燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

49 / 83
第49話 秋霜~屑鉄と不死鳥~

その頃、横須賀から幌筵に向かう12人の艦娘達は、提督の計らいで船をチャーターして貰っていた。

というのも、普通に艤装を付けて航行していくと戦艦である武蔵の燃料等の消耗が激しいからだ。

その為、決戦艦隊と名付けられた面々は船の中で自分の武装を念入りに手入れしていた。

だが、屑鉄(スクラップ)艦隊と不名誉な仇名を上層部に付けられた早霜の駆逐隊は違う。

深海棲艦の活動が活発である為、夕日が沈んだ大湊から6人全員が周辺の警戒を行う事になっていた。

ここら辺は、コストの安い駆逐艦ならではの仕事とも言える。

 

「各自、潜水艦の潜望鏡には要注意を………。」

 

早霜は各艦娘達に指示を出すと、こっそり隊内無線のチャンネルを夕雲型の物に切り替える。

これで、最後尾の秋霜と船内の清霜だけに聞こえるはずだ。

 

「清霜さん………睦月さんは?」

「相変わらず膝を抱えて俯いてる。きっと如月ちゃんの事考えてるんだろうな………。」

「だろうねぇ………。司令官の言葉を聞いてる時も、ずっと俯いてたし。」

 

奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘を屑鉄(スクラップ)と罵る上層部の存在は、分かっていても睦月に影を落とす。

彼女は、今は顔を合わせにくいとはいえ如月という親友がいるのだ。

その親友を侮辱されれば誰だって暗い感情に支配されるだろう。

長波からの手紙で睦月と如月と古鷹の関係性を知っていた早霜、秋霜、清霜の3人はいたたまれない想いを抱えていた。

 

「うちだったらガツーンとその上層部に砲を撃ち込むけどねー?」

「気持ちはどの艦娘も一緒よ………。実際に、長月さんや深雪さんとかも抗議したって聞くし。」

「早霜姉さん達の方はどう?その………不名誉な烙印を押されてしまった人達は………。」

「士気は相当低いし、正直練度も私達より下ね………。冬の海の航行は問題無いけれど、潜水艦の存在にビクビクしている艦娘が多いわ………。」

 

どうやら艦の記憶の都合で潜水艦にトラウマを持っている者が多いらしい。

横目で敵艦だけでなく艦隊の様子も確認していた早霜は、清霜に睦月を任せ再び隊内無線に変える。

 

「こちら旗艦早霜………異常は無いわ。みんなも何かあったら遠慮なく言って。笑いが欲しければ秋霜さんに………ね。」

「はやはや!?なんかうち、お笑い担当ってイメージ持ってない!?」

 

せめて艦隊の雰囲気を明るくしようと秋霜と即興のギャグを言ってみせるが艦隊からの反応は無い。

皆、敵と遭遇するかもしれないという緊張感と、自身に貼られたレッテルに対するモチベーションの低下から余裕が無いのだ。

早霜は軽くため息を付くと、順番に話しかけていく。

 

「水無月さん………上層部の言葉なんて気にする事は無いわ。単純にあの人達は現場が分かって無いのよ。」

「そうだけどさ………水無月は分かるんだ。二十二駆逐隊のみんなよりもかなり練度が足りていないって。」

 

青色のショートカットの髪を持つ艦娘は睦月型6番艦の水無月だ。

春の合同演習で第十四駆逐隊の長月や皐月を応援していた艦娘で、文月と共に二十二駆逐隊を結成している。

だが、実はこの水無月も奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘であり、明るさの影には暗い心を持っていた。

 

「水無月は………さっちんやふみちゃん、ながながに追い付けるのかな………。」

「それは、今後の努力次第だと思うわ。」

 

同じ隊の仲間の背中を追いかける葛藤を抱えているのは、長波の手紙にあった朧の存在を思い起こさせると早霜は思った。

自分の練度が一番低いという劣等感は、どうしても迷いや焦りに繋がりやすくスランプにも繋がりやすいのだ。

早霜は危なさがあると思いながらも、次の艦娘に話を振る。

 

「薄雲さん………潜水艦は不意打ちに対処出来ればそこまで怖くは無い。」

「そうですね。でも………やっぱり自信が持てないです。」

 

銀灰色の髪色を持つのは吹雪型7番艦薄雲。

夏に朝潮や巻雲達が奪還(ドロップ)した艦娘で、どうやら曙や潮、それに深雪と比較的同期であるらしい。

そんな彼女も深海に沈んでいた期間の長さから、彼女達に練度で大きく差を付けられていた。

それが自信の無さに繋がっている。

 

「幌筵に行けば、曙ちゃんに会えるんですよね。気づいたら改二になってたもんなぁ………。」

「改二だけが全てじゃないわ。私達もまだだから。」

 

何とか話をネガティブにしないように気を付けながらも、浦島太郎のような気分を味わっている薄雲の感情を早霜は否定しなかった。

薄雲達はまだ擬似改二も使えない為、憧れの気持ちが強いのは当然だと思ったからだ。

 

「夕雲型は凄いですよね。大湊での沖波さんの話、ビックリしました。海防艦娘達の誇りなんですね。」

「岸波姉さんから聞いたけれど、曙さんも狭霧さんの事………誇りに思ってますよ?」

 

自分から話しかけてきたのは美しい銀髪のロングの艦娘である綾波型6番艦狭霧。

曙達の先輩に当たり、彼女達は知らなかったが幌筵でクソ提督連呼の電話コールの原因になっている娘である。

彼女が奪還(ドロップ)されたのは秋で、曙や岸波達が秋刀魚漁をしている際に起こった襲撃での出来事であった。

若干先輩というだけあって、大人びた感じを持っておりお洒落にも気を配っている所があった。

 

「でも、曙ちゃんも潮ちゃんも私や天霧さんが戻ってきた時は、もう本当に強くなっていて………。」

「それは陽炎さんとかのお陰だから、彼女達にお礼を言った方がいいと思うわ。」

 

しかし、そんな狭霧もいつの間にか後輩達に抜かされて大きく練度に差を付けられていたとなれば、ネガティブにはなる。

今は駆逐艦娘としての悔しさよりも、やるせなさや悲しさの方が勝っているのかもしれない。

 

「幌筵には村雨さんもいるんですよね。私の姿を見たら、どう思うんだろう………。」

「峯雲さん………大丈夫。村雨さんは峯雲さんの事を否定しないわ。」

 

最後に呟いたのはツインの三つ編みと豊満な胸部装甲が特徴的な朝潮型8番艦の峯雲。

村雨と縁が深く、大潮の妹で霰の姉であるのが特徴だ。

奪還(ドロップ)で戻ってきて艦娘に再度なったのは最近であるらしく、村雨に対面する不安を持っていた。

無理も無いだろう………只でさえ異端の存在なのに屑鉄のレッテルを貼られているのだから。

 

「村雨さんだけじゃない………大潮さんや霰さんも………。」

「落ち着いて、峯雲さん………注意力が散漫になってるわ。」

 

不安から頭を抱えそうになる峯雲が視界に入ったので注意をする早霜。

とはいえ、この状態の艦娘達の心を立ち直らせるのは大変だと考えていた。

 

(試練になりそうね………。姉さん達は本当に凄いわ。)

 

早霜は心の中で、悩みを抱える艦娘達の旗艦を務める風雲や長波の事を心から尊敬していた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃、船の中で、武蔵、加賀、瑞鶴、睦月、菊月、清霜の決戦艦隊も何とも微妙な気分になっていた。

睦月がずっと膝を抱えたままだからだ。

清霜が何度かお茶を渡そうとするが、彼女は首を振って断るばかりだ。

そんな中、ふと武蔵が呟く。

 

「私は、横須賀で整備をする前はタウイタウイにいた。」

 

その言葉に睦月は思わず顔を上げる。

タウイタウイ泊地は如月と古鷹が転籍した所だったからだ。

 

「そこでよく古鷹や如月に練度向上に付き合ってくれと頼まれた。特に古鷹には何度も演習を頼まれてな。こちらも何度も模擬弾で吹き飛ばしてしまったが、屈する事は決してなかった。」

「……………。」

 

睦月は顔を上げたまま武蔵を見る。

武蔵はそれに構わず話し続ける。

 

「2人に何故そこまで強さを求めるのか聞いたら、自分の弱さを克服したいからだと言っていた。強くなりたかったのだろうな………もう失わない為に。」

「如月ちゃん………古鷹さん………。」

「まあ、秋以降は皐月や潮、それに長波を含めた第二十五駆逐艦隊の皆にもせがまれて大変だったが。」

「長波姉さん達も武蔵さんに挑んでいたの!?」

 

思わずビックリする清霜の言葉に武蔵は笑う。

豪快な女傑は少しだけ寂しい顔をする。

 

「誰だって強くなりたいんだ。弱い自分を見せない為に。だから私は弱い自分を知った上でそれを克服しようとする艦娘が好きだ。」

「弱い自分を………。」

「そういう意味では大湊で聞いた沖波と海防艦娘達の話は好きだな。幌筵に行くのが余計に楽しみになった。」

「あ、私も妹として嬉しくなりました!姉さん達が奮起していると、私も頑張ろうって思えますし!」

「……………。」

 

武蔵の話に目を輝かせる清霜に対し、睦月は何かを考えている様子であった。

そちらに様子をチラリと見た清霜は改めてお茶を勧める。

 

「睦月ちゃん、私達も頑張ろう!幌筵で頑張れば戦艦になれるかも!?」

「ぇ………睦月、戦艦になる気はないけど………。」

「姉貴が戦艦になったら自慢の缶が無駄になるだろう。」

 

そうツッコんだのは、天龍から譲って貰った刀を磨いている菊月。

彼女の隣では、興味深そうに瑞鶴がその刀身を眺めており、加賀が静かに粗茶を飲んでいた。

 

「自分の武器を最大限に活かす。それが駆逐艦流だ。」

「最近の駆逐艦って近接用の得物を持つのが流行りなのかしら………?ってわ!?」

「警報………深海棲艦?」

 

突如ブレーキを掛けた船の振動を受けて、加賀が弓を持って立ち上がった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

船の前では、早霜達が右往左往していた。

普通の深海棲艦の敵襲ならばまだいいのだが、現れたのが潜水艦フラッグシップ級のカ級が6隻なのだ。

早霜や秋霜はともかく、潜水艦や暗い海域にトラウマのある4人の艦娘達は上手く対処ができず、単横陣になりながらも爆雷を適当に放り投げるだけだった。

 

「落ち着いて………!下手に爆雷を使っても相手に有利になるだけだから。」

「そ、そう言っても………!?」

「はやはや!これじゃあ、こっちも迎撃が難しいよ!どうするの!?」

 

上手く味方の爆雷の爆発の影に身を隠す敵の潜水艦達を前に、秋霜も悲鳴を上げる。

このまま魚雷を撃たれたら船が危ない。

 

「こうなったら………。」

「攻撃停止して下さい!私が対処します!」

「この声………!?沖波姉さん………!?」

 

声に反応してみれば、探照灯を構えた沖波が改二状態で前から向かってきていた。

敵潜水艦は思わず反転して単横陣で6隻全てが魚雷を放つが、沖波は上手く右に急カーブして躱すとそのまま左に回頭しつつ、敵潜水艦の上から爆雷を1個ずつ、計6個を順に放り投げていく。

次々と起こる爆発を受けて、髪の毛の束が6つ見事に浮かんできた。

 

「沖波姉さん、いつの間にそんなに対潜水艦戦に強くなったの?」

「ちょっとした特訓で………とにかく迎えに来たよ、早ちゃん、秋ちゃん、清ちゃん。」

 

海戦後にも拘らず落ち着いた様子の沖波の見違えた姿に若干驚きながらも、早霜は敬礼をする。

姉妹艦とはいえ、ちゃんと挨拶はしないといけなかったからだ。

 

「えっと屑鉄………モゴ?」

「ゴメンね。その名前、幌筵の司令官に頼んで変えて貰ったんだ。」

 

沖波に口を塞がれた事で、早霜を始め、秋霜、水無月、薄雲、狭霧、峯雲が首を傾げる。

彼女は笑顔で敬礼のポーズを取ると言う。

 

「決戦艦隊の皆さん、それに不死鳥(フェニックス)艦隊の皆さん、よく幌筵に来てくれました!ここから先は私達が案内します!」

『不死鳥(フェニックス)!?』

 

屑鉄(スクラップ)改め不死鳥(フェニックス)艦隊の面々は急な言葉に驚かされる。

そこに、5人の艦娘が後から続いてきて並んだ。

 

「今はヴェールヌイだが、響だ。不死鳥艦隊という名は私が付けたが派手だったかな?」

「曙よ。久しぶりね、薄雲。狭霧先輩も久々に会えて嬉しいです!」

「村雨も峯雲さんにまた会えて本当に良かった♪」

「大潮もまた、峯雲の顔が見られて嬉しいです!」

「霰です、んちゃ。私も………峯雲姉さん………お帰りなさい。」

 

各自がそう敬礼をすると、答礼を待たず、真っ先に村雨が峯雲を引っ張っていく。

更に曙が狭霧を、大潮が薄雲を、霰が水無月を同様に連れて行った。

残ったヴェールヌイは沖波と共に早霜と秋霜に言った。

 

「戸惑いはあるかもしれないが………屑鉄よりは数段良い名前だと思わないか?」

「ヴェールヌイさん………。」

「うち、ちょっと気に入ったかも!」

「じゃあ、船と一緒に追いかけましょう!もうすぐ幌筵泊地です!」

 

沖波を筆頭に、船を導いていくヴェールヌイと早霜と秋霜。

その様子を艦橋に出て見ていた武蔵は、清霜に連れられて来ていた睦月に言う。

 

「上はともかく、誇り高い艦娘達は分かってくれているみたいだな。」

「みんな………。」

「大丈夫よ、睦月ちゃん。沖波姉さん達は勿論、風雲姉さん達も理解してくれてるから。だから………本当に頑張りましょ!」

「うん………そうだね………うん………。」

 

思わず涙を流す睦月を、清霜は慰めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。