燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第5話 風雲~まだ弱いからこそ~

その日の合同演習は滞りなく行われ、無事に終了した。

特別演習に参加する事になった陽炎達は、付き合わされる事になった高雄と愛宕を交え、間宮の羊羹を提督からご馳走になったらしい。

一方で、夕雲達は、風雲の件もあってやはり浮かばれなかった。

それでも反省会はしないといけない。

夕食の後、また風呂に入る前に残って演習に参加した風雲・長波・岸波・朝霜・早霜を集めた夕雲は、本日の反省点に付いて纏める事にした。

とはいえ………。

 

『……………。』

「………ですよね。」

 

無言になる面々の姿に夕雲も溜息を付く。

何が悪かったかと言えば、全てだ。

だからこそ、どうしても空気が重くなる。

しかし、そこに………。

 

「やっほー!ちゃんと反省会するなんて、やっぱりしっかりしてるわね!」

「か、陽炎さん!?」

 

声の主を見て、夕雲は思わず振り向く。

そこには陽炎と曙と潮が立っていた。

 

「あ、あの一体何を………?」

「横須賀に来て初めての演習、色々と大変だったでしょ?そのご褒美って言ったら何だけど、高雄さんと愛宕さんにお願いして、間宮の羊羹分けて貰ったのよ!6人にあげるわ!」

「ほ、本当………?」

 

思わず大人しいはずの早霜が目を輝かせる。

それだけ間宮の羊羹は絶品なのだ。

ここら辺の気遣いは陽炎型のネームシップならではだろうか?

 

「後、曙が料理した秋刀魚の塩焼きがあるから食べてって。」

「曙さんが料理した………?」

 

岸波が首を傾げる中で曙が黙って差し出す。

それを一口食べた岸波に………電流が走った。

 

「こ、この魂に直撃する味は………!これが秋刀魚!?塩味も丁度いい!?美味しいっ!!」

「マジか!?あたいにも食べさせてくれ!」

「ちゃんと全員分あるから、そんな焦らなくてもいいわよ。」

「流石曙先輩!………いえ、ぼの先輩!!」

「あ、アンタ………ある意味素直で分かりやすいわね………。」

 

早霜以上に目をキラキラと輝かせる岸波の姿を見て、これが演習中に燃えるような視線を向けた艦娘と同一人物なのかと曙は感じ、思わず引いてしまう。

こうして、テーブルの上には少し豪華な夜食が並べられた。

 

(こういう気遣いがネームシップの力量なのね………。)

 

明るくなった雰囲気を見て、夕雲は陽炎の差し入れに感心して同時に感謝した。

同じ事を長波も思ったのか、間宮の羊羹を頬張りながら言う。

 

「しっかし、本当に陽炎さん達って凄いよな~。営倉入りになった件も、駆逐棲姫を沈めたんだろ?」

「え?沈めたのは飛行場姫だけど?」

『もがっ!?』

 

その陽炎の言葉に思わず夕雲達全員が喉に夜食を詰まらせそうになる。

飛行場姫は駆逐棲姫の数倍は強いと言われている。

その凶悪な姫クラスを駆逐艦娘だけで沈めたという事は………。

 

「ど、どうやったんですか………?」

「まあ、そこは魚雷中心に色々とね。凶悪な深海棲艦が出てくると天候が悪くなるから、小柄な駆逐艦は荒れ狂う波に隠れてむしろ戦いやすいのよ。」

 

恐る恐る紡いだ風雲の質問に、陽炎は首を傾げながら答える。

その姿に頭を抱える曙と、苦笑する潮。

 

「これが………歴戦の駆逐艦の力か………。」

 

昼間の事を思い出したのか、俯きながら言葉を紡ぐ風雲に対し、陽炎は夕雲と見比べながら言う。

 

「………ねえ、アンタ達。私が強いと思ってない?」

「それは勿論………改二にもなれますし………。」

「悪いけど、私、そんな強くないわよ?」

『え!?』

 

視線を集中させた夕雲型に対し、陽炎は白手袋に包まれた自分の手を見ながら言う。

 

「勿論、弱いとは言わないわよ?でも、改二の力は全ての目覚めた艦娘に平等に与えられるわけじゃないのよ。陽炎型だと、不知火や黒潮、親潮とかは私に出来ない事が出来るし、雪風に至っては、とんでもない「切り札」を持っているもの。私にあるのはちょっとした程度のリーダーシップだけ。」

 

そして風雲の顔を見ながら言う。

 

「だから………ってわけでも無いけれど、長月の気持ち、少しは分かるのよ。力になれない駆逐艦程辛い物は無いし、その分、全力で第十四駆逐隊に尽くそうとする彼女の意見は尊重してあげたいのよね。」

 

それが、昼間の風雲の質問に対する陽炎の答えだった。

彼女は隣の自分より背の低い曙の肩を強引に寄せながら言う。

 

「曙も、実はつい最近まで改二になれなかったのよ?だから、その悔しさはイヤという程味わっていたのよね。」

「あ、アタシは関係無いでしょ!?………でもまあ、第十四駆逐隊で潮が最初に改二になった時は遠い存在になったとは思ったけど。」

「私は曙ちゃんを見捨てません!ずっと一緒です!!」

「あー、こら!純粋な目で見つめてくるな!調子狂う!!」

 

これは時雨が言っていた事だが、改二に目覚める瞬間っていうのは、天啓に似たような物であるらしく、事前に可能かどうかは分からないらしい。

とにかくどの艦娘も、その瞬間を信じて練度を上げていくしか無いのだ。

 

「もどかしいですね………。」

「まあ、改二に拘らない方がいいかもね。昼間の長月みたいに、割り切ろうとする艦娘もいるし。」

「そういえば………。」

 

風雲がここで改めて見渡す。

長月、皐月、霰の姿が見当たらない。

彼女達はどうしたのだろうか?

 

「3人は先にお風呂に入って、横須賀の岬に散歩に行っていますよ?まだ就寝時間まで時間はありますし、今日の当直は私ですから、お風呂に入ったら行ってみたらどうですか?」

 

潮のその言葉に、食事を終えた風雲は立ち上がると先に行くと言って、陽炎達にお礼を言うと、風呂場に向かう。

夕雲も同様に陽炎達にお礼の挨拶をし、長波と岸波に反省会を引き継いで貰えるようにお願いすると、風雲を追った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

長月達は、潮の言う通り、夜風が靡く横須賀の岬に3人並んで座っていた。

その日の天気は星空が見えており、気分が良かった。

夜釣りとかを楽しんでいるわけでもなく、本当に世間話をしている様子であった。

夕雲は風雲を追って、その3人の所に来ると、対応を待った。

 

「あの………長月さん。」

「なんだ?」

 

気付いていたのだろう、長月達は立ち上がると風雲を見る。

風雲は長月に対して改めて敬礼をする。

 

「昼間はありがとうございました。」

「私が何か特別な事をしたか?」

「長月さんがフォローをしてくれなければ………、私、みんなに叩かれていました。特に睦月型の人々には失礼な事を言って………。」

 

新米駆逐艦が、歴戦のエース達の戦い方に文句を付けたのだ。

普通は力も無いのに生意気な奴だと思われるだろう。

しかし、長月がそれを上手くフォローしてくれた。

彼女がいなければ、風雲は今頃どうなっていたか………。

 

「それ位で腹を立てる駆逐艦娘はいないさ。私達はむしろ、ちゃんと自分の意見を貫き通せる駆逐艦の方が好ましいがな。」

「真面目な長月がそんな事言うなんて、多分陽炎の影響………。」

「否定はしない。」

 

霰の言葉に笑みを浮かべた長月に対し、風雲は敬礼の姿勢を崩さないまま言う。

 

「そうじゃなくても、私は正直、睦月型を侮っていました。私が最新鋭の駆逐艦である夕雲型の適性があると聞いた時、いずれは主力にならなければならないと思っていました。でも………思い上がりでしたね。」

「思い上がる位が丁度いい。誇りは誰しも胸に秘めなければ成長に繋がらないからな。だが、今回の演習を、自分の糧に出来たのならば、司令官の思惑も上手くいっただろう。」

「提督の思惑………ですか?」

 

今まで風雲の動向を見守っていた夕雲が問う。

それに対し、皐月が呆れた様子で言う。

 

「陽炎と長月ったら、間宮で奢って貰った時にどうしてこんな事を企んだか司令官に問いただしたんだよ。練度の違い過ぎる駆逐艦と戦わせて、その後に改二の演習を見せつけて………自信喪失したらどうするんだって。」

「………提督の答えは?」

「夕雲型は、その程度で自信喪失する駆逐艦娘じゃないって。だけど、最初だからこそ目指すべき指針は示しておくべきだって言ったんだ。」

「多分、改二の力とか………長月の姿勢とか………そこら辺だと思う………。」

 

皐月の言葉を霰が引き継ぎ、夕雲達に説明する。

確かにそう言われたら、納得が出来ると夕雲達は思った。

風雲だけでなく、少なくとも夕雲も………多分、他の夕雲型艦娘も、自分達は次期主力だと心のどこかで思っていたはずだ。

提督はその驕りを一度壊して貰って、性能では劣るが練度では勝る、周りの駆逐艦娘達の姿勢を見て欲しいと思ったのかもしれない。

 

「大変、勉強になりました。」

 

夕雲は風雲と同じく敬礼をすると、長月達3人も同じように答礼をする。

 

「次期主力なのは本当の話だ。君達が成長すれば、それだけ他の駆逐艦娘達の負担も楽になる。明日からは残りの夕雲型の面々も含め、厳しく行くぞ。」

『宜しくお願いします!』

 

ハキハキと挨拶をして、風雲と共に駆逐艦寮へと戻る夕雲。

そこで、おや?と1つ気になる事があり、風雲に聞く。

 

「長月さん………あの言い方だと………。」

「あ!もしかして………。」

 

もしや明日からは………と夕雲達は思った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「どうして間宮の羊羹を残してくれなかったんですかぁ!?」

「ご、ごめんなさい巻雲さん。でも、今回の演習に果敢に挑んだ事に対する報酬ですから………。」

 

次の日、夜食として6人で間宮の羊羹と秋刀魚の塩焼きを美味しく食べた事を伝えられた巻雲は、涙目で夕雲に訴えていた。

夕雲型駆逐艦娘達は、陽炎型である秋雲も含め朝食を食べた後、艤装を装着して昨日の演習場に集合するように秘書艦である五月雨から通達された。

そこで、しばらく彼女達の「嚮導」となる艦娘と合流し、練度を高める事になっていたのだ。

 

「だ、誰が嚮導になるのでしょうか!?巻雲は今から心臓が飛び出しそうです!」

「そうですね………その内の一人は、予測は付きますが………。」

「はい?」

 

頭に疑問符を浮かべる巻雲を他所に、夕雲と風雲はお互い笑みを浮かべる。

そうこうしている内に、20人近くいる夕雲型艦娘達は演習場に辿り着いた。

五月雨に伝えられた時間の15分前には集合していたが、既にその嚮導達は待っていた。

 

「遅くなりました、申し訳ありません。」

「いや、私達も今来た所だ。時間前行動を心掛けるのはいい事だな。」

 

代表して敬礼をする夕雲に対して、そこで真ん中で腕を組みながら立っていた彼女と同じ色の髪を持つ艦娘は答礼で応える。

それは、第十四駆逐隊所属であり、昨日、夕雲と風雲と夜に会話をした長月であった。

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