燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第63話 陽炎~代理として~

桟橋へと戻った涼波達が見たのは、青ざめた顔でうずくまる照月と中心部を破壊されて煙を上げる庁舎であった。

屋台の方は突然の爆撃に混乱している状態だ。

 

「照月!五月雨は………!?」

「わ、私………迎撃に失敗して………。」

「落ち着いて!五月雨は!?」

「庁舎に………提督の所に………。」

 

とにかくそれだけを聞き出すと、涼波達は艤装を付けたまま庁舎へと走る。

崩れた庁舎の真ん中にあるのは執務室だ。

そこが狙われたという事は、提督は………。

 

「提督!?」

 

廊下を駆け抜けて、壊れた入り口を開けると中には既に五月雨と、別の場所からやって来た陽炎が、提督を救出して横たえていた。

だが、彼の目は虚ろで服はボロボロであり、血だらけであった。

 

「司令、私達が分かる!?司令!?」

「陽炎………か?すまん………少しやられたみたいだ………。」

「少し所じゃないわよ!重傷を負ってるわ!?今、衛兵に救急車の手配をして貰ったから………!」

 

一方で五月雨はこちらを見ずにわなわなと震えていた。

こんな彼女の姿を見た事は少なくとも涼波は無い。

 

「提督………。」

「ああ、五月雨………悪い………ヘマをした見たいだ………。」

「っ!!」

 

すると五月雨は急に立ち上がり、外へと走っていく。

 

「ちょ!?五月雨!?何処に行くの!?ねえ!?」

「不味い!?追いかけて!?今の五月雨の目………正気じゃなかった!?」

 

陽炎の言葉に涼波と電、そして球磨は彼女を追いかけていく。

来た道を戻るように走っていった涼波達は衝撃的な物を見る。

桟橋で五月雨が照月を殴っていたのだ。

 

「何で………何で守ってくれなかったの!?」

「私………私………!」

「貴女のせいで………!提督は………!あの人はぁっ!!」

「ごめんなさい………ごめんなさい………!」

「だ………ダメだ!五月雨!怒りに任せて力を振るっちゃダメだ!!」

 

涙を流しながら一方的に殴られている照月を見た涼波は、嘗ての自分を………玉波を失った事で一方的に球磨を殴り倒した事を思い出し、思わず後ろから羽交い絞めにしようとする。

だが、五月雨の怒りに任せた力は凄まじく強く、逆に投げ飛ばされる。

球磨も止めようと前から押さえに掛かるが、周りが見えて無いのか、もはや軽巡だろうがお構いなしに殴り飛ばしていく。

 

「うあああああああ!!」

「だ、ダメだ………五月雨………えっ!?」

 

だが、その五月雨の身体が急に横に吹き飛び、浅瀬を思いっきり転がる。

何と電が横合いから彼女の顔を力いっぱいぶん殴ったのだ。

その小さい身体からは想像できない位の怪力に涼波は呆気に取られるが、五月雨もすぐに立ち上がるともはや鎖の千切れた狂犬のように電へと襲い掛かる。

その怒りの右拳を………しかし、電は避けなかった。

 

「うああああああああああああああ!!」

 

メキッ!

 

嫌な音と共に顔に拳がめり込むが、電は痛がる素振りもせずに静かに五月雨を見る。

電にしては冷たい目線が投げかけられ、それが逆に五月雨の血の気を引かせる。

 

「………満足しましたか?」

「あ………。」

「怒りに任せて暴力を振るって………必死に鎮守府を守ろうとした照月ちゃんを殴って………。」

「ああ………。」

「司令官さんを守れなかった八つ当たりをして………!自分の未熟さを他人のせいにして………!!」

「あああ………。」

 

激高した五月雨を初めて見たが、同時に激高した電も初めて見た涼波はその威圧感に唖然とする。

これが初期艦同士の喧嘩なのかと思うと恐ろしい物を感じた。

だが………ここでようやく自分のしでかした事を悟った五月雨は自分の手を見ながら震えて座り込む。

 

「ごめんなさい………照月。」

 

大粒の涙が瞳から流れ、自分のやった事を悔やみ始める。

電は………いや、照月も涼波も球磨も静かに彼女を見ていた。

 

「ごめんなさい………電、ごめんなさい………みんな、ごめんなさいーーーっ!!」

「五月雨ちゃん………ゴメンね!大切な人を守れなくて………ゴメンね………!」

 

そのまま感情の丈が爆発してしまった五月雨を思わず照月が泣きながら抱きしめる。

五月雨も照月もいつまでも泣き続けていた。

その姿を、電は静かに………しかし、自身の無力さを感じていたのか、悔しそうに唇を噛みながら見つめていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

当然ながら攻撃機の襲撃により、春の祭りは中止になる。

事態を把握しようとした艦娘達は駆け付ける救急車と運ばれる重傷を負った提督を見て、全員が呆然としていた。

 

「提督が怪我をするなんて………。」

「も、もしも提督が居なくなったら誰が指揮を取るの?」

「五月雨?それとも………?」

「どうしよう………?」

 

集まった艦娘達が不安に陥る中、五月雨は静かに俯いていた。

その肩を陽炎が叩き言う。

 

「五月雨、提督と一緒に病院に行って。」

「え………?」

 

五月雨は驚く。

只でさえ提督が不在になるのに秘書艦である自分も不在になっていいのかと思ったのだろう。

だが、陽炎は有無を言わさず救急隊員に付き添いとして五月雨を連れていくように言う。

 

「ま、待って陽炎!?」

「文句は言わせないわ。これは命令だから。」

「秘書艦補佐が秘書艦に命令するなんて、越権だよ!?」

「残念だけど、今の私は秘書艦補佐じゃないの。五月雨よりも権力が上の………提督代理よ。」

「え?」

 

唖然とする五月雨に対し、陽炎は執務室に落ちていたのか、提督の帽子をツインテールの上から被ると髪を整える。

その姿を見て、五月雨だけでなく集まった艦娘達の目が見開かれる。

 

「か、陽炎………?」

「一応、色んな鎮守府を回っている内に秘書艦やその補佐の経験は積んだつもりよ。だから、提督がどういう事をするのかは少なくとも把握しているつもり。」

「で、でも………見ただけで出来る物じゃ………!?」

「じゃあ、誰がやるの?悪いけど、今の状態の五月雨には任せられない。だったら………私がやるしかないじゃないの!」

 

彼女はそう言うと、手袋をはめ直して頬を叩き気合を入れる。

皆が提督不在で不安になる中で、陽炎はその中心になる覚悟を決めて叫ぶ。

 

「今から横須賀は私が一時的に背負うわ!この鎮守府を守りたいと思う者は………陽炎に付いてらっしゃい!!」

 

その勇ましい声は、すぐさま勇猛な艦娘達の間に広まる。

皆こぞって、陽炎を鼓舞し始めた。

駆逐艦達の大合唱が響く中で、陽炎は五月雨にだけ聞こえる声で言う。

 

「五月雨、アンタは司令の無事を確認してから、後から追いついてきなさい。」

「追いつくって………。」

「いい加減、自分の心に素直になって。アンタはもう………それだけの償いをしてるんだから。」

「……………。」

 

陽炎はそう優しく微笑むと、五月雨の背中を押した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

五月雨を半ば強引に病院へと送った陽炎は、秘書艦室へと入る。

そこは執務室の隣という事もあり、半分が壊されていたが整理すればまだ何とか使えそうであった。

彼女はそこで電話を取ると、呉にかける。

奇跡的に電話は繋がった。

 

「えー………こちら、秘書艦代理改め、提督代理の陽炎。大淀さんいますか?」

「何?乗っ取り?アンタ………そんな野心的な性格だったっけ?」

「その声は叢雲ね。冗談を言っている余裕は無いの………秘書艦の大淀さんはどうしたの?」

 

呉鎮守府は軽巡洋艦と重巡洋艦の集中強化を行っている為、秘書艦は事務能力に長ける大淀が普段は行っている。

だが、その彼女がいないという事は………。

 

「大淀さんは出撃中。私は船渠(ドック)入り待ちの間の代理ね。………ニュース速報で見たわ。横須賀の庁舎が爆撃を受けたって。でも、同時に呉も攻撃を受けたのよ。」

「呉の司令とかは無事?」

「無事よ。只、遠征に来た長月達を帰してって言うのならば無理よ。戦況的に送れないし、こっちも結構危ない状況だから。」

「そう………。」

 

叢雲の言葉に思わず陽炎は頭を抱えたくなる。

最新鋭の夕雲型がこの1年の訓練で立派な戦力になった事を考えると、ベテランの長月を含め遠征に行った彼女達は戻しておきたかった。

だが、それが叶わないとなれば横須賀の戦力的に厳しい。

特に素で改二が使えるようになった巻雲や高波、秋雲の力は、喉から手が出るほど欲しかった。

 

「ま………アンタが船渠(ドック)入り待ちする位に戦況が差し迫ってるみたいだし、こっちも今ある戦力でどうにかするしか無いわね。」

「気を付けてよ。今回の横須賀と呉の襲撃………連動してる気がするから。」

「分かってるわ。ありがとね。そっちも健闘を祈るわ。」

 

電話を切った陽炎はその間に集まった面々を見る。

航空戦艦の伊勢、日向。

重巡洋艦の高雄、愛宕。

軽巡洋艦の那珂、夕張、球磨。

工作艦の明石。

駆逐艦の敷波、夕雲、照月、涼波。

そして、紺のセミロングの艦娘が揃っていた。

 

「みんなお疲れ様です。………特に大鯨、転籍早々悪いわね。」

「いえ、私の力でお役に立てる事があれば言って下さい!」

 

最後に入って来たのは潜水母艦の大鯨。

改二を発動する事で、軽空母の龍鳳になる事が出来る。

現在航空戦力に乏しい横須賀鎮守府にとっては欠かす事の出来ない存在であった。

 

「さて………電話の声で大体分かったと思いますが、今いる戦力だけでこの事態をどうにかしないといけません。駆逐艦だらけの今の横須賀の現状を踏まえると、必然的に駆逐隊や水雷戦隊が主体の構成になると思います。」

「正直、厳しいわね。駆逐艦の力を侮っているわけじゃないけれど、あれだけの航空戦力を飛ばせるって事は飛行場姫とか空母棲姫が何処かに多数居てもおかしくないわ。圧倒的に制空権が不利になるのは目に見えている。」

「高雄さんの言う通りです。しかし、それでも地道に出来る事からやらなければなりません。幸い駆逐艦が多いという事は、敵の偵察には困らないという事です。これから幾つか駆逐隊や水雷戦隊を構成して、敵陣を調べていきます。」

「敵の艦種や配置を理解した上で、最後に主力艦隊で大将に殴り込む………って事でしょうか?」

「基本は夕雲の言う通りになります。ですが………横須賀を守る以上、最初の内は伊勢さん、日向さん、大鯨、照月は全員防衛に回します。」

「速力が遅い私達も防衛か………。やむを得んな。」

「その代わり最後には暴れて貰いますからしっかり力を溜めて置いて下さい、日向さん。さて………臨時の秘書艦ですが………涼波任せていい?」

「スズが!?」

 

いきなり指名された事で涼波は驚く。

しかし、実はサバサバとした性格でありながら彼女は事務作業に長けている。

書類の束の片づけも苦にしないし、三食しっかり料理を提供する事も出来る。

秘書艦としては非常に有能であった。

 

「お願いするわ。流石に補佐なしだときついから。」

「わ、分かった………スズに任せてよ!」

「球磨さんも横須賀に来たからには頼らせて貰いますね。」

「任せるクマ。球磨の力、思う存分頼って欲しいクマ。」

 

陽炎は秘書艦補佐であったので、球磨の事情は知っているし、彼女が今日ここに来た理由も把握していた。

しかし、今は横須賀を守る為に使える人材は何でも使いたいのだ。

舞鶴の提督には悪いが、今回はその力を借りる事になった。

 

「これから庁舎前で全艦娘を集めたブリーフィングを開きます。各艦娘達に状況の説明と臨時で編成した艦隊を発表していきます。涼波、悪いけど幾つか紙の配布をお願い。」

「分かった!………って提督代理だから、敬語必要?」

「自然体でいいわ。私もそっちの方が、気が楽だし。」

 

そう軽く言った陽炎は一転、真剣な表情で集まった皆を見る。

 

「厳しい作戦になりますが、皆さんの力が必須です。この未熟な駆逐艦に、協力を宜しくお願いします!」

『はい!』

 

敬礼をする陽炎に対し、答礼で応える一同。

彼女達は秘書艦室を後にすると、庁舎の外に出た。

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