燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第56話 漣~悪意の空間~

「えっと………漣ちゃんが秘書艦代理の代理って事になるんだよね?」

「そゆこと!宜しくね!」

「確か漣さん初期艦っすよね?」

「そう………私が初期艦だーーーっ!!」

「………何処かのテレビの見過ぎじゃないのか?」

 

磯波や嵐の質問に対して、妙な決めポーズと共に答える漣に呆れる提督。

彼女の言う通り、漣は吹雪、叢雲、電、五月雨と同じく最初に艦娘として生まれた存在である、通称初期艦だ。

その絆は深い物であり、練度もかなり凄まじい物を持っているのだが、この漣は何処から拾って来たのか、妙な言葉を呟く為掴み所が無い事が多い。

それでも彼女と付き合いの長い初期艦仲間の五月雨は笑顔を浮かべているだけだし、提督はもう慣れた感じで流していく。

 

「司令も思い切りましたね。漣を連れていくなんて………。」

「んー、のわっち。それどういう意味かなー?」

「あ、あたい!船の護衛の艦娘も気になるぞ!当然いるんだろ!?」

 

初期艦故に、漣を怒らせたら不味そうだと思った朝霜が慌てて話題を変える。

それを聞いた提督が入ってこいと言う。

すると、扉の前で待機していたのか6人の艦娘が一斉に入って来る。

その内の2人の艦娘の姿に、朝霜や岸波は驚く。

春の合同演習の時にお世話になった時雨と雪風であったからだ。

 

「時雨、雪風!久しぶりね!」

「やあ、岸波。それに朝霜も。凄く顔つきが良くなったね。」

「雪風も見違えたみんなに出会えて幸せです!」

「今まで2人共何処にいたんだ?全然見かけなかったぞ?」

「僕ら6人はこの1年、主に南の泊地を渡り歩いていたからね。横須賀には本当、久々に戻って来たんだ。」

「とんでもないわね………。」

 

南の泊地の情報は、長波からの手紙で嫌という程理解している。

深海棲艦が凶悪でパラオに至っては一度滅んだ事もあるのだ。

そんな所で活動しているのだから、当然練度は凄まじいはずだ。

2人と会話をしていると、そこに黒色の長波をポニーテールで纏めたおっとりとした艦娘がやってくる。

 

「こんにちは~。敷波がお世話になっています。」

「あれ?もしかして………。」

「綾波です~。」

『鬼神!?』

「ん~?敷波。私の事なんて説明してるのかな~?」

「あ、いやまあ………その夕雲の改二の事で色々あったから………。」

 

笑顔で問い詰めてくる綾波に対し、思わず目を泳がせる敷波。

綾波型1番艦綾波………夕雲と同じく早期に改二に目覚めてしまった為に、慢心して大失敗を犯してしまい、自暴自棄になった経歴がある。

春に夕雲達に対して、戒めとして敷波がその話をしていた為に、朝霜や岸波にとっては密かに畏怖する存在と化していた。

まあ、実際はのんびりとした性格で癒される存在ではあるのだが。

 

「多分、岸波以上に海戦中は大暴れするんだぜ………。」

「朝ちゃん、貴女まで私の事なんだと思ってるの?」

「まあまあ、落ち着きましょ。多分悪気は無いっぽいし。」

『ぽい?』

「あ、夕立だよ、宜しく頼むっぽい?」

『ソロモンの悪夢!?』

「………夕立も敷波に文句言ってもいいっぽい?」

 

金髪のストレートヘアを背中まで伸ばしている艦娘がやってきて、驚く朝霜と岸波を見て頬を膨らませる。

一見すればお嬢様に見えるが、この白露型4番艦である夕立はソロモンの悪夢と呼ばれるだけの戦闘力を持っており、色々な意味で恐れられているらしい。

彼女を知る艦娘達の話によると、改二になると色々と豹変するとの事。

 

「ヤベぇよ………。あたい、本当にとんでもない練度の艦娘達に囲まれてるのかも。」

「落ち着いて朝ちゃん。みんな多分、普段は大人しいはずだから。」

「そうだよ、私のような艦娘もいるんだから。」

「………ちなみに貴女は?」

「吹雪だよ。」

『初期艦!?』

「あれ?夕雲型のみんなには私達初期艦の事、どんな風に伝わってるのかな?」

 

黒髪の素朴な少女が気さくに話しかけるが、彼女自身も驚かれた事で頭にクエスチョンマークを浮かべる。

彼女こそ吹雪型1番艦吹雪であり、五月雨や漣と同じく初期艦として長い間戦ってきた艦娘だ。

改二の中では対空や索敵性能に優れた力を持っているらしく、今回の護衛艦隊のバランスを取る為に南の泊地からやって来たらしい。

 

「とんでもねえ奴らばかりじゃねえか!?あたい、どうしよう!?」

「錯乱しちゃダメよ。朝ちゃんも正規の改二が使えるのだから。」

「あなた達………さっきから聞いていたらあたし達の事なんだと思ってるの?」

「貴女は………確か合同演習の時に………。」

「そうよ、霞よ。護衛艦隊の旗艦に選ばれたわ。」

『クズ提督!?』

「誰!?あたしの事、そんな風に伝えたのは!?」

 

提督の事をクズと呼ぶ、ある意味曙と同系列である銀髪のサイドテールの娘は、朝潮型10番艦の霞。

こう見えて霰、陽炎、不知火が本来所属する第十八駆逐艦の旗艦として引っ張る勝気な艦娘でかなりのリーダーシップを持っている。

それ故に、こんな豪勢な護衛艦隊の旗艦に選ばれたのだろう。

 

「………って、全員駆逐艦じゃん!?いいのか、これで!?」

「そう言えばそうね………。提督、この意図は?」

「横須賀は一応建前としては練度の低い駆逐艦の集中強化を行っている鎮守府だからな。上が輝かしいと思っている駆逐艦で固める事で見栄を張りたいのだろう。」

 

建前としては………と呟いたのは例外が幾つかあるからだ。

各泊地等で駆逐艦がいないと機能しない等の真面な理由ばかりならばいいが、奪還(ドロップ)で戻ってきた艦娘達が邪魔だという本来ならば許されないような理由もある。

実際に夕雲型の面々もその例外に入った娘達が何人も北や南に飛んで今は活動している。

 

「大変だよねー、現場の駆逐艦娘も司令官も。」

「俺は大した事は無い。で、この13人が最終的に面倒なパーティに付き合う面々だ。」

「最初から面倒って言うのね。」

「取り繕った所で何か変わるわけでもあるまい。本当に申し訳ないが、宜しく頼む。」

 

提督は立ち上がり、敬礼をする。

13人の艦娘達は答礼をして応えた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

1週間後、横須賀の港には豪華なクルーズ船が待機しており、船に立派な軍服を着た将校達が衛兵達や人間の秘書達に連れられ乗船していた。

その横で横須賀の提督は五月雨と陽炎、そしてセミロングの茶髪を2本の三つ編みおさげの大人な容姿の艦娘に話しかけていた。

3人目の艦娘は秋月型2番艦である照月。

この冬から横須賀の港で防空駆逐艦として、対空警備を担当する事になった駆逐艦だ。

秋月型は全体的に容姿が大人びており、五月雨は勿論、陽炎よりも背が高かった。

 

「すまんが留守は任せる。」

「気を付けて行って来てください。」

「深海棲艦の襲撃には気を付けてね。」

「照月も頑張りますからこちらは心配しないで!」

「では、行ってくる。」

 

そう言うと、将校達が全員乗り込んだのを確認した上で、横須賀の提督も漣を連れ立って乗り込む。

後ろからは衛兵達に手伝って貰いながら楽器と艤装を船の中に搬入する敷波達。

そして、霞達が艤装を背負い、船を囲む形で陣形を取った事でゆっくりと出発していく。

船は横須賀近海を一周して再び港に戻ってくる予定であった。

その後ろ姿を五月雨達はいつまでも見ていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『うわ~………。』

 

船の中のパーティ会場は賑やかになっていた。

立派な服を着た将校だけでなく、華やかな服を着た貴婦人も存在していたからだ。

どちらかと言えば性能重視の制服を着ている艦娘達にしてみれば、正直羨ましいと思う部分もある。

 

「綺麗ね………。」

「私もあんなの着てみたいかも………。」

 

横須賀の提督の後ろを歩きながら小声で会話をする野分と磯風。

どちらかと言えば男勝りな朝霜や嵐も見とれており、本当に皆煌びやかに見えた。

だが………提督は同じく小声で言う。

 

「覚悟はしておいた方がいい。今周りにいるのが、いつも散々呟いている「上層部」という存在だからな。」

「……………。」

 

岸波は提督の言葉を聞いて、今までの上層部の身勝手さを思い出す。

最近は自分の妹達を無下に扱う事も多かった為に、確かにその存在には注意した方がいいと改めて思ったばかりである。

全員が全員では無いと思うが、見た目は煌びやかでも、腹の中はドス黒い面々も周りにいるのかと思うと肌寒い物を感じてしまった。

 

「提督はこの後どうするのですか?」

「船に招待された他の鎮守府の奴らと近況を語った後で、適当な所で挨拶だ。後は上品な振りをして周りが勝手に飲み交わすだろう。」

「その途中でアタシ達は見世物の演奏かー。ま、仕方ないね。」

 

敷波がやれやれといった顔で後ろを歩く面々に笑いかける。

悪意が渦巻くパーティはまだ始まったばかりである。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、船の外で深海棲艦が出ないか監視をしていた霞達は、陣形を崩さないままで航行していた。

冬の海は横須賀でも寒い物があり、一応艤装のチェックを欠かさないでおく。

敵艦が出た時の為に、いつでも改二は使えるようにはしておいた。

 

「あーあ、みんな美味しい料理食べられるっぽいんだよね?羨ましいっぽい?」

「敷波達や主催者側の司令官はほとんど食べられないみたいですよ~?」

「見世物になるのとどちらを選ぶかだね。僕らはそういう意味ではまだマシかも。」

「うーん………雪風も好奇の目で見られる事が多いから何となく分かります。」

「漣ちゃんも大変だよね。忙しい司令官の補佐をしないといけないんだから。」

「あなた達、無駄口叩く暇があったら対空監視を厳に!………ま、気持ちは分かるけど。」

 

船の中とは一応、敷波を通じて無線で連絡を取れるようにしてある。

何かあって霞達で対処できなくなった時は彼女達第二十六駆逐隊にも抜錨して貰う為だ。

とはいえ、実際には何も無いのが一番であるが。

 

「霞は船の中の美味しい料理を食べたくないっぽい?」

「あんなドス黒い空間で食べる料理が美味しいワケ無いでしょ?」

「言い切りますね~。」

「上層部ってのは艦娘を使い捨ての道具としか見ていないプライドだけの塊よ。あたしだって霰や大潮姉さん、それに峯雲姉さんの手紙で色んな罪状を知ってるんだから。」

「確かに………私も大体の事は知ってるけど、特に最近の扱いは酷いよね。」

「雪風も知ってます。清霜の戦果を認めないですし、奪還(ドロップ)で戻って来た艦娘は沈めっていうような転籍命令を出しますし………。」

「これじゃあ、提督もあの船の中で何かやらかすかもしれないね。」

「そう、それよ。」

 

時雨の言葉に霞が思わず指を刺す。

彼女は前を向き、両手の主砲と魚雷発射管を持ちながら腕を組むと鼻を鳴らす。

 

「あのクズ提督は一旦上層部に痛い目を見せてやればいいのよ。」

「霞ちゃん………そんな事したら横須賀が危ないよ?」

「みんなが困りますから~、闇雲な行動は控えた方がいいような気もしますね。」

「でも、真面目な話………「彼女」の話題になったらあの提督が我慢できるかしらね?」

『あー………。』

 

思わずニヤリと笑った旗艦の言葉に5人の艦娘達は思わず考える。

むしろ霞はそれを期待しているような感じであった。

 

「あなた達はどう思う?一発ぐらいぶん殴った所で………。」

「こちら敷波。霞、あんまり物騒な事を無線で呟かないでね。司令官に聞こえたら危ないから。」

「何よ、冗談よ冗談。………冗談くらい言ってないとやってられないもの。」

「その言葉を陽炎に聞かせたらどういう反応をするか知りたいよ。………っと、挨拶が始まるから一度切るね。」

 

船内からの敷波の無線が途絶えた事で、霞はふうとため息を付き呟く。

 

「………あの子の為にも、いい加減関係を進展させなさいよ。クズ提督。」

 

最後にそう呟いて再び警備に集中した。

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