燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第74話 吹雪~艦娘の歴史と今~

ラバウル基地への物資の運搬が終わり、トラック泊地への帰路についた高波達は、元来た航路を引き返す事になる。

流石に一日仕事をしていただけあって時刻は夜になっていた。

 

「こういう事を繰り返すんですね………。泊地や基地の建設って大変かも………。」

「その内、身体が慣れるわ。とりあえずは帰還したらあの集積地棲姫Ⅲに関する報告書を纏めないといけないわね。頑張りなさいよ。」

「き、旗艦の仕事も大変かも………。」

 

こんな仕事を、旗艦を務めた霞等は平然とこなしていたのかと思うと高波は思わずどんよりする。

しかし、トラック泊地に戻って来た彼女達は驚くべき物を見る事になる。

幾つもの砲弾の赤い光と探照灯の白い光であった。

 

「海戦!?トラック泊地が襲撃を受けています!?探照灯は綾波さんの………!?」

「ちょっと違うわね………探照灯は多分、提督が借りてるわ。」

「ええっ!?」

 

由良の言葉に高波は思わず熟練の目を使う。

確かに残った艦隊が、夜偵を飛ばすフラッグシップ級のヌ級改と戦闘を繰り広げていた。

そして、桟橋では本当に提督が探照灯を付けて立っていたのだ。

 

「な、何であんな危険な事を!?」

「この距離からハッキリ見えるなんて高波さん、本当凄いわね。とりあえず援護しましょう。」

「は、はい!」

 

高波は提督の周りで扶桑、山城、それに吹雪が対空迎撃を行っているのが見えた。

ヌ級改は夕立、雪風、綾波が夜戦の長所を活かし沈めていっている。

他にもフラッグシップ級のタ級が奥に見えたので、高波は急いで時雨と加古に指示を出し、援護に向かわせる。

高波、霞、由良。赤城は提督の元へと向かった。

 

「し、司令官!何、危険な事してるんですか!?」

「やあ………高波、物資の運搬ありがとう。その顔を見る限りだと初任務は成功したみたいだね。」

「質問に答えて欲しいかもです!何で探照灯なんて付けてるんですか!?」

「敵は大将首である僕を狙っているからね。一番安全な所で海戦を見ていたんだ。」

「あ、安全って………とにかく、迎撃します!」

 

それだけを言うと、必死に提督を守る高波達。

海戦は、パワーバランスが大きく傾いた事も有り、間もなく終了した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さあ、教えて下さい!どうしてあんな危険な真似をしたんですか!?」

 

海戦終了後、トラック泊地の執務室で、高波は思わず机を叩いていた。

彼女にしては珍しく怒りの表情で提督を見ている。

しかし、提督は悪びれた表情もせず、逆に少し真剣な顔になって言う。

 

「高波、横須賀の提督である先輩が、この執務室を爆撃されて重傷を負ったのは君も知っているだろう?」

「え?そ、それは知ってるかもです。」

「深海棲艦も馬鹿ではない。奴らは提督が大将首であると分かっているから確実に仕留めようとする。実際、横須賀ではそれで一時、陽炎が提督代理という重荷を背負う羽目になったし、パラオの前任の先輩は殉職している。彼は青二才の僕にもよく世話を焼いてくれたな………。」

 

そう言うとトラック泊地の提督は少し寂しい顔をする。

高波は触れてはいけない事だったかもしれないと思いながらも、心を落ち着かせて質問を続ける。

 

「だ、だったら猶更………。」

「執務室でこうして隠れているよりも、頼りになる艦娘の傍の方が生存率は高いんだ。砲撃は彼女達が予兆を知らせてくれるし、攻撃機は撃ち落としてくれるからね。」

「た、探照灯をわざわざ付けて自分の位置を知らせているのは………。」

「僕を正確に狙って欲しいからだよ。………本土から離れたトラック泊地を任されている以上、付近の地元の住人に流れ弾が飛んでいく事態は避けなければならない。」

「え………。」

「意外だと思ったかい?でも、「日本以外の他国の領土に泊地を置かせて貰っている」以上は順守しないといけない事なんだ。」

「……………。」

 

高波は提督の言葉に、自分が本土ではない他国の領域に滞在している事を今更ながらに認識する。

ここら辺、国同士の駆け引きとは無縁の立場であったが、泊地を置かせて貰っている以上、何かしら提督に制約が掛かっていると言われると納得できる部分もあった。

 

「少しこの後の話にも関係するし、歴史の勉強をしようか。何故現在、艦娘の存在が重宝されていると思う?」

「えっと、軍船に比べて深海棲艦は的が小さすぎて小回りが利くから、海戦になった時に圧倒的に不利だからかもです。」

 

これは、訓練学校で習った基礎的な事だ。

速力の遅い深海棲艦の戦艦等でも、軍船よりも圧倒的に有利に展開する事ができる為、正直一方的に沈められてしまう。

その為、同じサイズの艦娘は深海棲艦に対抗できる希少な存在と化していた。

尤も残念ながら、その深海棲艦が発生した原因は分かっていないのが難点だが。

 

「そもそも艦娘は日本で最初に生まれた。当初はバカバカしい計画で、人型に改修した船のパーツ………後の艤装を人間に付けたら有利に戦えるのでは?という事だったけれどね。」

「確か、それが5人の初期艦………ですよね。」

「そう、そしてその1人であり本当の最初の………偶発的に艦娘という存在になれたのがそこにいる吹雪だよ。」

 

執務室にはその吹雪を始め、トラック泊地に所属する12人の艦娘全員がいた。

吹雪は少し憂いを帯びた目をすると、高波に頷く。

 

「彼女はハッキリ言って僕よりも余程ベテランだから………説明を引き継ごうか。頼むよ、吹雪。」

「はい。高波ちゃん………最初は戦い方で四苦八苦していたように、艦娘の適性検査も四苦八苦の状態だったんだよ?」

「そうなのかもです?」

「うん………当初は老若男女関係無しだったし、無理に艤装を付けさせた事で後遺症を背負う人も居たし、私も色々身体を調べられたし………。」

「っ!?ご、ごめんなさい!!」

 

少し暗い顔で語る吹雪の言葉に高波は思わず謝る。

今でこそ安定して工程を踏んで艤装の適性検査が行われているが、艦娘の存在が発見された当初はそんな方法なんて確立されてなかったのだ。

特に人道という概念においては、今以上に捨てられていたのだろう。

 

(五月雨さんや電さん、漣さんが強いのは当然だったんだ………。)

 

現在、呉にいる叢雲も含めて初期艦の5人はその中で地獄を見たのかもしれない。

故に、精神的な強さを手に入れざるを得なかったのだろう。

そんな高波に吹雪は敢えて笑顔を見せながら続きを語る。

 

「謝らなくて大丈夫だよ。話を戻すね。そうした試行錯誤があったから、日本は艦娘としての技術を確立させた。そして、次々と艦娘が生まれていって、艦娘先進国になったんだ。」

「それはつまり………逆に言えば、日本だけが深海棲艦に対抗できるって事かも?」

「うん。だから、こうして補給手段を確保する事ができれば、様々な国に進出する事ができるようになったんだ。泊地を置く代わりに国を守って下さいってお願いされたわけだね。」

「侵略とかは考えてないんです………よね?」

「私達艦娘は少なくともね。………上に関しては流石に分からない。」

「あ、はい………。」

 

やはり上層部は艦娘を使って制海権を有利に進めようとする思惑があるらしい。

高波としては自分の住む所を守る事ができればそれでいいとも思うが、そう上手くはいかないのだろう。

嘆息する彼女の考えが分かったのか、吹雪はまた寂しそうな顔になって言う。

 

「勿論、その展開は他国にとっては面白く無いよ?だから………艦娘になれるのは果たして日本だけか?って考えるようになってね。それぞれの国が死に物狂いで試行錯誤する事になっちゃったんだ………。」

 

それはつまり、吹雪達が経験したような地獄が様々な国で行われているという事だ。

吹雪はそれがありありと想像できるだけに、悲しみを抱えてしまうのだろう。

高波もやるせない思いを抱いた。

 

「あの………結果は?」

「幸い、日本の艦娘でも改二とかで海外艦の力を纏う事ができる娘がいるのが分かったの。金剛さんは英国生まれだし、響ちゃんはロシアのヴェールヌイになれるし、ここにいる雪風ちゃんは丹陽っていう台湾の艦娘になれるからね。」

「じゃあ、その海戦のデータは………。」

「勿論、日本の上の人達と取引をして自国に持ち帰ったり、参考にしたりしているらしいよ。その結果が実を結んだかどうかは分からないけれど………日本程で無いにしろ艦娘を生み出す事ができるようになったんだ。まだ、ほんのちょっとだけどね………。」

 

それはつまり、本格的な陣形を組んでの実戦投入までは中々いかないという事だ。

しかし、国の事情を考えれば初期の吹雪達のように孤軍奮闘を強いられてしまうだろう。

彼女はそれが耐えられなかったのかもしれない。

何かを祈るように静かに目を伏せる。

 

「………僕が再び話を引き継ごうか。そう言った海外艦と呼ばれる存在が無駄に轟沈しない方法を模索する国も現れた。………で、そこで見つけた手段が艦娘大国である日本に一時的に貸し出す事なんだよ。」

「貸し出す………?」

「そう、日本の艦娘達と一緒にいれば、孤軍奮闘をするよりは轟沈する確率は減るし、練度も上がっていく。頃合いを見て本土に呼び戻せば、そこで培った知識と経験は国の糧になるだろう?」

「何か合理的かも。」

「そういうわけで、少しずつだけど日本の鎮守府とかにも海外艦が配備される計画が進んでいるってわけ。訓練学校にはもう既に入っている艦娘もいるらしいね。」

「ぜ、全然知りませんでした………。」

 

提督と吹雪が語った艦娘の歴史と今を聞かされて高波は情報を整理するのに苦労する。

ここまで深い話を語られるとは思ってなかったからだ。

 

「で………重要なのはここからなんだ。僕は昼に言ったよね?艦隊運用に幅を持たせる為に追加で艦娘を2、3人招きたいって。」

「はい………あ、まさか!?」

「そう………その中に色んな国の海外艦が立候補されていてね………練度はまだまだなんだけど、国の事情でトラック泊地にやってくる事になったんだ。」

 

そこで提督は珍しく難しい表情になる。

恐らく最前線故に、練度の低い艦娘を招集するのは避けたいと考えたのだろう。

非情な考え方だったが、昼間のような集積地棲姫Ⅲ等が沢山出てくるような所ならば控えたい気持ちも分かる。

 

「練度はまだまだって………。」

「改二じゃないから使えるのが擬似改二なんだよ。持続時間もまだ短いと聞いた。」

「……………。」

「とりあえず、明日紹介するからみんな今日は休んでくれ。高波も報告書は明日でいい。」

「わ、分かったかもです。吹雪さん、皆さんありがとうございました!」

 

既に夜更けであることを思い出し、高波が慌てて礼をした事で皆が解散する事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

そして、翌日………庁舎の前で集った艦娘達が6人も並ぶ事になる。

高波が特に目を引いたのは6人の内3人。

1人は金髪の癖のあるセミロングの前髪を分けている大人な艦娘。

1人は金髪を一部三つ編みにした長身の艦娘。

1人は緩やかな癖の付いた後ろ髪を持つ赤毛の元気そうな艦娘。

彼女は新規に集められた他の艦娘よりも明らかに異なる雰囲気を纏って、12人の泊地在住の艦娘達を見ていた。

提督が前に出ると、彼女の紹介を始める。

 

「みんなに紹介しよう。まず、彼女達3人がそれぞれアメリカ、オーストラリア、オランダの艦娘である………。」

「重巡洋艦ヒューストンです。海外艦が来た事で驚かせちゃったかしら?」

「軽巡洋艦パースよ。日本語は喋れるから遠慮なく言って頂戴。」

「軽巡洋艦デ・ロイテルだよ!わかる、わかるわかる!?宜しく!!」

 

そう海外艦………ヒューストン、パース、デ・ロイテルはそれぞれ着任の挨拶をした。

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