燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第52話 峯雲~奇策~

海戦開始から数時間、ひたすらヲ級改の攻撃機を撃ち落とし戦艦水鬼の攻撃を回避していた第五駆逐隊と大湊防衛隊は、それでも必死に北へと戦艦水鬼を誘導していた。

ある時は爆雷を投げ、ある時は主砲を近距離で撃ち、ある時は魚雷を叩きこんで注意が逸れる事が無いように地道な作業を繰り返しながら………である。

 

「こちら風雲!魚雷全部使用済み!全艦、報告を!」

「神風!こっちの魚雷は後1本よ!」

「朝風よ!一発爆撃貰って、防いだ傘が骨だけのボロボロに………。」

「春風です。電探に傷が入って長距離通信ができなくなりました。」

「松風だよ。右の凹フレームの単装砲が吹き飛んだ。対空機銃は無事。」

「旗風………着物の袖が少し破れて傷つきましたが、まだ戦闘はできます。」

 

各艦の通信を受け風雲が旗風を見ると、確かに攻撃機の魚雷の破片を受けたのか、所々傷が付いていた。

それでも目でまだ戦う意志を見せていた為に、後退の指示は出さないでおく。

 

「沖波の艦隊の方は?」

「少しずつですがダメージが蓄積していってます。主砲の残弾数が少ない人が多いです。」

「そろそろ厳しいわね………。」

 

砲撃の衝撃の余波で、頑丈なはず眼鏡にヒビが入った沖波は、あらかじめ持っていたスペアに取り換えていた。

身体に巻き付けていた爆雷も半分を切っている。

 

「大潮、砲撃ポイントを変更する事はできない?」

「峯雲の話だと、羅針盤の影響を受けるギリギリの所まで来ているらしいです。後少しだから何とかって事で………。」

「改二は使えないし………厄介ね!」

「その割には楽しそうですね、姉さん。」

 

沖波の言葉に風雲は自分が笑っている事に気づく。

こういう逆境を幾度も乗り切る事で自分達は成長できると感じているからだろうか。

実際、風雲達はそうやってこの北の海で成長してきたのだ。

 

「駆逐艦魂が燃えるのかもね。こうなったらギリギリまでとことん勝負しようじゃないの!付き合ってくれるわよね!」

「私が変わったと言いましたけれど、風雲姉さんもかなり変わったと思いますよ?」

 

そう言うと沖波も少し笑みを浮かべて先頭になって深海棲艦の気を引く為に突撃していく。

北の地で強くなった夕雲型の姉妹達はまだまだ気合を見せていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ここがギリギリのポイントだが………どうだ?清霜。」

「周りに異常なし。………前方に少しずつですが、影が見えてきました。」

 

その頃、武蔵達は辺りに岩礁が顔を出している所にまで進んできていた。

ここが羅針盤に狂わされるギリギリ手前の所だ。

そして、武蔵達は前方に黒い影を発見する。

見間違えるはずもない………アレが戦艦水鬼である。

 

「峯雲、こちらからもうすぐ視認出来ると伝えてくれ!」

「はい!………大潮姉さん達も俄然やる気が出たと言っています!」

「砲戦の用意をする。加賀と瑞鶴も艦載機を飛ばす準備をしてくれ!」

「分かりました。」

「いよいよね!」

 

決戦艦隊の主力3人がそれぞれの武器を構える。

もう少し………もうちょっとで射程に入るが………。

 

「っ!?ソナーに探知!フラッグシップのカ級が単横陣で6隻来ました!」

「そう甘くは無いか!?すまんが迎撃してくれ!」

「分かりました!早霜姉さん!後詰めは任せます!」

 

水中への攻撃手段を持たない武蔵達は、駆逐艦娘達に指示を出す。

フラッグシップ級は先制で魚雷を撃ってくると分かっていた清霜は、不死鳥艦隊の前に出ると爆雷をばら撒く。

直後に6本の魚雷が発射され、爆雷と相殺されて水柱が上がる。

 

「爆雷投射………!1人1隻倒して!」

『はい!』

 

更に早霜の指示で、水無月、薄雲、狭霧、峯雲、秋霜がそれぞれ単横陣に並び、一斉に爆雷を放り投げる。

爆雷は的確に水中に沈み、こちらに迫っていたカ級達を次々に撃沈していった。

 

「やーった!私達でも落ち着けば………!」

「待って!?何か大量に浮かんでくる!?」

「え?」

 

喜ぶ峯雲に対し、反転した清霜が不死鳥艦隊の間を抜けながら更に爆雷をばら撒く。

しかし、その影はまるで爆雷を避けるようにどんどん大きくなり………。

 

「ぐぅっ!?」

 

最初に叫んだのは武蔵。

何と彼女の脇腹に敵駆逐艦よりも更に小さい角と脚の生えた物が噛みついていた。

更にどんどんそれが水中から飛び出して武蔵だけじゃなく加賀や瑞鶴にも襲い掛かる。

 

「キャハハハハハ!」

「コイツ等は………小鬼群か!?」

「小鬼!?」

「そうだ!小さい身体で魚雷や砲撃を繰り広げるが………ぐあっ!?」

「武蔵さん!?」

 

武蔵の脇腹が鋭利な牙で抉られ血が噴き出す。

思わず膝をつく彼女に群がる小鬼を撃ち落とそうと清霜は動こうとするが、中々射角が合わない。

下手をしたら武蔵を砲撃してしまう。

同じ理由で不死鳥艦隊の面々も上手く動けなかった。

 

「キャハハ!キャハハ!」

「ちょっと弓矢と飛行甲板を狙うな!スペアを………って弦切られてる!?」

「確実に戦闘能力を奪う為に………!?」

 

瑞鶴と加賀は頑丈な弓道着がある為に出血はしなかったが、弓矢等があっという間にダメになる。

とにかく1匹1匹撃ち落とそうと清霜は動くが、突如その動きが鈍る。

 

「な、何!?」

「清霜ちゃん、艤装が!?」

 

睦月の忠告に振り向いてみれば、背中の艤装が噛みつかれており、爆発を起こしていた。

小鬼はそれで吹き飛ぶが、出力が無くなり動けなくなる。

 

「動くな!私が全部斬り落とす!」

 

そんな中、天龍譲りの刀を持った菊月だけが自由に動いて決戦艦隊に降りかかる小鬼達を次々と斬り裂いていく。

だが、清霜は気づく。

最後に残った1匹が蹲る武蔵を正面から狙って飛びつこうとしていたのを。

 

「武蔵さん!避けてっ!!」

「っ!?」

 

警告は間に合わなかった。

武蔵は回避ができず、その左胸を………。

 

ガブッ!!

 

「う………あ………。」

 

皆は驚く。

その武蔵の前で両腕を広げて庇った存在を。

睦月が仁王立ちをして武蔵への凶刃を防いでいた。

だが、その腹に鋭利な牙が喰いついて………。

 

「姉貴!」

 

菊月が慌てて最後の小鬼を斬り捨てるが、睦月の腹から血が噴き出し倒れる。

 

「む………睦月!?」

「睦月ちゃん!?」

「姉貴!しっかりしろ!」

 

慌てて武蔵が睦月の元に行こうとするが、力が入らず倒れそうになり加賀と瑞鶴に艤装を支えられ近くの岩礁へと運ばれる。

睦月は菊月が何とか起こして同じ場所へ。

艤装が壊れた清霜も早霜達が連れていく。

 

「これ………どうしよ………。」

 

思わず秋霜が真っ青な顔をして言う。

敵潜水艦の狙いは魚雷では無く、至近距離まで小鬼群を運び決戦艦隊を無力化する事であった。

そして、その目論見が成功してしまった。

峯雲の電探から更に厄介な言葉が聞こえてくる。

 

「こちら風雲!旗風が中破した!砲撃はまだ出来ない!?」

「沖波です!ヲ級改の顔色が変わりました!戦艦水鬼も急に暴れ出して………!?」

「じ、実は………。」

「貸して………!」

 

真っ青になっている峯雲に代わって早霜が電探で状況を伝える。

武蔵が負傷して砲撃できる状態で無い事。

加賀と瑞鶴の武装が破壊された事。

清霜の艤装が壊された事。

そして………睦月が重傷を負った事。

 

「……………。」

 

しばらく通信先の声が途絶えた。

そして、風雲の声が聞こえてきた。

 

「作戦中止。不死鳥艦隊は、全員で決戦艦隊の面々を連れて帰って。」

「待って………。風雲姉さん達は?」

「改二を使って時間を稼ぐわ。残念だけど急いで逃げられるだけの燃料は残って無いから、逃げ切るのは無理ね。」

「そんな………!?」

 

衝撃的な言葉に秋霜を始めとした面々が今度こそ固まる。

だが、そこに沖波も言葉を重ねてくる。

 

「何とか12人だけでも逃げ切って下さい。最悪、武蔵さんと加賀さんと瑞鶴さんがいれば、また作戦は実行できます。」

「でも………。」

「作戦は………続行だ………!」

 

声に振り向いてみれば、腹からドクドクと血を流しながら武蔵が身体をスパークさせて改二になっていた。

だが、それでもすぐに光は消えて元に戻ってしまう。

この状態では正確な砲撃等、出来はしないだろう。

一方、睦月の方も呆然と空を見つめていた。

 

「睦月………何故私を庇った………!私を庇ったばかりに………!」

「………何でだろう?何も考えてなかったなぁ………只、誰かが沈むのがイヤで………。」

 

睦月は口からも血を出しながら乾いた笑みを浮かべる。

 

「これじゃ、如月ちゃんの事言えないよね………。睦月、バチが当たったのかなぁ………。」

「何故………バチが当たる!?私を庇ったんだぞ!?これでは………!」

「ね、ねえ早霜ちゃん………。」

「はい………!」

 

呼ばれた事で早霜は急いでやってくる。

睦月は早霜を見て無かったが、笑みを浮かべたまま言う。

 

「悪いんだけど………早霜ちゃんの口から………如月ちゃんと古鷹さんに謝ってくれない………かな?睦月は………2人をずっと傷つけてばかりで………ゴメンって………。」

「睦月さん………!しっかりして………!それは自分の口で言わないと………!」

「ヤバイよ!早く手当しないと!」

 

隣で秋霜や菊月が応急処置を施そうとするが、出血がひどすぎてどうしようもない。

その状態を、清霜は茫然と見ていた。

 

「………私が、小鬼群にも気付いていれば。」

「清霜………お前のせいではない!私が無様だった!だから………だから、こんな悲劇が!!」

 

思わず拳を岩礁に叩きつける武蔵であったが、それでどうにかなるわけではない。

こうなった以上は本当に武蔵を連れて撤退するしか無い。

速く決断を下さないと睦月が危ないのだ。

だが………。

 

「嫌だぞ!私は!!」

「武蔵さん、我儘を言わないで。」

「私の失態で12人の駆逐艦娘が未帰還になるんだぞ!?」

「でも!他に方法は………!睦月ちゃんだって………!」

「艤装は無事なんだ!私が何とか踏ん張って海戦を終わらせれば………!」

「その反動で武蔵さんが失われれば、損失は大きいんですよ!」

「駆逐艦12人より戦艦1人を取るのか!?」

「残酷だけど、それが実態よ。」

「……………。」

 

感情的になった武蔵が加賀や瑞鶴に対し抗議をする中、清霜は黙って自分の壊れた艤装を下ろす。

もう1度確かめてみたが、やはり破損していて直せなかった。

 

「何でだ………!何で私の為に勇猛果敢な艦娘達が………!」

「武蔵さん。」

 

遂に涙を流し始める武蔵を見て、清霜は静かに膝を付いて目線を合わせる。

その顔には普段の明るさは全くなかった。

 

「清霜………?」

「お願いがあります。」

「まさか………。」

 

一度息を吐き、清霜はハッキリと告げた。

 

「武蔵さんの艤装………私に貸して下さい!!」

 

その言葉に偽りは無かった。

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