燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第58話 夕立~本当のパーティの始まり~

ヌ級改の夜偵の爆撃が周囲で起こっているのか、船が定期的に揺れる。

一応、この船は豪華客船ではあるが軍用の物である為、それなりに丈夫には作られており簡単には沈まない作りであった。

とはいえ、これだけ攻撃を浴びればいずれは危ない。

 

「死にたくない!死にたくないぞ!!」

「沈むのはイヤー!!」

「何をやってるんだ、駆逐艦共は!?」

「速く敵を殲滅しろ!!」

「………という感じで文句が噴出してるけど、どうなのさ?」

 

パニックに陥る人々の声を聞いて敷波が外の霞達に問いかけるが、彼女達から返ってきた反応は苛立ったものだった。

 

「船が無駄にデカすぎるのよ!深海棲艦の数も多いし、正直あたし達6人だけで対処できる大きさじゃないわ!」

「肝心の吹雪の対空砲火はー?」

「船をグルグル回りながらやってくれてる!でも、1人じゃ限界があるわ!」

「じゃあ、今はどうしてるの?」

「仕方ないから綾波が探照灯を付けて囮になりながら殲滅を始めてる!雪風も対空砲火に回した!時雨と夕立が派手に暴れてくれてるけどヌ級改の護衛も多くて厄介なのよ!魚雷が足りないわ!」

「面倒な事になってるみたいだね、外は。」

 

見栄を張って上層部が優秀だと思った駆逐艦だけを指名したからこうなったのだ。

正直、中にいる提督を含めた8人は、自業自得だと感じてしまう。

一方でパニックになったその上層部を含む客は我先にと逃げ出そうとしている。

当然ながら高貴な演奏を繰り広げていた楽団のメンバーも同じで、自慢の綺麗な楽器を放り出して外に向かおうとしていた。

 

「あーあー、そんな杜撰に扱ったら傷が付くじゃん………。」

「な、何をしている貴様ら!艦娘ならば、早く抜錨しろ!!」

 

声に振り向いてみれば、さっき岸波に絡んできた将校が血相を変えてやって来た。

しかし、それに対して彼女が代表して一言。

 

「お言葉ですが、抜錨しようにも出口があんな状態では動けません。」

 

そう視線で見つめた先には、逃げ出す人々で渋滞している出口の惨状。

艤装は楽器と一緒にパーティ会場の中に持ち込んでいたが、これでは装着した所で艦橋まで移動する事は困難だろう。

それを理解したのか男は真っ青になり、他の客と同じく出口へと殺到した。

 

「………なあ、どうする?あたい、このまま船と一緒に海の藻屑になるのは嫌だぜ?」

「俺も。正直あの男を含めた客は好かないけど、司令が沈むのは困るからな。」

「私も嵐に賛成ね。私達は艦娘なのだから困っている人間は守らないと。」

「それがどんな人であっても………だね。でも、出口になりそうな所は………。」

「あの窓位よね。」

 

艤装を装着している岸波が指さしたのはパーティ会場に備え付けてあった円形の窓である。

そこからは外の様子が見えて、黒い丸い身体の目が光っているヌ級改の夜偵が飛び交っているのが分かった。

だが、船が船だけあって相当作りは硬いはずだ。

 

「何か窓を割るのに使えそうなのは………。」

「破壊するなら、アレとか使ったらどうかな?」

 

漣の言葉に皆が反対側を振り返ってみると、そこにあったのは式典用に並べられた豪華な装飾を施された武器の数々。

なるほど………と艤装の装着を終えた敷波が歩いていくと、大型の戦斧を取り外して、それを窓まで運び思い切り振り被った。

 

「ふん!」

 

ある程度刃は鋭利に作られていたらしく、重量も合わせてヒビが入る。

それを見た磯波と野分もそれぞれ、十文字の槍や騎士剣を外して突いたり叩きつけたりしていく。

だが、ヒビは広がっていくが中々窓は割れない。

 

「時間掛かりそうだなー………。」

「いっそ爆雷を使うのはどうっすか?」

「少し離れて。こういう時こそ、これの出番よ。」

 

岸波の言葉に皆が振り返ってみれば、彼女が手に持っていたのはアイスドリル。

 

「げえ!?岸波、それ常備してたの!?」

「響からの友情の証だもの。」

 

そう言いながら、大湊での戦友から貰ったアイスドリルを窓に突き立てると艦娘ならではの怪力で回転させる。

すると、徐々に穴とヒビが広がっていき、見事にパリンと割れた。

その瞬間、外から寒風が入り込んでくるが、即席の出口は作る事ができた。

 

「艤装を背負ってるから穴を潜る必要があるね。頭から冬の海に飛び込む覚悟は出来てる?特に嵐。」

「う………こ、こうなったら俺もやってやる!」

「じゃ、アタシ達ちょっと行ってくるからさ。悪いけど漣、楽器と司令官の事お願いね。」

「了解!漣にお任せ!」

「俺は船長と情報を取り合う。12人で帰ってこい。」

「んじゃ、行きますか!………第二十六駆逐隊抜錨!」

 

何か使い道を考えたのか、戦斧を背負った敷波が、言葉と共に先頭になって窓を飛び出し頭から海に飛び込んでいく。

冷たい海に潜った後、艤装の浮力に任せ水中から飛び出すと顔を振って水気を落とす。

続いて槍を携えた磯波が同じように飛び込んでいく。

そして、騎士剣を腰のベルトに刺し陽炎型独特のアームを畳んだ野分が続く。

若干遅れて嵐が苦手とする夜の海に気合と共に飛び込んでいく。

更に、朝霜が笑顔で絶叫マシンを楽しむように飛び出し、最後に岸波がアイスドリルを背負って提督達に手を振って抜錨していった。

 

「さて、ここは………と。お?」

 

先頭の敷波が状況を把握しようとすると、目の前で夕立が改二になり海戦を繰り広げていた。

目を青から赤に変え髪を逆立てた彼女は、3隻のヌ級改の前に護衛として立つ重巡フラッグシップ級リ級に対し、砲撃を避けつつ左手で掴んだ魚雷をアンダースローで放り投げる。

 

「素敵なパーティを始めましょ!ぽーい!」

 

投げられた魚雷は寸分たがわずリ級に命中し撃沈させる。

更に慌てたヌ級改の低空で飛ばされた攻撃機を右手の主砲で撃ち落としながら、今度はオーバースローで魚雷を投げつけ、中央のヌ級改に炸裂させ3隻纏めて沈めていく。

 

「あは♪ソロモンの悪夢の力、見せてあげる!」

 

そのまま笑顔を見せる姿を見て、彼女の改二を初めてみた朝霜や岸波は、狂犬の姿を連想させられる。

 

「ほ、本当に怖いな………。」

「見た目に騙されたらダメって事ね………。」

「うーん?何か夕立の悪口が聞こえてきたっぽい?」

『ごめんなさい!』

 

しっかりと敷波達の事も気付いていた夕立は海戦を繰り広げながら現状を説明してくれる。

攻撃機や深海棲艦は四方八方からやってきており、敵の大将の居場所が特定しにくいと。

とりあえず旗艦の霞が前方、探照灯を付けた綾波がエンジンのある後方、時雨が右方、そして夕立が左方の敵をどんどん沈めているがキリが無いと。

 

「せめて敵の居場所が分かれば対処できそうだけど………。」

「磯波、それについてだが有力な情報が手に入った。」

「提督?」

「船長の話だと前方に巨大な影が見えてこのままだと船速を落とさざるを得ないらしい。深海棲艦の本隊は前方にいると思われる。………正体を探る為に索敵に優れる吹雪を前に回せないか?」

「む、無理です!脱出艇が勝手に出て来ちゃいましたよ!?」

「何ですって!?守る船が増えるじゃないの!?」

 

どうやら上層部の面々が無茶を言って勝手に飛び出して来たらしい。

丁度夕立達といる客船の左方前方からその小型艇が出てきているが、当然ながら深海棲艦に邪魔されて上手く動けていない。

 

「守らないと!」

「ああもう、バカばっかり!無視しなさい!」

「流石にそれは無いよ………僕らが耐えている間に敷波達にどうにかして貰うしかないね。」

「雪風が本船を守りますので、吹雪は脱出艇を守って下さい!綾波は………!」

「大丈夫です!最悪エンジンへの被弾が無ければ持ちこたえられるはずです!敷波、頼みます!」

「りょうかーい、じゃあ………みんな付いてきて!」

 

敷波はそう言うと敵艦の間を縫いつつ前進して、脱出艇に近づく。

そしてその近くで反対側に急カーブをした。

当然、それによって船の方に巨大な波しぶきが発生し、乗船していた上層部の面々に派手に掛かる。

 

「うわー!?」

「きゃー!?」

「何をするー!?」

 

様々な悲鳴と文句が聞こえるが敷波は無視してこっそりVサインを後ろの面々に出す。

 

「もう、敷波ちゃんったら………。」

 

溜息を付きながらも磯波も容赦なく同じように水しぶきをかける。

続いて野分が、更に嵐が、そして朝霜が派手に水しぶきを巻き起こした。

最後に岸波が続くが、夕雲型の誇りある姉妹艦を愚弄したあの将校を見つけたので、そこに向けて思いっきり水しぶきをぶっかけて加速していく。

 

「ぶわーーーっ!?」

「………これ位はしても許されるわよね。」

 

単縦陣になった第二十六駆逐隊の6人の艦娘達は一気に客船の前に出て、戦闘中の霞に軽く手を振ると、それぞれ改二や擬似改二を発動させて更に速力を上げて、敵の包囲網を突っ切っていく。

 

「さてと………空気を呼んでくれる深海棲艦の親玉はなんだろな………と。」

 

敷波が口ではのんびりと呟く中、その影が大きくなっていく。

だが、その奇妙な姿に一同は違和感を覚える事になった。

 

「憎イ………憎イ………憎イ!!」

「コイツは………。」

 

その深海棲艦は顔が見えなかった。

顔が無いわけでは無い。

全身をすっぽりと隠すような札付きの帽子を被り、キョンシーのような見た目になっていたのだ。

その帽子からは玉付きの紐が多数垂れ下がっており、身体も大半を隠してしまっている。

裸足の脚には重りの枷が付いており水面に立っている。

骨だけの手は鋭利な形状をしており、不気味さを際立てていた。

更に身体からはフリルが複数垂れ下がっており、右には深海棲艦独特の顔を模した主砲があり、左には同じ顔の魚雷発射管が備え付けてあった。

 

「あの装備………まさか、駆逐艦!?」

「どうだろう………面舵!」

 

岸波の疑問に答えようとした敷波は、右の砲門が光った事で右に舵を取って回避行動を行う。

その砲撃は敷波達の左を飛んでいくと、遠くで派手な音と共に高い水柱を巻き起こす。

 

「………少なくとも、威力は駆逐艦じゃないみたいだね。」

 

敵大将は駆逐古姫のような強力なレーダーを持っているのか、青い炎を出す重巡リ級改2隻の砲撃や、フラッグシップ級にパワーアップしている軽空母ヌ級改3隻の攻撃機もかなり正確に飛んでくる。

 

「ここはあたいの出番だな!」

 

即座に輪形陣になり、対空迎撃能力に優れる朝霜を中心にヌ級の夜偵を次々と撃ち落としていく。

すぐさま単縦陣に戻った6人は敵大将の左の魚雷発射管から放たれた4本の魚雷を主砲で起爆させて攻撃を凌ぐ。

 

「へへ!あたい達の練度をバカにするなよ!?」

「何デ思イ出シテクレナイノ………?何デ忘レタノヨ!?」

「あ?」

 

最初の攻撃を防いだ事で朝霜は笑みを浮かべるが、敵大将の言葉に疑問符を浮かべる。

今の言葉はまるで………。

 

「朝ちゃん………深海棲艦に知り合いがいたっけ?」

「岸波こそ、あたいを何だと思ってるんだ!?」

「イッペン沈ンデシマエバイイ………!沈メ、岸波!朝霜!」

『っ!?』

 

憎悪にまみれた声でハッキリと名前を呼ばれた事で、今度こそ夕雲型の2人は動揺した。

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