燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第8話 雷~刻むべき言葉~

「さあ、私の駆逐隊のみんなは陣形に付いて学ぼうかしら!」

「今更陣形………?あたし、藤や早とか一緒にラバウル行きのような地獄味わうかと覚悟してたんだけど。」

 

雷の言葉に答えるのは、緑青色の髪と黄土色の目を持ったサッパリした娘。

夕雲型10番艦の涼波だ。

彼女の言葉に雷は気を悪くする様子もなく返答する。

 

「あら、艦隊運動は基礎中の基礎よ。だからこそ、欠かす事はできないの。勿論、出来るわよね?」

「もち。舞鶴で散々やったからね!いっひひ、藤波は得意かな!」

 

不揃いに切られた黒の前髪を持つ艦娘が自信満々に答える。

サバサバした性格なのは、夕雲型11番艦の藤波だ。

 

「でも、今回はこの雷様流でやらせて貰うわ!ちゃんと付いてきてよね!」

「お姉ちゃん達もいるし、やれるもん!バカにしないでください!」

 

藤波と似た髪型をしており、若干タレ目の艦娘が少しムキになる。

夕雲型12番艦の早波も、失敗する気等無かった。

 

「じゃあ、誰かが転覆したら、艤装を付けて鎮守府1周ね!全員無事成功したら、昼ご飯は私が奢ってあげる!」

「ふっふーん、任せてよ!秋雲もこれは負けてられないねぇ!!」

 

最後に秋雲が腰に手を当てて答えて笑みを浮かべる。

何だかんだ言って舞鶴でもやわな訓練はしてないのだ。

皆、自信はあった。

但し彼女達が1つ頭に入れておくべき事があったとすれば………雷の訓練は凄まじくスパルタであった事であろうか。

 

「な、何これ~~~!?」

 

約10分後、涼波を始めとした艦娘達の悲鳴が響く。

雷を交えた5人で陣形を組むことになったのだが、その運動が激しすぎる。

最初は単縦陣と単横陣の繰り返しかだったが、その1つ1つのインターバルが速すぎるのだ。

陣形が出来たと思ったら、即座に雷は次の指示を出す。

しかも、旗艦の入れ替えの他、複縦陣での先頭、輪形陣の中心まで複雑に指示が飛ぶ。

これでは普通に対応するのは今の夕雲型の4人では難しかった。

 

「ぎやぁーーーっ!?ご、ごめん!?」

「お姉ちゃん、ひどーい!?」

 

もう何度目かになるか、藤波と早波が衝突して転覆する。

しかし、雷はパンパンと手を叩いてすぐに立ち上がらせると即座に別の陣形の指示を出す。

その表情は夕雲型の面々に比べ、かなり涼しい顔だ。

 

「か、雷さん!?何でそんな余裕で動けるの!?」

「そりゃ、私だって天龍や龍田の元で何度も訓練したからよ。陣形って言うのはね、即座に展開しないと意味が無いの!例えば敵の空母が攻撃機を発艦させたら即座に輪形陣にならないと意味無いでしょ?その後攻撃に繋げるならば、単縦陣か複縦陣よね。」

「……………。」

 

質問をした秋雲を始め、夕雲型は全員開いた口が塞がらない状態だった。

確かに陣形はその都度使いこなさなければ意味が無い。

しかし………。

 

「これは流石にやり過ぎじゃあ………。」

「要救助艦がいたらどうするの?ちゃんといつでも守れる陣形を心掛けておかないと、貴女達の前で沈むわよ?」

「た、確かに………。」

 

涼波が雷の意見に思わず納得してしまう。

深海棲艦との戦闘では、どんな状況になるか分からない。

自分達の認識が甘かっただけで、実際はこれだけの陣形を使いこなさないといけなかったのだ。

 

「さ、もうちょっと頑張りましょ!後、約束通り、鎮守府1周も忘れないでね!」

『は、はい………。』

 

あくまで明るい声で答える雷の姿に、4人の夕雲型艦娘達は、色々な意味で雷や陣形への認識を改める事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

そして長月の駆逐隊は、基礎の基礎である標的への砲撃練習をまず行っていた。

ジグザグにポールを避けつつ動かない的に当てるだけの訓練。

普通ならば練度の高い艦娘達にとっては楽な訓練だ。

しかし、彼女の班に割り当てられた4人はというと………。

 

「巻雲行きます!へやぁーーーっ!!」

 

勇ましい雄たけびと共に、停止線からスタートを切ってジグザグに動く巻雲は、標的を狙っていく。

ところが、その命中率は………。

 

「約5割………昔の私よりも酷いぞ。」

「ええっ!?そんな外してますか!?」

「ちゃんと当たったかどうか確認しろ。動きながらでも出来るだろう?」

 

どうやら本人は全弾命中させていたつもりであるらしい。

長月は、ペイント弾の当たり所を改めて見せながら1つ1つ説明すると、巻雲は更にショックを受ける。

 

「砲撃時の姿勢が独特だな。その邪魔な袖はまくれないのか?」

「げ、限界があります!うまくまくれないのです!ちなみに以前切ろうとしたら、怒られました!」

「機密事項は色々あるが………これは厄介なものだな。」

 

色々と考えながら、長月は次の艦娘に合図を送ってスタートさせる。

膝まである灰色の髪を持つ艦娘は夕雲型19番艦清霜だ。

 

「大戦艦、清霜行っきまーす!!当たれーーーっ!!」

「……………。」

 

巻雲以上に勇ましい声を上げながら、ポールをジグザグに避けつつ標的を撃ち抜いていく清霜………のはずが。

 

「命中率4割だ。」

「えーっ!?巻雲姉さんより酷いじゃない!?」

「清霜。お前の場合、根本的に標的に届いてない事が多いぞ?」

「マジですか!?」

 

駆逐艦の砲は余程の練度の高い艦娘でない限り、近づかなければ当たりはしない。

清霜の場合、その適正射程よりも更に遠くで撃つ癖がある。

その原因は………。

 

「お前、戦艦の射程を追い求めて無いか?」

「え?遠くに撃てるようになったら戦艦に近づけますよね、長月さん!?」

「えーっとだな………。」

 

純真な目で見てくる清霜に、長月は流石に言葉を詰まらせる。

実は舞鶴からの資料では単刀直入に「アホの子」と書いてあり、長月はどういう評価をしているんだと怪訝な顔になっていた。

しかし、これでは正直資料通りに納得せざるを得ない。

とはいえ、駆逐艦が戦艦になれるという夢をバッサリ斬るのも何か間違っている気がした。

 

「やっぱり………なれないんですか?」

「前例はない。只、軽巡洋艦が改二の力を発揮して重雷装巡洋艦になった例はあるからな………。」

「じゃあ、やっぱり!!」

「だが、改二の力を発揮するには練度の上昇が必須だ。まずは駆逐艦としての力を身に付けないといけないだろう。」

「分かりました!うん、清霜に任せて!!」

 

とびっきりの笑顔を見せる艦娘に理想と現実をどう教えていくか悩みながら、長月は次の艦娘にスタートの指示を出す。

前下がりのショートカットに耳元を編み込んだ髪を持つ、小柄な容姿の夕雲型6番艦の高波であった。

 

「高波、出撃かも、です!」

「……………。」

 

高波はスタートしてジグザグ航行をしながら的確に的を撃ちぬいていく。

その動きは、巻雲や清霜に比べると隙がない。

だが………。

 

「第1標的命中かも、です。」

「……………。」

「第2標的命中………かも、です。」

「……………。」

「第3標的………あ、外したかも、です。」

「……………。」

 

只、無言で隊内無線を聞く長月は、高波がゴールをするのを待つ。

そして、彼女に聞く。

 

「標的への命中率は?」

「9割かも………です。」

「正解だ。ほとんど射撃も無駄が無い。しかし、その語尾だと嘘か本当か分からんぞ。」

「う………でも、この喋り方は癖かも、です。」

 

厄介な癖だと長月は内心思う。

艦娘は人間を止めた瞬間に、人としての記憶が艦の記憶に書き換えられる。

高波は標的を撃沈させた「かも」しれないという逸話から、こんな喋り方になってしまったのだろう。

 

「いけません………か?」

「相当不味い。実戦でこの喋り方をしてみろ。敵艦撃沈等の誤認に繋がったら、最悪自分や味方に被害が出るぞ。」

「そうかも、です。………あ、う、分かっているんです………分かっているけど………。」

 

俯き落ち込む高波を見て、長月はもどかしい物を覚える。

高波は練度だけならば、すぐに夕雲達と同じような実戦での訓練が出来た。

だが、この喋り方では流石にすぐに初風に渡すわけにはいかない。

 

「迷うな。」

「へ………?」

「迷うな。それを常に頭に入れて置け。最後行くぞ。」

 

長月はとりあえずそれだけを言うと、高波の反応を待たず、最後の艦娘にスタートの指示を出す。

スカイブルーのロングヘアを三つ編みにしている艦娘だった。

どういうわけか前髪が長すぎており、ヘーゼルのカラーの目が隠れてしまっている。

夕雲型13番艦の浜波であった。

しかし………。

 

「う………あ………う………。」

「ん?どうした、浜波、抜錨してくれ。」

 

いつまでもスタートしない浜波に何かあったのかと思い、長月は彼女の元へと向かう。

小柄な長月を前にした浜波は、まるで深海棲艦の姫クラスと対峙したかのように振るえて怯えた顔を見せる。

 

「あ、あたし………あの、あたし………っ。」

「抜錨だ。何、最初は誰だって失敗する。私も腕は壊滅的だった。」

「でも、でも………失敗したら、あたし………怒られて………!」

 

早口でぼそぼそと呟く浜波を見て、長月は舞鶴から渡された資料を思い出す。

浜波は駆逐艦娘としては異例で、極度な怖がりであった。

好戦的な性格ではなく自己主張が乏しく臆病過ぎる駆逐艦娘。

長月は喋り方から横須賀の同部屋の霰を一瞬思い出したが、彼女は単純に無口なだけで、何より実力が伴っていた。

こういう娘の場合………。

 

「浜波、仲のいい夕雲型はいるか?」

「え………えっと、なっちゃん………ふーちゃん………あーちゃん………。」

「長波、藤波、朝霜………と言った所か。いいか、よく聞くんだ。駆逐艦は1隻では深海棲艦には対抗できない。だから群れを組んで対抗する。」

 

髪に隠れた目をパチクリとさせる浜波を怖がらせないよう、膝を水面について顔を見上げて長月は喋っていく。

 

「逆に言えば、1隻でも敵を恐れる艦が居たら、そこから崩れて誰かが犠牲になる。………それは、お前の大切な仲間かもしれないんだ。」

「そ、そんな………!」

「だから、訓練して隊の練度を向上させる。………失敗を恐れずやるんだ、浜波。お前は仲間が沈んでもいいのか?」

「い、いや………!やる………やりま、す………!」

 

長月の言葉が通じたのか、浜波は犬のようにグルルルと震わせ初めて闘志を露にする。

そして、的を睨みつけると、思い切ってスタートを切った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

浜波の命中率は大体7割であった。

長月は肩で息をしている4人を集めると、隊内無線によるホウレンソウの重要性を語る。

基礎中の基礎ではあったが、こういう所も担当しないといけないのが嚮導だ。

そして、彼女は岸に上がると、高波と浜波に自分の両隣に並ぶように言う。

更にその横に巻雲と清霜だ。

 

「今から、特別訓練を行う。………何、ちょっと昔に霰がやっていた物だ。今回は真似させてもらう。」

『特別………訓練?』

 

頭に疑問符を浮かべる4人に、長月は海に向かってニヤリと笑った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さて、母港まで戻ってこれたわね。………って、何やってんのよ、長月。」

「え?何かあったのです………え?」

 

夕雲を旗艦にして昼前に母港まで戻って来た初風嚮導の駆逐隊は、沖に向かって手を上げている長月嚮導の部隊を見る。

その中心に立つ長月は、思いっきり息を吸うとこう叫んだ。

 

「ぱんぱかぱ~ん!!」

『ぱ、ぱんぱかぱ~ん………!』

 

凄まじく恥ずかしそうに後に続いて叫ぶ巻雲達。

特に浜波なんかは顔を真っ赤にして俯いている。

 

「初風さん、あの合唱は………?」

「重巡の愛宕さんの真似ね………。無線でしっかり声が伝わるように、ああやって大声を出す練習をしているのよ………多分。」

 

最後は呆れた様子で答える初風に、夕雲達は他の駆逐隊の様子を見て首を傾げる。

深雪嚮導の駆逐隊は何故か全員全身ずぶ濡れで、その深雪以外は全員海の上で寝転がっていた。

雷嚮導の駆逐隊は彼女の指示の元、艤装を背負った状態で、鎮守府の外周を走り回っている。

 

「一体、何が………?」

「ま、今は自分だけの事を考えなさい。午後も訓練は続くんだから。」

 

首を傾げる夕雲達に対し、何かを悟ったように初風が淡々と言った。

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