燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第43話 朝霜~レ級五重奏~

秋刀魚漁に行くというだけあって、専用のライフジャケットを持っている曙、村雨、大潮、響、岸波はそれを着たままだ。

制服と同じ素材で作られている為に出撃には支障は無かったが、前回戦った時といいレ級とは縁があると思ってしまう。

だが、その時と状況が違う。

凶悪なエリート級レ級が5隻に増えており、しかも艦娘達の背後には大湊の町があった。

そして、海防艦育成の場になってしまった故に、現在まともに戦えるのが8人の駆逐艦娘しかいないのだ。

町の被害を抑えるには、多少強引でもこちらから積極的に出向かなければならない。

 

「ぼの先輩、今回は旗艦頼みます!」

「分かったわ!大変だけど、ガチF作業組5人でレ級1隻ずつを相手取る!」

「5人!?ちょっと待てよ、曙!?あたいや沖波、涼風は!?」

「留守番よ!」

「足手纏いかよ!?」

「違うわよ!よく聞きなさい!」

 

抗議する朝霜に、曙は魚雷等を装着しながら手短に説明する。

レ級は町に一番被害を与える可能性がある攻撃機を飛ばせる為、迎撃要員はギリギリの所に置いておきたかった。

その為、対空砲火に優れる朝霜は後方に控えさせておきたかったのだ。

また、黙ってはいたがこないだの平戸との会話があったので、大湊の提督と涼風はもしもの為に警備府近辺に置いておきたかったし、海防艦娘に一番慕われている沖波も同様の理由で安心させる為に傍に置いてあげたかった。

 

「その代わりアンタ達3人に課された使命は重いわよ!朝霜は対空装備ガン積みになるからレ級なんかに近づかれたら対処しようがない!それでもやって貰わないといけない!やれるわね!」

「分かった………。よっしゃ任せろ!幾らでもやってやんよ!」

「涼風は提督や海防艦娘達を守って貰うわよ!」

「お安い御用さ!あの風邪引きにはあたいがいてやらないとねぇ。」

「そして沖波!」

 

そう言うと準備を終えた曙は沖波を引き寄せて額をぶつけて言う。

 

「ハッキリ言うけどアンタが最後の砦。」

「え!?」

「多少限界時間は短いとはいえ改二が使えるアンタは、もしもの時にアタシ達に代わって大湊の町を守って欲しいの。」

「わ、私なんかが………。」

「アンタは自信さえ持てれば朝霜や岸波にも負けない力を発揮できるわ。アタシが保証する。小さなものでも何でもいい………アンタが心の底から守りたいと思う物があったら、絶対にその気持ちを貫き通すの。」

「曙さん………。」

「頼んだわよ!」

 

曙は沖波の返事を待たずに、先に沖合に出た4人の仲間と共に抜錨する。

レ級は航空戦艦ではあるが、速力が速い。

こちらも全速力で接敵しなければならなかった。

 

「これより本隊は大湊防衛隊と命名!各艦、抜錨!」

 

身体をスパークさせ、各自改二や擬似改二の力を発揮させた5人の艦娘は一斉にレ級へと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

艤装を装着した沖波は、曙の言葉を反復しながら桟橋に立っている各海防艦娘達を見た。

皆、敵の進撃に備えているが足が震えてしまっている。

艦娘の中には未知なる脅威を前に、沖波の手を取っている娘もいた。

 

(大変な事になったな………。)

 

大湊の提督は風邪を引いていたが、それ所では無かった為、すみやかに艤装を装着した涼風と一緒に波止場の人達や町の人達に避難指示を出していた。

朝霜は既に対空装備をふんだんに積んで抜錨しており、攻撃機が飛んできた時に備えていつでも改二になれるようになっている。

 

「沖波………敵が来たら本当に頼むな。」

「うん、朝ちゃんも迎撃頑張ってね。いざとなったら私も手伝うから。」

「頼りにしてるぜ!」

 

本当は沖波も朝霜も不安でいっぱいだ。

自分達の背に大湊の平和が掛かっているのだから。

それでもこの海防艦娘達の前でそれを見せてはいけなかった。

 

「お、沖波さん!朝霜さん!あたし達も抜錨させてくれ!」

「福江ちゃん………?」

 

そんな中で福江が平戸を連れ立ってやってくる。

艤装を装着した彼女達は、自分達も戦力に加えて欲しいと言っているのだ。

 

「ダメだよ、エリート級のレ級は海防艦とは相性が良く無いんだから。」

「でも、みんなで挑めば………!」

「怖がっている娘達もいるから無理を強いちゃダメ。岸ちゃんや曙さん達に任せて………ね?」

 

本当は海防艦娘達の練度が圧倒的に足りてないからなのだが、敢えて相性という言葉で沖波は誤魔化す。

しかし、そこで平戸が問いて来る。

 

「普段の訓練の成果を見せる事はできないのでしょうか?遠距離から爆雷を投げつければ………。」

「レ級は魚雷とかじゃないと難しいかな………。後、凄く足が速いから爆雷は避けられちゃうよ。」

「ですが………。」

「仲間を信じる事も必要な事だよ?だから、ね?」

「わ、分かった………。」

 

多分、沖波が言わなくても心の何処かでは練度不足なのだと自覚はしているのだろう。

福江は悔しそうに、平戸は残念そうにその場を去って行く。

その姿を見ながら、沖波と朝霜は鼓舞し合う。

 

「朝ちゃん………頑張ろうね。」

「ああ。あたい、守ってみせるよ!」

 

沖波と朝霜は決意を固めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

改二状態で前線へと急行している曙達は自分達の装備を念入りに確認していた。

岸波は前回レ級と対峙した時に気に入ったのか、引き続き以前ヴェールヌイから借りた装甲版を左腕に付けてアイスドリルを背中に背負っていた。

今回はヴェールヌイも両肩に装甲版を付けており、スペアのアイスドリルを背負っている。

そんな彼女達の前を、15機もの攻撃機が通過しようとする。

 

「輪形陣!朝霜の負担を減らしとくわよ!」

 

曙を中心に陣形を作り、迎撃をしていく。

1人2、3機を落とした事で3機まで減らした。

朝霜の実力を考えれば、これ位の数は分散しようとしてもどうにかしてくれるだろう。

曙達は仲間を信じてそのまま真っ直ぐ突き進む。

すると、赤いオーラに包まれた艦影が見えてきた。

 

「こう見ると、結構迫力あるわよねぇ………。」

 

不気味な笑みを浮かべながら迫ってくる、レインコートを着た少女を思わせるその姿に曙はまだ慣れる事ができない。

とはいえ、1人1隻を相手取って沈めなければ大湊が燃える。

勇ましい駆逐艦娘達は覚悟を決めた。

 

「行くわよ!」

 

陣形を解除して自由行動にした曙は、真ん中のレ級に向けて爆雷投射機で2個の爆雷を放り投げる。

勿論、レ級程の速力の持ち主には当たらないが、その回避で隙ができた所に時間差で魚雷を1本撃ち込み主砲で起爆。

思わず防御に使った巨大な尻尾の主砲や魚雷発射管を、魚雷の破片でボロボロにする。

 

「レギャ!?」

「再生はしないわね!全艦、あの禍々しい尻尾をどうにかするのがいいわ!」

 

焦ったレ級の眼前に突っ込んだ曙はやけくそで振り被られた右フックをしゃがんで躱し、顎に主砲を突き付け連射して撃沈させる。

これでまず1隻。

 

「流れるような攻撃だ。素晴らしい。」

 

そんな曙の戦いぶりを褒めたヴェールヌイはレ級の主砲の攻撃を両肩の装甲版の角度を調整して弾き、接近する。

レ級は小柄なヴェールヌイを叩き潰そうとインファイトを仕掛けてくるが、そこで隠し持っていたウイスキーとマッチを取り出し即興の火炎放射を作り出し怯ませる。

 

「ギャエ!?」

「悪く思わないでくれ。」

 

そして、そのままポケットにしまうと素早く背中のアイスドリルを取り出し、心臓に突き立てる。

後はそのまま回転させてあばら骨を貫通させ心臓を抉るだけである。

これで2隻。

 

「ふむ、岸波。これはいい道具だ。私も今後常備するとしよう。」

「褒めて貰って嬉しい……わ!?」

 

岸波と対峙しているレ級はハンマーのような尻尾を振り回して、盾として使った岸波の装甲版を吹っ飛ばす。

防御する手段を失った岸波に対し、急接近し左ストレートを喰らわせて怯ませようとするレ級。

 

「ギャハハハハハ!!」

「だったら………!喰らえ!!」

 

主砲を捨てて、その顔面に向けて繰り出された拳を両手で咄嗟に掴んだ岸波は、その勢いを利用して、何と思いっきり背負い投げを仕掛けてレ級を仰向けに倒す。

 

「レギャァァア!?」

「ハアァァァアアア!!」

 

そのまま背中のアイスドリルを心臓に突き立てて、一気にトドメを刺す。

これで3隻目。

 

「岸波だけじゃなく、ヴェールヌイまで脳筋になっちゃいましたよ………。」

 

大潮はどんどん仲間が強引な戦い方を身に着けてクセになっていく姿に嘆息しながら、レ級に主砲を撃ち込み牽制していた。

レ級は魚雷を放つが大潮は回避。

その隙に敵は大きな口で噛みつこうと繰り出してくるが、大潮は飛び退くとその中に大発動艇を滑り込ませる。

 

「レ?」

「もう大潮もヤケです!爆破!!」

「ギャ!?」

 

指をパチンと鳴らし大発を自爆させた事で、尻尾が吹き飛びレ級が怯む。

その隙に大潮はふとももの魚雷を発射してレ級を沈めていく。

これで4隻。

 

「あれ?何か村雨が最後みたいだね。さっさとケリ付けよっか?」

「レギャアアアア!!」

 

次々と仲間が沈められた事に対する怒りからか、尻尾の主砲を一気に喰らわせようとするレ級に対し、村雨は左腕の鎖付きの錨でその尻尾を横に薙ぎ払い照準を狂わせる。

そのまま器用に振り回し、上から脳天に叩きつけて怯ませる。

 

「レ………レレ?」

「これでラスト!」

 

そのまま至近距離で顔面に主砲を放ち、去り際に魚雷も食らわせた事で5隻目のレ級も沈む。

 

「再生能力が無いからか、意外と呆気無かったわね………。町は………。」

 

曙が振り返ると、丁度桟橋付近で空に3つの爆発が見えた。

朝霜が対空砲火で残りの攻撃機を撃ち落としてくれたのだ。

 

「良かったです。これで町は………。」

「待って!右方に回り込む敵影!」

『!?』

 

電探で周囲を探っていた岸波の言葉に全員の背中が戦慄する。

まだ敵は残存していたのだ。

 

「艦種!」

「フラッグシップ級戦艦タ級5隻!エリート級レ級1隻!」

「レ級さん、まだいたの!?」

「し、しかもタ級5隻はこちらに接近中!レ級1隻だけ町に一直線に向かっているわ!」

「やられた。このレ級5隻は私達を誘い出す為の囮か………!しかも、タ級5隻まで足止めに使うとは………!」

 

ヴェールヌイが即座にアイスドリルを仕舞い戦闘態勢に移行する。

残りの4人も持てる限りの武装を持ち海戦準備に入る。

そんな彼女達の前に勝ち誇ったような笑みを浮かべるタ級達が現れた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「待って下さい、涼風さん!先に出るならば私が………!」

「いや~、沖波は海防艦娘達を見てやってくれよ。ここはあたいの番だろうし。」

 

大湊の桟橋では、沖波の制止を振り切り涼風が抜錨しようとしていた。

曙達が深海棲艦の罠で寸断された以上、戦えるのは涼風と朝霜と沖波しかいない。

その中でも涼風は改二にはなれないが、練度は夕雲型よりも数段高かった。

桟橋には未だに足を振るわせる海防艦娘達と、港やその周辺の人々の避難を終えた大湊の提督の姿があった。

 

「すまないな………私の不手際でいつも迷惑を掛けて。」

「いいのいいの、慣れてるから。でもま、帰って来たら何か褒美とか欲しいねぇ?」

「そうか………指輪とかどうだ?」

「お、そう言われると涼風も本気で行かないとねぇ!」

 

何気ない調子でとんでもない事を言ってのけた大湊の提督に対し、いつものような笑顔で応える涼風。

この2人は前に平戸が言っていた通り、強い信頼関係で結ばれているのだと沖波は改めて実感する。

 

「あの、やっぱり………。」

「頼むよ、沖波。最後の砦なんだろ?どうしようもない風邪引き提督と可愛い海防艦娘達を見てやってくれ。」

「分かり………ました。」

「じゃあ、朝霜行こっか。レ級5隻を囮に使う奴なんだから気を付けないとねぇ!」

「ああ………。沖波………らしくない事言うけど、あたい達の無事を祈っててくれ。」

「うん、朝ちゃんも気を付けて。」

 

そうして桟橋から抜錨していく涼風と朝霜の姿を見送りながら、沖波は自分の手を引っ張る小さな海防艦娘達に視線を移す。

この子達と大湊の町は何があっても守らないといけないと肝に銘じて。

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