燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第79話 綾波~迷うな~

鍾乳洞の外では軽巡棲鬼が2隻待ち構えていた。

敵深海棲艦は飛び出して来た艦娘を狙い撃ちにする算段なのだ。

だが、勝ち誇った笑みを浮かべる2隻の軽巡棲鬼は突如驚愕する事になる。

洞窟の出口からいきなり眩い閃光が飛び出したのだから。

 

「予測してないと思いましたか~!?」

「ナ!?」

 

その閃光で逆に出鼻を挫かれた左の軽巡棲鬼の顔に、単騎で飛び出して来た艦娘の2丁の連装砲が突きつけられ、そのままゼロ距離射撃を受けて沈められる。

それは綾波。

彼女は持参していた照明弾を投げつけて動きを封じたのだ。

慌ててもう1隻の右の軽巡棲鬼が綾波を狙う。

 

「遅い!」

 

しかし、彼女はそのまま右にスライドして移動しながら砲撃を躱し、笑みすら浮かべながら右の連装砲を撃って逆に怯ませる。

そのまま回転しながら左の連装砲を撃って魚雷発射管となる口を破壊し、更に両手で連装砲を撃ち両側の砲塔を破壊する。

後はそのまま一方的に手数に任せて連射していき砲撃の雨を浴びせる。

 

「テ、手負イナノニカ!?」

「これが、ソロモンの鬼神です………よ!」

 

右脇腹を負傷しているとは思えない程の軽快さで、最後に顔面を撃ち抜いた綾波はもう1隻の軽巡棲鬼も沈めていく。

そのタイミングで高波が洞窟から飛び出し、その後ろから海風と文月、そして擬似改二を発動させたパースとデ・ロイテルが続く。

綾波と合流して複縦陣になった彼女達は、一気に増速していく。

 

「綾波、傷は?」

「高波とはお互い様ですよ。かなり痛いですけどね………!」

 

止血したはずの右脇腹から血が再び染み始めていたが、綾波は強気の表情で先頭になって探照灯で前方を照らす。

高波も右腕は失っていたが、パースから借りた探照灯を腰に括り付けて前方を照らしていた。

上空には、奥に控えている深海鶴棲姫が魚雷や爆弾を抱えた夜偵を飛ばしている。

しかし、その前に援軍でやって来たのか、フラッグシップ級の戦艦タ級が3隻横に並んで砲撃体勢に入っていた。

 

「T字不利ね。夜偵もいるし輪形陣にする?それとも………?」

「このまま複縦陣で突撃するかもです。文月、パース、デ・ロイテルは夜偵の迎撃を!」

「まっかせて~!」

「とにかく撃ちまくるわよ!」

「よーし、3人でやれば!」

 

失った右腕の痛みを堪えながらも、熟練の目を使いながら指示を出す高波。

迎撃能力に優れる文月を筆頭に、夜の海域に赤い砲弾が撒き散らされる。

一方で戦艦タ級はそんな彼女達に対し、ニヤリと笑みを浮かべると狙いを定める。

 

「綾波、左3歩!文月、急ブレーキ!」

 

それに気づいた高波自身も含め、狙われた3人が迅速に対処し回避する。

全弾回避された事でタ級が苛立ったのが分かったが、今度は深海鶴棲姫の砲塔が綾波に向く。

更に文月たちの迎撃を避けた数少ない夜偵も彼女に狙いを定め、魚雷や爆弾を投下していた。

 

「綾波、右前に5歩分!他は離れて!!」

「くっ………!」

 

普通に走って避けられる歩数では無かったので咄嗟に側転する事で綾波は回避。

だが、身体が激しく動く度に綾波の右脇腹からは血が出てくる。

隊列に戻った彼女は咳き込みだし、口からも血を吐き出した。

 

「高波!綾波が持たないわ!敵もそれが分かってる!」

「そうかもです………綾波、探照灯をパースに渡して後ろに………!」

「いえ、まだ残ってる魚雷は撃たせて下さい!」

「わかったかもです………!海風!」

「了解です!」

 

素早く指示を出した高波に応じて、綾波が6発の魚雷をタ級3隻に向けて扇形に放っていく。

速力に優れるタ級はそれを回避するが、すぐさまその内の2隻が急に爆ぜる。

高波と海風が時間差で魚雷を2本狙いを定めて撃ったのだ。

 

「直撃させました!後6本あります!」

「陣形入れ替え!先頭から高波とパース、デ・ロイテルと海風、綾波と文月!文月、デ・ロイテル、綾波の後方の夜偵は絶対に撃ち落として!」

「ごめんなさい………、後は………任せます。」

「大丈夫、大丈夫!いざとなったら私を盾にしてね。」

 

デ・ロイテルが労う中、パースに探照灯を渡した綾波が素直に後方に移動し、彼女を守るように隊列を作り直す。

すると残ったタ級は深海鶴棲姫と共に、同じく手負いの高波を狙う。

だが、タ級も軽巡2人の攻撃範囲には入っていた。

 

「デ・ロイテル、パース先制砲撃!」

「おっけー!」

「任せて!」

 

海外艦2人が自慢の火力を発揮した事でタ級は思わず砲撃しそびれる。

高波は深海鶴棲姫の砲撃を増速しながら回避して、そのままタ級に迫る。

目の前に唖然とした深海棲艦の顔。

その顔面に左手の連装砲を思いっきり連射してやる。

悲鳴と共にタ級は沈んでいった。

 

(後は………1隻………!)

 

だが激しく動いたからか、そこで腕の痛みがまた強くなり高波は眩暈を覚えてくる。

深海鶴棲姫は苛立ちの表情を見せながら叫ぶ。

 

「駆逐艦ト足手纏イ達ノ癖ニ!沈メ!!」

 

再び四方八方から魚雷を持った夜偵を突撃させ、深海鶴棲姫自身も砲撃体勢に入る。

文月が後方の夜偵を中心に落とすが前と横の夜偵まではカバーしきれない。

 

「落としきれないよ!高波、回避方向は………!?」

「ぱ、パースが………。」

 

だが、そこで激しい頭痛を覚え高波は蹲る。

昼の海戦とダメージの消耗と合わせて、いつもより熟練の目が使える時間が短くなっていたのだ。

深海鶴棲姫は勝ち誇ったように高波に砲身を向ける。

 

(しまった………。)

 

ここで致命的な指示ミス。

自分のミスで艦隊全員が沈む。

そう思った高波であったが………。

 

「高波、諦めないで!デ・ロイテル!!」

「おっけーい!!」

「え!?」

 

突如、その首根っこが掴まれる。

パースが手持ちの二丁の主砲を捨てて高波と海風を高々と持ち上げたのだ。

同じくデ・ロイテルも文月と綾波を同様に持ち上げる。

その次の瞬間魚雷が複数落下し、砲撃が炸裂する。

そして………。

 

「ゲホゲホ………、パ、パース!?デ・ロイテル!?」

 

降ろされた高波が見たのは身体中が焼けこげ大破したパースとデ・ロイテル。

特にパースは砲撃も掠った為、右の腰の当たりから血を流している。

しかし、持ち上げられていた4人の駆逐艦娘達は魚雷の直撃を受けなかったので小破した位で済んでいる。

 

「ご、ごめんなさい!私が………!」

「気にしないで………軽巡は思ったより硬いから。それに………助け合うのが仲間でしょ?」

「そうそう………後悔するよりも、今は………代わりに、決めてきてよ!」

「………はい!海風、文月!!」

「分かりました!」

「絶対に………仕留めるよ!!」

 

2人の事を綾波に任せた高波は、海風と文月を伴い一直線に迫る。

深海鶴棲姫は砲門を向けるが再装填が間に合わない。

 

「海風!雷撃戦!!全部、当てて!!」

「照準を合わせました!残りは必ず………!!」

 

後退ようとした深海鶴棲姫に対し、高波の残り2発の魚雷と海風の残り6発の魚雷を全部叩きこんでいく。

激しい炎と共に艤装の座椅子が傾く深海鶴棲姫。

 

「コ、コノ!?小癪ナ!?何デソコマデ!?」

「守りあえる仲間がいるからです!」

「お互いをカバーしてこその艦娘ですから!」

「お前には分からないよ!だから………沈めーーーっ!!」

 

高波、海風、文月の3人が深海鶴棲姫のヒューマノイドの顔と心臓を狙い、至近距離から砲撃を乱射する。

ドス黒い血が溢れる敵艦は悲鳴を上げる。

 

「ギャアァァァァアアアアアアッ!?」

 

その強力な駆逐艦達の猛攻を受けた事により深海鶴棲姫も耐えられず沈んでいく。

夜偵達も発着艦を失った事で、次々と海へ落下していった。

 

「か、勝った………かも?」

「みたいですね………。」

「そうだ!パースとデ・ロイテルと綾波は!?」

 

文月の言葉に振り向いてみれば、何とかフラフラと立ちながらも3人は手を振っていた。

更に洞窟の入り口では、大発動艇を引っ張ってきていた神鷹が同じく手を振ってくれていた。

 

「7人全員で………生き残れたかもです。」

 

高波はそう言うと、目指すべき建設中のショートランド泊地を見る。

星空に照らされたゴールは輝いて見えた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ショートランド泊地の作業員から連絡があったのか、そこには西のラバウル基地に物資を届けていた時雨達が待っていてくれていた。

彼女達は満身創痍で物資を届けてきた高波達の姿を見て真っ青になりながらも、道中の苦労を知って労ってくれた。

 

「帰りは僕達が護衛するから、安心してよ。」

 

幸いにも時雨達の方は大した被弾をしていなかった為、帰りの道のりは心配いらなかった。

トラック泊地に戻って来た時は、通信を受けた提督や吹雪、それにヒューストン達が出迎えてくれた。

すぐに船渠(ドック)入りをして高速修復材(バケツ)を使った事で、高波、綾波、パース、デ・ロイテルは無事に回復する事になる。

只、しばらく無理は出来ない状態であった為に彼女達は提督の指示で、強制的に休暇を貰う形になった。

 

「生きているっていいかもです~………。」

 

トラック泊地に戻って身体を治した翌日、高波、綾波、パース、デ・ロイテルは春から夏に代わる日差しの中で、パラソルの下でベンチに水着で寝転がっていた。

ここ数日の出撃で休みを満喫する事の大切さを知った高波は、のんびりとくつろいでいた。

 

「高波………私達、こうやって気を抜きすぎていいのかしら?」

「あー、初日の高波と同じ感想かもです。でも、激戦区にいる以上、こういう休暇は満喫しないとやってられないかもです~………。」

 

パースの言葉に高波は動く左腕でココナッツジュースを飲みながら答える。

隣で寝転ぶ綾波も、同じようにのんびりとくつろいでいる。

それを見たデ・ロイテルが一言。

 

「何ていうか………私達焦り過ぎたのかな?」

 

国で苦しんでいる艦娘の実験に使われている娘達を助ける為に、パースとデ・ロイテルは功を焦って失態を犯してしまった。

しかし、文月、海風、神鷹といった仲間と協力する事で、ギリギリではあったが困難を乗り越える事ができた。

その一連の流れを思い出したのか、綾波が2人に対し言う。

 

「視野が狭くなっていたのかもしれませんね。綾波も失態を犯した時はそれで自暴自棄になってしまいましたから。」

「自暴自棄………そうね、私達もそれに近い状態に陥ってたんだと思う。その私達を高波や綾波、文月達が導いてくれた。だから………私達は生き残れたんだわ。」

「そう言ってくれるのは有難いかもですが………あの海戦で導いてくれたのは、パースさんとデ・ロイテルさんも含まれてますよ。」

「というと………?」

 

高波の言葉にデ・ロイテルとパースは注目する。

彼女は自分の目が疲労の蓄積で働かなくなった時の事を言う。

 

「高波は、あの時ミスを犯してしまって艦隊全員が沈むと覚悟したかもです。でも、咄嗟にパースさんとデ・ロイテルさんが身体を張ってくれたお陰で救われました。2人は艦隊全員の身体だけでなく心も救ってくれたのです。」

『……………。』

「仲間を守る事が国を守る事に直結するとは限らないかもです。でも、偉そうな言葉かもしれませんが、2人はその為の一歩を踏み出せた気がします。」

 

ヒューストンも含め、海外艦3人の練度はまだ高くはない。

でも、彼女達は決してこの最前線で戦っていく上で足手纏いでは無いのだ。

少なくとも持っている艦娘としての心は日本もアメリカもオーストラリアもオランダも変わらない。

だからこそ………。

 

「迷うな………高波の恩師が教えてくれた言葉です。躓く事は勿論沢山あるかもしれませんが、迷わないで少しずつ進んで行きましょう。」

「高波………ええ、貴女の言う通りかもしれないわね。」

「何か高波、駆逐艦だけど嚮導みたいだね。」

「え!?た、高波はまだそこまでは………!?」

「謙遜しなくてもいいですよ~。きっと夕雲型の皆さんや高波の嚮導の方々は喜びます~。」

「あ、あうう~………。」

『あははははは!!』

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがる高波であったが、皆はもうその実力や心得、そして闘志を認めてくれていた。

何故ならば、彼女はもうトラック泊地には欠かせない存在になっていたのだから。

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