燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第42話 沖波~大湊の守護者~

「たぁっ!!」

「えいっ!」

 

威勢よく爆雷を何度も的に投げているのは、少し青緑がかった青髪のショートヘアの艦娘。

かなりの低身長であるその娘は択捉型10番艦の福江である。

そして、その横で比較的落ち着いた声で爆雷を投げているのは赤みがかった瞳に白っぽい髪の艦娘。

沖波と同じく近眼用の眼鏡をかけているその娘は択捉型9番艦の平戸である。

2人は沖波と曙に気づくと、それぞれ敬礼とお辞儀をして応える。

 

「沖波さん、曙さん、夜間の見回り御苦労様です!」

「夜間訓練をしていたのですが………起こしてしまったでしょうか?」

「ああ、別に眠って無かったからいいわよ………でも、よくこんな訓練を地道にこなせるわねぇ………。」

 

その堂々とした姿を見て、曙は嘆息する。

駆逐艦として様々な訓練を受けて来た彼女にしてみれば、海戦に役に立つのかもわからない訓練を、就寝時間を削ってまで続けられる2人が信じられなかったのかもしれない。

まあ、苦肉の策とはいえこの訓練を提案したのは曙自身なのだが………。

 

「勿論、この反復行動を繰り返せば強くなれるからです!福江はもっともっと強く………!」

「でも、それで身体を壊したらいけないよ?たまには休んでもいいんじゃないかな?」

「し、しかし………。」

 

優しく声を掛けてきた沖波の言葉に、福江はたじろぐ。

そこに焦りが見えた事で、春の夕雲のような危惧を感じた沖波は、少しにこやかに微笑むと防波堤に座り福江と平戸を誘う。

 

「ちょっと今日はお話しようよ。何で2人がそこまで訓練をしたがるのか気になるし。」

「で、ですが………。」

「福江。嚮導の言葉には従う物よ。後、まどろっこしいから素の喋り方でいいわ。」

「わ、分かった………じゃあ、あたしはお言葉に甘えて………平戸姉さんは?」

「私は元々こういう喋り方なのでお気になさらないで下さい。でも、お気遣い感謝しますね。甘えさせて貰います。」

 

そう言うと、2人は沖波の隣に座る。

反対側に曙が座り、4人は夜の海と空を見つめる事になる。

寒かったが、海は静かで空は横須賀では見られないような星が瞬いていた。

 

「福江ちゃんは、武人っぽいっていうか………勇ましいよね。」

「そうか?あたしは只、潜水艦とか深海棲艦とかに負けたく無いだけだ。」

「負けたく無い………?だから焦ってるの?」

「あ、焦ってるように見えるのか、沖波さん!?あたしは別に………!?」

「私のお姉さんがね、春にちょっとその焦りから慢心しちゃったんだ。私はまだ練度不足でその現場にはいなかったんだけど、相当らしくない失敗をしちゃったみたい。」

 

夕雲が慢心した事で敷波や電、更には岸波がかなり危うい目にあった。

その詳しい事情を話さなかったのは、実は平戸が敷波と仲が良いという事を知っていたからだ。

それは救援に駆け付けてくれた曙も周知しているらしく、静かに黙ってくれている。

 

「………だからか?あたしに話を聞きたいって言ったのは。」

「気に障ったのならば謝るね。でも、私から見たら福江ちゃんは焦っている気がしたの。何か使命感に取り付かれているような………そんな感じ。」

 

沖波の正直な言葉を聞いて、福江は少し黙る。

やがて彼女は空を見上げると静かに呟く。

 

「あたしの艦としての記憶は苦い物でな………周りの船が沈み、町が燃えて、人が泣き叫ぶような物なんだ。それも………ほとんどの記憶がこの大湊で起こった事なんだ。」

「大湊で………!?」

「ああ。あたしは人間としての記憶が無いから、艦としての記憶というのが何の記憶なのかはよく分からない。だが………その苦い記憶をよく夢に見る。」

 

艦娘達は自分達に埋め込まれる艦としての記憶が、何の戦いの記憶なのか把握していない。

それこそ軍の最重要機密である為、知る由が無いのだ。

しかし、記憶に縛られた艦娘はその悪夢を見る事もある。

場合によってはトラウマになる事も………。

 

(長波姉さんの艦隊にもそれに悩まされた人がいたって手紙で聞いたな………。)

 

今は南方で泊地復興に努めている勇ましい四女の姿を思い出しながら、沖波は考える。

隣の曙を見ると、彼女も何かしら共感できる所があるのか、少し苦い顔をしていた。

 

「福江ちゃんは………その悪夢を誤魔化す為に訓練をしていたの?」

「それもある。だが、本音を言えばあたしは大湊を護れるような艦娘になりたいんだ。」

「大湊を護る………。」

「今度こそ船を、町を、人を………あたし達の手で護れるようになりたい!だから………出来る事は何でもやっておきたいんだ。」

「……………。」

 

この小さな艦娘は大湊の守護者になりたいのだろうと沖波は感じた。

負けたく無いという強い感情は、どんな敵が出てきても通さないという意志の表れなのだ。

 

「やっぱりその………おかしいか?海防艦風情が何を言ってるのかって………。」

「ううん………。私は尊敬するよ。福江ちゃんの事。」

「本当………か?」

「本当。私は………ほら、そんな強い意志とか持ってなくておどおどしてばかりだから………。」

 

沖波は寂しそうな笑顔で福江を見る。

深雪等との訓練のお陰で幸運にも正規の改二にはなれたが、今の自分の実力では4分半ちょっとしか、その姿を保つ事が出来ない。

朝霜が5分ちょっと、岸波も擬似改二が同じく5分ちょっとなので、30秒位差が出来てしまっている。

ここら辺、自分はまだ妹2人に比べて意志が弱いから差が出ているのでは無いかと感じてしまっていた。

 

「私も福江ちゃんみたいに何かを護りたいって感情を抱ければなぁ………。」

「お、沖波さん………?」

「沖波。カウンセリングで自嘲気味になるのは止めなさい。」

「あ、すみません………。」

 

隣に座っていた曙からツッコみが入った事で思わず謝る沖波。

曙は軽くため息を付くと、福江に言う。

 

「福江、アンタの意志の強さは分かったわ。アタシも見事な物だと思う。でも、だからって、同部屋の平戸を巻き込むのは感心しないわね。」

「うふふ………大丈夫ですよ、曙さん。強くなりたいと願っているのは、私も同じですから。」

「平戸ちゃんも大湊の守護者になりたいの?」

「そんな具体的な目標は持っていないですよ。でも、大切な人達を守りたいって想いは福江さんに負けないつもりです。」

「というと………?」

「私は………私の艦の記憶にあるのは敵の砲撃を受けて司令を失う所なんです。よりによって自分が最優先で守るべき人を真っ先に失ってしまったという記憶が、私が強くなりたいという理由に繋がっています。」

 

落ち着いた表情であっさりと自分を縛る艦の記憶を言ってのけた平戸の言葉に、沖波達は驚く。

艦としての記憶を持っている以上、乗船している提督は切り離せない存在だ。

だが、その提督を彼女は真っ先に失うという夢を見てしまっているのだ。

 

「平戸ちゃんは………守りたいの?この大湊の提督を?」

「司令だけではないですよ?この海、この船団、みんなを守りたいんです。」

「……………。」

 

ある意味スケールの大きい平戸の言葉に沖波は閉口してしまう。

小さい肉体なのに、思い描いている事は自分よりもずっと凄いと素直に思った。

 

「平戸ちゃんも………本当に強い意志を持っているね。私もみんなを守りたいって思うけど、その前に優柔不断さが出ちゃうから………。」

「実力ならば、沖波さんの方が遥かに上ですよ。その優しさは、きっと力になると思うんです。」

「ありがとう。………って私が諭されちゃいけないよね。」

「それに………。」

 

平戸は沖波と曙に対し、もっと近づくように呼びかけるとこっそりと話す。

 

「ここの司令と涼風さん………強い絆で結ばれているみたいなんです。」

『え!?』

 

衝撃的な言葉に思わず驚き慌てて口を押さえる沖波と曙。

沖波は思わず涼風と親交の深い曙を見るが、彼女も知らなかったと首を振る。

 

「あ、でも………そう言えばあの子、前居た所から提督が移った際に一緒に付いて来たって言ってたっけ………。」

「じゃあ、少なくとも涼風さんは………。」

「うふふ………秘書艦に据えている事を考えると司令の方も信頼していますよね。だからこそ………そんな人達の幸せを守りたいんです。」

 

沖波は考える。

きっと涼風は夜遅くまで書類の整理に明け暮れているだろう。

提督はそれを支えているか、或いは寒中水泳でまた風邪を引いて眠っているか………。

どちらにしろ、そんな人達の生活を自分の手で守りたいと思える艦娘達は強いと思えた。

 

「護りたいと守りたい………ね。」

「意味は少し違うけど…………どちらも強い意志だなぁ………。」

「そう言ってくれるか!?」

「ありがとうございます。」

 

思わず喜ぶ2人の意志の強い海防艦。

しかし、沖波はもう一度言う。

 

「でも、強くなるのに焦っちゃダメだよ?命は1つしか無いんだから。」

「そ、そうだな………あたしは焦り過ぎているのか………?」

「少し考えた方がいいかもしれませんね………。ところで沖波さん、1つ宜しいでしょうか?」

「何?」

 

平戸からお願いをされた事で、沖波は首を傾げる。

 

「爆雷の投射のコツを知りたいのですが………手本を見せてくれませんか?」

「手本?ちょっと待ってね………。」

 

艤装を装着していなかったので、沖波は爆雷を1個借りると的から一番近い防波堤の端に立つ。

そして、息を吸うとその爆雷を思いっきり放り投げた。

爆雷は少しだけ弧を描くと寸分たがわず的に命中して爆発をする。

 

「す、すごい………完璧だ!」

「どこで練習をしたんですか!?」

「えっと………私達の嚮導を担当してくれている深雪さんが、爆雷の色々な使い方を学んだ方がいいって言ったから訓練したんだ。」

 

福江と平戸から尊敬の眼差しを受けて思わず赤面してしまう沖波。

その後、彼女はしばらくの間、2人の海防艦娘にコツを教えていた。

 

「………ちゃんと、出来るじゃない。」

 

そんな様子を曙が少し遠くで温かい眼差しで見つめていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数日後、やっぱり実戦を経験するのが一番では無いか?という意見が出た。

そこで曙は秋刀魚漁に出る船に乗せて貰って、潜水艦が出たら実戦にしようと考えた。

仮に他の艦種が出たとしても、船の艦橋から海戦の様子を見るだけでもためになるだろうという思惑もあった。

 

「曙にしてはいい意見だ。」

「響………アンタ、本当にケンカ売ってる?」

 

そんなこんなで秋刀魚漁に船が出港する事になり、波止場に艤装を装着した大量の海防艦娘達が並ぶ事になる。

沖波を始めとした艦娘達も艤装を装着していつでも出港出来る状態になった。

しかし………そこに警報が鳴り響く。

 

「こんな時に深海棲艦警報ですよ!?」

「岸波さん、今回のお客さんはどんな人達?」

「ちょっと待って………。」

 

村雨の言葉に岸波は電探で確認をしてみて………言葉を失う。

 

「お、おいどうした岸波!?」

「何処のどいつだい?あたい達の憩いの場に土足で踏み入る深海棲艦は?」

 

朝霜や涼風の言葉に岸波はもう1度確認をして、言い放つ。

 

「エリート級レ級………5隻。」

「は………?」

「エリート級レ級5隻強襲です!!」

「嘘でしょ!?」

 

大湊近海に現れたとんでもない敵の群れの出現に、曙を含め皆が戦慄する事になった。

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