燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第44話 涼風~例え無謀でも~

全速力で6隻目のレ級の元へ急行した涼風と朝霜は、こちらに武装を………大湊の町に魚雷を発射し、攻撃機を移出した敵の姿を目撃する。

 

「おっと、あたい達を倒してからにしな!」

 

涼風はそう言うと両手に2丁持った連装砲で魚雷を起爆させる。

攻撃機は高角砲や対空気銃といった対空装備をふんだんに積んでいる朝霜が迎撃を行っていく。

そのまま涼風はくるりと1回転すると背中の魚雷を1本器用に発射して、尻尾に命中させる。

だが………。

 

「ギャハハハハハハ!!」

 

レ級が滑稽そうな笑みを浮かべると破壊された尻尾が再生していく。

目の前の深海棲艦は、再生能力を持った姫クラスや鬼クラス並のエリート級レ級であったのだ。

 

「分かっちゃいたけど、簡単にはいかないねぇ………。朝霜、魚雷は撃てるかい?」

「高角砲両手に持って塞がってるから、左太もものはともかく背中にマウントしてるのはきついぞ!」

「じゃあ、あたいに貸してくれ!」

 

涼風が素早く右手の連装砲のグリップを口で銜え、朝霜の背後に回り背中の魚雷発射管をその手で外すと、再び自分の魚雷を1本発射。

今度はレ級が砲撃で涼風の魚雷を撃ち落とすが、その隙に朝霜から借りた魚雷を発射管ごと全力で投げつける。

 

「もがもがもがもが!!(もってけドロボー!!)」

 

その4本の酸素魚雷がレ級の尻尾にぶつかる直前で、左手の連装砲で起爆させて今度は更に尻尾を大きく抉り取るように破壊する。

連装砲を再び両手で持った涼風は多少の時間稼ぎは出来るか?と思ったが………。

 

「レガアアアアアアッ!!」

「な!?」

「おわ!?」

 

何とレ級が咆哮すると、先程とは比べ物にならないほどの凄まじい勢いで尻尾が再生していく。

 

「どういう肉体してんだ!?」

「高速修復材(バケツ)でも持ってるんじゃないんかねぇ?」

 

驚く朝霜に対し、あくまではぐらかすように言う涼風であったが正直内心焦っていた。

再生能力を持つレ級に対し、決定的な有効打を与える手段が見つからない。

こうなった以上は………。

 

「朝霜!対空砲火任せるよ!」

「おい、涼風!?」

「多少の冒険は、今は必要だからね!」

 

涼風はそう言うと残り2つ背中にマウントしてある魚雷を連続で射出。

魚雷は砲撃で破壊されて、撒き散らされた破片が尻尾を襲い武装を傷つけるが、これも再生されていく。

だが、その隙に涼風は肉薄する。

 

「直撃なら………一撃だろ!!」

 

そう言ってレ級の空いた口に右の連装砲を突き付ける。

しかし………。

 

「レガアッ!!」

「いいっ!?」

 

何とその連装砲を生身の口で噛みつくと食いちぎる。

とんでもない顎の力を見せつけられた涼風は、尚も左の連装砲を顔面に撃ち込むが、レ級は後ろに倒れてギリギリの所で躱す。

そして、隙だらけになった涼風の腹を思いっきりその倒れ込む勢いで蹴り飛ばす。

 

「うが………っ!?」

 

一瞬意識が飛びそうになるほどの重い一撃を受けて涼風は怯む。

そこでレ級は笑うと、何と尻尾から超低空で3機の攻撃機を飛ばす。

狙いは朝霜。

 

「まずっ!?」

 

対空装備故に低空の攻撃機の迎撃が上手く出来ない朝霜を助ける為、涼風は咄嗟に連装砲を連射し、攻撃機を爆発させる。

 

「大丈夫か、朝霜!?」

「涼風、前!!」

「!?」

 

朝霜が警告した時には既に遅く、涼風は顎に強力な一撃を受けて脳震盪を起こす。

そのまま立てなくなり倒れ込んでしまう。

 

「や………ば………!?」

「涼風!?………って、うわ!?」

 

涼風を助けに駆け付けたい朝霜だったが、そこにまた攻撃機が3機今度は空を目指して飛び立つ。

大湊の町を爆撃させるわけにはいかなかった為、慌てて迎撃行動に入る。

 

「くそ!いい加減に………!」

「レギャハハハハハハ!!」

「っ!?」

 

だが、その対空砲火の動きは隙だらけであり、レ級はハンマーのように硬い尻尾を振り回し朝霜の側頭部をぶっ飛ばす。

衝撃と共に海面を何度も弾みながら転がった朝霜は気絶し改二の効果も消えてしまう。

2人の艦娘は完全に動けなくなってしまった。

 

「レレレ~?」

 

その様子を滑稽そうに見ていたレ級は大湊にゆっくりと尻尾を向けて砲撃を始めようとする。

しかし………。

 

ガシッ!

 

「レ?」

「何………勝手に………燃やそうとしてんだい………?」

 

その尻尾に、脳震盪を起こしてフラフラになっている涼風が残りの連装砲も捨て、全身でしがみつき妨害する。

レ級は尻尾を振り回して払いのけようとするが、何処からその力が出ているのか涼風は離れない。

 

「レレレ!!」

「悪いねぇ………あそこには面倒な風邪引きと指輪が待ってるんでねぇ!!」

 

涼風は凄みのある笑みを浮かべて必死にしがみついた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

沖波は無線から朝霜と涼風の会話が突如無くなった事を危惧していた。

考えたくはないが、最悪轟沈している可能性すらあるのだ。

 

(やっぱり私も出ないと………!)

 

そう思うが、震える海防艦娘が手を握っているので中々動くことが出来ない。

自分が動く事で、その海防艦娘達が危機感を抱き連鎖的に動く事だって有り得るのだ。

彼女達をレ級が暴れる戦場に連れ出す事だけは避けなければならなかった。

 

「大丈夫、大丈夫だから………!」

 

自分に言い聞かせるように周りの子達の頭を撫でる沖波。

しかし、相変わらず無線からは2人の声が聞こえない。

この状況ならば、大湊の提督に海防艦娘達も避難させて貰い、自分も出るべきなのでは?とも考え始める。

そこに………。

 

「お、沖波さん!大変です!」

「択捉………ちゃん?」

 

択捉が顔を真っ青にしてやって来るのを見て、まさかと思い沖波も周囲を確認する。

様々な海防艦娘がいる中で、あの2人が………福江と平戸が欠けていた。

 

「福江さんと平戸さんがいなくなって………って、沖波さん!?」

 

択捉の言葉に応える前に、沖波は身体をスパークさせて改二になって飛び出していた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ガ………ハ………!?」

 

しつこく尻尾にしがみついていた涼風は、海面に何度も叩きつけられて吹き飛ばされる。

それでも何とかまた胸の爆雷を掴んで挑もうとしたが、脳震盪故に手が震えて上手く掴めない。

レ級はそんな涼風を嘲笑うかのように再び砲門を大湊に向ける。

 

「参った………ね………。せめ………て………、逃げて………くれ………提督………。」

 

そう涼風が祈った時であった。

 

「止めろ!!」

『!?』

 

戦場に飛んできた声に涼風もレ級も一瞬固まる。

そして、涼風は最悪のパターンになったと痛感する。

レ級の前に2人の海防艦娘が………福江と平戸が立ちふさがっていたのだ。

 

「レレレ?」

「大湊の町には行かせない!」

「守って………みせます!」

 

レ級が小さな艦娘を見て小馬鹿にしたような笑みを浮かべる中、福江と平戸は爆雷を取り出すと、思いっきりレ級に時間差で放り投げる。

それは、防御に使った尻尾に次々と当たり吹き飛ばす。

 

「やった!その気になればあたし達でも………!」

「まだです!もっと投げて………え!?」

 

確かに普通のレ級ならば、彼女達にもまだ分があったかもしれない。

だが、再生能力まで頭に入れて無かった為に、復活した禍々しい尻尾に思わず2人は固まってしまう。

 

「レギャハハハハハハ!!」

「逃………げろ!」

 

邪笑と共に、巨大な牙が生えた顎で2人を喰らおうとするレ級。

涼風は歯ぎしりをする。

巨大な牙で無残に喰らわれる海防艦娘達の姿を想像して………。

 

「ダメーーーっ!!」

 

しかし、そこに全速力で沖波が突っ込んできた。

彼女は強引に体当たりを喰らわせて2人を突き飛ばす。

その為………。

 

ボギッ!!

 

「カ………ハ………ッ!?」

 

巨大な口は庇った沖波の胴体に抉り込むように噛みついた。

咄嗟に背中の魚雷を放棄した為爆発は起きなかったが、内臓を締め付けられ息ができない。

あばらの骨がベキベキと折れる音がするのが分かった。

口と腰から血が噴き出し、力が無くなっていく。

 

(あ、私………。)

 

沖波は悟った。

自分はこのまま死ぬのだと。

無線で誰かが何かを言っているが分からない。

レ級はこんな無様な自分を見て嘲笑っているのだろうか?

 

(何が………したかったっけ?)

 

徐々に沖波の意識が遠のいていく。

そして、そんな彼女の脳裏に………ある出来事が思い起こされた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「すっごーい!おきおき改二になれるなんてー!」

「え?え?………これが、改二!?」

 

夏から秋に入る頃だっただろうか?

訓練中にふと偶発的に改二に目覚めた沖波は、秋霜に褒められていた。

何でおどおどしていていたり、他人の顔色をうかがってしまっていたり、すぐに謝ってしまったり、自信が持てなかったりする自分が改二に目覚めたのか、彼女自身は分からなかった。

 

「な、何かすみません………私なんかが改二に目覚めて。」

「自虐的になるのは良くないわ………私が言うのもなんだけれど。」

 

早霜も、同じ夕雲型として誇らしいと思いながら沖波を諭す。

でも、沖波にしてみれば、春の演習に参加した早霜こそが自分達の中では最初に改二に目覚めるべきなのでは?と思ってしまっていた。

 

「ま、何にせよ!これで長波姉達にも自慢できるねー!深雪も嬉しいんじゃない?」

「まあな!深雪さまの艦隊で改二になった奴が出たらって言ったら、雷や長月も羨ましがるぞー!」

 

巻波の言葉を受け継いだ嚮導の深雪が一番嬉しかったのか、いつものようにニカニカ笑っている。

何だかんだ言ってみんな沖波を祝ってくれているのだ。

それは本当に有り難かった。

だが、やはり沖波は納得ができなかった。

 

「………不思議か?自分が改二に目覚めた事。」

「は、はい………。私のような意志の弱い艦娘が目覚めるなんて何か………。」

 

失礼かもしれないとは思ったけれど、これが沖波の本音だ。

自分が改二になって果たして良かったのか?

そもそも何で………。

 

「じゃあさ、こう考えてみたらどうだ?これから先、その理由に出くわすって。」

「これから………先ですか?」

「そう。改二の力が必要な時がこれから先あって………その時の為に力に目覚めたんだって。」

「その時の………為。」

「それがいつかは分からないけど………それが見つかった時、お前は全力を出せばいい。文字通り、死力を振り絞って………な。」

「死力を………。」

 

何処か未来を思い描いているような深雪の言葉に、沖波は考える。

その死力を振り絞る時は………もしかしたら………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

(死力を………もしも私が………ここで死んだら………。)

 

呆然とした頭で沖波は周囲を見渡す。

すると、彼女の視界に必死になって助けようとレ級に飛びかかる福江と平戸の姿があった。

彼女達は簡単に捕まれ放り投げられるが、そこに危機を察知して飛び出してきた他の海防艦娘達が集い始めて来ていた。

レ級はそんな彼女達を嘲笑うように沖波を銜えたまま砲門を向ける。

 

(私が死んだら………あの子………達は………。)

 

誰かが言った………沖波は最後の砦だと。

誰かが言った………小さなものでも何でもいいから心の底から守りたいと思った想いを貫き通せと。

 

「あたしは大湊を護れるような艦娘になりたいんだ。」

「この海、この船団、みんなを守りたいんです。」

 

誰かがそんな輝かしい夢を語っていた。

その想いを、目の前の深海棲艦は摘み取ろうとしている。

それを認めていいのか?

駆逐艦として?

艦娘として?

 

(嫌………だ………。)

 

沖波は歯を食いしばる。

こんな想いが自分の中にあるのは信じられなかった。

それでも、沖波は心の中で叫んだ。

 

(絶対に………嫌だ………!!)

 

だからもがいた。

今の沖波に残された時間も攻撃手段も少ない。

だから、彼女は死のギリギリ手前で覚悟を決めた。

 

(絶対に………守ってみせる!!)

 

左脚を振り上げる。

魚雷発射管を太ももに付けたその脚を………思いっきり、自分を拘束している尻尾に、叩きつけた。

 

ドゴォォォォオオオンッ!!

 

その脚の魚雷の信管が作動した瞬間、凄まじい爆発がレ級と沖波を包んだ。

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