トラック泊地での任務は、提督が言っていた通り、泊地や基地建設に向けた物資の派遣や護衛任務であった。
その為、基本はその建設地を行ったり来たりする事になる。
勿論、その為にトラック泊地の防衛を欠かしてはいけないので、速力は遅いが火力に優れる扶桑や山城、対空迎撃能力に長けた吹雪の出番となる。
逆に輸送任務に関しては大発動艇を詰める霞や由良が中心となった。
「へー………大発動艇ってこういう物資の移動も行えるんですね。私、ドラム缶しか知らなかったかも………。」
「戦車を乗せてデコイにする子が多いけど、基本的な運用法はこうなのよ。」
「というか、パラオ復興の際も皐月や山風が同じ手段で活躍していたわ。」
「そうなんですか。」
扶桑や山城から大発動艇に関する説明を受けた高波は思わず感心してしまう。
夕雲型でも戻って来た玉波のように大発を積める存在はいるが、こういう器用さを持ち合わせた艦娘の存在は戦闘以外の場所でも希少であった。
「その代わりと言ったら何だけど、戦闘能力は落ちるからね。だからこそ、君の目で彼女達と物資を守って欲しいんだ。」
「司令官、敵艦が現れた際の対処は?」
「基本は軽く蹴散らすだけでいいよ。但し、建設中の泊地や基地が襲われていたらその限りじゃないかな。」
「結構判断が難しいかも………。」
「分からない内は由良に聞くといいさ。彼女は慣れているからね。」
「了解したかも………いえ、了解しました!」
見送りに来た提督の言葉に応えた高波は敬礼をする。
提督は扶桑達と共に答礼をすると艦隊を見送る。
今回の艦隊は高波、時雨、加古、赤城、霞、由良であった。
本当はもう1つ艦隊を作りたい所だが、それだとトラック泊地が丸裸になってしまう。
「今の内に後2、3人鎮守府から募集しておこうかな。」
そう提督が言ったので、もしかしたら誰か転籍して来るかもしれない。
色々と帰って来た楽しみを残しながら、高波達は抜錨していった。
――――――――――――――――――――
彼女達が今回向かうのはトラック泊地から一番近い南のラバウル基地だ。
途中、2回程海戦に遭遇したが、高波の目を使うまでも無く、赤城と加古、そして時雨の改二の力量だけで対処出来た。
「エリート級とはいえ、重巡ネ級や戦艦タ級を軽くいなすとは思わなかったかも………。」
「一応僕は身軽さが自慢なんだ。改二はその為の装備とも言えるね。」
「そのギミックは、高波はビックリかもです。」
時雨改二の背中に背負っている連装砲は特殊なギミックを施されており、陽炎型のようなアームで2つの砲身が連結されており、巨大な単装砲2門へと変化をする。
これに加え、対空気銃が左右2門ずつと手持ちの単装砲と膝に付いている左右4門ずつの魚雷………と言った感じで装備に関しては、時雨改二はコンパクトに纏めつつも、かなりフレキシブルに対応できるような作りになっていた。
「霞さんも対空迎撃が凄く上手いですね。」
「改二乙はそういう姿だと思って貰えばいいわ。吹雪や雪風ばかりに頼ってられないし。まあ、代わりに火力は落ちるけれど………。」
霞は2つの改二を使う事ができ、その内の改二乙は主に対空迎撃に特化したサポート重視の形態だ。
大発動艇を背負っている故に直接的な支援がしにくい彼女は、こう言う役目を担う事で、艦隊の役に立つ事ができた。
「駆逐艦はそれぞれ特化した役目を担う事で艦隊の役に立つ事ができるのさ。」
「あなたの目ばかりじゃ、ここでは生きていけない物ね。」
「高波、今日は色々と感心させられるかもです。」
そうしている内に建設中のラバウル基地が近づいてくる。
しかし、そこから軍船が出てくるのが分かった。
「………何かあったのでしょうか?」
「ちょっと聞いてみるね。」
由良が電探で船の乗組員と連絡を取り合う。
すると、顔が険しくなっていく。
「どうやら深海棲艦に乗っ取られたみたい。」
「ええ!?それ、只事じゃないんじゃ………。」
「ところがここじゃ良くある事なんだよねぇ。建設業者の人達も命がけなのさ。」
「由良さん、敵深海棲艦の特徴は分かります?」
赤城の言葉に由良は情報を纏めていく。
そして、艦隊に向けて言葉を発した。
「集積地棲姫………多分、集積地棲姫Ⅲだと思われます。」
「あー、アレは確かに建設中の巣を乗っ取りやすいからねぇ。」
加古がうんうんと頷くと高波を見る。
「高波、どうする?装備を整えに戻ってたら基地を荒らされてしまうかもよ?」
「うーん、でも由良さんと霞さんが大発を輸送してきたから、実質的な戦力は4人だけかもです。それに、この目も万能じゃないんです………。」
「というと?」
「流石に海戦中に5人全員に指示を出せません。精々頑張っても2、3人が限度です。」
一々全員にどう動くか言おうとすると、どうしても言葉数が増えてしまう。
その為、敵艦の攻撃に対し、指示が間に合わなくなる可能性があるのだ。
「では、こうしましょう。由良さんと霞ちゃんは後方で対空迎撃に専念させる。私も攻撃機を発艦させる事に集中して前には出ません。その分、前線で戦う加古さんと時雨ちゃんが危なくなりますが、そこは高波ちゃんの目で何とかしてあげて下さい。」
「分かったかもです。」
赤城の提案を受けて、高波も納得する。
2人ならば、彼女は指示を出せる。
「緊急時以外は加古さんと時雨さんに指示を集中します。皆さん、宜しくお願いします。」
「じゃあ、持ってきた物資を預けたら行くわよ!深海棲艦共の好きにはさせないんだから!」
霞の言葉を受け、艦隊は前進した。
――――――――――――――――――――
建設中のラバウル基地では、陸地の上に白い長い三つ編みを垂らした眼鏡の深海棲艦が、巨大な顎の顔に座っていた。
その周囲には箱に積まれた爆弾が散乱しており、巨大な装甲を纏った手には大事そうにドラム缶を抱えている。
あの敵が陸上施設の集積地棲姫Ⅲだ。
「見るのは初めてかもです………。」
「気を付けて、どうやら敵は1隻じゃないみたいだ。」
時雨の言葉に周りを見渡せば、戦艦ル級改が2隻、空母ヲ級改が2隻、フラッグシップの軽巡ツ級が1隻いた。
砲撃力、空戦能力、そして対空迎撃能力と、中々分厚い編成だ。
「物資ハ、ヤラセハシナイ………!私ノ物ダ!!」
「奪った物資で言っても意味無いわよ。」
「黙レ!!」
霞の妥当なツッコミに逆上した集積地棲姫Ⅲは、早速爆弾を投げつける。
高波は集中して、目の色を変えると艦隊の上に振ってくる物だけを主砲で爆破する。
そうしている内に赤城と敵のヲ級改が攻撃機を発艦して空中戦が繰り広げられ、霞と由良とツ級が対空迎撃を行い、その数を減らしていく。
航空バランスは拮抗していた。
「よっしゃあ!久々に燃える戦い行くぜ!!」
そこに加古が前線に出て、右腕の2門の主砲と左肩の4門の主砲をヲ級改に喰らわせていく。
古鷹に比べると装備はシンプルであったが、破壊力は申し分無く、逆に身軽さがある分躍動感ある動きでかく乱出来た。
その強力な砲撃の前にあっという間に沈むヲ級改。
流石に最前線に投入されているだけの力は彼女も持っていた。
「いっちょ上がり!」
「加古、2秒後に後ろに5歩分飛び退いて。」
「おっと!!」
高波からの指示で、ル級改から弾着観測射撃を狙われている事を悟った加古は2秒後にバク転で飛びのくと、前で水柱が上がる。
「ツ級も落とすよ!」
加古と入れ替わりで主機を加速させた時雨は魚雷を左右から2発放ち、ツ級を狙う。
ツ級は咄嗟に回避するが、そこに時間差で2発炸裂させて沈める。
「赤城!航空バランスを変えた!ル級改を落として!」
「小癪ナ!!」
仲間が減らされていく事に、集積地棲姫Ⅲは苛立ったのか、島から巨大な岩石を取り出すと放り投げる。
そして、空中で主砲を当てて、バラバラにして前線の高波達に降らしていく。
「来る!?」
「おわ!?」
「時雨、3歩前に走って。加古、右に2歩分飛んで屈んで。」
しかし、落下地点を先読みした高波が的確に指示を出す事で2人はスレスレの所で回避をする。
訓練を見ていたとはいえ、実際にその力を体感すると、時雨も加古も驚かされる。
「やるね………僕も燃えてきたよ!」
「あたしもビックリだぜ!」
「次、時雨、左に1歩。加古、右前に2歩。」
『OK!』
残ったヲ級改の攻撃機からの魚雷をまた的確な指示で回避させた高波は、素早く周りを見渡す。
制空権は赤城がほとんど掴んでおり、彼女は時雨の言葉通りル級改に魚雷を喰らわせて次々と沈めていた。
「ナ、何故当タラナイ!?何ヲシタ、貴様!?」
「あーあ、深海棲艦からもビックリされてるわよ?あなたの目、集中力は大丈夫なの?」
「横須賀で鍛えたので数十分は大丈夫かもです。でも、続けて使い続けると流石に疲れます。………それよりも、護衛がいなくなった集積地棲姫Ⅲを落としましょう!」
高波は霞と由良に前線に出るように指示を出す。
岩を投げて砕かれる攻撃は、密着していた方が避けやすい。
それを除いても、この深海棲艦は避けない代わりに耐久力が凄まじいのだ。
一斉攻撃が必要だった。
「クソ!ドウスル!?ドウスル!?」
「どうしようもないわよ!………由良さん!」
「大発動艇を移出するわ!」
物資を軍船に乗せた事で大発に戦車を積めるようになった霞と由良が主砲の砲撃と共に集積地棲姫Ⅲに攻撃していく。
更に、その後ろから加古が重巡の破壊力を活かした砲撃を放つ。
そして、赤城の攻撃機が爆弾を落とし、炎に包んでいく。
高波は、尚ももがく敵艦の砲撃の回避コースを見極めながら爆雷を投げつけた。
「止メロ!?物資ガ!?燃エル!?」
「残念だけど、ここまでだよ。今回は僕が決めるね。」
高波と入れ替わりで時雨が突撃。
最後の抵抗で集積地棲姫Ⅲが岩を投げつけるが、高波の指示で時雨は軽く回避をするとそのまま艤装のギミックを展開し、陸地に飛び乗る。
そして、大口径の単装砲を2門と手持ちの単装砲、更に対空気銃4門を全部一斉射して、華麗にバク宙をしながら海に飛び込む。
「ギャアァァァァアアアア!?」
その強力な一斉射の直撃を受けた集積地棲姫Ⅲは流石に耐え切れずに海へと転がり込むように沈んでいく。
敵大将を倒した事によって、海域は静かになった。
「完全勝利………ね。いつもは加古さん辺りが小破か中破してるんだけど………ホント、あなたの目に助けられたわね。」
「ありがとうございます。深海棲艦に基地が乗っ取られなくて良かったかもです。………て、アレ?」
霞のニュアンスに高波は妙な違和感を覚える。
もう一度確かめるように聞いてみる。
「加古さんも言ってましたが………いつもは………って、もしかしなくても………。」
「日常茶飯事よ?深海棲艦の基地の襲撃や乗っ取りなんて。後はトラック泊地も今頃攻撃を受けて、吹雪達が迎撃してるかもしれないわね。この南の島はそういう所なの。」
「……………。」
想像以上にハードな展開を霞に真顔で言われ、思わず高波はげんなりする。
確かに休暇は思いっきり楽しめと言われるわけである。
「今度は、高波も皆さんと一緒に遊び倒します………。もう迷いません。」
「うんうん、分かってくれて何より!ね!」
秘書艦である由良が締めた事で、高波達は軍船に安全を伝え、物資の運搬を始めた。