燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第65話 弥生~本陣を探して~

作戦開始から数日後、臨時の駆逐隊や水雷戦隊が次々と編成されて海へと抜錨していく。

彼女達は得意の偵察能力で敵の群生を探し出すと、適当に撒いて逃げて戻ってきて仲間達に情報を提供していた。

だが………その正確な情報が、陽炎や涼波にとってかえって困ってしまう物になっていた。

 

「こちら雷!Aポイントで飛行場姫の群生確認よ!」

「那珂ちゃんだよ!Cで飛行場姫の巣、見つけちゃった!」

「弥生。Dで空母棲姫の姿を発見。」

「夕雲です。Eでも空母棲姫の群れが確認できました。」

 

「……………。」

 

無線で次々と飛んでくる情報に、秘書艦室にいる2人はデータをボードに纏めていく。

鎮守府近海にこれだけの姫クラスが存在していたのは驚きであったが、同時にそれ故にそれが「本隊」であるか検討も付かなかった。

 

「陽炎………どれが当たりだと思う?」

「どれも当たりかもしれないし、どれも外れかもしれない………ってのが正直な所かな。」

 

素直な言葉にだよねーって涼波も納得してしまう。

同じような群生が存在していると、見た目だけでは判別が付けられなかった。

とはいえ、放っておくわけにもいかず、臨時の決戦艦隊を結成して1つ1つ潰していくしかない。

飛行場姫は、敷波、磯波、朝霜、岸波、野分、嵐の第二十六駆逐隊に夜戦で殴り込んでも貰い魚雷をぶち込んでもらう選択肢を取った。

空母棲姫は、昼に速力のある高雄、愛宕、龍鳳、球磨、電、初風を突っ込ませて蹴散らして貰う。

龍鳳を前線投入した事で、当初の予定よりも早く鳳翔を後方支援として桟橋に待機させる事になった。

 

「んで、今の所、A、C、D、Eはどれも外れ………と。」

「疲労の蓄積が辛い所だね。決戦艦隊をもう1つ作れないのかな?」

「うーん、速力の遅い伊勢さんと日向さんは秘密兵器だし、夕張さんは明石さんと艤装の修理に専念して貰いたいし、偵察部隊もある程度の練度は欲しいからねぇ………。」

 

今の所は辛い作業ではあったが、地道に敵の群生を片付けていくしか道は無かった。

ある日、陽炎は桟橋まで出向き抜錨した艦隊の帰還を待つ事になる。

そろそろ弥生の艦隊が帰ってくるからだ。

程なくして、弥生、卯月、三日月、白雪、初雪、深雪の艦隊が戻ってくる。

 

「どう?弥生。何か進展あった?」

「Fで飛行場姫の巣があったよ。でも、前見つけたのと似たような感じだった。」

「そう………お疲れ様。とりあえず船渠(ドック)入りしてきて。」

 

陽炎に頭を撫でられた弥生は少し照れ臭いような顔をすると船渠(ドック)へと艦隊の仲間を連れていく。

しかし、最後の深雪が陽炎に問いかけてくる。

 

「もっと奥にも向かうべきじゃないのか?深雪さまは、本陣はそこにあると思ってるぜ?」

「そのパターンも有り得そうだけど………下手に罠として誘いこまれたら危ないからね。私は流石にその博打は早いと思っているわ。」

「でも、このままだと艦隊がどんどん疲弊していくだけだ。大湊辺りから沖波達を呼んでこれないのか?」

「電話してみたけれど、秘書艦の涼風曰く、そっちもこっちほどじゃないけれど、敵艦の襲撃が大変みたいで………呉といい何か妙な物を感じるわね。」

 

西は呉、北は大湊と襲撃を受けた事で、横須賀は孤立させられているのだ。

かなり組織だった作戦を深海棲艦は展開しているように陽炎は感じていた。

 

「只、敵の群生を減らしている事で、横須賀を狙う敵の攻撃機は少しずつ減っているわ。照月も今度は失敗しないって意気込んでいるし、場合によっては浦波達にも加勢して貰うから、戻る所は奪わせないわ。だから、そこに関しては安心して。」

「疲労と言えば陽炎は大丈夫か?」

「これでも寝る時は寝てるわよ。只、正直に言うとしっかりと眠れてる自信は無いわ。」

「ぶっ倒れないように気を付けろよ?」

「ありがと。じゃあ、深雪も少し休んでね。」

 

これでも涼波の事務能力が優秀なお陰で陽炎は大分楽が出来ている。

上からの面倒な電話は対応してくれるし、書類仕事も手伝ってくれる。

三食も栄養ある物を作ってくれるので、かなり楽が出来ていた。

それでも初日に弱音を吐いた通り、プレッシャーがストレスになり安眠が出来ている自信が無いのだ。

 

「ここまで知能のある深海棲艦って一体………。」

「あまり気にしちゃダメよ。とにかく涼波もしっかり体調管理はしてね。」

「あ、うん………ありがと。」

 

気を使ってくれた陽炎に感謝しながら、涼波は庁舎に戻って食事の準備にかかる。

とにかく陽炎は、今は横須賀の柱なのだ。

彼女を失わないようにするのが最優先だろうと彼女は感じていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その一方で、偵察艦隊の仕事は続いていた。

雷率いる艦隊は、ポイントHの捜索を開始し始める。

艦隊は雷、藤波、早波、浜波、漣、そして古代紫色のセミロングの艦娘が編成されていた。

彼女は陽炎型17番艦の萩風。

野分や嵐、舞風と共に第四駆逐隊を結成していた艦娘である。

 

「どうですか、浜波さん?ここには何かいるでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待って………。あ、居た………空母棲姫………。」

 

萩風の質問に答えた浜波の言葉と共に、目の前に空母棲姫のシルエットが見えてくる。

燃えるような深海棲艦の口を模したカタパルトと砲門を従えている女性のような存在であり、強気の目が印象的であった。

 

「陽炎、ポイントHで空母棲姫発見よ。………でも変ね。随伴艦がいないわ?」

「随伴艦がいない?1隻って事?」

 

旗艦である雷の長距離通信によって、提督代理の陽炎の声が無線で聞こえてくる。

今まで出会った飛行場姫や空母棲姫は、皆何かしらの護衛のような深海棲艦を引き連れていた。

それがいないという事は………。

 

「このチャンス、逃す選択肢無いんじゃない?漣は本格的なお仕事するのがいいと思うよ?」

「そうね………ってあら?」

「どうしたの?」

 

雷は更に奇妙な物を見る。

空母棲姫はこちらに気づくと一目散に反転して逃げていったのだ。

それこそ、駆逐隊の偵察艦隊と同じように。

 

「藤波、姫クラスの偵察艦なんて聞いた事ないけど………。」

「あたしも。涼波お姉ちゃんはどう思う?追いかけるべき?」

「うーん、それは………。」

 

早波の言葉に、無線先の涼波は陽炎の言葉を待つ。

陽炎はボードや今の艦隊の配置を確かめていたのだろう。

彼女は別の隊が近くにいるから呼び寄せると言うと、一度無線を切る。

やがて、程なくして夜戦に備えていた第二十六駆逐隊が現れる。

 

「敷波、とりあえず合流したよ。陽炎、で………どうするの?」

「正直おススメは出来ないわね。罠の可能性があるし。」

「じゃあ、決戦艦隊送り込む?アタシはそれも博打だと思うけど。」

「……………。」

「2つの艦隊で強行偵察を行った方がいい場面じゃないかな。幸い、ここには駆逐艦しかいないから逃げるのは得意だし。」

「だけど………ねぇ………。」

 

陽炎は選択に迷っていた。

しかし、敷波にしてみては結構強気の言葉で具申していく。

ここで本当に逃してしまったら、他の駆逐隊の疲労が限界に達してしまうと。

その言葉に陽炎も………かなり迷ったが許可を出した。

 

「口約束………ちゃんと守ってよ。」

「分かってるって。」

 

それで一度無線を切った敷波は雷と話す。

 

「敷波、少し焦ってるわね。」

「深雪の話だと、陽炎がやっぱりあんまり眠れてないみたいなんだ。」

「そう………一番最初に疲労が溜まって倒れそうなのは陽炎って事ね。」

「少しはアタシ達が身体張らないといけない場面だと思うからね。みんなもそれでいい?」

「磯波、頑張る準備は出来てるよ。」

「朝霜だ。あたいも覚悟は出来てる。」

「岸波。遠慮なく言って頂戴。」

「野分よ。舞風がいないのは残念だけど、萩風と行動できるのは嬉しいわ。」

「嵐だ!萩、宜しく頼むぜ!!」

 

了承が得られた事で、それぞれ単縦陣で空母棲姫が逃げていった先を追いかけていく雷や敷波。

彼女達はやがて、霧の濃い空間へと入っていく。

 

「如何にも何かありそうね………。各艦、注意を怠らないで。」

「もち。」

「負けないもン!」

「あ………何か………いる?」

 

電探を使っていた浜波の言葉で12人全員が正面に注目する。

徐々にだがシルエットが見えてくる。

不思議な格好をした鬼女。

左の顔に角のような物が生えており、身体からは布のようなものが複数見えた。

そして、主砲や魚雷発射管が見えてきて………。

 

「お、おい………岸波、アレは………!?」

「敷波、雷も停止して!?あの敵艦は!?」

 

いち早く気付いた朝霜と岸波が慌てて旗艦の許可を貰う暇もなく停止命令を出すが、遅かった。

急に霧が晴れたと思ったら、目の前に鬼女の全貌が明らかになったのだ。

それは………。

 

「深海玉棲姫!?」

 

青ざめた敷波の叫びは遠距離通信を伴い、陽炎や涼波にも届き電流のように駆け抜ける。

その甘ったるい笑みを見た瞬間、雷は思わず目を見開く。

 

「アレが………豪華客船襲撃の際の?とにかく特徴を掴んだら………。」

「ちょ、藤波、早波、浜波!?何ボケっと突っ立ってるの!?」

 

漣の声で彼女は違和感に気づき振り向き驚く。

後ろに並んでいた夕雲型の3人が唖然とした顔でその鬼女の顔を見ていたからだ。

 

「………玉ちん?」

「玉波………お姉ちゃん?」

「たーちゃん………?」

「貴女達、何を言って………?」

「雷!漣!萩風!後退して!その3人は戦えない!!」

「敷波もどうしたの!?一体何があったって言うの………!?」

 

焦る敷波を始めとした第二十六駆逐隊の面々の様子の意味が分からず、雷達は戸惑う。

だが、その様子を見ていた深海玉棲姫は、笑みを浮かべたまま言葉を紡ぎ出す。

 

「会イタカッタ………会イタカッタワ………藤波、玉波、浜波………。」

「何で、この深海棲艦、藤波達の事を………?」

「いいから下がって!早く!!」

 

名前を投げかけられた事で余計に訳が分からなくなる雷に対し、敷波達は一斉に改二や擬似改二を発動させ臨戦態勢に入る。

 

「見テ………深海デ、コンナニ素敵ナ友達ニ出会エタノヨ?」

 

その声に先程逃げてきた空母棲姫が1隻、深海玉棲姫の背後に出てきて、更に前にエリート級のレ級が2隻、ネ級改が2隻現れる。

その凶悪な敵の編成に一同は恐怖を覚えるが、藤波、早波、浜波の3人は固まったままだ。

 

「何!?一体、何が!?」

「サア………一緒ニ行キマショ?一緒ニ………沈ミマショウ!!」

『!?』

 

狂った深海玉棲姫の叫びと共に、シルクの布が意志を持って一斉に伸びてきた。

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