燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第54話 睦月~もう一度最初から~

睦月は夢を見ていた。

何かと戦う夢。

その左目は閉じられていて、上手く戦えない。

 

(ああ、まただ………。)

 

睦月はそれが左目を気にしている頃の古鷹だと理解していた。

この後、数度の攻防の上にその閉じている左目の死角に回られる。

そして………。

 

(如月ちゃん………。)

 

如月がその死角から放たれた砲撃を仁王立ちになって庇い、傷を負い沈んでいく。

睦月が何度も何度も見ている悪夢の1つ。

だが………その最後の展開が少しだけ違った。

 

「何で………何で、私を庇ったの!?」

 

(およ?)

 

睦月は気づく。

如月が沈む瞬間、その手を何とか掴もうとした古鷹が叫んでいる言葉がハッキリと聞こえたのだ。

それに対し、如月は………。

 

「……………。」

 

只、笑顔を古鷹に見せながら沈んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「如月………ちゃん………。」

「呼んだ?睦月ちゃん。」

「………およよ?」

 

目を覚ました睦月は、今度こそ違和感を覚える。

船渠(ドック)の天井を見上げていた視界の中には、心配そうにこちらを見つめる如月と古鷹の姿があったのだ。

 

「ここは………タウイタウイ?」

「ううん、幌筵だよ。」

 

古鷹の言葉に睦月は頭からクエスチョンマークを出す。

確か自分は武蔵を庇って傷つき、曳航している最中に気を失ったはずだ。

そして目を覚ましたら彼女達が居たという事は………。

 

「ごめんなさい、私の仕業なの………。」

 

答えたのは部屋の隅でおしぼりをお湯で絞っていた早霜。

彼女が言うには、戦艦水鬼を倒してから約10日が経過していたらしい。

戻ってきた時の睦月は危ない状態であったので、幌筵の提督にお願いして横須賀の提督に電話を繋いで貰って事情を説明して、更にそこからタウイタウイの提督まで伝えて貰ったのだ。

 

「じゃあ、2人はもしかして睦月が危ないって知って………。」

「流石に会いにくいとか言っている場合じゃ無いって思ったら、居ても立っても居られなくて………ね。」

「秘書艦は初霜ちゃんに引き継いできたの。提督は了承してくれたわ。」

「2人共、凄い行動力だったわ………。ドラム缶に燃料を山積みにして、一気に北上してきたのだから………。」

「……………。」

 

理由を知った睦月はそっと布団から起きると、しばらく手を握ったり離したりしながら状態を確かめる。

そして如月と古鷹を見たが、よくよく観察すると2人共南から北まで急行した後、寝ずに睦月の看病をしていたのか、目の下にクマが出来ていた。

 

「睦月は………。」

「会いたくないっていうのは分かってるわ。でも………。」

「ごめんなさい。今回ばかりはどうしても………。」

 

何とも言い難い雰囲気が出来てしまい、しばらく3人共無言になる。

早霜は何も言わず、睦月の額におしぼりを乗せるとしばらく様子を見守った。

 

「………ねえ、如月ちゃん。」

「何?」

「如月ちゃんは、どうして轟沈覚悟で古鷹さんを庇おうって思ったの?」

「え?」

「教えて?」

 

睦月はそう言うと、如月の目を見る。

如月は少しだけ視線を逸らし………しかし、彼女の目を同じように見ると告げる。

 

「何も考えて無かったわ。咄嗟に身体が動いちゃったんだもの。」

「そっか………。そうだよね………。」

 

睦月は呟きながら、何か得心が言ったような顔をする。

如月と古鷹は訳が分からず思わずお互いを見る。

早霜は何も言わず、3人のやり取りを見つめている。

 

「助けたいって気持ちに………理由なんて無いんだよね。睦月も………何も考えずに、武蔵さんを庇ってこうなっちゃったし。」

「睦月ちゃん………やっぱり、心の底では私を恨んでる?」

 

古鷹の言葉に、しかし睦月は首を横に振る。

それは気遣いとかではなく本心からであった。

 

「最初に聞いた時は許せなかったかもしれないです。でも………今は本当に違います。睦月も………如月ちゃんの気持ちが分かったから。」

「でも、私は睦月ちゃんと………深海棲艦になった如月ちゃんを戦わせたよ?」

「あの時は、睦月が自分で決めた事です。大好きな如月ちゃんに………みんなを傷つけて欲しく無かったから。」

 

そう言うと、睦月はギュッと布団を握る。

それ故に彼女は、少しだけ後悔を覚えていた。

 

「でも………どうしよう。睦月は何もちゃんと理解しようとせずに、如月ちゃんと古鷹さんをずっと傷つけていたんだよね………。やっぱりバチが当たるべきなんだって。どうすればいいのかな………。」

「それは………。」

「バチが欲しいなら、俺が与えてやろう。」

「え?」

 

声に振り向いてみれば、船渠(ドック)の扉がノックされており、開けてみたら幌筵の提督が顔を出していた。

彼は、何か1枚の紙を持っていた。

 

「今、風雲や沖波の艦隊が、残ったヲ級改等の深海棲艦の掃討を行っているが………戦艦水鬼等が居なくなった事で、奴らの勢力が一時的に弱まっていてな。久々に食料等を積んだ定期船が来た。」

 

そして、睦月にその紙を渡す。

 

「その船に横須賀の奴、速達でこんな物を添えてやがった。3人で読んでみろ。」

 

言われた通り、睦月と如月、古鷹はその紙を見てみた。

それは命令書であった。

 

「えっと………駆逐艦睦月、タウイタウイ泊地へ転籍を命じる。こ、これ………!?」

「パラオの再建の為に艦隊を強化するという名目で、面倒な上層部とわざわざ掛け合ったらしい。………最初からやり直せって事じゃないのか?3人で。」

『……………。』

 

3人は黙ってその紙を見ていた。

すると………。

 

「あ………。」

 

睦月の目から涙が出始めた。

何故かは分からない。

だが、その雫は一度溢れたら止まらなかった。

 

「どうしたんだろ………睦月、何で………こんなに………。」

「嫌だったか?」

「ううん………違います。何故か分からないけれど、今は凄く嬉しいんです………。何で………?うう………うああ………!」

 

遂に本格的に泣きだしてしまった睦月を如月はそっと抱きしめる。

睦月はその如月の胸に抱き着くと、わんわんと泣き続ける。

古鷹は何度も提督に頭を下げてお礼の言葉を述べる。

その一部始終を見ていた早霜は提督に言った。

 

「やり直せますよね、あの3人なら。」

「でなければ、俺は横須賀まで行ってあの野郎をぶん殴るがな。………さて、あっちもどうやらいい方に向かっているらしい。」

「え?」

 

提督の言葉に早霜が耳を傾けてみれば、廊下を薄雲が速足で駆けてきた。

 

「み、皆さん!清霜さんが目を覚ましましたよ!」

「本当………!?」

「早霜、行ってこい。勇敢な妹の所へ。」

「はい………!」

 

早霜は薄雲に連れられ、清霜のいる船渠(ドック)へと走っていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

薄雲に連れられて早霜が清霜の所に行くと、既に秋霜、水無月、狭霧、峯雲、菊月、加賀、瑞鶴、そして武蔵が居た。

清霜は呆然と目を開けていたが、焦点が合っていない。

 

「清霜さん………私が分かる?」

「その声………早霜姉さん………?何だろう、全てが霞んでいて………。」

「ま、まさか清霜!?お前、目が!?」

「心配するな、艦種の違う艤装を長時間扱った事による一時的な後遺症だ。しばらくすれば治る。」

 

武蔵が思わず心配そうに声を掛けるが、そこに提督が遅れて現れて説明する。

その言葉に彼女を始めとした面々はホッと息を吐くが、同時にいたたまれない想いも抱く。

清霜は仲間全員を救う為にここまでの傷を負ったのだ。

文字通り、身体の機能が全てバラバラになってしまう事を覚悟で。

 

「きよきよ………凄くカッコ良かったよ。だからさ、早く良くなってね。」

「その声、秋霜姉さん………だよね。みんな助かったの?」

「あ、そっか。そこからだね。うん、24人生きて帰ってこれたよ。むつむつもさっき目覚めたし、武蔵さんの傷も治ってるし、全部きよきよのお陰。」

「……………。」

 

その時の決死の砲撃の事を思い出そうとしているのだろうか。

清霜は天井を見上げたまましばらく考え込み、やがて静かに呟き始める。

 

「武蔵さんも居ます………よね?」

「ああ、ここにいる。」

「ごめんなさい………。」

「私を殴って恫喝した事か?アレは私がお前の覚悟を信じ切れず駄々をこねたのが悪かったんだ。気にしないでくれ。」

 

その上で申し訳なかったと武蔵は頭を下げる。

戦艦が駆逐艦に頭を下げる姿も本来はあってはならない事だが、今回ばかりはここにいる全員が見て見ぬふりをした。

清霜はまた少しだけ考えると、武蔵に話しかける。

 

「結局………私は戦艦にはなれませんでした。」

「清霜………。」

「私は………逆さまになっても駆逐艦なんだなって………。」

「だが、お前の覚悟のお陰で………。」

「でも………いいんです。」

「………何?」

 

武蔵は少しだけ笑みを浮かべた清霜を見て怪訝な顔を浮かべる。

清霜は、あの叫びと共に本当に夢を捨ててしまったのだろうか?

 

「「今は」まだ、小さい小さい駆逐艦ですけれど………いずれは自分の力で武蔵さんのような大きな戦艦のような存在になろうって………決めましたから。」

「………そうだな。」

 

本当は武蔵に限らず皆が思っていた。

あの時、仲間を助けようと武蔵の艤装を操った清霜は、間違いなく戦艦クラスの力を発揮していたと。

だが、彼女は戦艦として砲撃を放ったわけではない。

駆逐艦として………仲間意識の高い艦娘としてその想いを貫いていたのだ。

だから、「大駆逐艦清霜」と叫んだわけで………その純真な想いを無下にするのは失礼だと感じていたからだ。

 

「今のお前は駆逐艦だ。最高の………な。」

「ありがとうございます………私は武蔵さんを含め、皆さんと共に戦えて幸せです。」

「ハハハ。………何ならば一緒にタウイタウイ泊地に来るか?私が直々に鍛えてやるぞ?お前が望むのならば………だが。」

「あ、いいですね………長波姉さんもいるし、きっと色々学べるんだろうなぁ………。」

 

いつしか笑顔になっていた清霜の姿を見て、早霜と秋霜も互いの顔を見て笑みを浮かべる。

この海戦で一皮むけた誇り高い妹艦の姿を見て。

 

「………しばらく、清霜と武蔵と早霜と秋霜だけにしてやろう。」

『はい。』

 

提督の言葉に4人以外は退出する。

しかし、そこで提督は小声で水無月、薄雲、狭霧、峯雲を呼ぶ。

 

「すまんが、少し一緒に桟橋に来てくれ。」

『?』

 

4人は疑問符を浮かべて提督に付いていった。

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