燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第67話 浜波~覚悟を決めて~

数時間後、横須賀の桟橋では陽炎と涼波が防衛艦隊と一緒に、偵察艦隊の帰投を待っていた。

日が落ちて夜になった中で雷の艦隊と敷波の艦隊は………全員がちゃんと戻って来た。

 

「よ、良かった………。」

 

思わず12人の影を見つけてホッとする陽炎であったが、次の瞬間青ざめる事になる。

戻って来た彼女達はほとんどが満身創痍の状態であった。

雷の艦隊の方は特に旗艦である彼女の状態が酷く、止血したとはいえ右腕が無くなっていた。

敷波の艦隊の方はもっとひどく、全員が傷だらけであった。

多分、雷の艦隊を庇いながら何とか撤退してきたのだろう。

野分や嵐は艤装のアームがボロボロになっており、岸波は左腕を骨折している状態だ。

磯波は爆撃を受けてしまったのか、身体がふらついていて朝霜に支えられていた。

そして、敷波は一番身体を張ったのか、魚雷を受けた形跡があり大破状態であった。

皆、しっかり航行しながら戻って来たが、色々な意味で疲労が限界に達していたのか、桟橋に着くなり座り込む。

敷波に至っては立つ事も限界だったのか、桟橋の上に転がり込み大の字になる。

 

「しっかりして!みんな!………敷波!!」

「あー………陽炎、口約束は守ったよ。こんな状態だけど………。」

「涼波、救護班!早く船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)を………!?」

「あ、うん………!」

「いらないわ。」

 

しかし、その言葉を断ったのは雷。

彼女は片腕しかない状態故に、一刻も早く高速修復材(バケツ)で復元して欲しかったが、ゆっくりと陽炎と涼波の所に歩いていくと言う。

 

「その前に………そろそろ聞かせて頂戴。あの深海玉棲姫の事。」

「……………。」

 

真剣な瞳で見つめてくる雷の言葉に、誤魔化しても譲らないと分かった陽炎は涼波を見る。

涼波は防衛艦隊に回されていた磯波達に特定の艦娘の呼び出しをお願いすると、秘書艦室へと皆を連れていく。

勿論、藤波と早波と浜波も一緒であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

執務室には先程の12人に加え、関係者となっていた球磨と電と夕雲が集められた。

怪我を治さずに即座に聞こうとした雷の行動力には驚かされたが、全員それに付き合おうという所も駆逐艦らしいとも思えた。

陽炎は集まった面々を見回すと、涼波を見た。

彼女は静かに頷くと話し始める。

 

「全部………全部スズが悪いんだ。スズが………玉を………玉波の存在を消してしまったから………。」

 

そして彼女は全てを話す。

舞鶴で玉波達は轟沈したという事実を。

その時、自分が怒りに任せて球磨を一方的に殴り倒してしまったという事を。

後悔の念を受けて、玉波達は故郷に戻った事にしてほしいと舞鶴の提督と球磨の2人にお願いしたという事を。

そして………ずっとずっと自分がみんなに嘘を付いて来たという事を。

全てを話し終えた涼波は、いつもよりも一回りも二回りも小さく見えた。

 

「すーちゃん………。」

 

その彼女の元に最初に歩み始めたのは、意外にも浜波だった。

涼波は彼女にぶん殴られる覚悟をした。

玉波と仲が良かったのは、藤波、早波、それに浜波も含まれるのだから。

 

「……………。」

「ずっと、嘘付いてたの………?」

「そうだよ………。」

「………つ、辛くは無かった………の?」

「嘘は慣れると何も考えなくなるんだ。………だから、あたしは最悪な艦娘で………。」

 

そこで涼波は驚く。

浜波は………俯く彼女の頭をそっと撫でたからだ。

 

「浜………?」

「あ、あたしね………確かに訓練学校時代に知ってたら………こ、怖くて艦娘になれて無かったと思う………だから………。」

「浜………優しいのは嬉しいけど、あたしが今の玉波を作ってしまったのは事実だから………。」

「でも………すーちゃんはあたしを守ってくれていた。だから………すーちゃんが悪いのならば、浜波も悪いと思う………。」

「恨まないの………?」

「恨めない………。少なくとも、あたしは………。」

 

意外な言葉が投げかけられた事で、涼波は思わず浜波の顔を見る。

彼女は本気で涼波を心配していた………ずっと優しい嘘を付いていた自分達の姉の。

 

「涼波お姉ちゃん………お姉ちゃんはずっと早波達が怖がるのを防いでくれていたんだね。」

「早………スズは自分が怖かっただけで………。」

「それがどんな理由でもだよ。ごめんなさい、お姉ちゃん………それに球磨さんも。あたし達の為に、ずっと苦しめてしまって………。」

 

謝る早波の姿に、思わず涼波は止めたくなる。

本当に悪いのは………。

 

「涼ちん。藤波は………今は誰が悪いかを考える時じゃないと思う。玉ちんは夕雲型みんなを恨んでいる事には変わらないんだし………今からどうするべきか、じゃないのかな。」

「藤………スズはどうすればいいか分からない状態なんだ………玉に討たれるか玉を討つか………もう………。」

「藤波は………涼ちんにも沈んで欲しくはないよ。それだけは言っておく。」

「……………。」

 

涼波は悩む。

3人共真剣に涼波の悩みを聞いてくれていた。

こんな理不尽を突き付けられて、自分に当たってくれてもいいと思ったのに。

だからこそ、涼波は………改めてみんなを見渡してみた。

立っていた第二十六駆逐隊の面々は皆ボロボロだった。

雷旗艦の臨時艦隊も無傷ではない。

だから………。

 

「雷………腕、見せてくれない?」

「涼波?………いいわよ。」

 

電は自分の止血した………しかし布が真っ赤に染まっている半ばで千切れた右腕を見せる。

吹っ飛ばしたのは藤波だが、その原因を作ってしまったのは深海玉棲艦………玉波だ。

その傷の深さを見た後………涼波は目を閉じて雷をそっと抱きしめる。

 

「痛い………よね。」

「………否定はしないわ。」

「妹達を………守ってくれてありがとう。」

「嚮導だもの。それ位、当然よ。」

 

涼波は雷の優しさを受け、一粒だけ涙を流すと陽炎に具申する。

 

「陽炎………悪いけど、スズはもう秘書艦代理じゃいられない。」

「………行くのね。」

「うん。」

 

もっと震える物かと思ったが、覚悟を決めたからなのか言葉は自然と紡がれた。

だから、涼波はみんなを見渡して真剣な顔で自分の決意を言った。

 

「スズは決戦に行く。………スズが、玉を………深海棲艦になった玉波と決着を付ける。」

 

その涼波なりの答えに、誰も何も言わなかった。

彼女は選んだのだから………もう仲間を苦しめない為に、自分が玉波を沈めるという選択肢を。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

涼波は装備品保管庫から艤装を取り出すと、入り口でいつものように装着していく。

彼女は旗艦を申請した為、艦隊を率いる事になっていた。

勿論、その経験は雷等の嚮導の元で散々行っているが、今回は勝手が違う。

それ故に、念入りに自分の装備を確認していた。

 

「魚雷………良し。主砲………良し。」

「涼波さん、宜しくお願いしますね。」

「………夕雲?」

 

涼波は驚く。

隣で、夕雲が彼女に笑みを向けていたからだ。

装備品保管庫に夕雲が来ているという事は………。

 

「陽炎さんは連合艦隊を結成する考えに至ったそうです。伊勢さんの第一艦隊と涼波さんの第二艦隊。私は幸い疲労も抜けていましたし艤装も壊していないので、涼波さんの艦隊に入れて貰う事になりました。」

「いいの………?」

「長女ですから。これ位は頼って下さい。それに、疲労と艤装の損傷の関係で出撃できない藤波さん達にも頼まれましたから。」

「そっか………うん、ありがと。でも、あたしさ………やっぱり最低なんだ。」

 

夕雲の姉としての言葉を受けて、涼波は自分が考えている事を静かに言う。

それは、エゴにも等しい感情であった。

 

「スズは玉波が誰かの砲撃で悲鳴を上げている所を見たくない。断末魔の声を上げる所を見たくない。それは、藤や早、浜でも同じなんだ。誰かにやらせる位なら自分でやりたいから………スズは自分の犯した罪を踏み倒して玉を沈めたいって思ってる………。」

「その感情が罪だと言うのならば、私だって罪だらけですよ。1年前、改二に目覚めた事で調子に乗って………あの時も今回みたいに敷波さんをボロボロにしてしまいましたね。」

 

苦笑する夕雲の姿を見て、敢えて緊張をほぐしてくれているのだなと涼波は感謝する。

でも、今から自分の犯す罪は一生背負わなければならない程の重罪だ。

それでも………玉波に自分達の大事な横須賀を壊してほしくは無かった。

 

「無理に綺麗に取り繕うよりは余程いいですよ。でも、ダメな時は言って下さい。」

「大丈夫、夕雲に押し付ける真似はしないから。只………援護はお願いしていい?」

「任せて下さい。その為の装備もしてきますから。」

 

そう言いながら保管庫の奥へと入っていく長女を見て、涼波は少しだけまた泣きそうになる。

わざわざ自分だけが辛い思いをしないように、せめて寄り添う道を夕雲は選んでくれた。

それがとても有り難かった。

 

「いいお姉さんね。大切にしなさいよ。」

「あ、陽炎………?もしかして………。」

「最後は私も出撃するわ。一番身体が元気なのは私もそうだから。」

 

装備品保管庫の前には陽炎がやってきていた。

確かに彼女は出撃していない分、体力は有り余っているし、貴重な改二戦力だ。

だが、提督代理としての精神的な疲労が心配された。

 

「睡眠とかは大丈夫なの?」

「空元気なのはみんな一緒でしょ?帽子は今、漣に被って貰ってるから心配はいらないわ。」

 

陽炎は考えている作戦を説明する。

複数の出撃できる臨時の艦隊で道中の敵を引き付けて貰い、決戦用の連合艦隊を無傷で深海玉棲艦の元へと殴り込むと。

敵艦が豪勢である分、こちらも最高の戦力を最高の状態でぶつけるつもりなのだと。

 

「一応、初風や深雪、弥生が名乗り出てくれたわ。只………その分、肝心の連合艦隊をどうするか悩んでるのよ。」

「12人必要なんだっけ?」

「第一艦隊は伊勢さん、日向さん、高雄さん、愛宕さん、那珂さん、龍鳳。只、涼波の第二艦隊は私と夕雲と電と球磨さんまでは決まったけど、後1人悩んでて………。」

「その役目………私にお願いできない!?」

 

声に振り向いてみれば、そこには色々と乗り物を乗り継いで、更に走ってやって来たのか五月雨が居た。

彼女は荒く息を吐くと、陽炎に頼み込む。

 

「参加理由を聞きたいわね。復讐?」

「そう捉えられても………仕方ないか。」

 

深海玉棲艦達は、愛している横須賀の提督に傷を負わせたのだ。

その理由で参戦したいと思われても仕方ないと五月雨は思ったのだろう。

彼女はニコリといつもの笑顔を見せると、左手の薬指にはめている変形した煤だらけの指輪を見せる。

 

「受け入れたよ。提督の想いも………覚悟も全部。だから………私達の愛の巣を守らせて!」

「言ってくれるわね………涼波、ノロケ話を聞かされそうだけど、入れちゃう?」

「え?スズに決定権あるの!?」

 

無論、涼波としては初期艦である五月雨の存在は電並に有り難いと思っていた。

これで、第二艦隊も6人が揃う事になる。

涼波は五月雨に対し、一緒に行こうと手を伸ばす。

彼女は静かに歩いてくると、その手を上に重ねる。

陽炎もその手の上に重ねると2人分の重みが乗った。

そこに、更に3人分重ねられる。

 

「あ………。」

「長女に黙って何をやっているんですか、涼波さん?」

「仕度に手間取ったとはいえ、電の存在を忘れないで欲しいのです。」

「この重みは球磨も背負う物クマ。仲間外れは勘弁して欲しいクマ。」

 

連合艦隊の第二艦隊全員分の重みが乗った事で、涼波は言う。

 

「協力お願いします、みんな。あたし達の………横須賀を守る為に!」

『はい!』

 

みんなで決意を固めると、一斉に手を放した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

艤装を装着して桟橋へ駆け付けると、そこには既に第一艦隊の面々も集っていた。

 

「たっぷり休ませて貰ったから、ここから先は日向と共に暴れるよ!」

「伊勢と共に力を見せよう。………君の覚悟に応える為にもな。」

「重巡洋艦の良さも愛宕と一緒に見せるわ。頼りにして頂戴。」

「ぱんぱかぱーん!………は、今は無しで。しっかりと戦うわ。」

「那珂ちゃんも今はアイドルじゃなくて、軽巡洋艦モードで行くね!」

「制空権は任せて下さい。龍鳳も全力でサポートしますから!」

 

伊勢、日向、高雄、愛宕、那珂、龍鳳がそれぞれ涼波に話しかける。

そこには初風や深雪、弥生等を旗艦とした露払いの艦隊もいたし、後方支援の鳳翔や照月も居た。

 

「みんな………本当にありがと!横須賀の未来………スズは守りたいから!だから、決着を付けるよ!絶対に!!」

 

親友を討つという悲愴な覚悟だ。

それでもやろうと決めた。

だから………みんながせめて邪魔はさせないように全力で協力してくれる。

 

(あたしはもう、この場所が大好きだから………。)

 

涼波は必ず戻ろうと決めた。

その想いと共に、皆が抜錨をする。

ラストダンスが始まった。

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