「そもそも艦娘の候補になる娘って………主に2種類いるって聞くわ。それは、日本でも同じかしら?」
「………高貴な家が人類を守るという使命を果たす為に送り出すパターンと、生活の為にやむを得ず艦娘という道を選ぶパターンだよね。」
パースの言葉に、負傷している高波に代わって文月が答えていく。
艦娘になると人間としての記憶は消えてしまうから、自分がそのどちらなのかは分からない。
だが、伝わってくる噂話が正しければ大抵は後者だ。
というのも、艦娘になるのにはリスクが伴うからだ。
艤装を装着していく過程で起こる後遺症。
艦娘として成長していく上での轟沈と隣りあわせの日々。
もしも、前者の理由で送り出す者がいるのならば、家の名の為の厄介払いでは無いか?と疑問に思う程である。
「高波ちゃんを通じて吹雪ちゃんの話を聞いたけれど………、日本は初期の頃は選別に四苦八苦していたみたいだから、絶対に愛する娘を送るなんてパターンは無いよね。だから………。」
「うん、文月の言う通り。私は訓練学校時代の教官の話が聞こえてきたから知ったんだけど………元々私は深海棲艦に乗船中に襲われて生き残った娘の1人だったんだって。パースは………港の近くにあった学校が深海棲艦に砲撃されたんだっけ?」
「ええ………。正式に艦娘になる前は、身体中が傷だらけだったわ。希少な生き残りだったから、国によって存在を消されたんだと思う。」
「酷い国………って言ったら日本だって闇だらけだから同じものか。」
例えば、ここにいる神鷹は艦娘になる過程で日本人かドイツ人か分からなくなってしまっている。
上層部は基本的に艦娘を道具扱いにしかしていないし、奪還(ドロップ)で戻って来た娘のように、辛辣な扱いをする事も多々あった。
「そんな中でも挫けずに済んだのは………仲間がいたからなの。艦娘の候補に選ばれた仲間が。」
「私も。何処からか知らないけれど、一緒に集められた友達がいたから正気を保っていられたんだよね。」
「………聞いてもいい?その仲間や友達は?」
文月の質問に、パースとデ・ロイテルは一瞬考え込む。
しかし、互いに顔を見合わせると静かに告げた。
「艤装を無理に装着していく過程で………廃人になったわ。」
「というより………どうしてだろうね?私達だけ、運よく艤装との適性が良くて艦娘になっちゃったんだ。」
「そっか………。」
日本で初期艦と呼ばれる5人だけが艦娘に目覚めたように………それぞれオーストラリアとオランダではパースとデ・ロイテルだけが目覚めてしまった。
国としては1つの偉業を成し遂げたと言えるだろう。
しかし、その代償は………あまりに大き過ぎた。
「その後、廃人になった仲間や友達はどうなったか知ってる?」
「分からないわ。国の手配した病院に運ばれて………今は生きているのか死んでいるのか。」
「元々艦娘の候補になる過程で存在が闇に葬られているからね。どうなっていても不思議じゃないと思う。」
艦娘の候補になった時点で、もはや人権は無い。
彼女達が元に戻れる可能性など、ほぼ0%に近いだろう。
それだけでもパースとデ・ロイテルにとっては闇であった。
だが………。
「本当に悲しいのはここからよ。どれだけ代償を払おうとも、私やデ・ロイテルという成功例が出来てしまった以上、国は艦娘の生産を行おうとするわ。だから………。」
「どこからか確保してきた新しい娘達が続々と適性検査という名の地獄を体感する事になるんだ。そして………使い潰されて廃人へとなっていく………。」
「国は日本の適性検査の技術を買う事はしなかったの?」
「したわ。だけど、元々デリケートな技術だから、環境や艤装の形状が違うと上手くいかないのよ。」
「結局の所、上手くいくまで試行錯誤を繰り返すしかなくてね。その失敗の積み重ねが………。」
そこでデ・ロイテルが涙を流し出す。
彼女の目からは光が消えていた。
「その失敗の候補に選ばれたみんなは泣いていたよ………。悲しんでいたよ………。絶望していたよ………!私に恨み言を叫ぶ娘だっていた!何でお前だけ艦娘になれたんだってね!でも、当然なんだ!みんな廃人になるって分かっていたらおかしくなるんだから!!」
「デ・ロイテルさん………。」
文月は静かに頭を振って悪夢を払おうとするデ・ロイテルを抱きしめた。
彼女は文月の細い身体に身体を預けてわんわん泣いた。
パースはその間、下を向いて拳を握りしめていた。
やがて、デ・ロイテルは文月にしがみついたまま喋り出す。
「私ね………止めたいんだ。国で起こっているその悪夢の連鎖を。そしたらお偉いさんに言われちゃった。日本は嘘をオランダに伝えてるから、自分の目で真実を見て来いって。私の手で………犠牲になる娘達を救ってこいって。」
「責任転嫁だね。デ・ロイテルさんは何も悪く無いのに。」
「そう………かな。」
「そうだよ。国や戦果に拘っちゃったのは、その大切な人達を守りたかったからなんでしょ?デ・ロイテルさんは優しい艦娘だよ。勿論、パースさんも。」
「……………。」
「ヒューストンさんが仲良くしたいと思うし、助けて欲しいって願うはずだよ。だから………さっきはゴメンね。」
文月はそう言うとデ・ロイテルの頭を撫でた。
彼女は再び文月の肩に自分の顔を埋め静かに泣き出す。
「パースさんも………私の肩で泣いていいよ?」
「………遠慮しておくわ。」
「むぅ?やっぱり胸部装甲がある海風ちゃんや神鷹さんの方がいいの?2人は高波ちゃんや綾波ちゃんの治療中だからダメだよ?」
「え?そ、そういう意味じゃ………。」
「いいから!」
「わ!?」
無理やり腕を引っ張って引き寄せた事で、パースも文月の肩に顔を埋める形になる。
その頭を文月は優しく撫でた。
「………暖かい。」
「パースさんも、本当は辛いんだよね。オーストラリアを背負ってるから。」
「………そうね。私も………辛い。」
「たった1人の艦娘で孤独なのに………国の身勝手な事情で沢山の人質を取られて………みんなを救う為に単身乗り込んできて………。」
「ええ………上手くいかない日々が続いて………功を焦って高波達に大怪我を負わせて………任務も失敗して………。」
「それでも………戦いを強要されて………。」
「………苦しい。胸が張り裂けそうなくらいに苦しいのに………逃れられない………!自由に………なりたいのに………!」
文月の身体に爪が食い込んだが、彼女は静かに我慢していた。
パースもそのまま肩を震わせて泣き出す。
しばらく2人が心行くまで泣くのをみんなで見守っていた。
だが………数分後、急に洞窟が揺れる。
「爆撃………?」
「深海棲艦が外で砲撃して洞窟を崩そうとしているのかもしれません。」
神鷹と海風が注意深く洞窟を見渡してみると、所々天井からパラパラと岩の欠片が落ちてきていた。
敵は、鍾乳洞内の艦娘達の恐怖を煽る手段を取ろうと決めたのだろうか?
それとも、炙り出す為の作戦を取ろうとしたのだろうか?
どちらにせよ、このまま長時間留まる事ができなかった。
それを海外艦の2人も感じたのか、泣き止むとお互いの顔を見合わせ頷く。
「高波、綾波、文月、海風、神鷹………貴女達はここで死ぬ存在じゃないわ。」
「え?」
「私達がちょっと飛び出して敵の気を引くからさ。それで………。」
「それは………許さないかもです。」
そこで今まで黙って話を聞いていた高波が残った左手で待ったをかける。
彼女は海風に手伝って貰いながら起き上がると、艤装を確認して貰う。
幸い、そちらにはダメージは無く、左太ももの魚雷を失った事以外は問題なかった。
「海風さん、背中の魚雷を………左太ももに付けてくれませんか?」
「貴女!?その状態でまだ戦うつもりなの!?」
思わずパースが静止しようとするが、高波はそれを無視して左手で主砲を掴む。
幸いにも彼女は左利きだったので、主砲の発射に関しては問題なかった。
「ヒューストンさんは………全員の無事を願っていました。そして、頼まれた以上は叶えるのが駆逐艦魂かもです。」
「で、でも………高波も綾波も私達のせいで………。」
「だからといって自ら轟沈するのは許さないかもです。旗艦として………駆逐艦として絶対に。」
「貴女の嚮導は何を教えたのよ!?」
「迷うな………です。だから、高波は自分の意志に従います。ここにいる7人全員を守った上で………輸送任務も成功させます!」
「ちょ、まだ任務にも拘るの!?」
迷うな………というのは、最初に嚮導であった長月に教わった言葉だ。
「かも」という言葉故に迷ってばかりだった高波にとって、この言葉は魔法の言葉であった。
だからこそ、成長した彼女は自分の心に従うのだ。
「神鷹さん。時刻はいつですか?」
「そろそろ夕刻を過ぎて夜に入ります。………ごめんなさい、夜偵は積んでないんです。」
「では、ここで綾波さんと荷物を見ていて欲しいかもです。」
「あれ~?それだと綾波も………戦力外って判断じゃないですか~?」
言葉に気づくと、綾波も起き上がっていた。
右の脇腹は血で染まっており脂汗もたっぷりと流していたが、彼女の目からは闘志が消えていなかった。
「あ、綾波………!?その状態で海戦は………?」
「綾波は………これでもソロモンの鬼神と呼ばれてるんですよ~?だからこそ、この海域は………譲れません。」
偶然にもソロモン海に近い所に来ている事もあって、綾波はニコリと笑うと自分の両手の連装砲をチェックする。
綾波の方も艤装は問題なく稼働していた。
「でも、私達の失態でこうなった以上………。」
「失態なら綾波も………何度も経験してます。高波は知っているかもしれませんが、改二に目覚めた時は………慢心から大失敗してしまって、その上、敷波に八つ当たりしてしまったんですから。」
顔面を思いっきり殴り飛ばしちゃったなぁ………と物騒な事を呟く彼女に唖然とするパースとデ・ロイテル。
止めるのが無理だと思ったのだろう、文月と海風もそれぞれの装備を確認していく。
「ちょっと外で勝ち誇っている敵深海棲艦に………手負いの駆逐艦の怖さを教えてやるかもです。」
「いいですね~。綾波も………久々にアドレナリンが全開になって来ました!」
「後悔、しないの………?」
『しません!』
揃って声を上げる高波と綾波に対し、パース達は自分達が色々な意味で考えが甘かった事を悟る。
彼女達は助けを求める者達を決して見捨てない。
それがヒューストンや自分達のような海外艦であっても。
「だから、作戦を成功させましょう。まだ終わってないんですから!文月さんと海風さんもいいですね?」
「やってやるよ~!みんなを苦しめる奴らはふっとばすからね~!」
「私は雷撃戦も得意としていますから頼って下さい!みんなで生きてショートランド泊地へ行きましょう!」
「私は、今は戦力になれませんが………みんなの無事を祈っています。」
「神鷹さんは荷物を守ってくれるだけでも有難いですよ~。じゃあ、行きましょうか………パースさん、デ・ロイテルさん。」
綾波はそう言うと、パースとデ・ロイテルの手を引いた。
2人はそれに引っ張られるように7人の輪の中に入っていく。
「生き残りましょう!………そして、みんなで………大切な人達を守る方法、考えて行きましょう!」
「高波………ええ、そうね!私達も微力だけど力になるわ!」
「ありがとう………みんな。絶対に生き残ろうね!」
ここに7人の力と心が結集する事になる。
そして、彼女達は洞窟を飛び出していった。