燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第62話 藤波~二択~

横須賀の鎮守府は春を迎えると桜の花見の季節になる。

特に今年は敷波率いる第二十六駆逐隊の面々がジャズバンドを披露してくれるという事もあり、盛り上がっていた。

屋台も出る事になり、お祭り好きな駆逐艦娘達にとっては久々に楽しめる場になる事でみんな騒いでいる。

そして、それは涼波も同じであった。

しかし………。

 

「えーーーっ!?別行動!?涼波お姉ちゃん、どうして!?」

 

いざ、敷波達のジャズバンドを聞きに行こうとした早波は涼波にいきなり断られてしまい、憮然とした表情を見せる。

それは、一緒に同行するつもりだった藤波や浜波にとっても同じであったらしく、驚きを隠せないでいた。

 

「すーちゃん………ど、何処か調子悪いの?」

「只でさえ、ダブル巻ちんと高ちんと秋雲ちんもいないのに、どったの?」

「ゴメン!ちょっとスズ、最近スランプだったから電と臨時訓練する事になって………!」

 

涼波は手を合わせて思いっきり謝罪をする。

その場には嚮導の雷と深雪と初風も居たので、電の名前が出た事に首を傾げる。

何故、わざわざこのタイミングで臨時訓練をするのか分からなかったのだ。

 

「電が臨時訓練だなんて、彼女らしくないわね………雷、何か知ってる?」

「知らないわ。こんな日を選ぶなんてあの子結構スパルタよね。」

「ま、涼波が納得してるんならいいんじゃないのか?」

「本当にゴメン!みんなは提督のお使いで呉まで行った長月さん達の分まで楽しんできてよ!」

 

実は涼波の言う通り、長月、巻雲、巻波、高波、秋雲の5人は呉鎮守府に遠征に行っている。

只でさえ夕雲型が減っているのだから、ジャズバンドの披露会には残っているみんなで参加したかったのが藤波達の気持ちであったが、涼波はそこだけは譲ろうとしない。

 

「あーあ、岸ちんや朝霜ちんも演奏してるんだから涼ちんも来て欲しかったと思うんだけど………。」

「あはは………先に買い出しをしてくれている夕雲にも宜しく伝えといてよ!」

「……………。」

「ふ、藤!?」

 

涼波に対してジト目で見てくる藤波に対し、彼女は思わず固まる。

藤波は、その顔をマジマジと見ながら言った。

 

「涼ちん………何か隠してない?」

「な、何が!?どして!?」

「さ、最近………すーちゃん、変?」

「涼波お姉ちゃん………様子おかしいし。」

「べ、別に何でもないから!………じゃ!ちょっち行ってくる!」

 

次々とじろじろ見てくる妹艦達に対し、適当に誤魔化すと涼波は屋台とは反対側………装備保管庫に走っていく。

その後ろ姿を見ながら、藤波はボソリと呟いた。

 

「絶対嘘だ………。藤波達にも言えない事って何だろ?」

「ま、機会があったら教えてくれるわよ。」

「雷はそれでいいの?妹艦の電もきっと関わってるんだよ?」

「他人に言えない事の1つや2つ、持っている艦娘だっているの。………特にあの子は初期艦だからね。多分、私達に言えないような事も沢山抱えていると思うの。」

「雷………。」

「だから、時には優しく見守ってあげる事も重要よ。」

「………雷ってたまに包容力あるよね。」

「そう言って貰えると嬉しいわ………じゃあ、行きましょ!」

 

雷に連れられ、藤波達は屋台を抜けながら演奏会の舞台へと歩いていく。

彼女達は、涼波の事は、今は頭の片隅に置いてあげようと決めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、涼波は提督に許可を貰った特別訓練用の申請書を装備品保管庫の衛兵に見せて、中で艤装を付けると桟橋近くへと走っていく。

そこには同じく艤装を付けた電が待っていた。

 

「話は付けてきましたか?」

「な、何とか………流石にタイミング悪いと思ったけど、今しか無いと思ったし。」

「じゃあ、抜錨を………あ。」

 

電が見ると、先に抜錨している人物がいた。

しかし、それは目的の人物ではない。

彼女は冬から横須賀の防空駆逐艦として滞在してくれている照月だ。

涼波達を見ると、照月は装備をしている長10cm砲ちゃんと共に手を振って応えてくれた。

 

「あ、涼波ちゃん!電ちゃん!こんな時に訓練ですか!?お疲れ様!」

「照月ちゃんもお仕事お疲れ様なのです。」

「大変じゃない?こうしてずっと見張りをしているのは?」

「大丈夫、大丈夫!みんなを守る為だもの!これ位、へっちゃら!」

「でも、休息も必要だよ?」

 

更に掛かって来た声に振り向くと、そこには屋台で買ったと思われる、りんご飴を持った五月雨が居た。

彼女は照月に1本渡すと自分の分も1本取り出す。

 

「ゴメンね。涼波ちゃん達の分は無くて。」

「いえいえ。スズ達はこれからちょっち沖合に出るから大丈夫だって!」

「では、対空監視のお仕事頑張って下さいね。」

 

涼波達は抜錨すると、桟橋に座る照月と五月雨に手を振って沖に出る。

防空駆逐艦は深海棲艦の攻撃機を迎撃する能力に長けているので、こうして対空監視をしている事が多い。

とても頼りになる存在故に、その苦労は図り知れないと涼波は思った。

 

「照月も心安らぐ時があるといいんだけどなぁ………。」

「だから五月雨ちゃんが気を使ってくれてるんですよ。」

「陽炎からレ級と対峙した時の話を聞いた日はキレると五月雨は怖いって思ったけど………どういう時にそうなるか分からないや。」

「案外、身近な事に爆弾を抱えているのかもしれません。………前、話してくれた涼波ちゃんの事みたいに。」

「そうだね………。」

 

自分の事に話題を振られた事で、涼波は切り替える。

もうすぐその目的の人物が見えてくるはずだ。

程なくしてその艦娘の姿が水上に見えた。

 

「よく来てくれたクマ………。」

「お久しぶりです、球磨さん………。」

 

栗毛色の髪の少女が敬礼をするのに対し、涼波と電が答礼をする。

彼女は軽巡洋艦。

球磨型1番艦球磨………舞鶴での夕雲型艦娘達の旗艦を務めた艦娘であり………玉波達を沈めてしまった原因を作った艦娘であった。

 

「手紙………ありがとうクマ。申し訳ないクマ。祭りを楽しみたかっただろうに………。」

「いえ、あたしも申し訳ありません。現実逃避していた間に球磨さんがその………。」

 

そこで涼波は言いよどむ。

球磨は最近眠れていないのか、目の下にくまが出来ていた。

艦娘はその適正を受けた瞬間から体型は変わらないはずなのに、少し痩せて見えた。

 

「気にするなクマ。………全ては球磨が自分で招いた事クマ。」

「貴女は………。」

 

この軽巡洋艦は適性を受けた時に変な語尾を付ける癖がついてしまった。

だが、元々は非常に強気で責任感が強い1番艦なのだ。

その性格がこの1年間彼女を苦しめ続けていた。

涼波はその事実に気づくのに、かなりの時間を要してしまった。

本当は、もっと早く感づいても良かったのに。

 

「球磨さん………手紙でも書きましたが、あたしは貴女を責める為にこうして対面したわけでは無いんです。玉が………玉波が………深海玉棲艦が復讐しに来た時にどうすればいいかと思って………。」

「その答えを球磨に問うクマ?」

「はい。残酷なのは分かっています。でも………あたし達を教え育ててくれた球磨さんならば、何か答えを出してくれるんじゃないかと思ったんです。」

「……………。」

 

球磨は静かに目を閉じ、意を決したように涼波を見る。

彼女は右手でVサインを出した。

いや、正確には………。

 

「二択………?」

「球磨はやはり涼波に恨まれる存在クマ。考えられる選択肢が残酷な2つしか用意できないから………。」

「1つは………?」

「その身を持って、その罪を償う事クマ。涼波が自分の付いた嘘をどうしても許せないのならば、玉波に会って沈められるのが一番妥当クマ。」

「轟沈しろ………ですか。」

 

確かに残酷な選択肢だと涼波は思った。

自分の身を犠牲にして深海に沈めば、確かに玉波は納得できるかもしれない。

だが………。

 

「但し、それは自己満足でしかないクマ。涼波が沈んだ所で玉波が納得して復讐を止めるかどうかは分からないクマ。それ所か、涼波が深海棲艦になって藤波や早波、浜波達を襲う可能性だってあり得るクマ。」

「っ!?そ、それは………。」

 

冷静に言ってのける球磨に、涼波は動揺する。

沈んだ先の事までは流石に考えられていなかった。

でも、確かに五月雨の話を聞く限りでは深海棲艦になっている間は、艦娘の記憶は存在しないと言われている。

破壊本能と殺戮本能に身を任せ、人々を恐怖に陥れる事しかないのだ。

 

「それがイヤならば………2つ目の残酷な選択肢クマ。但し、これも自己満足でしかないクマ。」

「どういう………事なのでしょうか?」

「単純だクマ。沈められるのがイヤならば、エゴでも沈める選択肢を選ぶクマ。」

「そ、それって………!?」

「せめて………親友だった涼波が引導を渡してやるのがいいクマ。撃沈させれば運が良ければ人間の玉波が奪還(ドロップ)するかもしれないクマ。でも………場合によっては、更に一生分の後悔を背負って生きていく覚悟も必要になるクマ。」

「……………。」

「本当は………球磨がケリを付けるべき問題だけど………それで涼波が納得できないのならば、そうするしかないクマ。」

 

球磨はそれだけを言うと目線を落とす。

その姿を見て、涼波も何も言えなくなる。

確かに玉波が誰かに沈められる姿なんて見たくない。

深海棲艦としての最期を迎えた時の断末魔の声を聞きたくはない。

だが………だからと言って、自分の手でせめて決着を付けてしまおうという考えには中々至らない。

 

「まだ、希望があるのは2つ目の選択肢クマ。でも、涼波は玉波に………魚雷や主砲を向ける事ができるクマ?」

「あたしは………。」

「その残酷な選択肢を選んだのが………睦月ちゃんだったんです。」

「電?」

 

ここで初めて電が会話に参加する。

彼女は深海棲艦になった如月と対峙した時の睦月の事を話す。

旗艦である古鷹が攻撃命令を出せなかったので、睦月が引き継ぎ攻撃命令を出して、自身でトドメを刺したと。

大切な親友に誰かを傷つけられるくらいならば、自分の手でケリを付けようとした事。

そして、その結果運よく奪還(ドロップ)したが、しばらく古鷹を含め3人の関係は疎遠になってしまった事。

勿論、その話は長波の手紙で涼波も知っていたが、改めて聞かされると重いものを感じた。

 

「涼波ちゃんは………親友を討てますか?」

「スズは………玉を………。」

「本当は、選択肢は三択あると思うんです。最後の1つは、誰かが玉波ちゃんを沈めてくれるのを待つ事。但し、それが誰になるかは分かりません。赤の他人かもしれないし、涼波ちゃんの大切な人かもしれない。電かもしれないし球磨さんかもしれない。勿論、藤波ちゃんや早波ちゃん、浜波ちゃんの可能性だって………。」

「そ、そんなの嫌だよ!?」

 

最後の選択肢を突き付けられ、思わず涼波は叫ぶ。

そんな後悔はしたくない。

でも、1つ目の選択肢は選べるわけが無いし、2つ目の選択肢だって………。

 

「どうすれば………どうすれば………!?」

「まだ時間はあるクマ………。しっかり考えて、自分だけの答えを………っ!?」

 

その瞬間、球磨は上空を見上げる。

鬼火のような攻撃機が海の向こう側から空を覆いつくす程に大量に飛んできたのだ。

それは、横須賀へと一直線に向かっている。

 

「急げ、対空迎撃クマ!」

「は、はい!」

「撃ちます!」

 

球磨の咄嗟の言葉に上空に対空気銃や主砲を撃ちまくる涼波達。

だが、球磨が4機、涼波が2機、電が3機撃ち落とすのがやっとだ。

残りの半数以上の攻撃機は彼女達の頭上を通り過ぎていく。

 

「不味いクマ!?」

 

咄嗟に横須賀へと進路を向ける涼波達。

すると、桟橋付近で一斉に爆発が起こる。

照月が迎撃行動を行ったのだ。

だが、その残った爆撃機の1機がフラフラと爆弾を抱えたまま降下する。

 

「あそこは………!?」

 

涼波は思わず叫ぶ。

爆撃機は横須賀鎮守府の庁舎へと落下して爆発したからだ。

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