燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第64話 嵐~重圧~

横須賀鎮守府の庁舎の外では駆逐艦娘達が全員艤装を背負って待機していた。

朝霜のように練度が高く、改二も使いこなせる貴重な艦娘も居れば、逆に最近艦娘になったばかりで練度が低く緊張した面持ちの艦娘も居た。

航空戦艦や重巡洋艦等を従え、外に出てきた陽炎は駆逐艦とは思えない程のオーラを背負っている。

彼女は、コホンと息を吐くと涼波に簡単な紙を並んだ艦娘達に配布していって貰う。

 

「見ての通り、今の私達に出来るのは、駆逐隊を多数編成して敵の配置を調べる事。その為に幾つかの臨時駆逐隊を編成し、敵の配置を調べるわ。但し、直接的な海戦は行わない事を徹底して。必ず生きて情報を持ち帰る事を最優先に。」

「質問いいっすか?陽炎ねえ………じゃなくて、提督代理!」

 

それは第二十六駆逐隊の嵐から掛かった。

陽炎は少しむず痒そうな顔をすると、腰に手を当てて言う。

 

「陽炎でいいわよ、今更だし。」

「じゃあ、陽炎ねえ。敵の配置を調べるのはともかくとして、誰が肝心の殲滅行動を行うんだ?少なくとも厄介な攻撃機を飛ばす空母をどうにかしないとまずいだろ?」

「高雄さんと愛宕さんを中心とした火力の高い高速艦隊を作るわ。それと駆逐隊の中でも練度の高い艦隊に協力して貰う。………その代表が、第二十六駆逐隊だけど。」

「マジっすか!?責任重大じゃん!?」

「当然、高速修復材(バケツ)は最優先になるわね。後、最初にみんなに謝っておく。大鯨………龍鳳をどうしても前線に投入しないといけない時は、後ろは鳳翔さんに任せる。」

『ええ!?』

 

駆逐艦達全員が驚くのは、鳳翔がそれだけ親しまれている存在だからだ。

彼女は横須賀鎮守府内で店を開いており、艦娘達の憩いの場を作ってくれている。

特に大型艦等は出撃前にお世話になる事も多く、悩みを聞いてくれる母親のような存在でもあった。

今は祭りに参加していた一般市民を落ち着かせてくれているはずだ。

そんな人を後方支援とはいえ戦場に送り込む事に関しては、抵抗がある艦娘も多かった。

 

「使える物は何でも使う駆逐艦流よ。それだけの戦況………だと思って。」

「………質問、私からもいいですか?」

 

今度は同じ第二十六駆逐隊の野分からだ。

陽炎は頷くと質問を待った。

 

「陽炎達は、この襲撃を計画した深海棲艦に心当たりはありますか?」

「残念だけど無いわ。空母系か、それともそれ以外の艦種かもわからない。」

「では、もしもその親玉を誰かが見つけたら………。」

「その時こそ伊勢さん、日向さん、龍鳳の出番になるわね。持てる限りの最高火力で一気に叩くわ。勿論、状況によっては第二十六駆逐隊の出番もあるかもしれない。」

「本当に責任重大ですね………。」

「期待の裏返しと思ってよ。さて他は………。」

「あの、いいでしょうか………?」

 

三つ編みを1本垂らして、何故か手に艤装から釣り下がった鎖付きの錨を持った艦娘が恐る恐る質問をする。

確か彼女は吹雪型10番艦の浦波であり、最近艦娘になった新入りであったはずだ。

 

「何?」

「浦波のような新入りは………?」

「ああ、基本は遠征で物資の確保ね。後は、照月と一緒に横須賀の防衛に回って貰うわ。」

「そうですか………。」

「悔しい?戦力に入って無い事。」

「正直に言えば………。」

「ゴメンね、今は耐えて。強くなったら嫌という程連れ回してあげるから。」

「い、いえ!与えられた仕事、頑張ります!」

 

陽炎は他にも色々な質問に答えていく。

それだけ艦娘達にしてみれば不安でいっぱいだったのだろう。

大したものだなと思いながら、涼波は見ていた。

そして、最後に彼女は息を吸って威勢よく言う。

 

「みんな1人1人の活躍がこの鎮守府の未来を左右するわ!司令に傷を負わせた深海棲艦共にお返しをする!だから………この陽炎に今は協力して頂戴!!」

「勿論!」

「こうなったらとことん付いていく!」

「駆逐艦提督万歳!」

「駆逐艦万歳!!」

 

熱意のある視線が向けられ様々な声が掛かる中、解散と告げられた事で一同は散り散りになっていく。

その姿を見ながら、涼波はこんなに陽炎が頼りになる存在なのだと改めて感心させられる。

夕雲が憧れていたのも分かる気がした。

第十四駆逐隊だけでなく、横須賀の鎮守府を背負えるのだから。

 

「涼波、お疲れ様。じゃあ、早速仕事に入りますか。」

「ホントお疲れっ!いやー、あたし、ちょっち感動しちゃったよ!」

「そう言って貰えると有り難いわね。ん………?」

 

陽炎は妙な気配に気づき、振り向く。

するとそこには薄紫色の髪の艦娘がジーっとこちらを見つめながら立っていた。

寡黙故に、コミュニケーションが若干苦手な睦月型3番艦の弥生である。

 

「何、弥生?別にアンタが怒っているとは思ってないわよ?」

「………大丈夫?」

「え?」

「何?大丈夫よ、陽炎を誰だと思ってるの?陽炎型1番艦………ネームシップだもの。」

「そう………。」

「ま、ありがと。じゃ、涼波………執務室に戻るわよ。」

「あ、うん………。」

 

そのままずっと見つめる弥生に手を振りながら陽炎は庁舎の中に入る。

そして、そのまま涼波を連れて堂々とした足取りで秘書艦室のドアを開けて閉める。

涼波は早速何を食事で食べるか聞こうと思ったが………。

 

「う………!?」

「え、陽炎!?」

 

何と急に陽炎が倒れ四つん這いになる。

彼女は右手で口の辺りを抑えると吐き出したのだ。

 

「ちょ、ゴミ箱持ってくるから待ってて!」

 

慌てて涼波がゴミ箱を持ってきた途端、その中に胃の中の物をぶちまける陽炎。

その様子を見て只事では無いと思った涼波が背中をさする。

 

「ほ、他に誰かいる………?」

「スズ以外はいないよ!?ていうか、どうしたの陽炎!?」

「弥生………中々侮れないわね………何処か演説中に変な仕草があったかしら………?」

「べ、別にスズは何も感じなかったけど………って本当にどうしたの!?」

 

陽炎は数回嗚咽をして何とか落ち着くと、その時の衝撃で転がった提督の帽子を見つめる。

流石にそのまま拾う真似はしなかったが、ティッシュで手を拭くと、何とか秘書艦室の椅子に腰かけ、背もたれに身体を預ける。

その間に涼波は食堂でタオルを濡らして陽炎の元に持ってきてあげる。

彼女はタオルで更に手を拭き完全に口の汚れを取ると、呆然と天井を見上げていた。

 

「陽炎………?」

「ゴメン、涼波………本音言っていい?」

「う、うん………スズで良ければ………。」

「怖い。」

「え?」

「怖い………!あの帽子を被る事が凄く怖い!」

 

陽炎が言う帽子というのは提督の帽子だ。

涼波はここで今更のように気付く。

提督代理になるという事は、横須賀全体を背負う事だから、即ちそこにある命全てを背負う事になる。

艦娘達はおろか、鎮守府の周りで平和に過ごす一般市民の姿もあるだろう。

その命を陽炎は今、全てその小さな双肩に背負っている。

 

「私の命令1つで全ての命の行方が左右される………!演説中に周りの艦娘達の眼差しを見て分かった………!私が失敗したら………全員死ぬ事だってあり得る!?」

「お、落ち着いて陽炎!?じゃあ、何で提督代理なんて………!?」

「他に誰も居なかったからに決まってるじゃない!?あのままだったら本当に鎮守府が終わっていた!誰かが旗印として立ち上がらなければならなかった!」

「陽炎………。」

「私ね、秘書艦として失敗も経験してるんだ………。一度失敗した過去は覆せない。だから、必死に前を向いていくしか無いって分かってたから………みんなの中では提督代理として一番大丈夫だと思ってた。でも………ダメだ………みんなのあの眩しい目を見てると………。」

 

知らぬうちに陽炎の瞳から涙がこぼれる。

その様子を見て涼波はどうすればいいか分からない。

提督代理を代わってあげるという度胸は残念ながら持ち合わせて無かった。

 

「どうしよう、涼波………私、みんなを沈めたくない。みんなの平和を壊したくない。提督代理として一歩を踏み出すのがこんなに怖いなんて………。」

「そんな時は………みんなに泣きついてもいいんですよ?」

 

声は、涼波が掛けたわけでは無かった。

入口を見ると、いつの間にか弥生に連れられてダルグレーの浴衣を着た艦娘が立っていたからだ。

それは鳳翔型1番艦鳳翔。

先程、陽炎が状況次第で後方支援に回すと言っていた軽空母である。

 

「鳳翔さん………。」

「ごめんなさいね、盗み聞きしちゃって………。でも、みんな陽炎ちゃんが心配だったの。私達の為に重圧を背負う選択を取ったのは分かっていたから………。」

 

鳳翔の後ろから、様々な艦娘が代表してやってくる。

伊勢、日向、高雄、愛宕、那珂、夕張、球磨、明石、大鯨、敷波、夕雲、照月。

 

「みんな………何だ………私、結局嘘つくの、下手なんだな………。」

「それが陽炎のいい所だよ。」

「敷波………いいの?こんな駆逐艦に命預けちゃって。」

「そうだねぇ………。少なくとも第二十六駆逐隊はみんな了承していたよ。陽炎に全てを任せちゃったのはアタシ達だしさ。」

 

代表して敷波が陽炎の不安に答えていく。

任せた以上は、それに付いていくのが駆逐艦流だとも敷波は思ったのだろう。

だが、陽炎は更に言葉を紡ぐ。

 

「私のせいで………轟沈しちゃったら………。」

「じゃあ、轟沈しないって約束する。」

「そんな口約束で………。」

「そうだね。でも、少なくともこれで轟沈したら陽炎だけの責任じゃなくなった。責任を押し付けたアタシ達にも罪はあるんだから、沈んだら自業自得だよ。」

「そんなんでいいの!?」

「いいんじゃない?陽炎、疑心暗鬼になりかけてるよ?アタシ達、そんなに信用ならない?」

「……………。」

 

呆然とする陽炎に、鳳翔が優しく抱き留めてくる。

吐いたばかりの陽炎としては抵抗があったが、鳳翔は全てを受け止めてくれた。

 

「私は陽炎ちゃんがこんな軽空母でも頼りにしてくれたという事実が嬉しいですよ?」

「……………。」

「それでも辛かったらいつでも呼んで下さいね?子供のように駄々をこねても許される立場なのですから。」

「理由に………なってない………ですよ………。」

「いいんです。貴女は強い艦娘だって、みんな分かってくれているから。だから、ちょっとくらい弱さを見せても誰も責めはしません。ね………?」

「うう………うああ………。」

 

それ以上は何も言えず静かに肩を震わせる陽炎を見て、涼波は夕雲に話しかける。

 

「今日のスズは………先輩艦娘達の色んな姿を見てばかりだ。」

「それだけ危機的状況なのでしょうね。だから、先輩も含め、みんな不安で仕方ないんです。」

「夕雲も?」

「はい。でも………私もここにいる皆さん達と同じく、陽炎さんに命を預ける覚悟は出来ています。」

「スズも………こんな事をした深海棲艦は………絶対に許せないから………。」

「涼波さん………。」

「戦おう、夕雲。あたし達、艦娘の底力を………見せてやるんだ!」

「はい。みんなの力を合わせて………ですね。」

 

涼波と夕雲は、全てを背負う覚悟をしてくれた陽炎型のネームシップを改めて支えて行こうと決めた。

そして、作戦は始まる。

横須賀の艦娘達の反抗作戦が。

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