「7人編成かもです!?」
「ああ、しかも軽巡洋艦のパースとデ・ロイテルを同時に運用しろとの命令だ。」
「そんな何で急に………?」
夜が更けトラック泊地の執務室に帰って来るなり、次の出撃の詳細を聞かされた高波は、一緒に任務をこなしていたヒューストン、雪風、神鷹、海風、文月と共に命令書の内容を聞かされる事になる。
「彼女達はそれぞれオーストラリア、オランダの中では唯一の艦娘だ。それ故にその国の威信を背負っている。だから、この泊地の中で結果を出せずに干される事を恐れられたのだろう。よりによって、その危惧が2つの国から同時に来たらしい。」
「それは………タイミングが悪いかも………。」
「だから高波には戦力を補う為に遊撃艦隊………7人編成を試してみて欲しいんだ。」
提督が言うには、高波、パース、デ・ロイテル、神鷹、海風、文月に加え、もう1人熟練の艦娘を入れて対応して欲しいとの事である。
「司令官が候補に挙げたい艦娘は誰ですか?トラック泊地の防衛という点も考えて。」
「そうだね………大発動艇を駆使できる由良と霞はダメ。防衛が5人になるから火力と対空迎撃能力に長けた扶桑、山城、加古、ヒューストン、吹雪もダメ。それ以外なら………今回はもう1つのチームの旗艦を務めていた綾波が、一番帰って来た時の疲労の蓄積が抑えられているかな。」
「では綾波さんで行きます。この泊地では同部屋ですし、色々と話がしやすいかもですから。」
高波はそう言うと、一緒に執務室に入っている周りの面々を見る。
やはりというか、ヒューストンの顔色が一番優れなかった。
「大丈夫かもです。ヒューストンさんとの約束はちゃんと守りますから。」
「高波………。」
「そうですよね、皆さん?」
「駆逐艦は一度約束した事はちゃんと守りますからね!」
「あ、海風ちゃんずるい~!文月もちゃんと守るよ~?」
「空母も………ちゃんと守ってみせます。」
「………ありがとう。」
一緒に同行する海風、文月、神鷹が言った事でヒューストンは礼をする。
ここに来るまでも仲の良かった2人だけに、余計に心配なのだろう。
彼女は祈るような思いで告げた。
「宜しく頼むわね。勿論、貴女達も全員無事でいて頂戴。」
「ありがとうかもです!」
ヒューストンの言葉に、高波は笑顔で応えた。
――――――――――――――――――――
翌日、高波達は物資の運搬の為に出撃をする事になる。
とにかくパースとデ・ロイテルと共に早急に物資を届ければ良かった為、疲労が十分に回復次第、一同は出撃をする事になる。
隊列は高波、パース、デ・ロイテル、綾波、神鷹、海風、文月だ。
7人編成というのは初めてだったので高波は慎重に確認をしていく。
(今回目指すのはショートランド泊地………。)
もう1つ時雨旗艦で雪風、夕立、赤城、由良、霞で6人の艦隊が構成されていたが、彼女達は方角が違うラバウル基地に行く為、一緒には来てくれない。
その為、高波は前回以上に道中は警戒をする必要があった。
「パースさん、デ・ロイテルさん………気負わずに付いて来てくださいね。」
「ええ、任せて頂戴。」
「ふふふ………出来る所見せてあげるからね!」
パースは簡素に、デ・ロイテルは元気に答えるが、それが痩せ我慢なのは高波には分かっていた。
とはいえ、海戦になったら力を借りる事になる為、ヒューストンの時と同じく今の内に戦術等を確認する事になる。
(彼女達も変わった装備をしているかもです………。)
パースはメイン武装の連装砲を両手に装備しているという格好だ。
背中の艤装の左側には探照灯があり、それで夜間も戦える仕様になっている。
偵察機を移出するカタパルトは右腕に括り付けてあった。
一方で、デ・ロイテルは背中に背負った艤装の右側に連装砲1門、左側に連装砲2門という火力重視の構成。
更に右手には単装砲、両太ももには連装機銃と砲撃に関しては隙が無かった。
「ふにゃ~………2人共、面白い艤装を装着してるね~。」
「日本とは違うからかしら?」
「これが、オランダ式ってヤツ?」
素直に感想を言う文月の言葉に応えながら、2人は辺りを警戒する。
高波は緊張しながら海を抜けていった。
そして、周りに岩が並ぶ地帯へと足を踏み入れる。
南の遠くに小さな島が並んでおり、そこに目指すべきショートランド泊地があった。
(もうちょっとで………っ!?)
だが、そこで高波は停止命令を出す。
何事かと思って艦隊が停止してみれば、羽虫のような偵察機が飛んできたのだ。
「視認されましたね………。」
「艦隊は………見える?」
「かなり厄介な編成です。駆逐棲姫3隻、軽巡棲鬼2隻………深海鶴棲姫1隻。」
「ええ!?全部姫クラスと鬼クラスじゃん!?」
デ・ロイテルの叫びに艦隊の全員が戦慄する。
軽巡棲鬼は長髪の黒いヒューマノイド型の上半身と深海棲艦独特の黒い口と連装砲2門を備えた下半身を持つ深海棲艦だ。
そして、深海鶴棲姫は長い銀髪を備えた美女が、巨大な砲門とカタパルトを模した艤装のような椅子に座っている強敵であった。
「一直線にこちらに迫ってきます、合戦用意を!」
「私達はどうします!?」
「文月達、物資を持ってるから………。」
「海風さんと文月さんは離れていて下さい。神鷹さんも下がって攻撃機を発艦させて欲しいかもです!制空権は譲らないで!」
「わ、分かりました………。」
指示を受けた神鷹が攻撃機をどんどん飛ばしていく。
一方、こちらを軽巡棲鬼のレーダーで確認できる距離まで来たのか、深海鶴棲姫もどんどん攻撃機を発艦させていく。
たちまち空は空中戦の舞台へと変わった。
「物資を持った海風さん達を巻き込むわけにはいきません!こちらも突撃するかもです!」
高波の言葉で複縦陣へとなり、高波と綾波を先頭にしてパースとデ・ロイテルが続く。
それに対して駆逐棲姫が3隻こちらに迫ってくるのが分かった。
その後ろに軽巡棲鬼2隻が偵察機を飛ばしながら迫ってくる。
「駆逐棲姫を盾にして軽巡棲鬼が弾着観測射撃を行うつもりです!各自砲撃と雷撃には注意を!」
そう言うと高波は増速していく。
しっかりと付いていく綾波であったが、海外艦2人は若干遅れた。
それを見たのだろう、駆逐棲姫が魚雷と砲撃を2人に向けて撃ち出す。
「パース、右に3歩!デ・ロイテル、急停止!」
「くっ………!」
「わわっ!?」
慌てて指示通り動く事で2人は回避に成功する。
一方で、綾波はその隙を狙って駆逐棲姫の内の1隻に肉薄し、両手の連装砲を顔面に連射し容赦なく1隻沈める。
高波も左ふとももの4門の魚雷を、軽巡棲鬼の弾着観測射撃を躱しながら発射し、2隻目の駆逐棲姫を沈める。
「パースさん、デ・ロイテルさん!後1隻!」
「分かったわ!」
「りょうかーい!」
仲間が沈められて慌てふためいた駆逐棲姫の隙を逃す程2人の海外艦は練度が低くはない。
最大限の火力を一気に叩きこみ最後の駆逐棲姫を海の藻屑にする。
「やっばーい!戦果上げちゃった!」
「この調子で行くわよ!」
「っ!?待って!?」
そこで高波は、2人が勢いに乗り過ぎて姿勢が前のめりになっているのに気づく。
そして、パースに向けて遠方の深海鶴棲姫が砲撃体勢に入っているのを。
「パース、左に3歩!」
「え!?」
慌てて回避命令を出すが、前のめりになったパースは咄嗟に横に動くことが出来ずたたらを踏む。
戦艦クラスの砲撃が来ると分かった瞬間………高波は身体が勝手に動いていた。
「どいて!」
小さな身体で思いっきりパースに体当たりをする高波。
しかし、射線からは完全に逃れられなかった為に砲撃を回避する事は出来ず、彼女の………高波の細い右腕が吹き飛ぶ。
「っ!?………あああああああああああ!?」
「た、高波!?」
焼けるような痛みに思わず蹲る高波に対し、顔を真っ青にして駆け寄るパース。
「ちょ!?やばくない!?」
「デ・ロイテルさん、脚を止めないで!」
更に綾波が咄嗟にデ・ロイテルの前に立つ。
次の瞬間、軽巡棲鬼の弾着観測射撃が飛来し綾波の右脇腹から血が噴き出す。
「う………ぐう………。」
「あ、ああ………!?」
高波と綾波が崩れた事で、パースとデ・ロイテルはパニックに陥る。
これでは戦闘継続は出来ない。
「高波!高波、しっかり!?」
「嫌だ!?綾波が!?どうしよう!?」
このままでは危ないと言った所で、神鷹の攻撃機が魚雷や爆弾を抱えたまま軽巡棲鬼に突撃していき、次の砲撃を封じる。
「みんな!こっち!!こっち来て!!」
文月の言葉に振り返ってみれば、彼女は神鷹と海風と共に天然の鍾乳洞の入り口で手を振っていた。
前線の4人は慌ててそちらに向かう。
途中、深海鶴棲姫と軽巡棲鬼の攻撃が迫って来たが、神鷹が攻撃機を特攻させる勢いで邪魔をし、海風と文月も出鱈目に主砲を撃ち何とか隠れる隙を作る。
必死に逃げた4人は鍾乳洞に入ると、奥へと向かっていった。
幸いにも、敵は狭い洞窟の中までは追ってこなかった。
――――――――――――――――――――
「高波さん………綾波さん………しっかり!」
「今止血します!我慢して!」
洞窟内では、早急に高波と綾波の手当てが行われていた。
幸い運搬している物資の中に救急セットが入っていたので包帯などを駆使して高波の右腕と綾波の右脇腹の手当てを行う。
とはいえ、早急に船渠(ドック)入りさせた方がいいのは事実であった。
その様子をパースやデ・ロイテルは青ざめた顔で呆然と見ている。
「ど、どうしよう………。」
「しくじっちゃった………しくじっちゃったよ………。」
「そんな事言ってる場合!?手伝ってよ!?」
思わず文月が声を荒げて抗議をするが、2人は動けない状態だ。
余程ショックを受けてしまっているのだろう。
だが、その様子を見て文月は余計に腹が立ったのか叫ぶ。
「2人が調子に乗るから高波ちゃんも綾波ちゃんも重傷を負ってるんだよ!?何であの時突っ込もうとしたの!?」
「だ、だって………戦果を上げないと………国が………。」
「国って………!そんなに自分の国が大事なの!?」
「だ、大事に決まってるじゃない………だって私達は国を………。」
「ああもう!国、国、国って!!」
「喧嘩は………止めてほしいかも!」
文月が怒り出した事で高波が痛みを堪えながらも止めに入る。
彼女は脂汗を流しながらも何とか神鷹や海風に感謝をしながら何とか身を起こす。
「文月ちゃん………ヒューストンさんの会話、思い出して。2人は国を背負ってるんだから………。」
「ヒューストンさんは全員無事でいて欲しいとも言ってたよ………!?それで、高波ちゃん達が傷つく理由にはならないじゃん!」
「けれども………。」
「いえ、文月の言う通りだわ。ごめんなさい………高波、綾波………。」
「私も………本当に、ゴメン………。」
錯乱するあまり、目の前の状況から逃避してしまっていたパースとデ・ロイテルは高波達に頭を下げる。
全員が無言になった事で、しばらく辺りは静かになった。
「ねえ………パースさん、デ・ロイテルさん。」
「何………?」
「折角だから………聞かせてくれませんか?2人の国の話………。」
沈黙がイヤだったというのもあったが、高波としては2人の心をほぐしておきたかった。
それに、どうしてもヒューストンが言っていた彼女達の孤独の感情を知っておきたかった。
「私………達の………?でも………。」
「有りのままを………話してくれればいいかもです。」
「分かったわ………。」
その気持ちにパースとデ・ロイテルの2人は静かに語り始める。
自分達の国で体験した………悲しい日々の事を。