燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第48話 神風~北の巨人~

霧の中から出てきた巨大な黒い影は、駆逐艦娘達よりも遥かに縦・横・奥行全てが巨大であった。

一見すれば角の生えたドレスを着た美女ではあるのだが、その背負っている艤装が半端なく大きく生物的である。

2つの巨大な口………というか顔を持ち、巨人のような体格と全てを押しつぶせそうな腕を持ったその姿は戦艦水鬼という呼称が告げられていた。

戦艦という名の通り、巨人の身体からは多数の砲門が生えている。

 

「他にもいるわね………!」

 

風雲が電探で周囲を確認してみれば、黒い着物を着ており、左腕が軽巡棲姫のように砲門と魚雷発射管を備えた巨大な口が付いた駆逐古姫と呼ばれる深海棲艦が2隻一緒にいた。

この他、左目から青い炎が灯ったヲ級改も3隻同伴している。

 

「隙の無い編成ね………神風、怖い?」

「駆逐古姫を見て昔の深海棲艦時代を連想すると思ったから?大丈夫よ、むしろ、燃えるところ!」

「そう言ってくれると有り難いわ………ね!」

 

風雲と神風の会話が途中で途絶えたのは、戦艦水鬼が砲撃してきたからだ。

地鳴りのような音がジグザグで航行する風雲達の周囲で鳴り響き、水柱が派手に立つ。

 

「水上偵察機を飛ばさなくてもこの正確さ………駆逐古姫がレーダーに長けるから参考にしているのでしょうか?」

「多分、春風の言うとおりね………。だとしたらヲ級改も正確に攻撃機を飛ばしてくるわ!輪形陣!後、旗風は事前の指示通りで!」

「了解しました!」

 

敵ながら見事な戦術だと風雲は思いながら、ヲ級改が発艦してきた攻撃機の迎撃を行う。

初手は対空気銃や主砲が効果的に機能し、上手くいった。

 

「魚雷を撃ち込むわ!」

 

風雲はそう言うと、両太ももの8本の魚雷を戦艦水鬼に喰らわせる。

ヲ級改も駆逐古鬼も庇わない………しかし、戦艦水鬼はこれを右の巨大な手で全て受け止める。

そして、ニタァと不気味に巨人の顔が笑うと僅かに傷ついた腕が再生していく。

 

「再生時間………0.8秒………。」

「反撃来るわよ、各自擬似改二用意!」

 

何かメモを取るように呟く旗風の言葉を聞きながら、風雲達は身体をスパークさせて改二や擬似改二を発動させる。

現時点での風雲の改二時間は大体12分。

神風型の擬似改二の時間も全員10分は超えていた。

 

「輪形陣のまま面舵と取舵を交互に繰り返して砲撃と爆撃を回避!迎撃行動も忘れないで!」

 

風雲達はそのまま徐々に近づいていき、戦艦水鬼と駆逐古姫の攻撃を回避しつつ、ヲ級改の攻撃機を撃ち落としていく。

そして、魚雷の射程に入ると神風と春風に指示を出し、一斉に計12本の強化された魚雷を撃ち出す。

今度も誰も庇わなかったし、戦艦水鬼は左腕で受け止めるだけだ。

爆発は派手に広がり手がボロボロになるが、笑みと共にこちらも再生していく。

 

「再生時間………5.2秒………やっと5秒超えました。」

「魚雷10本以上でこれね………。撤退するわ、朝風、松風!」

「任されたわ!」

「キミの背中は守るよ!」

 

その言葉と共に、風雲は春風から防弾性能のある日傘を受け取る。

朝風と松風は両翼に回ろうとした駆逐古姫に連装魚雷4本を撃ち出して牽制。

風雲は残った4本の魚雷をヲ級改に撃ち込みつつ、左胸の爆雷を戦艦水鬼に投げつけて目くらましにする。

更に、煙幕も張って傘をかざして盾にしながら、旗風、春風、松風、朝風、神風、風雲の順に脱兎の如く退いていく。

その煙の向こうでは戦艦水鬼の巨大な2つの口が叫んでいたが、艦娘達は無視した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あ、帰って来た、帰って来た!」

「よう、お疲れさんだな。………どうだった?」

 

幌筵泊地に戻った風雲達を出迎えたのは、明るい茶髪にスカイブルーの瞳を持った艦娘と緑みがかった黒髪に片目に眼帯をした艦娘であった。

幌筵の秘書艦である軽巡洋艦である長良型6番艦阿武隈と、同じく軽巡洋艦である球磨型5番艦木曾だ。

この泊地に転籍になってから、風雲達はこの2人の元で訓練をして練度を高めていた。

 

「やはり、かなりの重装甲の持ち主です。魚雷12本で5秒ちょっとの再生時間しか稼げませんでした。」

「あの腕が厄介ですよね………。魚雷とかじゃ本体の鬼に当たらないです。」

「成程なぁ………とりあえず、まるゆと霰が船渠(ドック)入りの準備を整えてくれてるはずだから、神風型は全員高速修復材(バケツ)使ってこい。」

「お言葉に甘えます。」

 

擬似改二の反動で内臓にダメージを負った神風型5名は船渠(ドック)へと移動する。

その間に風雲は阿武隈や木曾に駆逐古姫やヲ級改との連携の練度の高さも説明していく。

 

「そうなると………まずは索敵能力に長ける駆逐古姫を優先して落とさないと、危ないね。」

「ヲ級改の攻撃機の妨害も面倒だな………。只でさえ戦艦水鬼の硬さは面倒だってのに。」

「もう1つ懸念する事があります。前回の遭遇時と違って敵の群れのキス島からの距離が開いているんです。」

「つまり、こっちに徐々に向かってきてるって事?」

「はい。」

 

少しずつ幌筵泊地に接近しているというのならば、早めに迎撃しないと危ないだろう。

勿論、羅針盤の影響を受けない所までおびき寄せてから一気に主力艦隊を編成して撃破するという戦い方も有りではあったが、気の短い上層部が待ってくれるとは思えない。

 

「春まで待ってくれ………って理由は通用しないのかねぇ?」

「無理だと思うよ。この冬にパーティ開くからその前に戦果作りたいと思うし。」

「ブラックな話題ですね………。」

「そこだけど、もっとブラックな話題が入ってきてるよ?大湊から艦隊が1つ、横須賀から艦隊が2つ来てくれるのは知ってるよね?」

「え、ええ………。大湊からは沖波達が来て、横須賀からは武蔵さんの主力艦隊や早霜率いる艦隊が来るって聞きましたが………。」

「その早霜の率いる艦隊の方が問題でな………実はさっき大湊の艦隊が一足先に着いたんだが、曙がその話題でブチ切れてるんだ。」

「えーっと………話の繋がりが分からないのですが………。」

「まあ、神風達を連れて会ってみてくれ。」

 

嘆息する阿武隈や木曾の姿を見て、只事じゃないのだろうと風雲は覚悟した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「どういう事なのよ!クソ提督!!」

 

幌筵の執務室では、木曾の言う通り曙が叫んでいた。

といっても、彼女がクソ提督と叫んでいる相手は椅子に座っている幌筵の提督ではない。

その前の机に置いてある電話越しに回線を繋いでいる横須賀の提督であった。

船渠(ドック)入りを終えた神風達を連れてきた風雲は、溜息を付いている駆逐艦娘達の1人である沖波に話しかける。

 

「久しぶり、沖波。曙は何に対してブチ切れてるの?」

「あ、風雲姉さん、お久しぶりです。神風さん達も。ええっと………提督、すみませんが………。」

「ああ、部屋の外で説明してやれ。横須賀の奴には悪いが、しばらく曙は叫ばせてやった方がいい。」

 

許可を貰った沖波は一旦風雲達を連れて外に出る。

外には先に話を聞いた霰も一緒に出てきていた。

 

「木曾さんからは、早霜の艦隊が何か関係しているって聞いたけど………。」

「はい。早ちゃんと秋ちゃんの艦隊には、4人の駆逐艦娘が入ります。」

「その4人の艦娘が問題なの?」

「そうです。」

 

沖波は如何にも言いにくそうに幌筵の提督から伝えられた事を説明する。

 

「上層部の人達は早ちゃん達の艦隊に、「練度の低いワケ有りの艦娘を使え」という指示を出したらしいです。」

「その言い方が既に艦娘を「物」扱いしてるわよね………。で?」

「風雲姉さん………というか、神風さん達には非常に申し訳無いのですが………。」

「あ、何か分かってきた気がする。」

 

沖波が話題を神風達に振った事で、神風が何かを悟る。

神風達と共通している特徴がある、ワケ有りの艦娘という事は………。

 

「そうです。奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘達をいきなり4人も編成する事になって………。その中に曙さんが一度沈む前にお世話になっていた先輩も混じっているんです。」

「あー、分かったわ。ちょっと私も電話借りてきていい?」

「風雲………私も無関係じゃないし………気持ちは分かるけど………それだけじゃない………。」

「まだあるの?」

 

霰の言葉に風雲の顔がみるみるうちに渋っていく。

いきなりトラウマ持ちの艦娘を大量に実戦に組み込まれた時の旗艦の大変さと、その艦娘達の葛藤は、風雲達がイヤという程分かっている。

だからこそ、曙が抗議したくなる気持ちも理解できたのだが………。

 

「一時的に付けられた艦隊名が問題なんです。姉さんの艦隊は「第五駆逐隊」。大湊からの艦隊は「大湊防衛隊」。横須賀からの主力艦隊は「決戦艦隊」と上層部の指示で決まりました。」

「………早霜の奪還(ドロップ)艦隊は?」

「その………「屑鉄(スクラップ)艦隊」です。」

「よし!みんな!この作戦終わったら上層部に魚雷撃ち込みに行くわよ!!」

「ね、姉さん落ち着いて!?」

「奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘達の気持ちを考えた事があるの!?艦隊名といい、ふざけるのもいい加減にして欲しいわ!」

 

暴れかねない勢いの風雲を何とか制しながら沖波は更に伝える。

 

「勿論、横須賀の提督は抗議したんですよ?電話から聞こえてきた声だとクソ上層部って毒を吐いてましたし………。でも………。」

「分かってるわよ………他の艦娘に迷惑が掛かるから迂闊に動けないって………。ゴメンね、神風、朝風、春風、松風、旗風………。」

「ううん、私達は風雲のその気持ちだけで十分よ。」

 

文字通り身を挺して彼女達の尊厳を守ってくれる嚮導が風雲なのだ。

だからこそ、神風達は彼女を慕っている。

それが彼女達の絆という名の力と化していたのだ。

 

「でも………早霜と秋霜は苦労を強いられる………。激戦になるのは間違いないから………私達でカバーをしてあげたい………。」

「そうですね………あ、終わったみたいです。」

 

沖波が振り向くと、叫び疲れた様子の曙と、一緒に大湊からやって来た村雨、大潮、響が立っていた。

 

「村雨さん、大潮さん、響さん………それに曙さんも、相変わらず妹がお世話になっています。」

「ああ、こっちも学ぶ事は多いから助かるわ。………で、肝心のクソ提督も内心かなり沸騰してたみたいだから、特別に許してあげたわよ。」

「最後の方は、曙さんに対して怒鳴り返していたからねぇ。内心結構、ストレス溜まってるのかも。」

「大潮、その屑鉄(スクラップ)っていう艦隊名を変更するのもいいんじゃいかなって思うんです。現場判断でそこら辺は自由に決めていいのでは無いでしょうか?」

「名案だ。ならば、深海から戻ってきてまで復帰してくれた彼女達の力強さを讃えた名前はどうだい?いい名前があるんだ。」

「私もいいと思います。幌筵の司令官に相談してみましょう!」

 

そう言って霰も含め、大湊防衛隊の6人は再び執務室に入っていく。

後ろ姿を見送りながら、深海棲艦の強さと合わせ本当に大変な事になってきたかもしれないと風雲は思った。

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