燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第71話 高波~南の島で~

「……………。」

 

 

夕雲型駆逐艦6番艦である高波は、艦娘になった影響で、「~かも」という言葉遣いを使う癖がある娘だ。

それ故に、自身に備わった高い潜在能力を発揮できず落ちこぼれであった。

しかし、それは1年以上前の話。

長月を始めとした嚮導達の元で鍛えた高波は、いつしか改二にも目覚め主戦力として活躍できるだけの力を手に入れていた。

 

「……………。」

 

しかし、今………南のトラック泊地へと転籍させられた高波はその自信を失いそうになっていた。

何故ならば、彼女の前に並んでいる同じく主力級の駆逐艦娘達は………全員暑い日差しの中、水着でパラソルの下のベンチで堂々と寝そべっていたからだ。

 

「あの………皆さん、いいんですか?ここ、トラック泊地かもです………よね?というか、トラック泊地ですよね?南東の泊地の最前線ですよね?」

「あはは………高波ちゃん、大丈夫だって。折角、扶桑さんや山城さん、それに赤城さん達が今日は休暇を取っていいって言ったんだから休まないと。」

 

そう笑顔で答えるのは吹雪。

彼女はのんびりとココナッツジュースを飲みながら、親しい艦娘達に手紙を書いていた。

交友関係が広い彼女はこういう機会に色々な艦娘達と文通をしているらしい。

 

「で、でもこういう日こそ訓練をして練度を上げないといけないかも………。」

「あなたね………横須賀でどんな生活してたのよ?長月達に休む時に休めないような生活を強要されてたんなら、叩きに行くわよ?」

 

サングラスを外しながら溜息を付くのは霞。

旗艦経験の多い厳しい性格の彼女も、今は楽しい休暇を楽しむ艦娘となっていた。

多分、テコでもその場を動かないだろう。

 

「せ、戦艦や空母の方が働いているのに、駆逐艦である高波達だけのんびりしているのは………おかしいかも………。」

「気持ちは分かるけど、彼女達の好意を受けとらないのも悪いよ?ほら、高波もちゃんと下に水着着てるんだよね?制服を脱いで寝そべったらいいよ。」

 

ニコニコしながら時雨が高波にも促してくる。

仕方なく、高波は言われた通り水着になってベンチに座って用意されたココナッツジュースを飲む。

甘い味が心地よかった。

 

「美味しいかも………。」

「じ~~~………。」

「あ、綾波さん!?どうしたのですか!?」

「高波ちゃん~。スタイルいいかな~って。」

「え?改二になって無いからあまり良くないかも………。それに長波姉さまとかの方が………。」

「格差社会は残酷ですね~………。」

 

のんびりとした口調で綾波は落ち込む。

彼女はあまりスタイルが良くないからか、高波の正直な発言は結構ショックだったらしい。

気を紛らわす為に、のんびりと伸びをする。

 

「雪風も改二になれば背は伸びるんですけどね。そもそも改二になると何故艦娘は姿が変わるのでしょうか?」

「そ、そこは巻雲姉さまにも言えますが、あまり突っ込まない方がいいかも………。」

 

何故か哲学的な話になり始めた雪風の言葉に高波は自分が流されているのを感じる。

当初、彼女が危惧していた事から話の内容がどんどんずれて行っているからだ。

だが、高波1人ではとてもじゃないが、修正できなかった。

 

「まあ、とりあえずは高波も休暇を楽しむといいっぽい?」

「い、今頃横須賀で必死になっている涼波さんや玉波さん達に申し訳ないかも………。」

 

結局最後は夕立がウインクをして会話を締める。

話がグダグダになってしまった事で、高波は自分1人がこうして楽しんでいるのに罪悪感を覚えてしまう。

 

(どうしてこうなったんだっけ………?)

 

6人の精鋭駆逐艦娘達に習って寝そべりながら、高波はここに来る前の事を思い出す。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「た、高波が転籍ですか!?」

「ああ。行き先はパラオ泊地の更に東………トラック泊地だ。」

「さ、最前線かも!?………じゃなくて最前線ですよね!?」

 

横須賀の提督が復帰してから数週間後、長月と共に修理が完了した執務室に呼ばれた高波は、新天地への転籍を命令されていた。

トラック泊地は南東の最前線の拠点であり、深海棲艦に対応するために、更に南に新しい泊地を建設中であるらしい。

だから、少しでも戦力を強化するために夕雲型である高波に白羽の矢が立ったのだ。

 

「南は危険な深海棲艦が沢山出ると聞くからな。だから、お前のような精鋭艦娘が選ばれたんだろう。」

「た、高波が精鋭………!?冗談かも、ですよね?」

「いや、冗談では無いだろう。」

 

そう笑いながら答えたのは長月である。

彼女は落ちこぼれ時代からの高波達の嚮導であり、彼女に対して色々なアドバイス等をしてきてくれた恩人だ。

 

「な、長月さんまで………。」

「喋り方が若干特殊である事を除けば、お前は他の夕雲型の改二に負けないだけの力を持っている。………特にその熟練の「目」は巻雲曰く、高性能の眼鏡を装備しているのでは?との事だ。」

 

ここ最近、長月が評価しているのは夕雲型としての身体能力だけでなく、熟練見張員を宿しているのではないかと思える程の目の良さであった。

その目はいち早く敵を察知するのにも役に立つし、戦闘中は凄まじい回避能力を見せつける事ができた。

 

「私はその目が、海戦中でも精鋭と呼ばれる艦娘達の助けになると信じている。」

「皆さんの役に………ですか?」

「そうだ。お前がその目で一足早く危機を察知する事で、危険な砲撃や魚雷から仲間を守る事ができる。」

「た、高波がそんな大層な役目なんて………。」

「謙遜するな。私が保証する。後は………培ってきた自信さえ持てれば迷わずに済むさ。」

「……………。」

 

卒業だ、と付け加えた長月の言葉に高波は思わず感極まって泣き出したものだ。

そして、彼女は自分の力が少しでも役に立つのならば………と思いトラック泊地へと仲間に見送られて転籍したのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

(でも、ここにいる艦娘の人達はみんな改二になれる精鋭ばかり………。高波の力が役に立つ場面なんてあるのかな………?)

 

霞達6人は冬に行われた横須賀主催の将校のパーティにも護衛として選ばれたほどの艦娘だ。

最前線であるこのトラック泊地でも、堂々とした振る舞いが出来るそのオーラに、正直高波は圧倒されそうになる。

無意識の内に溜息を付いていたのだろうか?

そんな彼女の元に、薄い桃色の髪をポニーテールにした艦娘が笑顔で覗き込んでくる。

 

「ひゃわ!?ご、ごめんなさい由良さん!」

「あ、驚かせた?ゴメンね、高波さん。ここに来たばかりなのに。」

 

思わず慌てて立ち上がって敬礼をした高波に対し、その艦娘は申し訳なさそうに手を合わせる。

彼女は長良型4番艦由良。

第四水雷戦隊の旗艦を務めていた艦娘で、実はトラック泊地の秘書艦を務めている。

軽巡洋艦であるが、駆逐艦娘にも大半は「さん」付けで呼んでくれる礼儀正しい艦娘であった。

ちなみに彼女も今は水着になって大人っぽさを見せている。

 

「こういう時はもっとフランクでいいのよ? 霞さん達もほら、のんびりしているじゃない?」

「た、確かに………そうかも………。」

 

歴戦の駆逐艦娘達は敬礼をしていない。

冷静に考えてみれば、顔を合わせる度に敬礼と答礼を強制していては互いに失礼に値すると考えているのだろう。

ここら辺、スイッチのオンオフがしっかりとしているようであった。

 

「高波さんもすぐ慣れるわ。吹雪さんなんて、ここに来たばかりの頃は憧れの先輩達が多かった事も合わせてガチガチだったんだから。ね?」

「ああ!?由良さん、それは言わない約束ですよ!」

 

笑みを浮かべたまま語る由良に対し、思わず身を起こし抗議する吹雪。

やはり、真面目な性格である彼女は最初、この雰囲気に慣れるのに当初は苦労したらしい。

自分だけが違和感を覚えたわけではないという事に少しだけ安堵を覚える高波であったが、このまま素直に染まってしまっていいのかなという疑問を覚えてしまう。

 

「あんまり根詰めているとここではやっていけないわよ?自由を満喫できる時は存分に満喫するの。」

「うう………高波も霞さんみたいに堂々と出来るのでしょうか?」

「曙の手紙だと沖波も開き直ったみたいだから案外イケるんじゃない?」

 

自分と同じくおどおどする癖のあった妹艦の事を言われて、高波は考え込む。

沖波はサバサバとした性格の曙と大湊で同部屋であるらしく、色々厳しい戦いがあったのもあって自信を見せる事も多くなったらしい。

そう考えると自分も彼女を含め、色んな地で活躍している夕雲型艦娘達に負けてられないとは思うのだが、やはり折れそうになる。

 

「高波は高波のペースで馴染んでいけばいいさ。一朝一夕で全てが解決できる物でも無いし。」

「綾波達も高波の目の良さは聞いているので、頼りにしてますよ~?」

「与えられた役割を先ずはこなしていけばその内、練度も上がります!」

「だから、まずは一緒に水浴びでもするっぽい!ぽーい!」

 

最後に夕立がそう言うと、艦娘達は海へとそれぞれのペースで走っていく。

高波はどうしようか迷ったが、そんな彼女の顔に水鉄砲が吹きかけられる。

 

「ぷわ!?ゆ、由良さん!?」

「ふふふ、由良の新装備、侮ったらダメよ?」

「新装備って、ちょっとおかしいかも~!?ってわ~~~!?」

「ほらほら!高波ちゃんも一緒にね!」

 

結局吹雪に背中を押される形で水浴びに参加する事になった高波は、南の島での洗礼を満喫する事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夕方になって休暇を満喫して制服に着替えた高波は自室の机で手紙を書く事になる。

彼女と同部屋なのは綾波だ。

綾波はベッドの上に腰かけて、高波の様子を興味深そうに見つめていた。

 

「じ~~~………。」

「あ、綾波さん、また何かあったのかも!?もしかしてスタイルの事!?」

「地味に傷口を抉りますね~………。それはともかく、高波が羨ましいな~って思って。綾波も敷波に手紙を書きたいと思う事はあるけれど、第二十六駆逐隊は各地を転々としてますから~。」

「あ、確かに私も岸波さんや朝霜さんには中々手紙を届けられないかも………。」

 

ジャズバンドとして各地に演奏を届けている敷波達の第二十六駆逐隊の面々は、その特性故に手紙を届けられない。

だからこそ、そのメンバーである磯波、朝霜、岸波、野分、嵐と仲の良いメンバーはとりあえず彼女達のホームグラウンドである横須賀に手紙を届けておく。

でも、その手紙がいつ読まれるかは分からない。

更に言えば、トラック泊地からは本土まで距離が遠い分、手紙自体がすぐには届かないのだ。

そういう意味ではこの孤島は隔離されているとも言えた。

 

「それでも手紙を届けないと………何か寂しいかもしれませんから………。」

「そうですね~。でも、だからこそ昼間のように提督や秘書艦、戦艦に空母等の皆さんが気を使ってくれるんですよ。僻地に送られた私達の為に。」

「あ………。」

「多分、しばらくは寂しいとは思います。でも、みんな良い人達ですから一緒に頑張っていきましょう~。」

「綾波さん………。」

 

笑顔を見せる綾波に、高波も笑みを浮かべる。

確かに色々と不安も多かったが、昼間の事で少しは解消された気がした。

だからこそ、彼女はこれから自分の仲間になる艦娘達の事を大切にしようと思った。

 

「高波も………頑張るかも!………じゃなくて、頑張ります!」

 

そう決意を新たに声に出した高波は、元気に拳を上げた。

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