燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第45話 沖波~この身に勇気があるのなら~

「レ………ギャアアアアアアアアッ!?」

「う………ああああああああああっ!?」

 

爆発と共に聞こえる2つの悲鳴。

レ級は丁度砲撃をしようとするタイミングで尻尾を吹き飛ばされた為、思いっきりバランスを崩し後ろに吹き飛ぶ。

同時に沖波も拘束していた尻尾から解放されるが左脚が根元から吹き飛ぶ。

焼けつくような痛みが彼女を襲うが、それが刺激となり思考が覚醒する。

 

「ゲホ………ゲホ………!生き………てる!」

 

あばらが数本折れて内臓が傷ついていたが、心臓と肺は奇跡的に無事だった。

まだ自分が生きている事を実感した沖波は尻餅を付いたまま逆転の手段を考える。

そして、奇跡的に閃く。

 

「お、沖波さん………!」

「来ないでっ!私をみんなで囲んで!!」

「えっ!?」

「早くっ!!」

 

近づこうとした福江達を普段のおどおどした様子からは信じられない位の凄みで制すると、彼女は胸に装備している2つの爆雷を起き上がろうとしているレ級に投げつける。

 

「ガアアアアアアアッ!!」

「うああああああああああ!!」

 

爆発で怯んだレ級に対し、沖波は残った右脚だけで立ち上がると、主機を全開にして叫びながら突っ込み、身体ごと預ける形で頭突きを顔面に喰らわせて押し倒す。

 

「レガアアアアアアッ!!」

 

とんでもない闘争本能を見せてきた駆逐艦娘に対し、レ級は怒り狂い反撃で殴り飛ばし逆に押し倒すと、顔面を何度も殴りつける。

だが、沖波もそれに怯む事無く殴り返しながら思いっきり叫ぶ。

 

「全艦!爆雷用意!!」

『え!?』

 

その号令に、先程の指示通りにレ級と沖波を囲んでいた海防艦娘達が驚く。

皆を代表して占守が思わず叫んだ。

 

「ダメっす!?そんな事したら沖波さんまで吹っ飛ぶっす!?」

「いいから!!」

「で、でも………!」

「言う事を聞いてっ!!」

「………っ!全艦、爆雷投射!!レ級の尻尾を狙うっす!!」

 

沖波の覚悟が本物だと悟った占守は全員を代表して爆雷を取り出し指示を出す。

その様子にレ級は飛びのこうとするが、沖波が咄嗟に首元のマフラーを掴み自分の身体の上にレ級の身体を被せる。

 

「覚悟を………決めるっす!!行けーーーっ!!」

 

そして、次の瞬間一斉に投げつけられる大量の爆雷。

散々訓練していただけあって、再生しようとするレ級の尻尾に次々と当たっていく。

一部の流れ弾は沖波を巻き込んでしまうが、それでも彼女達は投擲を止めない。

沖波もレ級に殴られていたが、絶対にマフラーを離そうとはしなかった。

 

「ギャアアアアアアアッ!?」

 

やがてレ級の再生能力が鈍っていく。

尻尾が上手く働かなくなった事で、レ級はやみくもに咆哮する。

 

「ゴアアアアアアアアアアアッ!!」

「うわ!?」

「きゃ!?」

 

その迫力を前に思わず気圧され尻餅を付く海防艦娘達。

レ級は何とか1本だけ再生した砲門を周りに斉射しようとするが………。

 

「蹴り飛ばせ、沖姉!!」

「っ!!」

 

無線で聞こえた言葉に沖波は咄嗟に残った右脚でレ級の腹を蹴り飛ばす。

転がったレ級は起き上がり、力を失った沖波を狙おうとするが………その左胸に背後からアイスドリルが突き刺さった。

 

「レ………ガ………!?」

「いい加減に………沈め!!」

 

フラッグシップ級のタ級を何とか片付けて急行した岸波が心臓を抉ったのだ。

そのまま脚を背中にかけて引き抜くと、レ級の胸からどす黒い血が噴き出しうつ伏せに沈んでいく。

 

「くっ、時間切れね………。」

 

そこで擬似改二の時間が切れた岸波は吐血するが、そんな事を気にしている場合では無かった。

レ級が沈んだ事で安堵したのか、沖波の身体が沈み始めていたのだ。

そうでなくても出血多量で非常に危ない。

必死に沈めないように福江や平戸がその身体を掴んでいる。

 

「福江………ちゃん?平戸………ちゃん?」

「しっかりしてくれ!沖波さん!」

「沈まないで下さい………!」

「そっか………無事だった………んだ………。良かった………。」

 

沖波は微笑むが、その身体はどんどん沈んでいく。

海防艦娘達が集まり、みんなで引っ張りあげようとした所に声が掛かる。

 

「どきなさい!………村雨!!」

「うん!」

 

驚く海防艦娘達を後目に、曙と村雨が沖波を掻っ攫っていく。

周りを見渡せば、大潮は傷ついた涼風を曳航しようとしていたし、ヴェールヌイは気絶していた朝霜を何とか起こしていた。

曙は無線ですぐさま大湊の提督に船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)の手配をして貰う。

 

「曙………さん。私………ちっぽけな事でも………貫けましたか………?」

「ええ、アンタのキレっぷり、たっぷりと堪能させて貰ったわ!だから、カッコ良く死ぬんじゃなくて、カッコ悪くてももがいて生きなさい!!」

「お願いが………あるんです………。」

「生きるんならば、聞いてあげるわよ!」

「あの子達を………怒らないで………あげて………。」

「……………。」

「今回………大湊を………守れたのは………あの子達の………御蔭………だか………ら………。」

「沖波!?沖波!!………提督!高速修復材(バケツ)の用意急いで!!」

 

気を失った沖波を見て、曙は叫ぶ。

大湊警備府付近での激しい戦いは苦い想いと共に終わる事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

幸いにも、沖波は生きていた。

勿論、気を失っていた為しばらくは目を覚まさなかったし、折れたあばら骨が心臓や肺に刺さっていたらそれこそ死んでいた為、本当に危なかったと言える。

それでも、彼女は目を覚ます事ができた。

 

「私………生きてるんだなぁ………。」

「本当、いつか私の真似をする妹が出るんじゃないかと思ったけど、まさか沖波だとは思って無かったわ。」

 

ある日の夜、沖波の前には懐かしい顔があった。

夏に第五駆逐隊に編入して更に北方の幌筵泊地で、神風型の艦娘達と共に深海棲艦の侵攻に備えて鍛えている風雲であった。

彼女は沖波が無茶な海戦をして昏倒したと聞いて、神風達と大湊に食料の買い出しに来るついでに、こうして警備府の船渠(ドック)に寄っていたのだ。

 

「どう?無茶をしてまで守りたい者を守った気分は?」

「あまり実感が無いです………。それに、顔を合わせにくいのか福江ちゃんや平戸ちゃんは、ここに1回謝りに来ただけでそれっきりですし………。」

 

気を失う前に沖波が頼んだ約束を、曙達は守ってくれた。

だが、自分達が無謀な事をした為に沖波が死にかけたという事実は、彼女達に悔恨の念を抱かせた。

沖波にしてみれば、一番誇りある長女である夕雲もそういう失敗はしているのだから、別に気にしなくてもよいと思っていた為、何とも言えない気持ちになる。

 

「そう言うと思って、涼風に外出許可証を貰って来たわ。脚、動く?」

「まだ松葉杖が必要ですけど………。」

「じゃあ、背負っていってあげるから会いに行こうか。」

「え!?そんな悪い………わわわ!?」

「たまにはお姉ちゃんに甘えなさい!さあ、行くわよ!」

 

長身である風雲は沖波を背負うと訓練海域を目指して歩いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

訓練海域では相変わらず福江と平戸が爆雷の投擲訓練をしていた。

だが、そこに風雲が沖波を連れてやってくると思わず去ろうとしてしまった。

 

「こら、いつまで逃げてるの?それこそ沖波に失礼だと思わない?」

「う………。」

 

風雲にそう言われた事で、福江と平戸は担がれた沖波を見る。

だが、すぐにその顔がぐしゃぐしゃに歪む。

謝ったとはいえ、やはり痛々しい姿を前にすると後悔が広がってしまうのだ。

 

「本当に………悪かった!あたしは………結局………!」

「私達のせいで………沖波さんが………ごめんなさい………。」

「………少し、座ろうか?」

 

沖波はそう言うと、いつか曙と一緒に来た時のように2人と並んで座った。

より寒くなってきた大湊の天気は晴れていて………また星が瞬いていた。

 

「きれいだね………。深海棲艦が出ると空が曇っちゃうから、こうして星を見られると平和を実感できるよ。」

「あたしは………大湊を護りたかった。」

「護れたよ?みんなの力で。」

「私達を庇った沖波さんが死にかけました。」

「艦娘として生きていればこんな事もあるよ。」

「………違う!違うんだ!」

 

あくまで優しい言葉をかける沖波に、遂に福江が耐え切れなくなり立ち上がる。

握り拳を振るわせると彼女は涙を流した。

 

「怒ってくれ、沖波さん!叱ってくれ、馬鹿をやったあたし達を!!」

「……………。」

「その優しさは毒だ!あたし達は重大な失態を犯した!それなのに許すような真似をするんじゃ………!」

「じゃあ………私は絶対に怒らない。」

「え?」

 

沖波は静かに首を振ると真面目な顔で福江を、そして平戸を見る。

 

「でも、それは優しさじゃないよ。2人共、怒られる事で少しでも罪の気持ちを軽くしたいと思っているから。だから、私は敢えて怒らない。」

「沖波………さん………。」

「私は優柔不断な自分の性格で………常に色々と後悔してるから少しは分かるんだ。辛いと思っても2人はそれぞれ自分の力で乗り越えないといけない。自分の失態を受け入れられるのは、どんな事があっても………自分しかいないから。」

 

他者がとやかく言って解決する問題では無いのだ。

ケリをつけないといけないのは自分自身。

そうやって成長していかないと、先には続かない。

劣等感に支配されている事が多い沖波だからこそ自然と口にできる言葉とも言えた。

 

「後ね………私は2人を………みんなを助けられた事を後悔してないよ?守りたいと思った力を守る場面でやっと使う事ができたんだから。」

「………強いんですね、沖波さんは。」

「え?そ、そんな………私は………!?」

 

平戸に強いと言われた事で、思わず沖波はしどろもどろになりそうになる。

しかし、そこで風雲がクスリと笑いながら言う。

 

「そりゃそうよ、自慢の妹の1人だもの。他のみんなに負けない位の力は持ってるわ!夕雲型は世界一の艦なんだから!」

「か、風雲姉さんまで!?私なんか、岸ちゃんや朝ちゃんに比べたらまだまだで………!」

「その割にはレ級を前にした沖姉のブチ切れっぷりは滅茶苦茶だったけれどね。」

「あ…………。」

 

新たに掛かった声に沖波が反応してみれば、そこには岸波や朝霜がいた。

彼女達だけでない。

曙、村雨、大潮、響といった戦友や、相変わらず風邪を引いている大湊の提督、そして左の薬指にしっかりと約束の指輪を貰った涼風、更には海防艦娘達も集まっていた。

そのずらりと揃った姿を見て風雲は呟く。

 

「誰かが欠けても大湊の町は守る事ができなかった。1人の力なんて本当些細な物なのよ。弱さを理解しているから得られる強さもある。それが今回の沖波だったのかもね。」

「弱さを知る強さ………。」

「だから………みんなで守れた。」

「……………。」

 

沖波は何かを考えている福江や平戸を見て、片足でバランスを保ちながら立ち上がる。

 

「ねえ、爆雷………1個貰ってもいい?」

「あ、はい………。」

 

平戸から爆雷を貰った沖波は風雲の肩を借りて、的当ての前に………以前と同じように岸辺に立つ。

その的を見ながら彼女は言った。

 

「確かに、駆逐艦も海防艦も単体だと弱いのかもしれない。」

 

そのまま腕を振り被り手から爆雷を放り投げる。

 

「でも、私達には「協力」っていう力があるから。」

 

爆雷は、片足のバランスを欠いているにも関わらず、寸分違わず的に命中した。

 

「だから………強くなれるよ。守れる力を得られるくらいに、私もみんなも。」

 

そう最後に言うと、彼女はみんなに向けて微笑んだ。

 

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