来てやられ役をやってくれとも言えなかった為、皆が考えた訓練が今の的当てである。

 

「実際爆雷は便利だ。投射武器だから色んな用途に応用できる。」

 

これは今日の嚮導の1人である響の言葉。

艦娘になると身体能力が上がるので、下手な大人よりも筋力も増強される。

それは非力に見える海防艦もそうであるらしく、遠投は出来た。

だからこそ、その力を最大限に活かそうと踏んだのだが………。

 

「でも限界があるだろ?あたい、爆雷で駆逐艦に挑むならば、突っ込んで主砲撃ち込むぞ?」

「だから足が遅いんだってば。近づけないんならば遠くから投げつけて爆破するしかないでしょ?」

「でも実際問題、海上の敵への攻撃方法としては現実味が薄いですよね。レ級やタ級に対してはどうするべきか………。」

「この間私達が遭遇したからな。あのような敵が待ち構えている海域には迂闊には出せない。」

 

やっぱり根本的に鍛える事が難しいのでは無いのか?と思っているのが朝霜達の現状だ。

そんなこんなで今日の的当て訓練が終わり、海防艦達が集ってくる。

彼女達を代表して4人の艦娘が前に出てきた。

 

「占守型全艦訓練終えたっす!占守が代表して挨拶するっしゅ!」

 

少しクセのある薄い象牙色のボブヘアーを持った艦娘が最初にこれまたクセのある挨拶をする。

占守型1番艦の占守であり、4人いる同型艦の長女であった。

 

「択捉型も大湊に配備された6人全員が訓練を終えました!またご指導お願いします!」

 

次に挨拶をしたのは、クセのある朱色のボブカットの丁寧な言葉遣いの艦娘。

択捉型1番艦の択捉であり、こちらは今の所5人の妹が存在していた。

 

「御蔵型海防艦、御蔵と屋代も訓練を完了しました。ありがとうございます。」

 

3人目は角襟のセーラー服を着ている艦娘であり、更に丁寧な挨拶をしてきた。

御蔵型1番艦の御蔵であり、6番艦の屋代と共に同型艦が2人、大湊にいた。

 

「日振型も3人頑張りましたっ!これからも宜しくお願いしますねっ!」

 

白地に青のワンピースや帽子を付けた黒髪の艦娘が最後に元気いっぱいの挨拶をする。

日振型1番艦の日振であり、2人の妹共に大湊に在籍していた。

この他、まだ1番艦がいない丁型海防艦というのも2人いて、かなりの数が朝霜達と共に訓練を行っていた。

 

「んじゃ、艤装しまったら、食堂に行ってメシ食べよっか。沖波達が秋刀魚を料理してくれてるだろうからな。」

 

その声に目を輝かせる海防艦の娘達。

やっぱり艦娘になって成長が止まっても、年相応の部分は残っているらしく、こういう所は可愛さがあった。

一斉に装備品保管庫へと走っていく彼女達を見送りながら曙は溜息を付く。

 

「実戦に連れて行ってあげたいけど………無理よね。」

「大潮、やっぱり今の海域の状態じゃ護衛を付けてもきついかと。」

「私も同意だ。秋刀魚漁の護衛にしろと上層部は言ってるが、無茶が過ぎる。」

「これじゃあ、あたい達もどうしようもないよな………。」

 

無理難題を前にして、前途多難の状況に皆が溜息を付く事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「皆さん、秋刀魚の塩焼きが出来ましたよー!」

 

食堂で、海防艦達を笑顔で待っていてくれたのは今日の食事当番である沖波。

彼女は訓練をしてお腹を空かせた少女達の為に、夕食を作ってくれていた。

海防艦娘達は、早速彼女に感謝をしながら料理を受け取り、いただきますの挨拶と共に食べ始める。

 

「沖波って何か大潮以上にぬけてて温厚な所があるわよね~。」

「曙!?何でそこで大潮を引き合いに出すんですか!?」

「あ、どうもすみません………。嫌でしたか………?」

「怒ってるわけじゃないのよ。潮を思い出しただけ。あの子のようにブチ切れるとどうなるかしらって思ってね。」

「は、はあ………。」

 

秋刀魚を頬張りながら素直な感想を言う曙であったが、そこに今日は自分の練度向上に努めていた村雨が声を掛ける。

 

「曙さん、あんまりからかっちゃダメだよ?沖波さん、こう見えて海防艦の子達から親しまれてるんだから。」

「そりゃ、嚮導として覇気が無ければ一緒にいると安心するでしょ?でもそれだけじゃ、あの子達の為にはならないわ。」

「そうですね………すみません。」

「だから謝らなくていいって。そういう時は失礼な事を言ったアタシをぶん殴りに来てもいいのよ?」

「えぇ………潮さんはそうだったんですか?」

 

ニヤニヤとしながら掛かってこいという仕草を見せる曙に対して、思わす沖波は聞いてしまう。

それに対して曙はそうねぇ………と思い出しながら語る。

 

「演習中に泣きながらボコボコにしようとしてきた事もあったわ。………まあ、アレはアタシに非があったんだけど。」

「ちょっと信じられないです。」

「でも、妹の岸波も戦闘モードに切り替わると脳筋になりますよね。大潮、あそこまで性格が変わる艦娘は珍しいと思いビビりました。」

「大潮は私の事なんだと思ってるの………?」

 

会話に加わったのは秋刀魚の塩焼きを美味しそうに食べていた岸波。

とはいえ、数週間前の海戦ではその戦闘モードで大潮達を率いたのだから間違いではない。

実際、隣に座っている朝霜は笑いを堪えるのに必死だ。

 

「妹が妹なら、姉も姉って事も有り得るってわけかねぇ?」

「あ、涼風さんお仕事お疲れ様です。」

「お、サンキュ。」

 

沖波から夕食を受け取った涼風はニコリと笑って連れたって来た人物にも渡していく。

それは、大湊警備府の提督だった。

 

「………すまないな、私達の不手際で君達に苦労を掛けてばかりで。」

「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしています。」

「だから何で沖波はそんな礼儀正しいんだか。」

「曙が礼節に欠けているからだろう。」

「響………ケンカ売るなら買うわよ?」

 

(こんな中じゃ、沖波も気苦労が絶えないだろうなぁ………。)

 

個性的な駆逐艦や海防艦の面々がいるからこそ、真面目な性格の沖波は貴重な存在として受け入れているのかもしれない。

そう思ったのは、ずっと岸波の隣で笑いを堪えていた朝霜である。

 

「村雨は、沖波さんは沖波さんのままでいいと思うよ?駆逐艦はみんな刹那的に生きてるし。」

「大潮!曙が悪魔に見えるので、沖波は天使に見えます!」

「アンタもケンカ売ってるわね、大潮!………ま、深雪とかの元で訓練は積んでるんだからいざという時は期待してるわよ。」

「改二も使えるからな。海戦では頼りにしてる。」

「あたい、沖波のような愛される存在は大歓迎だね~!」

「は、はい………。」

 

色んな意見を前に、微妙にサイズの合っていない眼鏡を直しながら沖波は思わず考え込んでしまう。

そんな姉の姿を見ながら朝霜は岸波にこっそり一言。

 

「沖波もここにいるみんなに弄られたらブチ切れるのかな?」

「それは分からないけど………沖姉も少しはぼの先輩に寄ってみてもいいかもしれないわね。」

「いや、それはダメだと思う………。」

「あ~さ~し~も~!?」

「うひゃぁ!?」

 

地獄耳を発揮した曙に追い回される事になった朝霜の姿を見て、皆で笑いながら愉快なひと時を過ごす事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

大湊には一時的にいるという事になっている為、就寝時の部屋割りは結構適当に決められていた。

敢えて言えば、ジャズバンド関係で岸波と朝霜が同部屋にして貰ったくらいであろうか。

一方で夕雲型の仲間である沖波は、あまり刺激しそうにないからという理由で曙と同部屋になっていた。

 

「……………。」

「………眠れないの、アンタ。」

 

愛用の眼鏡を取って布団に潜っていた沖波は、曙に話しかけられる。

夕食時の会話が気になっていたのかと思い、曙なりに気を使ってくれたのだろう。

 

「すみませ………いえ、その………すみません………。」

「本当に謝ってばかりね、アンタ。実力はあるんだから、もう少し堂々としていてもいいのよ?」

「そうですね、私もそう思う事はあります。嫌な性格だなって………。」

 

おどおどしていて他人の顔色をうかがってしまっている自分。

すぐに謝ってしまったり自信が持てなかったりする自分。

そんな自分を変えたいと何度も思った事である。

だが………。

 

「変えられないんですよね、何故か………。私、本当………。」

「ま、だったら受け入れなさい。アタシだって自分の本質を受け入れるのに時間掛かったんだし。」

「陽炎さんのお陰ですか?」

「………否定はしないわ。」

 

曙が荒れに荒れていたという事は沖波も知っていた。

それが第十四駆逐隊という仲間の中で、彼女を成長させたのだ。

その事実が沖波にとって、とても羨ましく思えたものだ。

 

「私も………曙さんみたいになれたらなぁ………。」

「村雨と大潮と響と朝霜に思いっきりツッコまれるわよ?」

「岸ちゃんは肯定しそうですけれどね。でも、サバサバした性格に憧れてるのは本当です。」

「それは隣の芝生は青く見えるってやつよ。」

「そうかもしれません。でも、私はやっぱり………。」

 

変わりたい。

そう思った時であった。

遠くで爆発音が響く。

だが、沖波も曙も驚きはしない。

何故ならそれは深海棲艦の襲撃では無く………。

 

「今日もやってるのね。身体が身体だから、毎日の疲れはしっかり取れって言ってるのに………。」

「何か理由があるのかもしれませんね、毎日昼間も人一倍訓練をしていますし。………ちょっと私、見て来ます。」

「仕方ないわねぇ………アタシも付き合うわ。」

 

制服に着替え当直のいない廊下を抜け、訓練海域へと向かう2人の駆逐艦娘。

そして昼間利用していた的当てに対し、真剣な表情で爆雷を投げつける2人の海防艦娘を見つけた。

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