燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第7話 深雪~沈めるべき敵~

夕雲達から見て右手前にいる敵艦隊は、重巡リ級を先頭に、軽巡ホ級1隻、駆逐艦イ級2隻と続く。

その深海棲艦達の砲塔の狙いは全て先頭の夕雲だった。

イ級やホ級はともかく、リ級の射程ではまだ夕雲達駆逐艦娘の砲門は届かない。

 

「夕雲姉さん狙われてる!」

「分かってるわ!全艦、最大船速で単縦陣!敵艦の発砲に合わせて私が急減速の指示を出すから、その後に再加速して反航戦に持ち込むわよ!」

 

合同演習で陽炎に教えて貰った通り、夕雲は後ろを向かないまま加速しつつ指示を出して、敢えてリ級に砲身を向けて注意を引く。

そのヒューマノイド型の両腕に備わった巨大な口から伸びた砲身が光り………。

 

「減速!!」

 

夕雲に合わせて6人の艦娘は急ブレーキをかける。

リ級を始めとした深海棲艦の砲撃は彼女の進行方向で突き刺さり、次々と水柱を上げる。

特にリ級の砲門の威力と高く上がる水柱に、背筋が凍る物を夕雲は覚えたが、戸惑っている暇はない。

幸い初風は勿論の事、残りの5人も比較的練度の高い娘ばかりだった為、減速時に衝突はしていなかった。

 

「再加速!右砲撃戦用意!砲の分散は1、1、3、1で!」

 

揺れる波の上を滑走しながら夕雲は手早く指示を出す。

こういう時、駆逐艦の砲はあまり威力がない。

だから脆い敵や部位を狙うのが吉だ。

 

「砲撃戦開始!!」

 

夕雲はすれ違い様に一番後ろの駆逐艦イ級を、風雲はその前のイ級を。

岸波と朝霜と長波は軽巡洋艦ホ級を3人掛かりで撃ちぬいていって貰う。

そして、初風には重巡洋艦リ級の動きを止めて貰った。

 

「初風!敵艦の状態報告!!」

「リ級以外撃沈。そのリ級も左の砲は潰してあげたわ。一応、バランス崩して止まってるけど、次はどうするの?」

「このまま雷撃戦に移行するわ!最後尾の初風から1秒置きに全員魚雷発射!タイミングを誤らないで!」

 

丁度、酸素魚雷の適正距離だと判断した夕雲は、振り向きそのまま魚雷発射体勢に入る。

すると、リ級は残った右の砲を何とか動かして夕雲達に向けて砲撃しようとする。

 

「おっと、狙いはこの長波サマか!夕雲姉、こっちは回避に徹する!」

「複縦陣に移行する形で発射順番入れ替え!朝霜、長波、初風は私達の後ろに移動しつつ回避に専念!水柱で大きく揺れるから魚雷発射は後よ!………岸波!!」

「では、私から撃つわ。………風姉、夕姉!続け!!」

 

リ級の砲撃が長波とその両端の朝霜と初風のいた所に炸裂し、水柱を上げつつ派手に海面を揺らす。

それを確認してから、リ級から見て先頭になった岸波が吠えながら右ふくらはぎに備わった4門の魚雷を発射。

続いて1秒後に後ろの風雲、更に1秒後に後ろの夕雲が同じように魚雷を発射する。

そのまま隊列が入れ替わり、初風と長波と朝霜が魚雷を構えるが、発射する必要は無かった。

合計12門の魚雷をまともに受ける形になったリ級は、断末魔を上げながら沈んでいったからだ。

 

「………やった?」

「それはフラグだからあまり言わない方がいいわよ。でも………陽炎姉さんにボコボコにされた割には、ちゃんと旗艦出来てるじゃない。」

「あの時とは相手の強さが………。」

「関係無いわ。平常心が備わっていれば格上相手でもちゃんと出来るって事よ。今回は正直敵の強さも隊列もあまり脅威では無かったけれど………それでもミスは無かったわね。」

「初風さん………。」

 

多分、初風なりに褒めてくれているのだろう。

冷静に考えれば、初めて対峙した重巡の特徴をしっかり教えてくれていたし、戦闘時はその厄介な動きを止めるのに徹してくれた。

なんだかんだで、優しく見守ってくれていたのだ。

しかし、照れ隠しなのか夕雲の視線に顔を背けながら素っ気なく言う。

 

「さ、朝の警戒任務はここまでよ。貴女達の練度と重巡リ級の出現………いい報告と悪い報告をあの提督に出来そうだわ。行くわよ。」

 

夕雲達5人は、彼女に感謝の言葉を述べながら母港へ進路を向けた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さーて、深雪さまはどうやって訓練しようかな~?」

 

同時刻の訓練海域。

その一端で海面を見つめていた深雪は、のんびりと頭の後ろに手を組みながら伸びをしていた。

 

「考えて………無かったんですか?」

「いや?幾つかは考えてたんだよ?只、いざやろうと思うとどうするのが、一番効率がいいかなって思って。」

 

早霜の言葉に深雪は決~めた!と言うと、一人でゆっくりと抜錨し沖合に出る。

そして、隊内無線で一言。

 

「やっぱ実戦形式だな。1人ずつ深雪さまに挑んで来い!」

『え?』

 

腕を組んで仁王立ちで立つ深雪の自信満々の言葉に早霜達は驚かされ、4人で思わず顔を見合わせる。

 

「らしいけど………。」

「いいわ、それで行きましょ!楽しそうだし!」

 

そう答えたのはダークグレイのお団子とロングのくせっ毛の快活そうな娘である夕雲型5番艦の巻波。

彼女は深雪に習って抜錨する。

 

「巻波姉さん、やるんだ。」

「よ~し、私も!メガネがあれば何でもできる!」

 

続いて抜錨するのは眼鏡をかけた臙脂色とピンクの混合の髪を持つ艦娘。

夕雲型14番艦の沖波だ。

 

「沖波姉さんも………。」

「うちも出る!はやはやも早く!」

 

早霜の事を愛称で呼ぶのは銀髪のアシンメトリーの髪が特徴的な艦娘。

ムードメーカーっぽい側面を持つ夕雲型18番艦である秋霜だ。

 

「みんな、慎重になった方がいいのに………。」

 

合同演習で潮と対峙して力の差を見せつけられた早霜にとっては、何かしら作戦を立てた方がいい気がしていた。

しかし、1対1である以上、それもあまり意味がないかと思い、覚悟を決めると最後に抜錨する。

 

「おー!怖がらない艦娘ばかりなのはいい事だな!流石深雪さまが選んだ4人組!」

「どこまで本当かは分からないけど………まずは、巻波が挑戦しまーす!」

 

そう巻波が先頭で深雪の前に出てきて砲塔を構えた瞬間だった。

深雪が彼女の目の前から消えた。

と思ったら………。

 

「へ?」

「速き事、島風ならぬ深雪の如し………てな!」

「へぶ!?」

 

体勢を低くして突撃していた深雪が、巻波の腹部に砲塔を叩きつけていた。

威力が抑えられた為か失神はしなかったが、巻波は腹を抑えて蹲る。

 

「い、今の………有り~?」

「有りだ。速力は全てにおいて有利に働く。呑気に砲を構えていたらあっという間に海の底だぜ?」

『………!?』

 

強気の表情を崩さない深雪だが、明らかにその迫力に凄みが増しているのは夕雲型3人にも分かった。

 

「さあ、次は?」

「お、沖波行きまーす!!」

 

沖波は最大船速で深雪に突撃。

同時に、速攻でやられないように左手の砲塔を向け、連装砲を何度も撃つ。

だが、深雪は低い姿勢で横滑りしながら何かを自分の砲塔に装填すると、沖波に向けて一発発射する。

狙いは顔面………というか、眼鏡。

 

「えっえ~!?って、わ~~~!?」

 

それは模擬弾ではなくペイント弾。

眼鏡を塗りつぶされ視界を潰された沖波は、思いっきり滑り転覆してしまう。

 

「模擬弾だったら眼鏡が割れてとんでもない事になってたぜ?まあ、船渠(ドッグ)入りすれば治るだろうけど。」

「め、メガネを狙うなんて卑怯ですー!?」

「卑怯じゃない。というか、深海戦艦は遠慮してくれないな。」

 

大量の海水を口から吐きながら呻く沖波に対し、キッパリと言ってのける深雪。

あっという間に2人が戦闘不能だ。

 

「で、後はどっちが先に行く?」

「秋霜まず………。」

「ま、まきまきとおきおきの仇ーーーッ!!」

 

早霜が落ち着こうと言う前に、秋霜は飛び出す。

彼女は右ふくらはぎの4門の魚雷を発射し、更に左ふくらはぎの4門の魚雷も時間差で発射。

扇状に開いていく8門の魚雷は、普通では回避が出来ない位美しく正確に形作られている。

が………。

 

「お、いいねいいね!でも………!」

 

深雪は全然焦る事無く、砲弾を魚雷に向けて発射。

信管が作動した魚雷は派手に水柱を上げ、秋霜の視界を塞ぐ。

 

「まずっ!?」

 

早霜と潮の演習の事を思い出した秋霜は、深雪が突進してくると思い水柱に向けて砲撃するが、彼女は横から回り込んできた。

 

「デタラメに撃つなら引くのも手だぜ?」

「くはーっ!?」

 

そのまま回し蹴りを喰らって吹き飛ばされ秋霜も戦闘不能。

早霜はその手際の良さを見て、冷や汗を流しながらも内心、戦意を高揚させる。

潮の時と同じくこの深雪という艦娘は練度が高い。

だからこそ、燃える駆逐艦魂を感じた。

 

「んじゃ、最後行こうか?」

「お相手宜しくお願いします。」

 

早霜はそう言うと、すかさず右ふくらはぎの4門の魚雷を扇状に発射。

ここまでは秋霜と同じ戦術だが、彼女は頭を下げて、高射砲として機能する連装機銃を下に向けると魚雷を自ら全て撃ち抜き爆発させる。

 

「お!?」

「これでこっちは見えないはず………!」

 

派手に4つの水柱が上がった中で、更に左ふくらはぎの4門の魚雷を同じように扇状に発射。

自分の視界を防いでいる水の壁に、均等に突き刺さるように撃っていく。

 

「それで当たると思ったのか!?」

「使える物は何でも使う………!」

 

神経を張り巡らせ、深雪の行動を予測。

魚雷を避けるならば、水の壁の左右のどちらかから飛び出してくる。

魚雷を破壊するならば、どこかで水柱が更に上がる。

深雪の選択肢は前者だった。

出てきたのは………左側!

 

「喰らえ………!」

「い!?」

 

強力な魚雷は全部使った………と思っていた深雪は思わずたたらを踏む。

早霜は爆雷を右手で有りっ丈掴むと、深雪に投げつけたのだ。

その爆発に彼女が巻き込まれるかどうか確認する事もせずに早霜は一気に加速。

 

「一発位………仲間3人分の想い、叩きこむわ!」

「そう来るか!?」

 

左腕の砲塔から連装砲を発射。

それを爆雷で動きを封じられた深雪は身をよじって回避するが、そこまでは想定内。

インファイトの射程まで突っ込むと、早霜は砲塔を振り被り、その頭に向けて思いっきり叩きつける。

 

ガキィンッ!!

 

その一撃は咄嗟に深雪が受け止めた砲塔にぶつかり激しい音を立てる。

直後に腹に衝撃。

深雪が膝蹴りを喰らわせたのだ。

防御をしていなかった早霜はそのまま仰向けに倒れ込んで戦闘不能に陥る。

 

「………負けました。」

「いや………お前、4人の中で一番大人しそうに見えて一番侮れないな………。深雪さまの連装砲を凹ませられるとは思って無かったぜ………。」

「あら、私が特別強いわけじゃないわ。只、合同演習をしていた分だけ余裕があっただけ。フフ………ウフフフ。」

 

思わず冷や汗を流している深雪の姿を見て、早霜は少しだけ満足感を覚えていた。

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