燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第59話 野分~深海からの怨念~

「私達を………知ってる?」

「どういう………事だ?」

 

見知らぬ深海棲艦に名前を呼ばれた事で岸波と朝霜の2人は驚愕する。

しかし、その大将の言葉を理解したのか、リ級改とヌ級改が2人に集中砲火を始める。

リ級改は重巡の速力を活かしながら岸波を2隻掛かりで狙い、朝霜に対しては3隻のヌ級改の攻撃機が襲い掛かる。

 

「何だ!?特定の艦娘を集中的に狙う深海棲艦の総大将なんて聞いた事ねえぞ!?のわっち、知ってるか!?」

「私も初耳ね………。とにかく2人を………っ!?屈んで!!」

 

野分の言葉に嵐が慌てて海に這いつくばる。

長いフリルに繋がった連装砲と魚雷発射管がハンマーのように振り被られて2人の頭上を通過したからだ。

それは敷波や磯波にも振られるが、2人は持参してきた戦斧や槍で咄嗟に防御して防ぐ。

 

「野分、悪いけど岸波の援護!嵐は朝霜の方を頼むよ!アタシ達はしばらくこの大将と遊んでる!」

「了解!行くわよ、嵐!」

「ああ!」

 

分散した4人はそれぞれの敵に相対する。

 

岸波は必死にリ級改の砲撃の雨を回避しながら頭を動かしていた。

あの深海棲艦の大将は自分達を知っていた。

何処で出会った事がある?

何処で戦った事がある?

いや………何処で知り合った事がある?

 

「岸波、今は敵の言葉は忘れて!沈むわよ!?」

「野分………!」

 

岸波の前後から挟み込もうとしたリ級改の内の1隻に対して高角砲を撃ちながら野分が援護に駆け付け背中合わせになる。

彼女の言葉に頭から雑念を振り切った岸波は前だけに集中し、連装砲を連射する。

しかし、改クラスにまで強くなったリ級の砲門になっている腕は相当固いらしく、砲弾を簡単に弾き飛ばす。

 

「野分、インファイト!」

「分かった!」

 

岸波は右ふくらはぎの魚雷を4本発射していく。

同じく高角砲が効かないと判断した野分がアームから魚雷を4本全て発射する。

それらの攻撃は硬い腕を交差させる事で防がれるが、岸波と野分はその僅かな隙を利用しギリギリまで接近する。

 

「沈め!」

 

戦闘モードになった岸波は、下がろうとするリ級改の顔面に思いっきり頭突きを喰らわせて怯ませる。

そしてガードが緩んだ左胸に連装砲を捻じ込むと、そのまま連射をして1隻沈める。

 

「やってやる!」

 

野分は陽炎型のアームを最大限に活かす。

彼女は右アームと手持ちの高角砲を撃ちながら密着して防御を解かないように工夫すると、そのまま至近距離で反時計回りに回転。

魚雷を撃ち尽くした左アームの発射管をハンマーのように振り回してぶつけると、手持ちの高角砲をベルトにしまって拝借した騎士剣を取り出し、回転の勢いを利用しながらリ級改の喉元を斬り裂く。

只、それだけでは斬れ味が足りなかったので、更に両手で喉に突き立てる事で敵艦を沈めていく。

 

「意外と役に立つ物ね。式典用の物でも………。」

「折角だからこれを機に本物を買ったら?」

「遠慮しとくわ。」

 

2人はそう会話をすると、敷波達の援護に向かった。

 

一方でヌ級改の攻撃機を対空迎撃していた朝霜も混乱状態に陥っていた。

身体は反応して爆撃は防ぐ事ができてはいるが、頭の中はグチャグチャだ。

自分や岸波は少なくともあんな深海棲艦と戦った事は無い。

というか、あの種類の深海棲艦の遭遇自体初めてのはずだ。

 

「くっそ!どうなってるんだ!?あたい、どうして深海棲艦に一方的に恨まれてるんだ!?」

「落ち着け、朝霜!お前らしくないぞ!」

「わ、悪い………。」

 

爆雷を持った嵐が夜空に数個放り投げる事で攻撃機の迎撃を手伝う。

仲間の加勢と叱咤の言葉で何とか冷静さを取り戻した朝霜は思考を切り替える。

 

「とにかく魚雷だ!硬いだろうから全部使うぞ!」

「ああ、嵐巻き起こすぜ!」

 

一時的に攻撃機が減った事で攻勢に回れるようになった2人はヌ級改に狙いを定める。

敵軽空母は下がろうとしたが、朝霜が中央の個体に左太ももの4本の魚雷を全て撃ち込み爆散させる。

そのまま続いて嵐がアームに備わった4本の魚雷を右のヌ級改に、朝霜が更に背中にマウントした4本の魚雷を取り出し左のヌ級改に炸裂させる。

 

「後は主砲と機銃と爆雷だけか………。あの大将首、色んな意味で厄介そうだな。」

「何、爆雷さえあれば意外とどうにかできるものだぜ!」

「嵐………お前、大湊で海防艦の嚮導になったら適正あると思うぞ。」

 

これで何とか硬くて厄介な敵軽空母を沈めた2人も敵大将の所へ向かう。

 

一方、敵大将と対峙していた敷波と磯波は怒涛のように繰り出される攻撃を躱しながら定期的に魚雷を1本ずつ喰らわせていた。

だが、敵深海棲艦はシルクの布を複雑に操る事で魚雷を防いでいく。

シルクの布は当然散り散りになるが、再生能力を備えているのかまたすぐに復活をしていた。

 

「何デ岸波ノ味方ヲスルノ!?何デ朝霜ノ味方ヲスルノ!?」

「いやまあ、ジャズバンドの仲間だし………っと!」

 

敷波はまたハンマーのように振って来た魚雷発射管を躱すと距離を詰める。

魚雷が防がれるのならば、ゼロ距離で主砲を喰らわせるのが速いと考えたからだ。

幸い、敵大将はシルクの布に主砲や魚雷発射管を備えている分、至近距離は射程の穴であった。

 

「悪いけど、仲間への恨み言は断ってるからね!」

 

一気に近づくと主砲を帽子に隠れた顔に向ける。

しかし、そこで何とシルクの布が飛んできて2門の主砲をグルグルに巻き取ってしまう。

 

「嘘!?」

 

そのまま凄まじい怪力で主砲を取られた敷波は、慌てて残りの魚雷を撃ちながら下がろうとするが、今度は身体中にシルクの布が巻き付いて来て縛り上げられる。

布は首にまで巻き付き、敷波の呼吸を封じる。

 

「ゥ………ア………!?」

「苦シメ………!消エテシマエ!」

「敷波ちゃん!?」

 

磯波が慌てて背中の槍を掴み思いっきり投擲する。

その意表を突いた攻撃は敵大将の左肩に突き刺さり、僅かにだが敷波の束縛を緩める。

 

「ウァアアアアアアアア!?」

「ぬ………ああっ!」

 

腕が何とか自由に動いたので咄嗟に敷波は背中の戦斧を握り自分を縛っているシルクの布を斬り裂き拘束から逃れる。

海面に落下した身体を前に突っ込んできた磯波がキャッチして下がっていく。

だが、その磯波の右肩に先程投擲した槍が投げ返され突き刺さる。

 

「うあ………!?」

「ヨクモ………!ヨクモ………!」

「ごめん………なさいっ!」

 

槍を引き抜かず敷波を左手で引っ張って下がりながら、磯波は残っていた魚雷を撃ち込む。

敵大将の帽子を含めた身体にそれは一瞬当たり、中の服が露になる。

 

「あ………れ?」

「見タワネ………!見チャッタワネ………!!」

 

安全圏まで下がった磯波と敷波は一瞬、見間違えかと思った。

帽子が再生してすぐに隠れてしまったが、その服は………。

 

「敷波!磯波!大丈夫!?」

「ゲホ、ゲホ………な、何とか………磯波のお陰で。」

「肩、大丈夫か磯波!?」

「力は入らなくなったけど………くっ!」

 

何とか右肩から槍を引き抜いた磯波は血を流しながらも、大丈夫だと言う。

2人共古参の艦娘だけあってこれ位では沈みはしないが、魚雷がもうない。

敷波に至っては主砲すら失ってしまっていた。

 

「残りの魚雷は私の左ふくらはぎの4本だけね………。」

「気を付けた方がいいよ。下手に近づいたらミイラにされたから。」

「じゃあ、援護して貰いながら一気に叩くわ。朝ちゃん、主砲を渡す。敷波、その戦斧貸して。」

「周りの布の対処は任せろ!みんなも高角砲や爆雷で一緒に頼むぜ!」

 

岸波は敷波の持っていた戦斧を手に握ると加速して直進する。その後ろに主砲二丁の形になった朝霜。

更に、野分、嵐、敷波、磯波と陣形を入れ替えて単縦陣で続く。

 

「岸波………!朝霜………!ヤッパリオ前達ハ!!」

「貴女の正体………確かめさせて貰う!!」

 

激高しながら前に出てきた敵大将に対し、岸波は更に増速して突っ込んで行く。

正面にシルクで繋がれた主砲と魚雷発射管が出てくるが、すぐ後ろの朝霜が一瞬だけ前に出て、二丁連装砲でそのシルクとの接続部分を狙い、発射する前に深海に落としていく。

尚も近づく岸波に対し、敵大将はシルクの布を巻きつけようとするが、野分と嵐が高角砲を、敷波が爆雷を、磯波が連装砲をそれぞれ使い撃ち落としていく。

 

「バカナ!?」

「その邪魔な帽子………捨てなさい!!」

 

仲間の援護のお陰で防御を気にする必要が無くなった岸波は後退する敵大将に対し、残りの魚雷4発を撃ち込む。

それは、身体とそれを覆う帽子に当たり派手に炎を撒き散らしながら顔以外の部分をさらけ出す。

 

「!?」

 

だが、ここで岸波の目が見開かれる。

中から出てきた服は、アレンジが加えられているとはいえ、自分や朝霜と同じ夕雲型の制服であった。

 

「岸波!手を止めるな!!」

「………っ!」

 

朝霜の言葉に一瞬動きが止まりそうになった岸波は被りを振ると戦斧を振り被る。

遠心力と共に振り被られた重量を伴った一撃は敵大将の恐怖を煽る。

 

「ヒィッ!?」

「はぁぁああっ!!」

 

咄嗟に顔を引く敵大将。

だが、戦斧の切っ先はキョンシーのような帽子をしっかりと捉えていた。

帽子が破壊され、周りに散らばる玉の付いた紐と共に中の鬼女の顔が露になり………。

 

「え?」

「ァ………!」

 

今度こそ岸波は固まった。

中から出てきた女は左側に角を付けていたが、その顔は明らかに少女の物であった。

いや、それだけならば、深海棲艦の姫クラスや鬼クラスに共通するから問題ではない。

岸波が動揺したのはその女の顔に「見覚えがあった」からなのだ。

 

「何で………?」

「何デ………?」

「何で………!?」

「何デ………!?」

「玉姉が!?」

「岸波は!?」

「ここにいるの!?」

「忘レタノヨ!?」

 

直後に振り被られる鋭利な刃のような骨の左手。

岸波は咄嗟に戦斧で防ぐが、式典用のそれは簡単に砕けてしまう。

 

「岸波!」

 

朝霜が思わず二丁連装砲で援護に入るが、敵大将は涙を流しながら下がっていく。

 

「朝霜モ………!何モ知ラズ、ノウノウト海ノ上デ過ゴシテ!?」

 

そのまま一目散に反対側を向くと逃げていく。

至近距離で敵大将の顔を見た岸波はしばらく固まっていた。

そこに朝霜がやってきて、彼女に問う。

 

「なあ………今の………まさかと思うが、「玉波」じゃなかったか?」

「ええ………。」

「どういうことだ?あたい、玉波は艤装の最終適性検査が合わずに人間に戻って故郷に帰ったって聞いてるぞ?」

「私もよ………でも………あの顔………そして、あの発言………。」

 

2人の頭に五月雨の話が思い出される。

艦娘は沈むと深海棲艦になる事があるという事実を。

また、長波の手紙にあった如月の話も思い出される。

深海棲艦になった艦娘は、本人に酷似した容姿を持つ事があるという事実を。

それらの事を加味して考えるのならば、あの深海棲艦は………。

 

「玉姉が………!私達の仲間の玉波が海に沈んで、艦娘に復讐しに来ているって事じゃないの!?」

『……………。』

 

岸波の叫びが海の上に響く。

その言葉に朝霜は勿論、敷波も磯波も野分も嵐も何も言えなかった。

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