燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第47話 早霜~冬の工廠と熱き蒸気~

「おっはよー、はやはや!って、むつむつも一緒?いーね、今日は4人で楽しもうじゃん!」

「睦月ちゃんもやっぱりアレに魅了されてるんだね!さあ行こう!」

 

朝、早霜と睦月は朝食を取った後、秋霜と清霜と合流する。

2人は睦月を簡単に受け入れてくれたが、何かを楽しみにしている感じであった。

特に清霜は目を輝かせて恍惚としている感じである。

 

「およ?3人共何を見に行く約束をしているのかな?」

「行けば分かるわ………。さあ、行きましょう。」

 

若干いつもの余裕を取り戻した睦月を連れたって、早霜は歩いていく。

その目指した場所は横須賀鎮守府内の工廠であった。

 

「明石さーん!夕張さーん!大変お待たせしました!睦月ちゃんが増えたけれど、いいですよねー!?」

「あ、清霜ちゃん!待ってたわ!勿論飛び入り参加はOKよ!」

「自慢の兵装の虜になる子が増えるなんて罪深いけれど、いいわよね!」

 

その中で待っていたのは、ピンク髪で横髪をおさげ風の髪を持つ工作艦明石と少し緑がかった銀髪の前髪ぱっつんの軽巡洋艦夕張。

横須賀では実は2人が兵装の修理を担当しており、よく破損してくる駆逐艦娘達の艤装を修理したり、いざという時の為にスペアを製造したりしてくれている。

他の鎮守府や警備府、泊地等で破損した艤装が届けられる事もあり、最近では大湊からボロボロになった沖波の艤装が船で来て、徹夜で修理した事もあるらしい。

艤装を壊す事の多い夕雲型艦娘達にとっては頭の上がらない人物達であり、そういう経緯からか比較的色んな艦娘達から親しまれていた。

 

「およよ?自慢の兵装の虜?明石さん達、今作っているのは駆逐艦の装備じゃないのですか?」

「睦月ちゃん察しがいいわ!今、何と戦艦の艤装をメンテナンスしているのよ!」

 

ビシッと指を立てて答える夕張の姿を見て、睦月もおぉー!っと叫ぶ。

軽巡でありながら速さを犠牲にしてまで重装備に拘る娘は、その装備の良さを噛みしめるように身体を抱えて震える。

 

「ああ………戦艦と言えばワンオフ………!それをメンテナンスできるなんて………!」

「おーい、夕張ちゃん戻って来て。てなわけで、早速見せてあげるわ!」

 

明石がレバーを押し倒すと、近くにあった鍋のようなお湯の入った器の中から、鎖に巻き取られて蒸気と共に新品のように輝かしい重武装の艤装が出てくる。

それは、駆逐艦の艤装の数倍は縦も横も奥行きも面積が広く、立派な主砲だけでなく副砲もしっかりと備えてあった。

 

「うち、主砲と副砲合わせてこんなに砲門のある艤装見た事無いわ!?」

「私も………全部で軽く10門以上はあるわね………。」

「凄い凄い!これが………これが戦艦の艤装!!」

「どうやらメンテナンスは無事に終わったみたいだな。」

「あ!」

 

そこに現れた褐色の肌の薄い金髪をライオンのように伸ばした長身の眼鏡の女性を見て、清霜の目が更に輝く。

彼女は大和型2番艦武蔵。

清霜にとっては憧れの対象である戦艦の1人である。

 

「武蔵さん!やっぱり凄いですね、戦艦は!私、改めて戦艦への憧れが増しました!!」

「フッ、誉め言葉は嬉しい物だが、私は果敢に攻め入る駆逐艦も素晴らしい存在だと思っているぞ。それぞれの艦種にそれぞれの良さがある。忘れてはいけない事だ。」

「流石、武蔵さんは言う事が違います!!」

「あはは………。」

 

もはや戦艦というか武蔵の虜になっている清霜の姿を見て、苦笑いを浮かべる秋霜。

早霜は手をかざして武蔵の艤装を興味深そうに見る睦月の姿を見て、少しは気分が良くなったかなと思い安心する。

 

「では、武蔵さん。早速試射を行いますか?五月雨ちゃんとかには許可を貰ってますから。」

「ああ、準備をして貰えると有り難い。」

「あの!私達も………!」

「勿論、見てみるといい。私の試射で楽しめるのならば本望だ。」

『ありがとうございます!』

 

こうして、艤装を装着した武蔵を中心に、皆で訓練海域に向かう事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………で、飛んでいる的を落としたいって事で練習機を出す事になったけれど………加賀さん、こんなに飛ばしちゃっていい物なんですか?」

「瑞鶴………武蔵さんの練度を侮らないで。油断していたらあっという間に全滅するわ。」

 

訓練海域では、正規空母の2人が練習機を大量に空へと飛ばしていた。

巫女装束風の弓道着に黒髪ツインテールの瑞鶴と、弓道袴をモチーフにした衣服にサイドテールの髪を持つ加賀である。

五航戦と一航戦という間柄からか、あまりウマが合わない事もある2人だが、練度の向上に伴いお互いの実力を認めてはいた。

 

「相手は十数門以上の砲を一度に操れるのだから、これでも足りない位よ。」

「手厳しいですねぇ………って来ましたよ。」

 

様々な艦種の娘達を引き連れてきた武蔵は彼女達に敬礼。

加賀と瑞鶴も答礼をする。

そして、どれくらいまで増やすか加賀が武蔵に問う。

 

「随時限界数まで増やしてくれ。私も本気になりたい。」

「だそうよ、瑞鶴。遠慮はいらないわ。」

「分かりました………じゃあ、ホント遠慮しませんから!」

 

武蔵の要求で加賀と瑞鶴はどんどん練習機を発艦させていく。

その数は空を埋め尽くす程にまでなり、秋霜、清霜、早霜等は唖然とする。

 

「た、対空砲火ガン積みでもあれだけの量は………!?」

「む、武蔵さんイケるの!?」

「静かに………武蔵さんの目が………。」

 

武蔵は静かに眼鏡の奥の瞳を閉じると、見開く。

次の瞬間、砲門が一斉に空中の練習機を貫いていった。

 

………ドゴォオオオオオオオオオンッ!!

 

『うわ!?』

 

遅れて響く轟音。

放たれた十数門の砲は、模擬弾であるにも関わらず衝撃波を巻き起こし、1門だけでも複数の練習機を風圧で破壊していく。

続いて排熱が起き、大量の蒸気が艤装から噴き出した。

 

「ふむ………若干誤差があるな。修正しなければ。」

「マジ!?一発で半数以上落ちてるじゃん!?」

 

思わず瑞鶴が叫びながら必死に練習機を飛ばしていく。

加賀は無言で同じく練習機を飛ばしているが、その頬には冷や汗があった。

しばらくの間、練習機による特別な試射は続いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数十分後、何とか武蔵の要求に応えられた瑞鶴はへたり込んでいた。

加賀も直立の姿勢は保ってはいたものの、肩で息をしている。

 

「武蔵さんの力侮ってたわけじゃないけど………これじゃあ、どっちの訓練なのか………。これなら改二になれば良かった。」

「下手に切り札をさらけ出す物でも無いわ。それに、改二は武蔵さんも使えるわよ。」

「すまないな、お陰で心行くまで訓練ができた。感謝する。」

 

そんな2人に武蔵は汗をかいた額を拭いながら艤装の調子を確認すると、ニヤリと笑う。

 

「それに、明石と夕張。いい整備だ。お陰で文字通り生まれ変わったような気分だよ。」

「そう言って貰えるとこちらも良い仕事が出来たって実感できます!」

「私もです!重装備………フルウェポンから繰り出される砲撃、たまらないです!」

「ハハハ………で、感想はどうだ?」

 

更に武蔵が、傍で見ていた駆逐艦達を見る。

彼女達は皆、目を輝かせていた。

 

「強い!カッコいい!正に決戦艦娘!!」

「うちもあんな凄いの初めて見ました!感動です!」

「私もです。加賀さんや瑞鶴さんも凄かったですけれど、武蔵さんも凄かったですよ。」

「にゃは!睦月も見ていて凄くワクワクしました!」

 

清霜に限らず、やはり簡単に沈む紙装甲の駆逐艦にしてみれば、重装備の戦艦は憧れの的であった。

それだけに、目の前で武蔵の試射が見られたのは本当に有難かった。

 

「私もたまに訓練をするから気になったら他の艦娘を連れてくると良い。」

「……………。」

「どうした?清霜。」

「武蔵さん、私は戦艦に憧れてるんです。今は駆逐艦だけど、いずれは戦艦になりたいなって。………姉さん達はみんな夢物語だって言うけれど、私は諦めたくないなって。」

「それは戦艦である私にとっては嬉しい事だな。だが、駆逐艦には駆逐艦の良い所があるぞ?」

「はい、嚮導の長月さん達にも言われています。だから、今まで姉さん達と共に駆逐艦としての練度を高める事に従事してきました。擬似改二も今は、夕雲型は全員10分以上使えるようになっています。でも………。」

「夢を夢で終わらせたくない………か?」

「そうです!」

 

清霜は武蔵に自分の想いをぶつけた。

舞鶴ではそれ故にアホの子と評価されていた清霜であったが、ここまで信念を貫けるのならば、いっそ立派なのではないかと早霜は思った。

只、その為の具体的な方法は、今は見つからないのだが………。

 

「早速やっているな。」

「相棒か。ここの工廠はやはり良い整備をしてくれる。駆逐艦娘達が親しむのもよく分かる。」

「もっと褒めてやってくれ。最近は艤装に無茶をする艦娘が多いからな。」

 

男性の声に振り向いてみれば、そこには秘書艦である五月雨を連れて横須賀の提督が現れていた。

彼が現れるという事は、何かしらの任務が告げられる事が多い。

 

「武蔵、加賀、瑞鶴、睦月、早霜、秋霜、清霜。すまないが、執務室まで来てくれ。」

「何かあったみたいだな………。」

 

簡素でありながら真剣な提督の言葉を受け、武蔵を始めとした艦娘達は何かしら異常事態を感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「姉貴か。待っていたぞ。」

「ふにゃ?菊月ちゃんまで呼ばれたのかにゃ?」

 

執務室前に来た7人の艦娘はそこで菊月と合流する事になる。

彼女は秋に長波率いる第二十五駆逐隊と臨時で独断行動を取った関係で天龍に気に入られ、自慢の刀を選別に貰っており帯刀していた。

 

「相変わらず様になる艦娘にゃ。」

「誉め言葉と受け取っておく。で、司令官。集めた理由は何だ?」

 

菊月の言葉を受け、提督は椅子の傍に行くと座らずに立ったまま言う。

 

「北方の幌筵で深海棲艦の怪しい動きがあると情報が回ってきた。」

「幌筵と言えば………羅針盤で………。」

「そうだ。キス島周辺等は、駆逐艦以外は自由に動けない。現在、風雲率いる第五駆逐隊が調査中ではあるが、駆逐艦だけでどうにかできる敵では無い可能性があるらしい。」

「かざかざ………じゃなくて、風雲姉さんがかー………。じゃあ、うちらが呼ばれたのは、みんなでその加勢に行くって事だね!」

「でも、司令官………。私達はともかく、武蔵さんや加賀さん、瑞鶴さんは?」

 

羅針盤で上手く動けないのに戦艦や正規空母を集めた理由が分からず清霜が訪ねてくる。

提督は紙を受け取りながら説明する。

 

「この3人は決戦艦娘だ。羅針盤の影響を受けない北側に駆逐艦娘達で誘い込む。」

「風雲姉さん達だけで………?」

「大湊からも駆逐艦娘を呼んだ。沖波、曙、村雨、大潮、響、それに幌筵にいる霰でもう1つ練度の高い艦隊が作れる。」

「うわー………大掛かりな作戦だねー。」

「その場合、今呼ばれた人員に余りが出るけれど?」

「武蔵と加賀と瑞鶴の艦隊には睦月と菊月と清霜に入って貰う。もしもの時の為に護衛に、更に早霜を旗艦、秋霜を補佐としてもう1艦隊作る。」

「私を旗艦………!」

 

思わぬ言葉が告げられた事で、早霜は思わず唸る。

まさかこの機会に自分が旗艦として振る舞う事になるとは思っていなかったのだ。

だが、そこで提督の顔が曇る。

 

「只、ここで面倒な上層部の声だ。これだけの駆逐艦娘を呼ぶからには練度向上も同時に目指せという事でな………練度の低いワケ有りの艦娘を使えと言われた。」

「難しい仕事ですね………。」

「何とか交渉して妥協案を組んだが………一番辛い部隊になるかもしれないから気を付けてくれ。」

「分かりました。早霜、やってみるわ………。秋霜さんも宜しくね。」

「ほーい!うちも気合入れちゃうぞ!」

 

提督の言葉に早霜と秋霜はそれぞれ自分なりの言葉で応える。

しかし、その後に告げられた具体的な内容に、絶句する事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数日後、北方の幌筵のキス島付近。

そこでは6人の艦娘達が単縦陣で並んで航行していた。

嚮導である風雲が率いる第五駆逐隊である。

彼女達は、順に神風、朝風、春風、松風、旗風と並んでいた。

北の海は凍えており、定期的に艤装に生じた氷柱等を落とさなければまともに航行できない。

とはいえ、何度も出撃をしてこの環境に慣れた彼女達にとっては、さしたる障害では無かった。

 

「さて、そろそろね………。」

 

先頭で電探を使い周囲を探る風雲は、キス島に近づいていく。

すると、みるみるうちに白い霧の中に黒い影が出現してきた。

 

「来るわよ、みんな………海戦準備!」

 

風雲は後ろに並ぶ、練度の向上した神風型の艦娘達に隊内無線で告げた。

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