燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第50話 水無月~集う艦隊~

幌筵に着いた武蔵率いる決戦艦隊と早霜率いる不死鳥艦隊は、沖波達の大湊防衛隊に連れられる。

艤装を自動でロックが掛かる近未来的な装備品保管庫に置いたら庁舎に入り、執務室へと踏み入る事になった。

流石にその執務室はそれなりに広く、全員が入る事ができたが、そこで誰もが驚く事になる。

中には簡素だがテーブルに料理が多数並べてあり、奥の方では幌筵の提督と秘書艦阿武隈、そして木曾とまるゆがワイングラスを持って立っていた。

その右横には同じように風雲率いる第五駆逐隊が立っており、18人の艦娘達にもグラスを持つように勧める。

 

「これ………風雲姉さん達が作ってくれたんですか?」

「主に神風達よ。私が作ろうとしたら、悲壮な覚悟だって断られた。」

 

そう肩を落とす風雲だったが、まあとにかく持って………と言うと、全員のグラスにウイスキーを注いでいく。

いきなり盛大な大人の歓迎を受けた事で武蔵のような戦艦はともかく、早霜達のような駆逐艦は戸惑う。

 

「遠慮するな。酒は飲める時に飲んでおけ。明日から作戦開始だからな。」

「あの………司令官。」

「どうした?酒は嫌いか?」

「そうじゃ………無くて………。」

 

ウイスキーを受け取りながらも、自信の無さそうな顔で呟く水無月に、提督は静かに話が出るのを待つ。

彼女は思い切って言った。

 

「良かったの?水無月達の艦隊名、勝手に変えて………。」

 

その事は薄雲、狭霧、峯雲を始めとした面々も気になっていたらしく顔を向ける。

提督は注がれたウイスキーをグラスの中で回しつつ簡素に答える。

 

「横須賀の奴は鎮守府と多数の艦娘を背負っている以上、迂闊な行動は出来ない。だが、俺にあるのはこの北の外れの泊地だけだ。上の機嫌を損なった所で失う物は何もない。」

「で、でも………。」

「仮に艦娘に戻って来たのが上の命令だとしても………だ。再び戦地に赴こうと覚悟を決めた駆逐艦達を屑鉄と評するのは、俺は間違いだと考えている。そこに、響がユーモアある艦隊名を具申してきたから採用しただけだ。」

 

そして、提督はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「それともなんだ?お前達は旗艦を務めてくれている早霜や補佐を務めてくれている秋霜に屑鉄の仲間に入れと言いたいのか?」

「ち、違うって!?そんなのは………!?」

「じゃあ、不死鳥の名前を受け入れろ。………と、そろそろだな。」

 

風雲が全員にウイスキーを注ぎ、自身も神風からグラスを受け取った。

それを見た提督がグラスを掲げる。

武蔵を始めとした艦娘達も、同じように掲げた。

 

「この作戦に集ってくれた事、感謝する。具材の都合で質素な料理しか作れないが………今この時位は、戦いを忘れて楽しんでくれ。」

 

そう言って乾杯の音頭を言った提督に合わせて、皆がグラスをそれぞれぶつけ合い一気にウイスキーを飲み干す。

身体の底が温まるような感覚を早霜達は覚えた。

そして、しばらくの間、艦娘達は貴重な娯楽の時間を楽しむ事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

幌筵泊地は就寝用の寮も小さいので基本は畳部屋で6人の艦娘達がひと固まりになって休む事になる。

その中で決戦艦隊に割り当てられた部屋では、清霜達が会話をしていた。

 

「へー、武蔵さんってタウイタウイの防衛を担当していたんですね。」

「そうだ。パラオの危機の際は、速力の都合から古鷹達に任せる形となったが………普段は決戦艦娘として頼りにされている。」

「タウイタウイには瑞鳳もいるんですよね?普段の演習では彼女に練習機の発艦をお願いしてるんですか?」

 

これは、布団に潜り込んでいた瑞鶴の言葉だ。

タウイタウイは南の前線泊地の1つである為、色々な艦種がいる。

軽空母である瑞鳳は、パラオの危機にも駆け付けて、長波率いる第二十五駆逐隊を助けてくれた事もあった。

 

「防空駆逐艦の秋月と一緒にどちらがより練習機を落とせるか競った事もあったな。色んな艦娘と出会う度に様々な戦い方や想いに感情が揺さぶられた。」

「ふにゃ………それは、如月ちゃん達や望月ちゃんの事も含まれているのですか?」

「勿論だ。」

 

酒を飲んで少し眠そうにしている睦月も聞いてくる。

睦月達と関係の深い如月や古鷹の体験は勿論の事、パラオの提督と悲恋を経験した望月の言葉も考えさせられるものがあったのだろう。

豪快でありながらも、繊細さを持ち合わせる戦艦娘は少しだけ目を伏せ言う。

 

「昼間に沖波達の話に心打たれたと言ったが、それは長波達の話も同様だ。規則を破っても仲間の為に力を振るった駆逐艦娘達の武勇伝はいつ聞いても誇らしい。」

「私も菊月ちゃんから聞いた時はビックリでした!カッコ良かったんだろうなぁ………。」

「実際はボロボロになってそれ所では無かったけれどな。」

 

そう答えるのは、実際に望月を助ける為に一時的に第二十五駆逐隊と共にパラオまで行った菊月。

彼女は相変わらずその時の選別で貰った天龍の刀を真剣に磨いていた。

隣では加賀も同じように弓や矢の手入れをまだ念入りに行っており、明日の戦いに備えていた。

 

「それだけの武勇伝は1人の力だけでは成しえないわ。明日の作戦では、4つの艦隊全ての力が必要になるでしょうね。」

「阿武隈さん達はもしもの時の為の幌筵での防衛ですからね………。辛い戦いになると思うけれど、私達も最善を尽くさないと!」

「にゃは、清霜ちゃんは武蔵さんと一緒に出撃できるのが嬉しいみたいにゃ。」

「当然よ!だって私の目標は戦艦だもん!………そうだ!菊月ちゃん、確か望月ちゃんは戦艦になったんだっけ?」

 

清霜が話しているのは秋にパラオが襲撃された際に、望月が横須賀の装備品保管庫を無理やり破壊していった話の事だ。

あの時は暴走していた為、中から航空戦艦である伊勢の艤装を装着して無理やり砲撃で扉を吹っ飛ばしたのだ。

だが………。

 

「正規の手段じゃないし反動は想像の比ではないぞ。ケッコンカッコカリが出来る程の望月の練度でも、嘔吐や頭痛、意識の混濁等に悩まされたのだからな。」

「私はそこまでしてでも愛を貫いたのは凄いと思うけれどなぁ………。」

「ハハハ、確かにな。だが、止めた方がいいのは事実だ。最悪身体がバラバラになる。」

 

武蔵が最後にしっかり忠告をする。

下手すれば艤装と一体化した身体の機能が正常に作動しなくなるのだ。

故に、艦種を無視した装備は絶対に避けなければならなかった。

 

「今はそれぞれ出来る事をやるべきだ。ソナーや電探による探知、任せたぞ。」

「はい!清霜、頑張ります!」

 

そして、6人は明日に備えて眠る事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、不死鳥艦隊の旗艦である早霜は、部屋の扉を叩かれた事で目を覚ます。

中を見渡してみれば、熟睡している秋霜しかいない。

彼女は秋霜を起こすと扉を叩いてきた人物を見る。

潜水艦娘であるまるゆであった。

 

「どうしたの、まるゆ?水無月達がいないけれどまさか………。」

「はい、岬で座っているのを見ました。話しかけにくい雰囲気だったので、こうして2人を呼んだのです。」

「ありがとう………ちょっと行ってくるわね。」

 

早霜達はまるゆに感謝の言葉を伝えると、言われた通り岬に行き、毛布を被りながら並んで座っている4人を発見する。

 

「あ、早霜………。」

「まだ、納得出来ていないのね。」

「うん………。」

 

真っ先に気づいた水無月の言葉に、敢えてストレートに告げた早霜は、彼女達の横に座る。

秋霜も黙って反対側に座り込むとしばらく海を見つめていた。

北の海は寒く、ウイスキーで温まった身体も凍えそうであった。

 

「風雲姉さんから聞いたわ。神風型の人達は戻ってきた時、抜錨する事すらトラウマだったって。貴女達は………その恐怖を克服しようと必死だったのね。」

「はい………こうして夜間とかに頑張って海面に足を着けて………何とか航行できるようになりました………。」

 

薄雲の言葉に、他の3人も頷く。

一見すれば当たり前の事だが、トラウマを自力で克服しようとするのは想像を絶する努力だ。

それだけに、そんな繊細な艦娘達を雑に扱う上層部に、早霜は怒りの感情しか湧かない。

 

「うーん、ちなみに誰か手伝ってくれたの?」

「水無月は第二十二駆逐隊のみんなが協力してくれたよ?」

「薄雲は、深雪ちゃんにこっそり手伝って貰いました。」

「狭霧は天霧さんに………彼女もその………奪還(ドロップ)組ですから。」

「峯雲は、あっちゃんと山ちゃん………あ!荒潮と山雲に………。」

「へー、みんな色んな艦娘達が協力してくれてるんだね。」

 

そんな中、秋霜が敢えて明るい声で話題を振っていく。

早霜は頭の中を整理しつつ、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「じゃあさ。やっぱり不死鳥って名前、いいんじゃないかな?うち、気に入ってるし!」

「というと………?」

「色んな艦娘達の協力でここまで来られたんだから、屑鉄のままじゃその人達に失礼じゃん!不死鳥艦隊って名前で暴れた方がきっとみんな喜ぶよ?」

「………………。」

「勿論、うちらが理解できない悩みを抱えてるのは分かるよ?でも、生きているんだから今の内に青春を謳歌しないと!艦娘は戦いだけじゃないんだし!」

「秋霜さん………。」

 

話を聞きながら、やはり秋霜はムードメーカー的な面で艦隊を盛り上げる力に長けていると早霜は思う。

そして秋霜は両手を握りしめて立ち上がると言った。

 

「よし、決めた!」

「決めた………とは?」

「全員に愛称付けようって!水無月さんはみなみな、薄雲さんはうすうす、狭霧さんはさぎさぎ、峯雲さんはみねみねで!」

「た、単純過ぎない!?」

「それ、みなみなだけには言われたくないなぁ。」

 

思わずビックリして立ち上がった水無月を見てブーブー口を膨らませて抗議する秋霜。

そんな中、クスリと笑い声が響いた。

狭霧であった。

 

「う、うふふ………あはははははははは………!」

「さ、狭霧さん、大丈夫?」

 

思わず大声で笑い始めた狭霧を見て、思わず薄雲が背中を抑える。

彼女はそのまま泣き笑いに代わり、そして涙が溢れたまま泣き出していた。

 

「ありがとう………秋霜ちゃん………それに、早霜ちゃんも………私達のせいで、不名誉な艦隊に放り込まれたのに………。」

「気にする必要は無いわ………。秋霜さんの能天気さは元々だから。」

「はやはや!?何か辛辣過ぎない!?」

 

早霜も立ち上がり空を見る。

キス島方面は濃い雲が掛かっており、戦艦水鬼がはびこっているのを嫌でも理解できた。

でも、ここには頼もしい艦隊が集っている。

だから………。

 

「安心していいわ。きっとみんなでここに帰ってくるから。」

「そう………ですよね。」

 

早霜の言葉を受けて峯雲も立ち上がる。

擬似改二も使えず、どれだけの戦力になれるか分からず不安も多い。

それでも、深海から戻ってきた事その物が強さなのだ。

 

「こうなったら上に見返してやります!目指すは凱旋です!」

「いいねえ、うちも不死鳥艦隊の凱旋賛成!」

「じゃあ、最後に24人全員の帰還を願って手を合わせましょう。」

 

早霜はそう言うと、手を差し出す。

薄雲と狭霧も立ち上がると、6人が手を合わせた。

 

「勝ちましょう………!この戦いに………!」

『はい!』

 

そして、彼女達は無事に戻ってくる事を誓った。

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