翌日、2チームによる輸送作戦が早速開始される。
高波達は、今度はブイン基地への物資の運搬を行う事になっていた。
途中までは綾波を旗艦としたショートランド泊地への物資の運搬を行う艦隊と行動を共にする事ができたので、道中は比較的楽であった。
ちなみに今回の艦隊は、高波旗艦の方が、雪風、ヒューストン、神鷹、海風、文月。
綾波旗艦の艦隊が、時雨、夕立、赤城、由良、霞。
流石に運用の関係で、海外艦3人は一度には使えなかったので、熟練の目で回避の指示を出せる高波の方の編成に順に組み込む形になっていた。
「ヒューストンさん、擬似改二はギリギリまで使わないで下さい。」
「分かったわ。何かあったら私の三連装砲にも頼ってね。」
ヒューストンのメイン武装は3セットの三連装砲だ。
両肩に1セットずつ、そして手持ち用で1セット備えている。
この他の特徴としては、脚にスクリューを備えている為、直進の加速力に自信があった。
「やっぱり私達とは装備のバリエーションが違うかも………。」
「活かすも殺すも旗艦の貴女次第だから頼むわね。」
敵艦がいないか索敵をしながらも、高波は初めてチームを組むヒューストンや神鷹、海風、文月と念入りに連絡を取り合い、それぞれの得意な戦術や大発動艇の確認、更には実戦での戦い方等を確認していく。
「高波さん………本当、旗艦として色々とこなしていきますよね。」
「あ、そうですか?嚮導の方々から教わった事を実践しているだけかも………。」
神鷹の言葉に、高波は思わず照れて頭をかく。
長月達の訓練では、こういう海戦中だけでなく警戒中の細かい指示出しもしっかり学んでいた。
1年間ずっと訓練を続けていた為、もう身に沁みついているのだ。
「高波は最初横須賀に来た時は落ちこぼれだったので………それでもしっかり面倒を見てくれた嚮導の方々には感謝しかないんです。」
だからこそ、提督が発破をかける為とはいえ彼女達を侮辱した時は大声を出してしまったし、改二に目覚めさせてくれた以上は自分の武器を大切に活かそうと思っているのだ。
「高波って素直ですよね。それに駆逐艦としての芯の強さも感じます。」
「文月も感じる~。正直、小柄で大人しそうだけど艦隊の大黒柱の威厳を感じるよ~。」
「私はそうは思ってないかもですが………そうだとしたら、それも全部嚮導の皆さんのお陰です。」
「だとしたら、高波の嚮導って名教艦ですね。」
「名教艦………。」
海風の言った言葉は造語であったが、その響きに思わず高波は嬉しくなる。
と言っても、冷静に考えれば当然なのかもしれない。
主に自分を担当してくれた長月は、提督代理もやってのけた陽炎率いる第十四駆逐隊の嚮導代理なのだから。
よくよく考えれば自信を付けてきている沖波も、大湊で同部屋に一緒にいてくれているのは同じく嚮導代理を務めた曙だ。
どうやら自分達は本当に周りの人に恵まれているらしい。
「………ねえ、高波。それに艦隊の皆さん。お願いがあるんだけれどいいかしら?」
「何でしょうか?」
嚮導を褒められて嬉しそうな高波の姿を見て何かを思ったのか、ヒューストンが自身の周りに集まっている艦隊11人に聞こえるように無線で伝える。
「アメリカはね………こういう言い方は何だけれど、現時点では日本の次に艦娘達を多く作り出しているの。だから、私はまだ気が楽なの。」
「えーっと………。」
「でもね………本人達が言っていた通り、パースとデ・ロイテルは孤独を覚えているわ。それぞれオーストラリアとオランダの唯一の艦娘だから………。その上、文字通り国の威信を背負っている。」
「……………。」
「だから、彼女達を可能ならば精神的な意味でも助けてあげて欲しいの。勿論、パースは素直じゃないし、デ・ロイテルは笑って誤魔化しているからそう簡単にはいかないけど………もしも本人達がどうしようもなくなった時はお願いできるかしら?」
ヒューストンの言葉に、高波は考え込んでしまう。
「高波、嫌なの?」
「そうじゃないんです。以前吹雪さんが言った事を思い出して………。」
訝しんだ海風に対して、高波は説明する。
日本でも最初の内は初期艦達が人道を無視した光景を目にしていたように、パースとデ・ロイテルも故郷で地獄のような光景を見ているからなのでは無いか?と連想出来たのだ。
彼女達はもしかしたら心の底ではずっと辛い記憶を引きずっているかもしれない。
それが、高波が考えてしまった事であった。
「吹雪が最初の艦娘だって知ってましたけれど………。」
「辛い思いしていたんだね………。」
「だからヒューストンさんは………。」
初めて初期艦の真実を知った海風達も、思わず考え込んでしまう。
そして、高波はヒューストンに聞こえるように無線で言う。
「ヒューストンさんは………仲間想いですね。」
「艦の記憶だと一緒に組んでたのよ、私達。だから仲良くなれたんだけれどね。」
演奏という共通の趣味があったし………とも彼女は付け加えると少しだけ寂しそうに笑みを見せる。
国の思惑に左右されるのは日本の艦娘もそうだったが、海外の艦娘だって同じような物なのだ。
そして、艦娘として………人としての感情を持っているのも、国籍関係無しなのだろう。
「分かりました。約束するかも………じゃなくて、約束します。」
「ありがとう、高波。貴女こそ優しいのね。」
艦隊は再び前進を始め、ブイン基地とショートランド泊地の近くまで進んでいく。
辺りを見回していた高波は、無線で艦隊に一旦停止を呼びかける。
「そろそろ別れるポイントまで来たかもですが………。」
「はい、じゃあ、綾波達はショートランド泊地へ………。」
「その前に一緒に待ち伏せしている深海棲艦を叩いておきませんか?」
「え?」
綾波達は思わず辺りを見渡すが敵の姿が見えない。
雪風に至っては潜望鏡を使うが、首を傾げるばかりだ。
「東の水平線の遥か向こうにですが、フラッグシップの軽巡ト級を4隻引き連れた水母棲姫と水母水姫が見えたかもです。私達の組み合わせが恐らく連合艦隊で無い事から、それぞれ別の泊地と基地に物資を送る艦隊だと思ったかもです。」
「高波………つまり、僕達が別れた後に、敵艦達は片方の艦隊に襲い掛かる予定だったわけかい?」
「これは予測ですが………姫達は低速艦なので、恐らく長距離レーダー役も担っているト級達が突っ込んで来て、こちらを奇襲で足止めしている所に攻撃機を発艦させて更に混乱させるつもりだったのかもです。」
「ぽーい!?高波、戦術予報士としての技能も持ってる!?」
「あ、これは嚮導艦の教えに加え、経験と座学の知識かもです………。」
敵を先に発見できるとここまで有利に作戦を練れるのかと思い、2つの艦隊の艦娘達は思わず感心させられる。
ヒューストンも高波の神髄を見せられて思わず心が高ぶったのか、うずうずしながら次の指示を問う。
「じゃあ、どうする?6人で艦隊を組みなおして突撃する必要があるけれど………。」
「魚雷は温存したいですし、火力が欲しいのでヒューストンさんは出番です。但し、回避行動に関しては私の指示に必ず従って下さい。」
「OK!後は?」
「時雨さん、夕立さん、雪風さん、綾波さんで。本当は空母の2人も欲しいですが、ト級や水母棲姫の対空迎撃能力が厳しいので艦載機が勿体無いです。後方で大発動艇を積んだ4人を守って下さい。」
「分かったわ。神鷹さんも大丈夫?」
「はい………分かりました。」
高波は指示を出すと、東の方向に向き直り艦隊を結成し直す。
彼女に続いてヒューストン、時雨、夕立、雪風、綾波が単縦陣で一気に増速していく。
「あ、雪風も見えました!こっちに驚いてます!?」
潜望鏡で改めて様子を確かめた雪風が動揺する姫2隻と仕方なくこちらに突撃してくるト級4隻の姿を発見する。
「先制攻撃仕掛けるわ!ファイア!!」
早速3セットの三連装砲を放つヒューストン。
それは動揺しているト級の内の1隻に当たりあっという間に沈めていく。
これによって残り3隻は更に混乱し始める。
「当たった!やったわね!」
「油断しないで!T字有利にします!面舵!」
高波の指示で右90度に旋回した艦隊は更に砲撃を放つ。
高波が1隻、時雨が1隻、夕立が1隻沈めてあっという間にト級を全滅させる。
「次、姫を落とします!単縦陣のまま2隻の間を突っ切ってまずは水母棲姫を!」
「貴女、迷いが無いわね。」
「迷うなと何度も教わりました!取舵!」
素早く左に90度舵を切った高波達。
それで、ヒューストン達でも2隻の姫を視認出来る範囲まで接近する。
水母棲姫はリボンを付けた姫のような上半身に、不気味な腕と舌が伸びた口の下半身を持っている水上機母艦だ。
一方で、水母水姫は、女性の姿でありながら、尻尾から長い口がケーブルのような物で繋がっており、その口の上はカタパルトになっている水上機母艦であった。
姫2隻も、自分達の作戦が看破された事で動揺しており、しかも護衛が簡単に倒された事で艦載機を発艦させる隙を貰えなかった。
仕方なく砲撃と魚雷を織り交ぜるが、高波が指示を出して回避させる。
「ヒューストン、屈んで!時雨、右に1歩!夕立と綾波は隊列交代!夕立、魚雷を1本だけ準備!」
「ドウヤッテ、見破ッタ!?」
「何故、私達ノ作戦ガ!?」
姫2隻は想像ができない出来事の連続に思わず狼狽するが、いちいち気にかけてあげる程高波達は優しくはない。
彼女達は素早く2隻の間を通り抜けると順に水母棲姫に砲撃を喰らわせていき、最後に夕立が魚雷を投げつける。
「アアアアアアアアアッ!?」
ヒューストンという重巡の砲撃と、夕立の魚雷が合わさった事で水母棲姫は悲鳴を上げながら沈んでいく。
そのまま水母水姫の周りを回転しながら高波が魚雷を1本放ち、怯ませる。
「全艦一斉砲撃!」
『了解!!』
「ナ、何デーーー!?」
状況が理解できず、得意の艦載機も封じられた状態で水母水姫も沈んでいく。
あまりの速攻に敵は呆気なく全滅してしまった。
「お、驚いたわ………自分で言うのもなんだけど、私………足手纏いにしかならないと思ってたのに………。」
「本当に足手纏いにしかならないのならば、司令官は上の命令を無視するかもです。あの方も過去に恩師を失っているみたいかもですし。」
海域が静かになった事でヒューストンが思わず自分の手を見る。
この海域で、擬似改二も使って無いのにここまで上手く事が運ぶとは思っていなかったのだ。
一方で高波は敵艦も色々と考えて行動しているのだなと感じていた。
奇襲を見破れなかったら、それこそ艦隊が危なかったからだ。
「とにかく戻りましょう。皆さんをあまり待たせたらダメかもです。」
「そうね。貴女といると、本当に勉強になるわ。」
高波はヒューストンに笑顔を見せると由良達の元へと戻っていく。
何事も無く戻って来た高波達に、他の面々も笑顔で手を振って応えていた。
その様子を見ながらヒューストンは感じる。
(いつか私達も高波のように信頼を獲得できるような艦娘になりたいわね。)
ヒューストンは自分の願いを聞いてくれた高波が轟沈しない事を願った。
最初の2チームの輸送作戦は、この高波の活躍もあり成功する事になった。
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「そう来るか………。」
一方その頃、トラック泊地の執務室では提督が頭に手を当て深く考えていた。
提督の中では比較的笑顔を見せる事の多い彼も、今は眉をひそめている。
「司令官、そんな険しい顔をしてどうしたんですか?………って、それ命令書?」
「ああ、吹雪か。上層部からの通達によるとオーストラリアもオランダも相当焦っているらしいんだ。」
秘書艦である由良が大発動艇を駆使し輸送任務に赴いている為に、現在はその代理を吹雪がこなしている。
彼女は、お茶を持って来ながら提督が悩んでいる理由を聞いた。
「命令書が2枚………もしかして、パースさんとデ・ロイテルさんに関する事ですか?」
「ああ。上によると2つの国は、早急に輸送任務で成果を出す事を望んでいるらしい。」
「私が言うのもなんですけれど………2人の為にも、もっとゆっくりと練度向上を目指す事は出来ないのでしょうか?」
「現場の事情は国の事情の前には無力だよ。そういうわけで命令書には、最終的にはこう書いてある。」
提督は吹雪にその上層部から出された命令書を見せながら説明をする。
「パースとデ・ロイテルを同時運用する事。こうなると、遊撃艦隊………7人編成を高波に試して貰わないといけないだろうね。」
嘗てない試練を与える事になるだろうと、提督は告げた。