燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第72話 綾波~熟練の「目」~

翌日、高波は艤装を装着して訓練海域へと出向いていた。

彼女と共に抜錨したのは綾波と霞。

といっても、実はその理由は知らされてなかった。

 

「一体、何をするんでしょうか………?」

「綾波も聞いてませんね~。」

「あたしもよ。あの提督、何を考えてるんだか………。」

「やあやあ、呼んだかい?」

 

霞の言葉に見てみれば、そこには年若い男性が秘書艦である由良と共に立っていた。

彼がトラック泊地の提督である。

 

「あの司令官………高波は何をすればいいのでしょうか?」

「何、ちょっとしたテストさ。僕は、百聞は一見に如かず………を地で行くからね。今後の為にも、君の目がどんな力を持っているのか確かめておきたいのさ。」

「えーっと、すみませんよくわからないかも………。」

「吹雪、彼女達の準備は出来ているかい?」

「はい!扶桑さんも山城さんも赤城さんもバッチリだそうです!」

 

手を振る吹雪の声に振り向いてみれば、そこには3人の艦娘がやってきていた。

1人は巨大な砲門を背負った、腰まで在る黒髪ロングの大人びた女性。

1人は同じく巨大な砲門を背負った、黒髪がボブカットになっている大人びた女性。

1人は黒髪ロングであり、赤を基調とした弓道着を改造した風貌の女性。

順に航空戦艦である扶桑、山城、そして空母である赤城であった。

 

「ま、まさかと思いますが………。」

「今から君達3人は10分間彼女達の模擬弾による砲撃と練習機による攻撃を躱して貰う。反撃は練習機の迎撃以外は無しだ。」

「ちょっとクズ提督!いきなり何を言い出すのよ!?そんなので10分間も耐えられるわけ無いでしょ!?」

 

思わず霞が抗議をするが、提督は笑みを浮かべたまま高波を見る。

 

「尚、この訓練は高波の能力を確かめる為の物だから、旗艦は彼女とする。綾波も霞も彼女に従うように。」

「ええっ!?」

「大変な事になってきましたね~。高波、大丈夫ですか~?」

 

綾波が思わず心配するが、高波の顔は真っ青だ。

しかし、同時に自分が試されているとも感じた。

要は自分の目を駆使して2人を守りながら耐えろという事らしい。

旗艦としての経験は長月達の元であったが、こんな訓練は流石に初めてだった。

 

「……………。」

「うーん、横須賀からの推薦状は意味が無かったかな?君の嚮導が誰かは分からないけど、これ位で根を上げるようじゃ………。」

「そ、そんな事無いかも………です!!」

「ほう………?」

 

思わず大声で叫んだ高波に、提督は少しだけ真顔になる。

高波は震えながらも、提督を睨みつけて言う。

 

「や、やります………この訓練!だから………だからみんなを侮辱しないで下さい!!」

「いいね、その仲間想いの駆逐艦魂。だったら、実力で証明してくれ。」

 

高波は自分の頬を叩くと海を見る。

既に扶桑達は抜錨しており、配置に付いていた。

勿論、彼女達も止まったまま攻撃し続けるわけではない。

一定のラインからは近づかないように旗が立てられてあったが、逆に言えば常に戦艦や空母が有利の射程にさらされるという事だった。

 

「よ、宜しくお願いします!………本気で来てください!」

「分かったわ………山城、赤城さん、用意はいいわね?」

「え、ええ姉さま………。でも、いいのかしら?」

「言われたからにはどのような結果になってもやるだけよ。」

 

提督がピストルを構えて立つ。

 

「お互い、改二の使用は認める。では、行くよ………。」

「綾波さん、霞さん………今だけは呼び捨ての許可を下さい。後、高波の指示に従って下さい!」

「分かったわ、見返してやりなさい。」

「対空迎撃はある程度は任せて下さいね~。」

 

青白くスパークする事で全員が改二になる。

そして、皆は見る。

高波の目が見開かれ………完全に目つきが変わったのを。

 

パァン!!

 

提督のピストルが鳴り響き、扶桑と山城が一斉に砲撃体勢に入る。

その装備のアンバランスさ故に欠陥戦艦と言われている2人だが、火力は本物だ。

それぞれに備わった10門の砲門が一斉に3人を狙う。

 

「来る!?ちょっと動かなくていいの!?」

「今は止まって。」

「ん~?」

 

そして、砲門が光った所で高波は指示を出す。

 

「霞、2歩前。綾波、3歩後ろ。」

『え?』

 

頭では理解してなかったが、身体は咄嗟に言われた通りに動く2人。

高波自身は左前に1歩だけ動いていた。

すると………20門の全ての砲弾が彼女達の横を通り抜けていく。

 

「な、何!?どういう事!?」

「回避………できましたね………。」

「次、対空迎撃。赤城の攻撃機を撃ち落としていって。」

「え、ええ………!」

 

高波の指示で赤城が放った練習機を次々と撃ち落としていく3人。

特に綾波は連装砲を2丁持っていた為、迎撃行動には長けていた。

高波は目を見開いたまま、周囲を見渡す。

すると、次弾装填を終えた扶桑と山城が今度はカタパルトから偵察機を飛ばしていた。

どうやら最初の砲撃が外れた事で、弾着観測射撃を行おうとしたらしい。

狙いは対空迎撃が得意な綾波。

 

「綾波、3秒後に迎撃中止して前に5歩走って。」

「はい~!」

 

言われた通り、きっちり3秒後に走る綾波。

すると、面白いように綾波の後ろで次々と水柱が上がった。

行動を先読みされた事で明らかに扶桑と山城の顔色が変わる。

 

「な、何なの!?あなた、何が見えてるの!?」

「霞、右に2歩。」

「うわ!?」

 

思わずビックリした霞が更なる指示に動いてみれば、後ろから機銃。

赤城の練習機が旋回して艤装を狙っていたのだ。

回避した霞はその練習機を撃ち落としながら高波の素質に末恐ろしい物を感じる。

一方でいよいよヒートアップしてきた赤城は魚雷を持った練習機を旋回させて綾波を囲い込む。

流石に全てを撃ち落とせない綾波に対し、高波は一言。

 

「綾波、迎撃中止。右斜め後ろに1歩だけ。」

「こう………ですか?」

 

言われた通りに綾波が動いてみる。

すると、練習機は四方八方から次々と魚雷を落とすが、その軌跡は全て綾波の横を通過する。

これによって赤城の顔色も変わった。

この時点で既に1分を過ぎていたが、高波達の被弾はゼロ。

しかも、大きく移動しているわけもなく、同じ場所で数歩動いているだけだ。

あまりの展開に、見ていた吹雪、時雨、雪風、夕立、由良は唖然としていた。

そこに、あくびをしながら黒髪を一部だけ纏めて伸ばした艦娘が現れる。

 

「ふああ、提督おはよ。ん?何やってんの?サーカスの訓練?」

「加古か。居眠りしている場合じゃないよ?扶桑達は本気で当てようとしている………。」

「ああ、運が悪いってヤツ?」

「それだったら、僕は神の奇跡を目の当たりにしてるよ………!実力で躱してるんだ。高波達が………全て!!」

 

タウイタウイにいる古鷹の妹である重巡洋艦加古に対して、提督は寝坊を叱る事もせず、思わず握った拳を震わせる。

挑発をしたとはいえ、本気になった高波の持つ力を目の当たりにして彼は感動すら覚えていた。

尚も高波は綾波と霞に簡素な指示を出し、航空戦艦の強力無比な砲撃を、空母の様々な練習機による攻撃を、次々と躱していっている。

 

「へ~………面白そうじゃん………あたしも混~ぜて!」

 

加古が改二を発動させて抜錨すると、何と後ろから不意打ちで高波を狙う。

しかし、彼女は数歩横に動くと放たれた砲撃を全部回避していく。

 

「うわ~!ホントに避けてる!凄い!凄い!」

「加古さん!?何やってるの!?」

「4人掛かりは~流石に反則ですよ~?」

「実戦形式だろ?こういう展開も有り得るし面白いだろって!」

 

高波の凄さを体感した加古にもアドレナリンが出てどんどん砲撃をしていく。

しかし、その砲撃の軌道を予測している高波には全く当たらない。

扶桑、山城、赤城、そして加古の分厚い攻撃を、駆逐艦3人は回避し続けた。

 

「由良………高波の直接の嚮導は長月だったね………!」

「はい。他にも初風さん、深雪さん、雷さん、電さんが指導をしていたはずです。」

「後で手紙を5枚用意しておいてくれ。彼女達にお礼と謝罪の言葉を書かなくては………!」

「分かりました。」

 

それだけを言うと、提督は訓練海域で繰り広げられている奇跡に没頭する。

規定の10分間はあっという間に過ぎた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

パァン!!

 

そして、開始から10分後に提督がピストルを鳴らした事で訓練は終わる事になる。

彼は被害状況を確認する。

 

「霞、綾波………念のために聞くよ?被弾は?」

「こちら霞。3発掠り傷を負ったわ。でも、致命傷にはなってない。」

「綾波です。2発受けましたが、戦闘続行にも航行にも支障は無いですね~。」

「じゃあ、高波………僕が見ていた限りだと………。」

「………被弾はゼロかも………いえ、ゼロです。」

『!?』

 

荒く息を吐く高波の姿に、観戦していた面々は思わず驚かされる。

4人の航空戦艦、空母、そして重巡洋艦の攻撃を全て躱したのだ。

 

「どうやったか教えてくれるかい?」

「どうやったって………普通に目で見渡しただけかも………です。後は長月さんから一緒に耳等も使えばいいと教わりました。指示も簡潔にする事で口癖を減らせますし、咄嗟に動ける利点もあります。全部………高波の力を活かす為に教えてくれました………だから………!」

「ああ、挑発して悪かった。謝るよ。君と君を育てた嚮導達の力は本物だ!」

「よ、良かった………かも………。」

 

実戦形式の訓練で自分の実力を証明し、自分を育ててくれた嚮導達への信頼も勝ち取った高波はホッとする。

そこに一緒にその証明の為に協力してくれた綾波と霞もやってくる。

 

「本当に良かったですね~。綾波達も助かりました~。」

「このクズ提督は、いきなり何を考えるか分からないんだから!扶桑さん達もごめんなさい、こんな事に付き合わせて。」

 

霞の言葉に、戻って来た扶桑達4人も頷く。

 

「いえ、私達も更なる修練が必要だと感じました。それだけでも収穫です。」

「貴女、高波だったわね。不幸艦とは聞いていたけれど、それに負けない位凄かったわ。」

「慢心したつもりは無かったけれど、ここまで実力を見せられたのならば完敗よね。」

「いや~、あたしゃ清々しい気持ちだよ。こんな戦力が来てくれたんだからね!」

 

この高波の目があれば、深海棲艦との戦いを有利に進める為に新たなバリエーションが生まれるだろう。

トラック泊地の提督は、色々と考えると高波に言う。

 

「高波、僕らが今、新しい泊地の建設に向けて資材の搬入等を手伝っているのは知っているね?」

「あ、はい………。ショートランド泊地………ですよね。」

「実はそれだけでなく、基地も2つほど作ろうとしていてね………ブイン基地とラバウル基地って言うんだけれど、流石に艦隊1つじゃ足りないんだ。」

「つまり………高波もそれに協力すればいいって事かも………じゃなくて、協力すればいいって事ですか?」

「そう。そして、君のその能力だけど………。」

 

提督は霞を見る。

その目を見て、彼女は自分が今回、高波の実力を証明するために協力する事になった理由を悟る。

 

「ああ、そういう事ね。………ええ、確かにクズ提督の思っている通りよ。高波、あなたは間違いなく旗艦向けよ。」

「………え?」

「確かに~、先頭だと索敵もしやすいですし、旗艦として指示を出す方が色々と得する事が多そうですからね~。」

「ええ!?」

 

綾波も笑顔で賛同してくれた事で高波は驚く。

旗艦としての経験は確かに積んだが、おどおどしている自分が精鋭艦隊の中でそんな役目を担うなんて考えて無かったからだ。

 

「高波、謙遜する必要はない!信じてくれないかもしれないけれど、僕も保証するよ!このトラック泊地で、旗艦の1人として活躍してくれ!」

「えーーーっ!?」

 

いきなり任された大役に、高波は思わず素っ頓狂な声を上げる事になった。

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