燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第69話 涼波~友情故に~

同時刻、横須賀の桟橋では船渠(ドック)入りを終えた藤波、早波、浜波が座っていた。

彼女達は前の出撃で逃げる際に艤装を少しではあるが損傷してしまっていたので、決戦艦隊や露払いの艦隊からは外されていたのだ。

なので、後方支援………横須賀の防衛を任されている鳳翔や照月、旗艦だった雷の許可を貰って、こうして座って涼波達の帰りを待っていた。

 

「ねえ、藤波お姉ちゃん。今頃、涼波お姉ちゃん………戦ってるのかな?」

「うん。」

「し、沈んでないよね………すーちゃん。」

「涼ちんは………ちゃんと言った事は守るよ。」

 

心配そうな早波と浜波の言葉に応えていく藤波。

言葉数が少ないのは、それが玉波を沈める事だと知っていたからだ。

だからこそ、人数の関係で仕方ないとはいえ決戦に向かえない自分達が悔しかった。

 

「藤波、無理はしなくてもいいわよ。辛かったら辛いって言ってもいいし、泣きたかったら泣いてもいいわ。今、この場には涼波はいないから。」

「雷………気持ちは有難いけど、一番辛い思いをしているのは遠くにいるとはいえ涼ちんだから………。だから、せめて藤波達はこうして帰って来た際に出迎えたいんだ。」

 

そう静かに言った藤波は雷の右腕を見る。

彼女の腕は高速修復材(バケツ)により修復はしていたが、しばらくの間は馴染まないだろう。

助ける為とはいえ自分がその腕を撃ち抜いてしまった事を思い出した藤波は、改めて頭を下げる。

 

「ゴメン、雷。その腕………。」

「気にしなくていいわよ。命令したのは私だし。」

 

そう言うと、許可を貰って雷も藤波達の所に座る。

しばらくの間、4人並んで空の向こうを見ていた。

決戦海域と思われる場所は激しい風雨と雷が見えており、ここからでも分かった。

 

「………涼波お姉ちゃんが帰ってきたら、あたし達どんな顔すればいいかな?」

「素直に感情を表現すればいいわ。それこそ、泣いていたら一緒に泣いてあげてもいいし、怒っていたらその怒りを受け止めてあげてもいいし。」

「やっちゃいけない、こと………は?」

「それこそ嘘を付く事ね。今日だけは………貴女達は素直な感情に従いなさい。」

「素直な感情………か。」

 

それで、誰も何も言わなくなる。

彼女達は只、姉達の戦いを見守り、帰りを待っていた。

心の底で彼女が納得できる事を祈りながら。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ウグァァァァァァッ!!」

 

決戦海域では、腹に涼波が連装砲を乱射した事で、深海玉棲姫の悲鳴が響き渡る。

苦しみ悶える彼女は、涼波を巻き取ろうと纏ったシルクの布を動かそうとする。

だが、それは夕雲を始めとした決戦艦隊の面々が砲撃などをして阻止する。

おびただしい量の黒い血が流れ、口からも同様の血を涼波の顔に吐き出す。

 

「ァ………アアーーーッ!!」

「ぐっ!?」

 

だが、深海玉棲姫はそれでは倒れなかった。

彼女にはまだ骨で出来た鋭利な刃のような手が残っていたからだ。

がむしゃらに右手の方を振り被り、手刀を涼波の腹に突き刺す。

涼波も腹と口から血を流した。

 

「コ………殺シテヤル!涼!!私ヲイジメルオ前ハ!!」

「ふ………ふふ………そうだね、いいよ………恨み言はもっと言っても構わないさ。1年以上我慢したんだから………。でも………。」

 

明確な殺意を向けられた涼波は力を入れると主砲を刺さった骨の手に突き付けて連射。

鋭利なそれは破壊されて、深海玉棲姫が涙を流す。

 

「イ………痛イ!痛イ!?」

「スズは沈めないんだ………!待っている………妹達がいるからね!!」

 

そのまま刺さったままの骨の手の欠片を強引に引き抜くと血が溢れて制服を赤く濡らす。

一方で深海玉棲姫の手や腹の傷も再生され、より憎悪の目を涼波に向けてくる。

 

「涼!涼!!オ前ハ自分ノヤッタ事ヲ………!受ケ入レヨウトモセズ!!」

「そうさ!スズは最低の艦娘だよ!!だから………玉を沈められるんだ!!」

 

また手刀で今度は心臓を貫こうとした深海玉棲姫の一撃を、しかし右に身をよじって回避した涼波は、主砲で側頭部を殴りつける。

ならばと、深海玉棲姫は棘の輪の付いた脚で涼波の脚を蹴りうずくまらせる。

 

「がぁっ!?」

「沈メ!死ネ!海ノ藻屑ニナレ!!」

「やった………なぁっ!!」

 

涼波は膝を付いた状態で主砲を更に連射した事により、深海玉棲姫の喉元から黒い血が噴き出される。

だが、それで主砲の残弾が切れてしまう。

 

「夕雲!」

「はい!」

 

自分の持ってた空の主砲を深海玉棲姫の顔面に投げ飛ばして怯ませた涼波は、夕雲が大量に持参してきた予備の主砲を投げ渡して貰う。

受け取った涼波は顔面に繰り出された手刀を仰け反って躱すとその骨の手に更に主砲を連射して、破壊する。

 

「コノ………!?イイ加減ニ!!」

「生憎、駆逐艦はしぶといんだ………よ!!」

 

先程のお返しとばかりに腹に膝蹴りを叩きこんで怯ませた涼波は、深海玉棲姫の口の中に主砲を捻じ込む。

 

「ァ………ガ………!?」

「ゴメン、玉………これが、スズが玉に出来るせめてもの報いだ!!」

 

そして想いの丈をぶつけるかのように乱射していく。

 

「ギャアァァァァアアアアアアアア!!」

 

つんざくような悲鳴が響き渡る。

シルクの布から力が抜け、バラバラになって海の藻屑になっていく。

口からドス黒い血を吐き出した深海玉棲艦は力を無くし、俯いた状態で涼波に倒れ込む。

鬼女としての角がバラバラに零れ落ちた。

 

「玉………。」

 

思わず目を閉じた涼波の左頬に………「拳」が思いっきり殴りつけられた。

 

「が………!?え!?」

 

吹き飛ばされた涼波は衝撃的な物を見る。

深海玉棲姫は沈んでいなかった。

だが、その骨の手には肉が付いており、人間の姿を成していた。

そして、ボロボロではあったが涼波と同じ夕雲型の制服と艤装を付けており、数本だけ残っていた魚雷発射管と主砲を備えている。

間違いなくそれは艦娘の玉波であるが、色は燃えるようなオレンジを主体とした深海玉棲姫のままだ。

彼女は………玉波は憎悪の目を見開くと、涼波に対して残っていた魚雷を全て撃ってくる。

 

「うわあ!?」

 

立ち上がった所に突然の不意打ちを受けて、全ての魚雷を避けられなかった涼波は爆発に巻き込まれて派手に傷つく。

 

「な、何だ!?玉………なのか!?」

「殺す………殺してやる!!」

「!?」

 

声が深海棲艦の物から艦娘の物へと変わったそれは………しかし、以前として怨念を抱えたまま涼波に主砲を向けて連射してくる。

涼波はとっさに回避するものの、突然の事態に状況が読み込めない。

 

「球磨さん!玉は………奪還(ドロップ)したの!?」

「わ、分からないクマ!?でも、あの装備は玉波が沈んだ時と同じクマ!もしかしたら………深海棲艦と艦娘の間で玉波の存在が行き来しているのかもしれないクマ!?」

「成程………ね!そこまであたしが憎いか!憎いよね!!玉!!」

 

涼波は凄みのある笑みを浮かべて………しかし、目からは涙を流しながら玉波にお返しの主砲を放つ。

玉波は体勢を低くして回避すると、涼波に突っ込んでくる。

そして主砲をベルトに仕舞うと拳を振るってきた。

 

「涼!貴女は!貴女って人はーーーっ!!」

「玉!そうさ!スズは!スズはね!!」

 

涼波もベルトに主砲を仕舞うと拳を振るう。

更に蹴りも食らわせお互いがお互いを思いっきり殴りまくる。

どちらかが海に倒れ、どちらかが乗り掛かってくる。

どちらかが投げ飛ばし、どちらかが受け身を取るとまた挑んでくる。

その姿を連合艦隊の皆は呆然と見ていた。

 

「電さん………睦月さんの時もこうだったのですか?」

「そこまでは聞いてないのです。………でも、今の玉波ちゃんは、まだ心は深海棲艦です。」

「陽炎………一応聞くけど、止める?」

「止めたら恨まれるわ、どちらからも。だから………どう決着が付いても手だししたらダメなのよ………。」

 

夕雲、電、五月雨、陽炎といった駆逐艦娘達が話をする中で、龍鳳は偵察機以外の攻撃機を回収していた。

伊勢と日向も弾着観測射撃はもう行わない。

高雄と愛宕もじっとその戦況を見ていた。

那珂は沈痛な面持ちの球磨を気遣っていた。

そんな中、大破状態である2人の親友達の取っ組み合いは続く。

 

「玉!スズは苦しかったよ!ずっと嘘を付いて………玉の存在を消して!!」

「涼!私も苦しかった!深海でずっとずっと私を忘れた貴女達の事を呪ってた!!」

「辛かった!玉にいつかこう復讐される日が来ると思ってたから!!」

「寂しかった!涼にこうして会いたいって何度願った事か!!」

 

お互いに心の底に隠していた本音をぶちまけながら、何度も殴り合った2人はフラフラと起き上がる。

艤装はもはや悲鳴を上げており、見る影もない。

もう長くは持たない状態であった。

だから………。

 

「これで………!」

「決着を付ける………!」

 

互いに右の拳を握り締めると、有りっ丈の想いと共に、艤装に鞭を入れて限界まで増速する。

もう小細工は何もしなかった。

只、正面からぶつかり合う。

 

「玉ーーーっ!!」

「涼ーーーっ!!」

 

強烈な威力を伴った右ストレートが………互いの顔面に炸裂し………双方とも仰向けに倒れ込んだ。

 

しばらく2人が大の字になって倒れ込んだ後………先に起き上がったのは玉波の方だった。

彼女はベルトから再び主砲を取り出すと、右手で構えて涼波を狙う。

 

「……………。」

「スズの負け………か。いいよ、玉。ここまでやったんだ………玉にならば、討たれてもいい。」

「他に何か言う事は無いの?貴女は散々嘘で苦しめて………。」

「もしもさ………願いを叶えてくれるならば、もう藤達には手を出さないでくれないかな?もうみんなが苦しむ姿は………見たく無いからさ………。」

「今更………今更そんな偽善で!!」

「偽善か………。でも、藤達は涼の嘘を受け入れてくれたんだ。そこだけは………譲れないかな。」

 

それが癪に障ったのか、玉波は怒りの表情と共に涼波に主砲を顔面に向ける。

後は、トリガーを引けばトドメを刺せるだろう。

 

「う、うわああああああああああ!!」

 

玉波は思いっきり天に向かって叫ぶと主砲を乱射する。

周りにいる誰もがその姿からは目を背けなかった。

だが………。

 

「……………。」

「玉………?」

 

撃ち終わった玉波は唇を噛み、静かに泣いていた。

そして涼波は生きていた。

弾丸は全て外れ、涼波を殺してはいなかったのだ。

 

「憎いのに………憎かったのに………撃てるわけ無いじゃない………!」

 

玉波は呟き始める。

そして、彼女はゆっくりと主砲を持ち上げる。

 

「だって………だって、涼は私の親友だもの。こんなにボロボロになってでも、私の想いを受け入れようとした。変わってない。涼は変わってないから………!涼は悪く無いから………!」

 

玉波は涼波に笑みを向けると、その主砲を………自分のこめかみに突き付ける。

涼波は驚き、彼女を見た。

 

「玉………!?何を!?」

「私こそゴメンね、涼………!大切な友達………!」

 

そしてトリガーを指で引き………。

 

「さよな………!」

 

ドゴンッ!!

 

しかし、その主砲が吹き飛ぶ。

球磨が………身体が動かない涼波に代わって咄嗟に撃ったのだ。

 

「球磨………さん?」

「最後の最後に干渉して………ゴメンクマ。でも、自害だけは………許されないクマ。」

「どうして………?」

「玉波は涼波に嘘を付いていたクマ。憎いと思っていても、自分で討つ気が無かったクマ。それは………全てを覚悟してこの場に来た涼波に対する冒涜クマ!」

「あ………。」

「涼波が悪くないと本気で思ったのならば………これ以上涼波を苦しめないで欲しいクマ!目の前で自害する親友の姿を見せ付けないで欲しいクマ!それ位なら………生きて2人共、罪を償うクマ!!藤波達の所に………帰るクマ!!」

 

知らぬうちに叫ぶ球磨も、目から涙を流していた。

その言霊の圧力の前に呆然とした玉波は、涼波を見る。

ここに来て………初めて親友の覚悟に気づいたのかもしれない。

その苦しんだ親友の感情を全て知ってしまった途端………玉波の燃えるような皮膚が艦娘の物へと戻っていく。

髪もオレンジから銀髪に戻り………艦娘玉波は、涼波の前に立っていた。

 

「わ、私………なんて事を………しようと………。」

「玉………戻ろう………。」

「涼………。」

「スズに対する憎しみは一生消さなくていい。でも、玉は艦娘だから………一緒に生きよう。今度こそ、最期の時が来るまで………ずっと。」

「涼………うう………あああああああああ!!」

 

そうボロボロの姿で笑みを見せてくれる親友の変わらぬ姿に玉波は思わず抱き着き涙する。

連合艦隊の誰もがしばらくの間、その姿を見守っていた。

空はいつの間にか晴れており、陽光が2人の友情を祝福していた。

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