「こちら初風!邪魔する機動部隊発見!これより交戦入るわよ!」
「深雪だ!こっちも敵さんのお出ましだぜ!足止めするからな!」
「弥生、交戦開始。行って、涼波、陽炎。」
先行した露払いの艦隊が次々と連合艦隊を邪魔する敵艦隊の阻止に入る。
お陰でその決戦艦隊は何の消費も無く奥へと進んでいく事ができた。
「みんな、張り切ってるわね。ま、それだけの大作戦だから意気込むのも当然か。」
「雷ちゃんを含め、出撃できない人達やどうしても後方支援に回らないといけない人達はとても残念がっていたのです。」
「みんな、横須賀が好きなんだね。涼波、重いけど、みんなの分背負える?」
「大丈夫。ありがと、五月雨。スズは大丈夫だからさ、全員で帰ろう。」
涼波は周りを気にする必要が無かったので、前方警戒の第二警戒航行序列を指示していた。
本来は第一艦隊旗艦の伊勢が命令する事だったが、この作戦は涼波が中心であったので、第二艦隊旗艦の彼女に役割を譲ってくれたのだ。
「にしても………駆逐艦のみんな、凄い装備してるなぁ………。」
「帯刀している私達が言うのも何だが………工夫が並大抵じゃない。」
伊勢と日向が驚きを見せていたのは、夕雲、電、陽炎の3人の装備だ。
まず、改二状態の夕雲は、主砲を二丁持っているだけでなく、腰にベルトを付けて更に予備で二丁主砲を装備している。
重量はかさむが、これで不測の事態が起こっても主砲の予備を準備できるだけでなく、形式が同じ涼波に渡す事も出来た。
「前に玉波さんと戦った時の事を、朝霜さんに聞いたんです。あの時も岸波さんの主砲を借りて、前衛と後衛を上手くこなしていたと聞いたので。」
「修理に励んでいる鈴谷が重装備(フルウェポン)だと喜んでいたわね。装備の重さが問題だけど、役割を最初から決めたからできる運用とも言えるわ。」
「そう考えると、電ちゃんや陽炎ちゃんは重装甲(フルアーマー)って所かしら?」
高雄や愛宕も興味を持つ通り、電と陽炎も装備を強化していた。
まず、雷が深海玉棲姫の砲撃で装甲版が壊されたのを受けて、電は肩の装甲版を2枚重ねにして硬度を上げていた。
また、主砲は右肩だけでなく左肩にも装着しており、バランスよく砲戦の破壊力も上げている。
一方で陽炎は改二の姿でバルジを腕に巻き付けて防御力を上げており、更に足首から膝にかけても同じ物を巻き付けて完全に重装甲化していた。
バルジの本来の使い方では無いのだが、秋に長波が盾役として機能する為に使った際に意外とハマっていたので、参考にさせて貰ったのだ。
この状態だと主砲を上手く扱えない為ベルトに巻き付けているが、彼女は左右のアームに4門の魚雷発射管と同じ数の次発装填装置をそれぞれ付けていた為、計16発の魚雷を自由に操る事ができた。
完全に雷撃戦に特化させる事ができる故の思い切った装備と言えよう。
「何か………カッコいいです!」
「そう?龍鳳、もっと言って頂戴!私、これ位しか取り柄ないからさ!」
「不知火ちゃんや黒潮ちゃんはもっと色んな物を装備できますからね。」
「電は一言余計。………っと、無駄口はここまでかな。」
陽炎達は那珂の放った偵察機が戻って来た事で霧の向こうの存在を確認する事になる。
少しずつその影は大きくなり、シルエットがハッキリと見えてくる。
「第四警戒航行序列………戦闘隊形へ………。」
涼波の言葉で、最大の攻撃力を叩きこめる陣形へと移行する。
そして、その鬼女の姿がハッキリと目視できるようになった。
深海玉棲姫の………玉波の。
「玉………。」
深海棲艦は泣いていた。
心の何処かで会いたくなかったのかもしれない。
でも、会いたかったのかもしれない。
どちらにしろ、こうして面と出会ってしまった事実は覆せない。
だから、「彼女」は聞いて来た。
「何デ………?何デ、涼マデ私ヲ忘レチャッタノ?」
「忘れたわけじゃない。覚えていたんだ。只、スズが球磨さん達に頼んで夕雲達にずっと黙って貰った。」
「ドウシテ?ドウシテ私ヲ見捨テタノ?」
「怖かったからだよ。玉が沈んだ事実がみんなを蝕むのを………。スズは自分のエゴの為に玉の存在を消した。そして、スズはもう1つ罪を犯す。」
そう言うと、涼波は主砲を玉波だった存在に向ける。
深海玉棲姫の目が見開かれたのを彼女はしっかりと確認できた。
「玉………玉が横須賀鎮守府のみんなをこれ以上傷つけるなら、スズは玉を沈める。」
「……………。」
雨が降って来た。
風が吹いて来た。
雷も鳴って来た。
まるで深海玉棲姫の心を表しているように。
鬼女は次の瞬間、咆哮する。
「何デ私ガ沈メラレナイトイケナイノ!?私ガ何ヲシタッテイウノ!?ソレナラ………ソレナラ………!!」
霧の向こうから空母棲姫とエリート級レ級2隻、ネ級改2隻が現れる。
もしかしたら深海棲艦なりに感情を共有しているのか、レ級ですら怒りの表情を見せていた。
「ミンナ、ミンナ!!沈メテヤルーーーッ!!」
深海玉棲姫の怒りの言葉と共に、空母棲姫が巨大な口の中から多数の艦載機を発艦させる。
「合戦用意!皆、やるぞ!!」
「航空戦、行きます!援護をお願いします!!」
まず、一番後ろに陣取った龍鳳が弓に矢を番え次々と空へと放っていく。
それは攻撃機の姿へと変わり、次々と敵の鬼火のような攻撃機と入り乱れて機銃や爆撃、そして魚雷などを放っていく。
激しく空で制空権を巡る争いが繰り広げられる中で、空母棲姫の攻撃機も幾つかは連合艦隊に向かってくる。
「五月雨ちゃん!どっちがより撃ち落とせるか競争ね!」
「はい!提督との愛の巣はやらせません!!」
しかし、那珂と五月雨がそれぞれ主砲を空中に放ち、次々と撃ち落としていく。
味方機も入り混じっている中、誤射が無いのは素晴らしい。
特に、五月雨は二丁の連装砲を最大限に活かしていた。
「沈メ!我ラガ敵ヨ!!」
空母棲姫は尚も攻撃機を撃ちながら、背中に備わった主砲を龍鳳達に向ける。
制空権を邪魔する軽空母を先に撃ち落とそうと考えたのだろう。
しかし、別の角度から強力な砲撃が叩きこまれ、主砲が破壊される。
「何ダ!?」
「悪いわね!可愛い駆逐艦達の邪魔はさせられないのよ!」
「しばらく大人しくして貰おう!航空戦艦の力を見よ!!」
伊勢と日向が偵察機を紛れ込ませ、弾着観測射撃を行ったのだ。
そのまま巨大な口にも狙いを定め、次々と撃っていく。
少しずつではあるが、制空権が龍鳳に有利になっていく。
「レガァッ!!」
「……………!」
こうなると当然、レ級やネ級改が龍鳳を狙う。
一斉に魚雷を放ってくるため、龍鳳、五月雨、那珂は一時攻撃を止めて回避。
尚も主砲を向けようとする中、五月雨が二丁連装砲を交差させて先にネ級改を狙う。
しかし、その放たれた砲弾はネ級改の左右に落ちる。
「……………。」
その隙を逃さずネ級改が五月雨に尻尾の主砲を一斉に向けるが、ここでミスに気づかされる。
五月雨が放ったのは、敵の動きを制限させる夾叉弾だったのだ。
ネ級改の正面に不敵な表情を浮かべた那珂が現れ、主砲を顔面に喰らわせる。
怯んだ所で龍鳳の攻撃機が次々と魚雷を落としていき、あっという間に敵艦を海の藻屑にしていった。
「敵艦、落としました!皆さん、次を!」
「……………!!」
「残念だけど、私達も私達で役割があるのよ!」
「貴女にも沈んでもらうわよ!」
普段の姿から想像できない位に強気のオーラを纏った高雄と愛宕がそれぞれ6門の砲門を一斉に発射していく。
ネ級改は魚雷も駆使しながら応戦しようとするが、彼女達も何と魚雷を装備しており、逆に数の暴力を見せていく。
「……………!?」
「後ろががら空きクマよ!」
更にそこに軽装備故に身軽な球磨が速力を活かし、背面から脳天に主砲を叩きこんでもう1隻のネ級改も沈めていく。
あっという間にコンビネーションで敵艦の数が減る中、2隻のレ級改は陽炎と電に動きを封じられていた。
「レ!?」
「はぁい、レ級!………私と殴り愛をしない!?」
陽炎は凄みのある笑みを浮かべるとバルジで主砲の攻撃を防御しながら接近しインファイトへ。
そのままバルジの硬さに任せ、裏拳を食らわせたり、膝蹴りを食らわせたりしながらレ級を怯ませていく。
レ級も負けずに殴ろうとするが、陽炎は昔やられた教訓からか、顎をバルジで殴りつけて脳震盪を起こさせる。
「レグァッ!!」
倒れそうになったレ級は、しかし踏ん張ると尻尾の巨大な口を振り回し陽炎から見て左から彼女を喰らおうとする。
だが、陽炎はその口を待っていたかのように左腕のバルジで挟みこむ形で封じると、左のアームの魚雷発射管を捻じ込み4門の魚雷を全て発射して尻尾の中で爆発させる。
「ギャアアアアアアッ!!」
「仲間想いなのはいいけれど………悪いけどこっちも譲れないのよ!!」
そのまま下がりながら右のアームの魚雷発射管から更に4門の魚雷を放ちレ級も沈める。
もう1隻のレ級はその姿を横目で見ながら更に怒りの形相を見せて電を主砲や魚雷で狙うが、対応していた彼女は落ち着きながら両肩の主砲を放っていく。
「ガアアアアアアアッ!!」
「大人しく引いて欲しいですが………仕方ないのです!」
巨大な口を伸ばして来たレ級の中に陽炎と同じく分厚い装甲版を挟み込んだ電は、そのまま接近戦を仕掛けてきた敵艦の右ストレートを小柄な体で掴むと後ろに倒れ込み、腹を蹴り上げ巴投げを仕掛ける。
「ギャアアアアアアッ!?」
「ごめんなさいなのです。」
華麗な投げ技の前に吹っ飛んで着水したレ級に対し、逆立ちをした状態のままで腰回りの6本の魚雷を全部撃った電は敵艦を撃沈させる。
その間に、高雄、愛宕、そして球磨は伊勢と日向が怯ませている空母棲姫に突撃を仕掛けていた。
「これで決めるわ!愛宕、球磨!」
「しっかり最後は沈めてあげる!」
「涼波達の邪魔はさせないクマよ!!」
一斉に放たれる砲撃の雨。
更にそこに龍鳳の攻撃機が飛来し、魚雷を放っていく。
「アアアアアアアアアアッ!?」
流石に強力な攻撃の前に、空母棲艦も耐えられず沈んでいく。
これで、涼波と夕雲を邪魔する存在はいなくなった。
「何デ!?何デ、私ノ友達ガ負ケルノヨ!?有リ得ナイ!!」
一方、深海玉棲姫はシルクの布の先に付いた魚雷発射管や主砲を振り回していた。
それは彼女の怒りが反映してか、幾つにも増えており、それぞれハンマーのように涼波達に襲い掛かるが、夕雲が片っ端から二丁の主砲で接続部を破壊して落としていく。
涼波も襲い来るシルクの布を魚雷で燃やしながら深海玉棲姫に接近していく。
「来ルナ!来ナイデ!!」
深海玉棲姫は主砲を至近距離から涼波に撃とうとするが、彼女は身をよじり回避しながら、どんどん近づいていく。
「涼!オ前ハ………!オ前ハァァァァッ!!」
呪詛の言葉を投げかけられるが、涼波は止まらない。
やがて、彼女は至近距離にまで迫る。
「玉………。」
「ス、涼………!?」
「勝負だ!」
涼波はその腹に連装砲を突き付け、乱射した。