燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第55話 薄雲~新天地~

提督に連れられ桟橋に行った水無月達は、そこで阿武隈や木曾、まるゆの姿を見かける。

彼女達は真剣な顔で提督を見ていた。

 

「あの、司令官。何かあったの?」

「定期船にはこの命令書も同封してあった。」

 

幌筵の提督が4人に紙を見せる。

それは、早霜と秋霜を合わせ、6人のパラオ泊地への転籍が記された命令書であった。

まだ上層部は不死鳥艦隊という名前を認めて無いのか、屑鉄艦隊と書いてあったが、今の問題はそこでは無かった。

 

「パラオ泊地、復活したの?」

「ああ。長波達の第二十五駆逐隊が来た事で、タウイタウイからの資材の搬入が上手くいってな。もうすぐ新米の提督が配属されて、お前達が送られる事になる。」

「北の泊地の次は南の泊地かー………。何か水無月達振り回されてばかりだよねー。」

「水無月さん………多分これ、そういう意味じゃないと思います。」

「ん?」

 

薄雲の言葉に、頭の後ろで手を組んでいた水無月は固まる。

慎重にその命令書を見ていた薄雲は、提督の目を見る。

提督はその考えが当たりだと言わんばかりに頷く。

 

「確か………風雲さん………いえ、正確には神風さん達5人の第五駆逐隊も、比較的早い段階で幌筵への転籍命令が出たんですよね?風雲さんが後から付いてきましたけれど………。」

「そうだ。」

「その頃の彼女達も擬似改二が使えない状態で………それで北方の防衛拠点である幌筵へ転籍させられました。今回の私達も幌筵の激戦区に放り込まれた後に、今度は復興したばかりのパラオに新米の提督と共に働く事になる。………そうですよね?」

「ああ。それが事実だ。」

「ま、待って下さい………それって………もしかしなくても………。」

 

薄雲と提督の会話に峯雲の顔がどんどん青ざめていく。

彼女は思わず否定して欲しくて阿武隈達を見た。

だが、阿武隈達は静かに被りを振るとハッキリと言う。

 

「上層部は………奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘の事を邪魔だと思っている。」

「それだけじゃねえ………奴ら、もう一度ヘマをして轟沈して欲しいと願ってやがるんだ。」

「でなければ………、こんな酷い転籍命令を出しませんよ。」

「そんな!?」

 

狭霧が思わず叫ぶ。

上層部の無茶ぶりは今に始まった事ではない。

艦娘として人として扱われない事も今に始まった事ではない。

だが………ここまで人道に違反した扱いを受けた事等、経歴の長い狭霧でも無かったのだ。

 

「奪還(ドロップ)で戻って来ただけで………この扱いなんて………。」

「水無月達………やっぱりお偉いさんにとって邪魔なのかな………?」

「流石に沈んでいろって命令は………無かったですよね。」

「…………もう1つ許せない事があります。」

『え?』

 

テンションの下がった奪還(ドロップ)組の面々は、薄雲の言葉に一斉に彼女を見る。

礼儀正しそうな彼女としては珍しく、唇を噛んでおり、命令書を握りつぶしていた。

その異様な威圧感に、少しの間だが一緒にいた仲間達は思わず気圧される。

 

「私達に轟沈して欲しいと願っているという事は………どういう事か分かりますか?」

「どういう事って………ああ!?」

 

水無月は薄雲の言葉の意味を悟った途端、思わず眉が吊り上がる。

 

「私も分かりました………。私達が轟沈して欲しいという事は………旗艦である早霜ちゃんや補佐である秋霜ちゃんにヘマをして欲しいって事ですね………。」

 

狭霧も珍しく低い声で震えながら言う。

2人は不名誉な自分達の艦隊に放り込まれたのに、それに恨み節を言う事も無く自分達を鼓舞してくれた。

それなのにもしも誰かが轟沈したら、それこそ心に負う傷は大きいだろう。

あろう事か上層部はそれを望んでいる。

 

「この命令書………まだ、2人には見せてませんよね?」

「ああ。そういう意味も含めてまず、お前達に見せた。」

「只でさえ私達に振り回される事になるのに………こんな事って!」

 

峯雲も珍しく激高して、思わず命令書をコンクリートの床に叩きつけようとしたが、寸での所で抑える。

書類に八つ当たりをした所で、この事実は変わらないのだ。

 

「横須賀の奴は必死に抗議したらしい………。だが、アイツの権力にも限界がある。」

『……………。』

 

4人の艦娘達は、提督の言葉を聞きながらしばらく黙っていた。

怒ろうと思えば幾らでも怒れた。

嘆こうと思えば幾らでも嘆けた。

でも、彼女達が知る大切な人達は誰も悪くは無いのだ。

 

「強く………なりましょう。」

「薄雲ちゃん?」

 

最初に口を開いたのは薄雲だった。

彼女は顔を上げると意を決したような面持ちで言う。

 

「もう沈まない為に………何より早霜さんと秋霜さんを悲しませないために!」

「そう………ですね。」

 

その横で決意を聞いた狭霧も応える。

 

「私達は不死鳥艦隊ですから。早霜ちゃんや秋霜ちゃん、それに応援してくれる様々な人達に応えないと!」

「うん………水無月も賛成。」

 

水無月は力こぶを作りそれを見つめる。

 

「折角再建したパラオをまたダメにするわけにもいかないし!こうなったら絶対上を見返してやる!」

「私も………私も!」

 

最後に峯雲もハッキリと言った。

 

「何とかしてみんなで強くなりましょう!私達があの2人を護れるように、絶対に!」

「ならば、とことん鍛えてあげるわ。」

『え?』

 

その言葉と共に4人は後ろを見る。

見れば、そこには加賀と瑞鶴、それに菊月が立っていた。

その3人の手にも同じパラオ泊地への転籍が記された命令書があった。

 

「一航戦として………1人の艦娘として、貴女達の覚悟を試してあげます。勿論、早霜と秋霜の2人も………ね。」

「いいんですか?3人は………。」

「横須賀の提督ったら、上層部の意見を突っぱねるのが無理だと判断した途端、私達も一緒に巻き添えにする道を考えたんだって。今度こそパラオを落とさない為にね。」

「そんな事が………。」

「私も嚮導としてお前達を鍛えよう。実は春から長月の姉貴が夕雲型を鍛えてる姿が羨ましくてな。それに望月の思い出の地を再び廃墟にするわけにもいかない。」

「加賀さん、瑞鶴さん、菊月さん………。」

「ちょっとちょっと、うちら除いて何、話をこそこそ進めてるのー?」

『!?』

 

更に掛かった声に見てみれば、早霜と秋霜がやってきていた。

どうやら何か怪しいと思い、清霜の事を武蔵に任せてやってきたらしい。

 

「こういう事は、旗艦と補佐に黙ってやる事じゃないわね………。」

「お前達はこの転籍に満足か?」

「んー、冬だから南の暖かい所は気持ちいいんじゃないかなー?」

「秋霜さんらしいわね。そういうわけだから、これからも宜しくね。」

「早霜さん、秋霜さん………。ありがとうございます!こちらこそ、これからも宜しくお願いします!」

 

薄雲の言葉を筆頭に4人の不死鳥艦隊の艦娘達が頭を下げる。

早霜と秋霜も頭を下げ、そしてその後、自然とみんな笑い始める。

その笑みは阿武隈、木曾、まるゆ、加賀、瑞鶴、菊月、そして提督にも広がった。

彼女達不死鳥艦隊の6人ならば大丈夫だろうと不思議と思えたからだ。

何故ならば、彼女達の中には海の底から戻ってきた強い娘達がいるのだから。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数週間後、タウイタウイ泊地では艦娘達が集っていた。

提督と秘書艦である古鷹の紹介で、2人の艦娘が挨拶を始める。

 

「睦月型1番艦睦月です!みんな………宜しくにゃ!」

「夕雲型の末っ子清霜よ!夢は戦艦のような大きな存在になる事!みんな、宜しくね!」

 

その言葉に武蔵、瑞鳳、秋月、如月、皐月、潮、長波、望月、初霜、山風、舞風、朧が拍手をする。

そして、睦月は如月に抱き着き、清霜は武蔵とブンブンと握手を交わした。

南の泊地の1つでまた仲間の輪が広がった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方そこから東に行ったパラオ泊地は復興を完了し、新米の提督が着任していた。

珍しい女性提督であり、かなりガチガチに固まっている様子であった。

 

「ほ、本日はお日柄もよく………じゃなくて、宜しくお願いします!」

 

如何にも新米という雰囲気を醸し出している提督に苦笑いを浮かべながらも、配属された早霜、秋霜、水無月、薄雲、狭霧、峯雲、加賀、瑞鶴、菊月等の艦娘達は誓う。

この復興したパラオを二度と深海棲艦の攻撃で燃やさないと。

悲劇を繰り返さない為に、しっかりと敵と自分と戦っていこうと。

 

「はやはや………うちらも頑張ろうね!」

「ええ。私達の活躍を………遠くの夕雲型のみんなに届ける為にも。」

 

勇敢な艦娘達は、より強くなろうと自身を鍛えていく事になる。

そして………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

横須賀の執務室では、提督が相変わらず秘書艦の五月雨や秘書艦補佐の陽炎と共に書類と格闘を繰り広げていた。

冬に開かれる上層部の将校達とのパーティが迫っているからだ。

その執務室がノックをされる。

 

「お邪魔しまーす。」

「ああ、よく来てくれた。」

 

執務室に入って来たのは敷波、磯波、朝霜、岸波、野分、嵐の6人。

趣味でジャズバンドを結成しており、それに目を付けられた事もあって、敷波旗艦で第二十六駆逐隊を結成したメンバーである。

 

「どうだ?実際に駆逐隊として各地で演奏を披露する気分は?」

「駆逐隊というより楽団だけどね。でもま、アタシ達のような素人でも喜んでくれる人達がいるのは素直に嬉しいかな。」

 

アレから行動を共にする事が増えた6人は、各鎮守府を中心に、ある時は海戦に出向く艦娘達に、ある時は不安に怯える民衆達に演奏を披露していた。

そうしている内に少しずつではあるが、結束や演奏の練度、そして艦隊としての練度は上がっていた。

とはいえ………やっぱり敷波の言う通り、演奏に関してはまだまだ素人クラスであり、お世辞にもプロと肩を並べられる実力だとは思えなかった。

 

「それでも横須賀に戻されたって事は、やっぱり………。」

「ああ………いよいよパーティの日付が決まった。来週豪華客船をチャーターして盛大に宴会を開く。」

「今は上層部もご機嫌だろうねー。北で清霜が身体を張って戦艦水鬼を倒したんだから。」

「その戦果は武蔵が上げた事になっているがな………。」

 

提督は深く溜息を付くと、朝霜と岸波に本当に悪いと言う。

彼女達が事前に聞いていた説明だと、やはり決戦兵器が決め手にならなければ恰好が付かないらしい。

それだけの為に事実を捻じ曲げる上層部に対して苛立つ提督の姿を見て、話の流れを変えた方が良いかなと思った岸波は横目で朝霜を見る。

 

「えーっと、それで秘書艦の代理の代理は誰を連れて行くんだ?あたい、気になってるんだけど。」

「ああ、それはさっき呼んだからそろそろ………。」

「バーン!!」

 

提督の説明中に豪快な叫びと共に扉が開かれ、メイド風のスカートにフリルの前掛けを着用したピンク髪の艦娘が現れる。

それは、綾波型9番艦漣であった。

 

「ご主人様、お待たせしました!漣、定刻通り只今参上です!」

「………お前は、どこからそんな珍妙な言葉を仕入れているんだ?」

 

初期艦の1人である漣は、呆気に取られる一同の前で、キラっとウインクをするとビシっとポーズを決めて見せた。

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