燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第46話 岸波~離れていても~

次の日、沖波や風雲達は横須賀へ向かう船の前に並んでいた。

その理由は簡単で、岸波と朝霜が急遽横須賀に呼び戻される事になったからだ。

何でも大湊の提督の話によれば、上層部がまた面倒な事を言ってきたらしい。

 

「提督、何か他に聞いている事はありますか?」

「何でも楽団で1つの駆逐隊を作ってくれとの事らしい。」

「ジャズバンドのメンバーですね。敷波の元で駆逐隊を結成するのかも。」

「何だよー、あたい達は見世物の動物じゃないんだぞー。」

 

とはいえ、対応に追われる横須賀の提督を下手に困らせるわけにもいかない為、2人は荷物と艤装と楽器を船に積み込み、こうして皆に見送られる事になっていた。

妹達としばらくの間別れる事になったという事で、沖波も松葉杖を付いてこうして出向いている。

 

「岸ちゃん、沖ちゃん………横須賀にいるみんなに宜しくね。」

「特に秋雲!あの子そろそろ忙しくなり出す頃だから、みんな注意してね!」

「任せろよ!………って、風雲は幌筵に戻るとして、沖波はどうするんだ?」

「しばらくは大湊で海防艦のみんなをこのまま鍛える事になりそうかな。」

 

沖波はズラリと後ろで並んだ海防艦達の姿を見て笑顔で言う。

今回のレ級の襲撃でちょっとだけ自信を持った沖波は、皆で協力して撃沈させた事により海防艦娘達に更に慕われる事になった。

だからこそ、彼女達の精神的支柱として残っていて欲しいと秘書艦の涼風に懇願されたのだ。

勿論断る理由も無かったし、沖波もその中で改めて自分も修練を積みたいと考えたのだ。

 

「沖波のような艦娘がいると安心するからねぇ。でもま、今回の反省を踏まえて上も様々な艦種を大湊に集結させて防衛に努めるみたいだから安心してよ。」

「艦種が増えれば私も海防艦娘のみんなも更に色々と学べると思うし、得られるものも大きいと思うんだ。」

「そうね。沖姉達ならばもっと強くなれるわ。私達も負けないようにしないと。」

「だな!………でも、岸波にしてみれば曙と別れる事の方が辛いんじゃね?」

「否定はしないわ。………ぼの先輩との思い出、忘れません!」

「アンタはホント、掴み所が無いわね………。」

 

当然ながら、見送りには曙、村雨、大潮、響といった秋刀魚漁を含めた戦友達も並んでいた。

彼女達も笑顔で2人に挨拶をしていく。

 

「ま、ジャズバンドの演奏がもっと上手くなったらみんなで大湊に聞かせに来るといいわ。」

「村雨もどんな曲を披露してくれるか楽しみ♪待ってるからね!」

「大潮もそれまでにF作業の練度を向上させていますからそっちも楽しみましょう!」

「私もだ。後、岸波に選別だ。このアイスドリルを持っていくといい。」

「ありがとう、響。このアイスドリルを見る度に貴女達の事を思い出すわ。」

「何かいい話っぽくしてるけど………あたい、それでレ級を次々とぶっ刺していった事を知ってるからな………。」

 

そんなこんなで大湊での色々な思い出を抱えた岸波と朝霜は、別れを告げて船に乗る。

船は出港して徐々に港と警備府から離れていった。

 

「また会いましょう!私達は艦娘!離れていても想いは一緒だから!」

「みんなまたなー!あたい達ももっともっと強くなるから待っててくれよなー!」

「岸ちゃんも沖ちゃんも身体に気を付けてねー!またねー!」

 

最後に手を振りながら、岸波と朝霜は一時的な姉との別れを惜しんだ。

 

「さて………私達も行きましょうか。」

『了解!』

 

2人を見送った後で、風雲は港に並んでいた神風、朝風、春風、松風、旗風を見る。

彼女達も仲間のいる北方の海へと食料を運んでいく事になる。

 

「風雲姉さんも気を付けて下さい。また怪我しないで下さいね。」

「それ………貴女が言っても全然説得力無いから。」

「あ、すみません………。」

「そういう所は変わらないんだから………。」

 

最後に相変わらずである妹の頭を撫でると風雲も、あらかじめ背負っていた艤装の調子を確かめ抜錨して、神風型のメンバーと一緒に食料入りのドラム缶を運んでいく。

その姿も遠くなっていき、沖波は夕雲型の姉妹との別れを実感する。

 

「………曙さん、村雨さん、大潮さん、響さん、涼風さん。今回の事で、私ももっと強くなりたいって思いました。強くなって………もっとちゃんとした艦娘になりたいって。」

「じゃあ、もっともっと鍛えてあげるから覚悟しなさい。」

「村雨も手伝うよ!でも、海防艦娘達の嚮導だって事も忘れないでね!」

「大潮も含めて、みんなで強くなりましょう!駆逐艦万歳!海防艦万歳です!」

「私達が強くなれば、レ級だろうとネ級改だろうと畏怖する存在にはなれるさ。」

「いいねえ、そんな小型艦!あたい達も大湊を護りたいからね!」

 

次に会う時はもっと強くなった姿を見せられるようにと沖波は決めて、背後の海防艦娘達に笑顔を見せる。

福江や平戸を始めとした彼女達も、今回の事で弱さを知った。

そして、それを認める事で得られる強さも分かった。

だから………。

 

「だから、みんなで頑張っていこうね。」

『はい!』

 

大湊に威勢の良い声が響いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「第二十六駆逐隊………?そんなポンポン作っちゃっていいの、提督?」

「上からの指示だ、仕方あるまい。」

 

その頃横須賀の執務室では、提督がある艦娘を呼び寄せていた。

ジャズバンドのリーダーであり、アルトサックスを担当している敷波であった。

提督は彼女を旗艦とした艦隊を、欠番を使ってでも新設したいと言ったのだ。

 

「上層部は何を考えてるのさ?アタシ達、楽器の練度はまだまだお世辞にも高く無いよ?」

「艦娘が楽器を吹ける事が重要であるらしい。」

「つまり、本当に物珍しさで結成した艦隊ってワケじゃん。」

「否定はしないし、お前達には本当に申し訳ないと思っている。」

「はー………お偉いさんに披露する為に磨いてるわけじゃないんだけどねぇ………。」

「披露する対象はそのお偉いさんだけじゃない。」

「ん?」

 

首を傾げた敷波に対して提督は説明する。

場合によっては不安になっている民衆に披露する機会もあるし、出撃する艦娘達を鼓舞する為に演奏する機会もあるらしい。

思ったよりもまともな結成理由に敷波は逆に首を傾げる。

 

「何か結構理想的な事考えてるよね。上の人達に誰か砲で脅した?」

「脅したとすれば、深海棲艦だろう。………妙だと思わないか?こないだの大湊への大量のレ級襲撃といい。」

「確かに………何で凶悪な深海棲艦が各地で出没してるんだろうね?」

「そこら辺は、何処かに巣があるとか、卵を産んでいる個体がいるとか、沈んだ艦娘の怨念が形になっているとか滅茶苦茶な意見ばかり出てるがな。」

「何ていうか………本当、お疲れさんだね。」

 

思わずそんな上層部に苦労している提督に同情した敷波であったが、自分を旗艦にした第二十六駆逐隊の結成に関しては本当に色々と考えてしまう。

メンバーは当然、磯波、朝霜、岸波、野分、嵐になるだろう。

皆の練度が向上してきている今、海戦の実力に関して不安は無かったが、演奏の練度が新米クラスである以上、下手に大っぴらに楽団を結成してもいいかという不安があった。

 

「それに俺としてはな………結成は悪くない選択肢では無いかとも思っている。」

「というと?」

「振り回したのは上層部だが、岸波と朝霜が海防艦娘の嚮導で一方的に離されてしまっただろう。それによって練習に影響を及ぼして練度の向上に努められないのならば、いっそ6人同じ駆逐隊に置いておいたほうが、融通が利く気がしてな。」

「成程ねぇ………一理あるかも。」

「勿論、上層部の面倒なパーティに誘われる事は念頭に入れないといけないが………それも経験だと思って耐えて欲しい。」

「いきなり言ってくれるねぇ………ふん!」

 

提督の言葉に鼻を鳴らす敷波であったが、断れば面倒な事になるのは分かっていた為、溜息を付きながらも承認する。

 

「了解だよ。駆逐艦敷波………第二十六駆逐隊の旗艦受け入れる。」

「すまない………感謝する。」

「そのセリフは後5人分用意しといてよ。後、その面倒なパーティってのは最短でいつ?」

「冬だろうな。厄介な事に今年は横須賀主催だ。上が優秀な駆逐艦だと思っている娘達を防衛に使って優雅に宴会を開くだろう。」

「「鬼神」綾波とかも呼ばれそうだねぇ………。ま、色んな楽団が来るし勉強の機会だと思っておくよ。」

 

そして敷波は提督の隣で敷波達の資料にハンコを押している秘書艦の五月雨を見る。

彼女は奪還(ドロップ)で戻ってきた元深海棲艦である為、上層部には嫌われていた。

故に………。

 

「そのパーティ、誰を秘書艦代理で連れて行くの?陽炎?」

「問題はそこなんだ。陽炎も実は上層部からの評判が悪い。」

「陽炎………曙辺りが本当に砲で脅した?」

「幸いまだやって無いわよ?」

 

そう五月雨の元に書類を運んできている秘書艦補佐の陽炎が答える。

 

「只、私達の隊、体当たりでの殴り合いが多いから素行が悪いと思われてるらしいのよね?」

「陽炎達は一旦自分達の始末書の量を見た方がいいんじゃない?」

「やーねえ、五月雨。たまに営倉入りしてるだけじゃない。」

 

第十四駆逐隊は主力駆逐隊だが、どうやら五月雨とは別の意味で恐れられているらしい。

敷波は、だからメンバーが最近バラバラで行動させられる事が多いのでは?と密かに思ってしまう。

 

「とりあえず、別の艦娘を候補に考えておく。敷波達は自分達の事を第一に考えてくれ。」

「りょうかーい。じゃ、そうと決まったら磯波達に色々伝えないとね!」

 

敷波は敢えて腕まくりをしてみせる事で、気合を入れた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

季節は更に移り替わる。

木枯らしが吹き荒れる秋の季節も終わりを迎え、いよいよ本格的な冬が始まる。

横須賀にも珍しく雪が降り始め、白銀の景色が見られるようになった。

 

そんなある冬の日の夜であった。

夕雲型駆逐艦の早霜は、布団から目を覚ます。

その理由は単純で、同部屋の艦娘がうなされていたからだ。

 

(また………。)

 

風雲、長波、沖波といった夕雲型駆逐艦達が成長して各地に転籍になっている関係で、同じ形式の艦娘が同部屋にいるとは限らなくなった。

早霜もその影響を受けている艦娘の1人で、部屋にはワケ有りの艦娘が一緒になっていた。

茶髪のショートヘアーを持つ彼女は睦月型1番艦睦月。

 

「だ、ダメ………古鷹………さん………、如月………ちゃん………逃げて………!」

「……………。」

 

睦月は普段は癖のある喋り方をする明るい艦娘だ。

だが、早霜は長波からの手紙を見た事で、彼女とタウイタウイ泊地にいる古鷹と如月の因縁を知っていた。

故に、僅かな言葉で彼女が深海棲艦化した如月と遭遇した時の悪夢を見ているのだと理解できた。

 

(1回起こした方がいいかも………。)

 

そう思った早霜は睦月を揺さぶって夢から覚ます。

睦月はハッとしたように目を覚ますと布団から飛び起き自分の汗で滲んだ手元を見た。

 

「ハア………ハア………む、睦月………。」

「大丈夫………?また見ていたみたいよ、悪夢。」

 

最初にうなされた時に隠せる事では無いと思ったので、早霜は、自分が睦月の過去を知ってしまった事を早々に白状している。

睦月はそれに対して怒ってはいなかったが、やはり如月や古鷹とは顔を合わせにくいと答えてくれた。

 

「ご、ゴメンね………早霜ちゃん………また起こしちゃって………。」

「気にしなくていいわ。でも、辛いのね………。」

「如月ちゃんや古鷹さんも同じ夢、見てるのかなぁ………。」

「長波姉さんの話だと、やっぱり2人も悪夢を見ているみたい。」

「そう………だよね………。」

 

睦月は如月達と直接手紙のやり取りをしていない。

自分のやった事をどう思われているのか知るのが怖かったのだ。

いや、正確には………。

 

「睦月は………自分が許せないかなって。如月ちゃんも古鷹さんも、後悔ばかりさせちゃって………。」

「それは2人も同じだと思うわ。でも………私が口で言って簡単に納得できるものじゃないわよね………。」

 

理屈では分かっていても、感情では整理できないのだ。

それだけ睦月達にとっては深刻で複雑な問題。

だからこそ、早霜もそれ以上は言わなかった。

その代わりに………。

 

「ねえ、睦月さん。明日は休暇よね?私と一緒に行動しない?」

「早霜ちゃんと?」

「そう。秋霜さんと清霜さんと一緒にちょっとある物を見に行く約束をしてるの。気晴らしには丁度いいし、睦月さんも来て………?」

 

そう言うと、悪夢を見た睦月を労わるように少しだけ微笑んだ。

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