燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第60話 時雨~優しすぎた残酷な嘘~

敷波達が客船に戻った頃には海戦は終わっており、霞達も無事であった。

彼女達は敵大将を倒したのかと問いかけてきたが、青ざめている岸波や朝霜の顔を見て只事では無かったと悟る。

敷波はすぐに提督と漣を含め、彼女達にだけ分かるように無線で説明をする。

 

「どういう事………?あなた達、舞鶴で何が………?」

「霞。今は岸波と朝霜を落ち着かせよう。まずは乗客の無事の確認。それからでも遅くは無いさ。」

 

時雨が代表して場を収めてくれる。

とりあえず提督が船長等に連絡をすると、脱出艇含め深海棲艦による怪我人はいないらしい。

只、出口に人が殺到した事等で怪我をした人はいるらしいが。

艦娘側の酷い怪我人は第二十六駆逐隊だと、擬似改二を使った反動で内臓にダメージを受けた磯波、岸波、野分、嵐。

特に磯波は肩から血を流している関係もあってなるべく早く船渠(ドック)入りをさせたかった。

一方、霞達の方は歴戦の勇士ばかりだけあって被弾は少なめだったが、それでも探照灯で敵の注意を引いてくれた綾波が中破までしていた。

 

「脱出艇を回収して横須賀に戻る。詳しい話はそれから聞こう。………すまんが、今は12人で、外で見張りを行ってくれんか?」

「司令!磯波ちゃんや綾波ちゃんもですか!?」

「正直、今から中は上層部の文句や愚痴で五月蠅くなる。あの将校とかに絡まれるならば、まだ外の方がいいだろう。」

「というわけで大変だけど宜しく!………ご主人様、今度はブチ切れないでよね。」

「善処する。後、楽器は漣がしっかりと手入れをして仕舞ってくれたから安心してくれ。では………。」

 

そういうわけで12人の艦娘達は横須賀に向けて外で航行する事になる。

配置を時々入れ替えながら敷波が綾波を、吹雪が磯波の状態を確認していく。

岸波は上の空でハンカチで吐血を拭いており、朝霜は周りに注意が行っていないような状態だったが航行に支障は無かった。

只、その様子を少し危惧したのか時雨がやってきてくれる。

 

「大した事は出来ないけど、僕らに話す事で気持ちが和らぐ事があれば聞くよ?」

『……………。』

「愚痴でもいい。文句でもいい。今は、外にいるのは僕らだけさ。」

「………みんなに聞いてもいい?」

 

長い沈黙の後、岸波が時雨達に対して話し始める。

朝霜はその岸波の話に耳を傾けていた。

 

「艦の形式の中には空いている番号があるわよね?その艦娘はどういう存在なの?」

 

座学で習う基礎中の基礎を確認する岸波であったが、時雨は笑わず答える。

 

「主に3つのパターンがあるね。1つ目は単純に艤装があるけれど、適正のある人間が見つかっていない。艤装は1番艦から順番に作られるから、後になればなる程その可能性は高くなるね。」

「2つ目は?」

「艤装との適性が見出されたけど、最終適性訓練を行うまでに何らかの事情で適正外と判断されて人間に戻る場合。番号の間が飛び飛びになっていると、そのパターンが多いよ。」

「3つ目………最後は?」

「………海戦中に轟沈した艦娘。深海に沈んだ事で空き番になる事もある。これは駆逐艦に多いかな。奪還(ドロップ)で戻ってくると希望によって………いや、上からの指示で強制的に再び艦娘に戻るね。」

 

時雨の教本通りの説明に、岸波は考える。

夕雲型は7番艦から9番艦までが空き番となっている。

その理由は今まで岸波は………いや、朝霜や他の夕雲型の面々も含めて2番目だと思っていた。

そう教えてくれた艦娘がいたのだ。

しかし、少なくとも9番艦である玉波は………間違いなく3つ目であった。

 

「私の見間違い?いえ、見間違いなんかじゃない………あの顔は絶対………。」

「顔だけならば深海棲艦は艦娘の真似をするらしいけどな。」

「嵐………?」

 

岸波は真剣な嵐の言葉を聞く。

彼女は少し言葉を選びながら告げていく。

 

「司令から聞いたんだ。原理は分からないけど、艦娘の持っている畏怖とか怨念とか、そんな感情が形になったように深海棲艦の姿が現れる事もあるって。俺も1回それでビビった事がある。」

「貴女の親しい人の顔をした深海棲艦が居たって事ね。」

「そうだ………悪い、本人がいないからこれ以上は話せないが………。」

「でも、玉波は正式に艦娘になる前に故郷に戻った。それが夕雲型の共通認識よ。けれども………あの玉姉は間違いなく私達を知っていて憎悪を抱いていたわ。」

「あんまり言いたくないけれど………誰かが嘘を付いてるって可能性があるんじゃ………。」

「……………。」

「あ、ゴメンなさい!貴女達の絆を怪しんでるわけじゃないのよ!」

 

野分の言葉に岸波は黙る。

マズイ事を言ったかと思い野分は慌てて謝るが、岸波は何かを確かめるように後ろの朝霜を見る。

朝霜もコクリと事実だと言わんばかりに頷くと、言葉を紡ぐ。

 

「野分、嵐、時雨、それにみんな………。それが本当だったら、真実ってのはとても残酷な事になるぞ?」

「身に覚えがあるんだね?」

「ああ………。最初にあたい達に非常に残念がって玉波達が故郷に帰ってしまったって教えてくれた存在がいるんだ。嘘を付いているとしたら、そいつしかいない。でも………。」

「何が引っ掛かってるんだい?」

「もしそうだとしたら………本当に悲しい事になるわ。真っ先に話してくれたのは、玉波と一番仲の良かった………涼波………涼姉だったのだから。」

 

引き継いだ岸波の言葉に、一同は唖然とした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

横須賀に客船が戻った後、不機嫌になった乗客の見送り等を提督と漣に任せた12人の艦娘達は、それぞれ船渠(ドック)入りをして高速修復材(バケツ)を使わせて貰う。

程なくして完治した彼女達は、全ての処理を終え、上層部に振り回される事になった船長達に頭を下げていた提督の元へと集まる。

同じく頭を下げて、船が出港するのを待った一同は提督に連れられ庁舎に入り、執務室へと向かった。

 

「成程な。少し舞鶴の奴に確認を取ってみる。すまんが待ってくれ。」

 

電話を取って舞鶴の提督に対し、岸波や朝霜の言っていた事を問いただし始めた提督は、しばらく時間が掛かった後で電話を下ろして溜息を付く。

それは岸波達の疑念が当たっていたという事を示していた。

 

「五月雨………涼波の同部屋は誰だ?」

「今は電です。」

「そうか。彼女には悪いが、涼波を起こして呼んできてくれ。」

「分かりました。」

 

五月雨が出て行って、間もなくして涼波が呼ばれてくる。

 

「お、提督!こんな夜中にお帰りかい!スズを呼ぶって事はみんな疲れ果てて書類仕事に困ったのかな?」

「涼波………こんな時間に呼び出してすまない。」

「ん?何か重い空気だね?あたしで力になれる事があれば………。」

「涼姉………よく聞いて。」

「あれ?岸波………?何?その思いつめたような顔は………?」

 

意を決した岸波が前に出ると、涼波に説明をする。

夜の海で行われた海戦の事を。

玉波の姿をした深海棲艦が、岸波や朝霜に対して恨み言を呟きながら襲ってきた事を。

 

「……………。」

「涼姉、ショックなのは分かるけど………。」

「い、いやー………何言ってるのさ?玉は故郷に帰ったじゃん?岸波、ちょっち疲れてるんだよ?」

「ごめんなさい、私達がもっと早く貴女の苦しみに気付いていれば………。」

「な、何謝ってるの!?スズは嘘なんか付いてない!嘘なんか………!?」

「舞鶴の提督も認めたわ。今頃、私達の適性検査の時に旗艦をしてくれていた球磨さんも同じように呼び出されている。」

「っ!?待って!球磨さんは悪くない!だって………あ………。」

 

思わず涼波は口に手を当てるが、一度呟いた事が消えるわけがない。

みるみるうちに顔が青ざめ、身体がガクガクと震え始めた。

 

「玉は………玉が………玉波が………何で………何で!?」

 

あまりのショックに身体のバランスを保てずに思わず膝を付き倒れそうになったので、岸波が咄嗟に近寄って支える。

涼波は岸波に身体を預けながら震えていた。

強気な性格の彼女とは思えない位に身体は弱々しく震えており、恐怖に怯えていた。

目からは涙が流れており、雫が床に落ちていく。

 

「深海棲艦に………あたし達を恨んで………もし………もしも………藤や早、浜に伝わったら………。」

「大丈夫だ、涼波。この事実を知ってるのはこの部屋にいるあたい達だけだ。藤波や早波、浜波にはまだ伝えてない。」

 

岸波だけでは安定しない位に涼波が揺れていたので、一緒に支えに来た朝霜が言葉を紡ぐ。

それに涼波の身体がビクっと震える。

 

「お、お願い………お願いだから、みんなには………夕雲型のみんなには………!」

「安心しろ。あたい達は誰かにこの事を言いふらすつもりは無い。」

「ほ、ホント!?だったら………!」

「だけど………深海棲艦として襲ってきた時は………あたい達でも隠し通せない。きっと、舞鶴の提督も球磨さんも………。それだけは覚悟してくれ。」

「……………。」

 

その言葉に涼波は静かに嗚咽をする。

岸波と朝霜はずっとその身体を支えていた。

冬の寒さは執務室の中にまで襲ってきていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

やがて季節は更に移り替わる。

冬の寒さは和らぎ暖かな春の訪れを感じ始める。

夕雲型の面々も改二や擬似改二の時間を更に保てるようになり、練度の高い艦娘達に肩を並べられるレベルにまでなった。

改二の姿に関しても、あれから高波と秋雲が目覚め戦力的にも強化されるようになる。

更に、深海棲艦の激しい襲撃に備える為に、主に内陸を中心に泊地を増やそうという提案も出て来て、パラオ復興の時のように資材の運搬が行われるようになった。

 

そんなある桜の開花を間近にした日である。

駆逐艦寮の一室で涼波は夢を見ていた。

 

(ここ………は………。)

 

彼女は銀髪の少女と歩いていた。

笑顔が綺麗な娘であった。

少女とは楽しい談笑をしていたが、やがて栗毛色の髪の少女が映ると彼女はそちらに走っていってしまう。

 

(っ!?ダメだって………!付いていったら………!)

 

慌てて涼波は止めようとするが、何故か足が動かずその距離が開いていく。

彼女は艤装を背負ってこちらに手を振っていた。

そして抜錨して消えていく。

 

(待って!待って!お願いだから………玉波ーーーっ!!)

 

ガバッ!!

 

「………っ!はあっ、はあっ………!」

 

ベッドから目を覚ました涼波は大量の冷や汗をかきながら自分の手を見つめていた。

まだ薄暗く、早朝までは時間がある。

 

「あ、あたし………?また………?」

「最近、悪い夢を見るみたいですね。」

「あ………。」

 

声にベッドの外を振り向いてみれば、そこには寝間着姿である同部屋の電がおしぼりを準備してくれていた。

どうやらまた、彼女を起こしてしまったらしい。

 

「ご、ゴメン………何か最近調子良く無くて………。」

「雷ちゃんも言っていました。最近スランプじゃ無いかって。」

「あはは………ちょっち集中力に欠けているのかなぁ?」

「あの日からですね。夜中なのに五月雨ちゃんに執務室に呼ばれてから。」

「……………。」

 

涼波は無言になる。

岸波と朝霜から深海棲艦になった玉波の事を聞かされた日からだ。

あの日以来、こうして悪い夢ばかり見る。

 

「藤波ちゃんも早波ちゃんも浜波ちゃんも心配しています。彼女達には語れない事ですか?」

「うん………絶対に言えない。」

「電にもですか?」

「うん………。」

「じゃあ、1つだけ教えて下さい。夢の中で呟いていた「玉波」とは誰の事ですか?」

「!?」

 

思わず深海棲艦を見るような目で電を見てしまった涼波だったが、電はその目を静かに受け止めると制服に着替えだす。

 

「電………?」

「横須賀の岬に行きませんか。あそこならば、絶対に誰にも聞こえないはずです。」

「えっと………。」

「このまま黙っていると、間違いなく涼波ちゃんは壊れます。その前に………電に想いの丈をぶつけて下さい。」

「……………。」

 

電の優しさを受けて、涼波も黙って着替え始める。

彼女達は部屋を出て当直の艦娘に許可を貰うと横須賀の岬へと向かった。

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