燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第61話 涼波~消し去ってしまった親友~

横須賀の岬は本格的な春を迎えていないという事もあって、まだ明け方前の時間は肌寒かった。

天候も曇り空が広がっており、いつもの見晴らしの良さは感じさせてくれない。

そこに制服を着た涼波と電は静かに座って海を眺めていた。

どちらも何も話さず、時間だけが過ぎていく。

 

(何から話せばいいんだろ………?あたしは………。)

 

「五月雨ちゃんの話を覚えていますか?」

「え………?」

 

いきなり呟いた電の言葉に涼波は思い出す。

確か、五月雨は轟沈して深海棲艦になり電と戦ったはずだ。

そして、撃沈させられ沈む間際に電の慈愛の心を受けて艦娘としての記憶を取り戻して元の姿に戻ったと聞いている。

それはつまり………。

 

「電は………戦った深海棲艦が五月雨だって分かってたって事?」

「その時は奪還(ドロップ)の事を誰も知らなかったので分からなかったです。でも、予感………と言ったら変かもしれませんが、その姿を見て親近感が湧いたのは事実です。」

「じゃあ、攻撃するのも抵抗があったって事?」

「そうですね。けれど、電達はだからこそ誰かを沈めて欲しく無かったです。だから………。」

「そっか………。」

 

涼波は、電は芯が強い艦娘なのだなと感じた。

いや、そうならざるを得ない環境だったのかもしれない。

初期艦としての苦労や苦悩は彼女達の想像を絶するのだから。

 

「最初に謝っておきます。間違っていたらごめんなさい。実は、電は秋から冬にかけて、睦月ちゃんに悪夢に関する相談を受けた事があります。だから………涼波ちゃんの夢もそれに類似した物なのでは?と思いました。」

「あ………。」

「玉波と涼波ちゃんが名乗っている娘は………生き別れの………海に沈んだ艦娘の事では無いのですか?」

「……………。」

 

最初から電は全てを察していた。

その上で、涼波の事をずっと心配してくれていたのだ。

その事実に思わず涙が溢れ、顔がくしゃくしゃになった涼波は電に抱き着き、久々に思いっきり泣く。

しばらく電は黙ってその身体を受け止めてくれていた。

そして、泣き止んだ涼波は電に抱き着いたまま静かに話し出す。

 

「夕雲型には7番艦から9番艦まで空き番があるんだ。大波、清波、そして………玉波。3人は実は訓練学校時代にはいたんだ。」

「確か、夕雲型は舞鶴出身でしたね。横須賀に来る前はそこの訓練学校で座学を学んだり、艤装の適性検査を受けたりしていた………合っていますか?」

「うん………。」

 

訓練学校では、1番艦の夕雲から末っ子の清霜、更には陽炎型と夕雲型のハイブリットの秋雲までみんなで一緒になって艦娘になる為に励んでいた。

その日々は今でもハッキリと鮮明に思い出す事ができる。

 

「その訓練学校で、スズが一番仲の良かったのが玉波………玉なんだ。銀髪が綺麗で、真面目な娘だった。みんなの事を〇〇さんって呼ぶけれど、あたしの事は強く懇願して「涼」って呼んで貰うようにお願いしたっけ。」

「いい友達………いえ、親友だったのですね。」

「ああ、仲間想いのいい艦娘………になれるはずだった。なれるはずだったんだよ………!」

 

唇を噛みしめると共に、思わず電を抱きしめる力が強まったが、彼女は受け止めてくれた。

涼波は感情をなるべく押し殺すようにしながら話し出す。

 

「あたし達が訓練学校で艤装の適性検査を受けている時、旗艦を務めてくれたのは軽巡の球磨さんだったんだ。最終適性検査を受ける時は、1回近海に出て航行する事になるんだけれど、その時、玉波は大波と清波と一緒に球磨さんに連れられて抜錨して行ったんだ。」

 

仲の良かった涼波は特別に見送りを許可して貰えた。

あの時の会話はハッキリと覚えてる。

 

「もう、大丈夫だから………ありがとね、涼。」

「玉!帰って来たらみんなで盛大に祝おうね!球磨さんも宜しく!」

「分かってるクマ!球磨を頼りにして欲しいクマ!」

 

そう言って球磨や玉波達は抜錨していった。

だが………。

 

「夕日が落ちて夜になっても帰ってこなかったから、心配してスズが舞鶴の提督と共に代表して見に行ったんだ。そしたら………ボロボロの球磨さんが1人で戻って来た。」

「………海上で、深海棲艦の襲撃にあったのですね。」

 

その時の会話も涼波はハッキリと覚えている。

彼女とこう会話を交わしたはずだ。

 

「球磨さん………玉達は………?」

「ごめん………守れなかったクマ………。」

 

その言葉を聞いた後の記憶が涼波には無い。

頭の中が真っ白になって………。

 

「気づいたら、あたしは提督に羽交い絞めにされてバタついていた。そして、見下ろしたら衝撃を受けた。そこには、あざだらけになって血を流して倒れていた球磨さんがいたから………。」

「……………。」

「軽巡なんだから、失礼な駆逐艦見習いに一発位殴り返しても良かったのに………あの人はあたしの怒りを全部受け止める選択肢を選んだんだよ………!」

 

その後どうすればいいか涼波は分からなかった。

只、そこで提督は言ってきたのだ。

この事実を他の夕雲型に伝えるべきかと。

今この時点ならば、知っているのはこの3人だけだから誤魔化す事も出来る。

勿論、素直に伝えてしまう事も出来る。

そして、残酷だがその選択権は涼波にあると。

 

「………敢えて聞きます。何故、伝えないという選択肢を取ったのですか?」

「只でさえ大破状態だったのに、あたしが更にボコボコにした球磨さんの顔を見たら伝えられなくなっちゃったんだ。もしもスズが真実を伝えたら藤波や早波、みんなが球磨さんを責める。当時の浜波とかは、恐怖で艦娘になれないかもしれない。そう感じた途端、提督と球磨さん2人に涙ながらに懇願したんだ。3人は艤装の最終適性検査が合わずに故郷に帰った事にしてくれと。」

「……………。」

 

だから、夕雲型の欠番3人は轟沈扱いにはならなかった。

他のみんなの心を守る為に、涼波が事実を闇に葬ってしまったから………。

 

「優しいのですね、涼波さんは。」

「違う………!スズは怖かったんだ!真実がみんなの心をドス黒く蝕むのが!あたしが球磨さんをギッタンギッタンにしたように!見たくなかっただけなんだ!だから………!」

 

涼波は一気に話す。

あの執務室に呼ばれた日に、海戦で岸波と朝霜が、深海棲艦になった玉波を見たと。

憎悪の感情に支配され、忘れられた事を嘆きながら2人に襲ってきたと。

 

「全てはスズの間違った選択が招いた事なんだよ!これから玉はみんなに復讐しに襲ってくる!そして誰かを苦しめる!それがあたしは………怖いんだ!!」

「……………。」

「ねえ、スズはどうすればいいんだろう………?戻れるならば過去に戻りたい!間違えた選択肢をやり直したい!あたしは………!」

「残念ですが………全てを無かった事にはできません。」

 

逃避を始める涼波に、しかし電はハッキリと言う。

彼女は涼波を少し放し、顔をしっかりと見つめる。

 

「涼波ちゃんが考えなければいけないのは過去ではなく今これからです。その親友が海の底から復讐しに来た時、どうするべきか?………違いますか?」

「で、でも………あたし1人じゃどうすればいいか分からないんだ。だって………。」

「1人の力だけでは出来る事や考えられる事に限界があります。頼れる人に頼る。それも大切な事です。」

「今更みんなに何て話したら………。」

「ならば、もう知ってしまった人達に協力を求めるべきです。例えば岸波ちゃんと朝霜ちゃん。確か来週、第二十六駆逐隊の面々が久々に横須賀に戻ってきて演奏会を開くはずです。その時に聞いてみたらどうですか?」

「電………。」

 

勿論、それだけでは何も変わらないかもしれない。

だが何かが変わるかもしれない。

少なくとも何も行動しないよりはずっとマシだ。

だからこそ、涼波は電の言葉に静かに頷いた。

 

「ゴメン、電………。あたし、凄く情けない所見せてる。」

「もっと見せて下さい。電は嚮導の1人ですから。そして、涼波ちゃんが今度こそ後悔のしない選択肢を選んで下さい。」

「出来るかな………。」

「間違えない人なんていないですよ。後悔する過去があるからこそ、強くなれるのが人なのです。」

 

初期艦故に、後悔する選択肢がもしかしたら想像以上に多かったのかもしれない。

そう感じた涼波は、電がとても頼もしく見えた。

 

「何か………風雲が最高の先輩って言うのも分かる気がするなぁ。」

「そう言って貰えると嬉しいのです。では、行きましょうか。」

「行くって何処へ?」

「まずは司令官さんと五月雨ちゃんの元へ。何か冬から進展があるか聞いてみましょう。」

「あ、うん………。」

 

そう言えば現実から目を背けたいあまり、玉波の事を2人からは聞いて無かったな………と涼波は気づき、涙を拭きとると頬を叩き、電と共に庁舎へと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

庁舎の執務室の前に来た涼波はノックをしようとするが、その手を電に止められる。

疑問に思った涼波は電を見たが、彼女は口に指を当てて静かにするように言うと中の会話を聞き取る。

どうやら、秘書艦補佐の陽炎は自室で就寝中であるらしく、提督と五月雨の2人しかいないらしい。

中からこんな会話が聞こえてきた。

 

「その指輪を受け取る事は出来ません。」

「!?」

 

思わず何かを喋りそうになった涼波の口を電が静かに手で塞ぐ。

指輪という事は、提督が五月雨にケッコンカッコカリのお願いをしているのだ。

だが………。

 

「これで何十回目になるかな………。やはり俺の気持ちは受け取ってはくれないか?」

「はい。………私は人殺しです。提督のつがいになるには相応しく無いです。」

「それは深海棲艦五月雨としての姿だろう?今は艦娘五月雨だ。」

「深海棲艦五月雨も艦娘五月雨も変わりません。全てが私の姿であり罪です。」

「そうか………受け取って貰えないのならば仕方ないな。」

 

その会話を聞いた電は中に聞こえないように溜息を付くと涼波にだけ分かるように言う。

 

(ずっと、2人はこの調子なのです。お互いがお互いを想うが故に、噛み合いません。)

(そ、そうなんだ………。)

 

五月雨は自身の過去故に提督の愛を受け取れないのだな………と感じた涼波は、玉波の事もあって変な親近感を覚えてしまう。

でも、それはとても悲しい事のようにも思えた。

やがて、中の会話が収まるのを待って、電がノックをする。

五月雨によって扉が開かれ、2人は招かれる事になった。

 

「どうした?」

「あ、提督………。えっと、その………あのさ、玉………じゃなくて、あの深海棲艦はどうなったのかな?」

「舞鶴の奴も含めた提督同士で話し合って名前を決めた。「深海玉棲姫」………。次に会った時、それが呼称として広まるだろう。」

「………舞鶴の提督や球磨さんは?」

「舞鶴の奴は普通に業務を行っている………表向きはな。その深海棲艦の名前を決めに行った時に会った時はやつれていた。球磨は………ジャズを舞鶴まで披露しに行った第二十六駆逐隊の面々が実際に会ったそうだ。」

「岸波や朝霜が!?」

「2人が親切に電話で俺に伝えてくれた。精神的に滅入っていたと。岸波や朝霜に気の済むまでぶん殴ってくれと、消え入りそうな声で言っていたと。」

「そう………ですか。」

 

自分が真実から逃げている間に色んな事があったのだと涼波は痛感した。

特に自分より先に球磨が壊れかかっていたのがショックであった。

 

「ああ見えて球磨は責任感が強い。自身の失態を1年間気にしていた上で、冬の出来事だったからな。流石にあのままでは本当にダメになると判断したから、岸波と朝霜が同部屋の多摩にだけ真実を語ったらしい。」

「……………。」

「許せ………とは言わん。だが、気が向いたら球磨に手紙を書いてやってくれ。それだけでも、少しは変わるだろうからな。」

「すみません………。」

「お前もそんなにしおれるな。いつもの調子を取り戻す日を待ってるぞ。」

「はい………。」

 

横須賀の提督に励まされた涼波は、電と共に五月雨にも挨拶をして部屋を去る。

部屋を出た涼波は静かに電に告げる。

 

「電………あたし、何をすればいいかやっぱりまだ分からないけど………今日の夜、球磨さんに手紙を書いてみようと思う。」

「小さくても一歩一歩を大切にして下さい。それが、涼波ちゃんの未来に繋がるのですから。」

「ありがとね………じゃ、まずは朝御飯、食べよっか。」

 

まだ五里霧中のような状態は続いている。

それでも、何か行動を起こそうと決めた事が進展だった。

涼波は電と共に駆逐艦寮の食堂に向かい、最初に栄養補給をしようと決めた。

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