燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第80話 長波~欠番の駆逐隊達~

高波がトラック泊地の一員に馴染んだ頃、季節は夏へと移り変わっていっていた。

気候は暑くなり、特に南の泊地は全て猛暑に包まれる事になる。

それは、トラック泊地からパラオ泊地を挟んで西に存在するタウイタウイ泊地も同じであるらしく、皆が熱波に苦しんでいた。

とはいえ艦娘は基本、実戦か訓練のどちらかがメインであり、汗をかきながら耐えていく事になる。

 

そんなある日のタウイタウイ泊地での出来事であった。

訓練海域では2つの駆逐隊が演習を繰り広げていた。

1つは長波旗艦の初霜、山風、舞風、朧、望月の第二十五駆逐隊。

彼女達が相手をしていたのは、陽炎旗艦の霰、長月、皐月、潮、曙の第十四駆逐隊である。

 

「くっそー!こんなのって反則だろ!?」

 

演習での激突が続く中、長波の悲鳴が響き渡る。

何故、陽炎達のエース駆逐隊がタウイタウイ泊地にいるかというと、久々の休暇を利用して皆がそれぞれの籍を置く鎮守府等からやって来たからだ。

つまり、彼女達はわざわざその休暇を利用して長波達の相手をしてあげているという事になる。

それは有難いのだが、全員が歴戦の戦士という事もあり、長波達は全員劣勢になってしまっている。

気付けば、長波側は彼女以外、5人共海上で力尽きて伸びていた。

 

「ケッコンカッコカリしてる初霜や望月までやられるなんて何て実力だよ!?ていうか、陽炎!何でバルジを両手両足に付けてるんだ!?明らかに長波サマ対策だろうが!?」

「そりゃ、無策でツッコむ程私も馬鹿じゃないわよ。その高火力、しっかり封じないとね!」

 

最後は長波と陽炎の一騎打ち(というより周りがもう見学ムード)となっており、長波は最後に一矢報いる事を考えていた。

だが、陽炎は深海玉棲姫戦での重装甲(フルアーマー)装備で長波に肉薄し、砲撃による高火力が自慢である彼女を手玉に取っていた。

 

「近づいてくるな!いじめだろ!?これ!?」

 

リスペクト先は過去の長波自身とはいえ、とにかく硬いバルジでボコボコに殴られたらたまったものじゃない。

何とか距離を取ろうとするが、そうなると演習用とはいえ、左右両方のサブアームの魚雷発射管の射程に入ってしまう。

陽炎は左右の次発装填装置も合わせて合計16発の魚雷を撃てるという派手な仕様であったので、主砲の高角砲をベルトにしまって撃たなくても困らなかった。

 

「と、とにかく距離を………!?」

「そろそろ終わらせるわよ!「殴り愛」は大好きなんでしょ!?」

「愛の意味が違………おわぁ!?」

 

思いっきりアッパーを喰らった事で派手にふっ飛んだ長波はそのまま陽炎の演習用の魚雷の一斉射を浴び大破する。

これにより審判を務めていた秘書艦の古鷹が笛を吹き、演習は終了する事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「な、情けねえ………世界一の駆逐隊を目指そうとって意気込んだのに、まだ陽炎達の足下にも及ばないのかよ………。」

「私達も無傷じゃなかったし、距離は詰まってきてるわよ。南の深海棲艦は凶悪なんでしょ?鍛えていればいずれ本当に世界一になれるって。」

「そのフォローは、今は余計に傷を抉るからやめてくれ………。」

 

船渠(ドック)入りを終えた12人の艦娘達は執務室へと入っていく(といっても内6人はかなり落ち込んでいたが)。

今回休暇を利用してでも第十四駆逐隊の面々がタウイタウイ泊地にやって来たのは、久々の再会を喜ぶ為以外にも理由はあった。

実は、彼女達は………というか横須賀鎮守府所属の陽炎と長月は、長波達率いる第二十五駆逐隊に頼みたい事があったのだ。

 

「失礼します、司令。陽炎始め、第十四駆逐隊………タウイタウイ泊地に着任しました。」

「ああ、お疲れ様。噂は聞いてるよ。わざわざ休暇なのに長波達を鍛えてくれてありがとう。」

「いえ、これ位はお安い御用です。」

「さてと、では本題を話す前に………初霜。」

「はい。」

 

タウイタウイの提督の言葉に、第二十五駆逐隊の副艦を務める初霜が前に出ると椅子に座っている若い提督の膝の上に何と自身もちょこんと座る。

そして、頭を優しくなでなでされて2人共嬉しそうに微笑んでいるでは無いか。

 

「………ね、ねえ潮、皐月………あの2人って………いつもあんな感じなの?」

「はい。仲がいいですよね。」

「仲がいい………というレベルなのか?」

「何か関係が発展してからボク達の手の届かない所に行っちゃったね。」

「傍から見ると………2人の世界に………入ってしまっていると思う………。」

 

元々現在タウイタウイに所属している潮と皐月に思わず怪訝な顔で問いかけた曙と長月、霰は思わず少し引いてしまう。

こうなってしまったのは色々と経緯があるのだが、簡潔に言えばいつ失われるか分からない駆逐艦と提督としての生故に、ケッコンカッコカリをしているお互いが日々を大切に過ごしているとの事である。

 

「だからって毎回見せつけられると………あたしは困る。」

「あたしも山風と同感。何か踊りの調子が狂うっていうか………。」

「朧も。初霜ちゃんは幸せそうだけれど………。」

「まあ、いいんじゃない?初霜なりに幸せ感じてるみたいだし………。」

 

第二十五駆逐隊の面々も次々と意見を言う中で、とりあえず長波はコホンと咳を吐いて一言。

 

「で、提督………何があったんだ?」

「そうだな………。まず、長波は松型駆逐艦という形式を知っているか?」

「松………型?」

 

長波が思わず後ろを向いて第二十五駆逐隊の面々に確認を取るが、皆が首を横に振る。

どうやら、誰も分からないらしい。

それを見て提督が説明を始める。

 

「簡単に言えば夕雲型の後に起工した形式だ。」

「長波サマ達の後!?じゃあ、かなりの高性能………!?」

「いや、質より量としての効率を重視した形式だから、スペックだけ見れば性能は睦月型並みであるらしい。」

「………長波サマ達の後でスペックが睦月型と同クラスなんだろ?長月や皐月達と違って、練度も低いんじゃねえのか?」

「否定はしない。擬似改二は使えるがそこまで継続時間は長くないみたいだ。只、それ以上に面倒な事があってな………。」

 

そこで提督は少し言いよどむと膝の上の初霜にテーブルの上に置いてある紙媒体を取って貰う。

それは少し前の大体冬から春にかけての新聞の記事であった。

渡された長波は皆に聞こえるように読んでみる。

 

「えっと………南方海域でタンカーが沈没………。深海棲艦の襲撃によるものか?………無くならないな、こういうの。」

「松型駆逐艦は現時点では4人いてな………そのタンカーの護衛をしていた。」

「待て待て………まさかとは思うが………。」

「その中の3人がその際の海戦で轟沈した。1人は運よく助かったが………心に傷を負ってな。横須賀爆撃事件から数週間経った後、鎮守府にいる陽炎や長月の元で傷を癒して貰っていたが、とある理由でこの泊地に来て貰った。」

「何が起こったんだ?」

 

提督は、今度は別の新聞の記事を見せる。

長波は時系列がつい最近である事を確認すると、同じように読んでみる。

 

「南方海域で船の沈没事件が多発………?スールー海って事はこの近くだよな。」

「記事の右下の生存者の言葉を読んで欲しい。」

「それはまるで、バミューダトライアングルのようだった………。重油を纏った3隻の深海棲艦に囲まれた途端、船が浮力を失い沈んでいったのだ………ってこれは!?」

「重油を纏った3隻の深海棲艦………嫌な物を感じないか?」

「……………。」

 

長波が黙ったのは、嘗て春に深海玉棲姫の鎮守府襲撃があったからだ。

その正体は、存在を消されていた彼女の妹艦である玉波。

沈んだ艦娘は深海棲艦になる事もある。

その事実が正しければ、この重油を纏った3隻の深海棲艦というのは高確率で………。

 

「提督………その生き残りの松型駆逐艦は、どうしたいんだ?」

「結論から言えば、まだ事実を受け入れられていないわ。」

 

最後の声は提督でなく陽炎が発した。

彼女はため息を付くと、その艦娘の情報を取り出して渡す。

 

「彼女は4人の内の四女なの。甘えん坊な可愛い子なんだけれど………逃避しちゃってるのよ。」

「逃避って………。」

「絶対に違うって言い張ってる。でも、心の奥底ではやっぱり薄々勘付いているみたいで………それで、今回休暇に合わせて一緒にタウイタウイまで連れてきたわけ。」

「良く付いて来てくれたな。」

「そこはちょっと理由を付けてね………。とにかく、色々と複雑な心境なの。」

 

姉妹艦が深海棲艦になってしまっている。

そんなショッキングな事実の前に心の整理が付かないのは、涼波の謝罪の手紙で長波はよく分かっていた。

きっとその娘は、事実を受け入れる事が怖いのだろう。

 

「………で、ここからがお願い。長波は旗艦経験がある艦娘でしょ?しばらく7人編成で彼女も一緒に見て欲しいの。」

「7人編成!?」

「妹の高波が実際トラック泊地でチャレンジしているらしいじゃない。」

「ま、まあそうだけれど………更に形式が増えるのか………。とんでもない駆逐隊になりそうだな。」

「伝説になれるわよ。………とにかく、この子に会ってみて。」

「分かった。とりあえずは………って、んん!?」

 

その艦娘のデータを見た途端、長波の目が思わず見開かれた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

提督との面会が終わった後、第二十五駆逐隊と第十四駆逐隊の12人は陽炎と長月に連れられて、食堂へと向かっていた。

今の時間は秘書艦である古鷹を始め、タウイタウイに務める艦娘達が食事を取っているはずであった。

その中には夕雲型の末っ子である清霜や切り札的な存在である戦艦である武蔵もいる。

 

「長波さん、どうしたんですか?さっきから凄く難しい顔をしているんですが………。」

「あ、いや………うーん………。」

 

長波にしては珍しく言いよどむ顔をしており、質問をした初霜以外の第二十五駆逐隊の面々も意外そうな顔をする。

そこに長月が助け船を出してくれた。

 

「初霜、横須賀鎮守府にいる那珂さんは知っているか?」

「え?はい………かなり強力な軽巡洋艦ですよね?」

 

那珂は先日の深海玉棲姫の襲撃の際にも主力として活躍し、敵艦達を畏怖させた。

しかし、長月はその言葉を肯定しながらも別の質問をしてくる。

 

「では、その那珂さんの普段の趣味は何だ?」

「え?」

「あの人は普段は何と呼ばれている?」

「………「艦隊のアイドル」。」

 

長月と初霜の会話には、第十四駆逐隊の霰、皐月、潮、曙も注目していた。

難しい顔をしている長月と陽炎の伝えたい事が分からなかったからだ。

 

「そう、艦隊のアイドル。艦娘になる前は本当にアイドルだったのか普段はアイドルとして振る舞って周りを盛り立てている。実はその彼女に「弟子」が出来た。」

「弟子………?あの、まさかとは思うけれど………。」

 

長月の言いたい事を悟り始め、怪訝な顔をし始めた初霜。

そこに、食堂の方から拡声器を使っているのか、大音量で歌が聞こえてきた。

何事かと思い、皆が速足で食堂に入ると、一角にひな壇が作られており桃色をベースに毛先が緑色を帯びたグラデーションのツインテールの髪の娘がノリノリで歌を熱唱していた。

まるでそれこそアイドルのように………。

 

「あたし、桃!丁型のアイドルで、駆逐艦のアイドル目指してまーす!タウイタウイのみんな、宜しくねーーー!!」

『……………。』

 

いきなり飛び込んできたとんでもない光景に、思わず閉口する第二十五駆逐隊と第十四駆逐隊の面々。

食堂の中の面々はというと、瑞鳳と秋月が目をパチクリとさせており、武蔵が豪快に笑っており、清霜が目の中に星を輝かせており、睦月と如月が楽しそうにリズムに合わせて首を横に傾けていた。

ひな壇に関しては古鷹が親切に用意してくれたらしく、それだけでなく苦笑しながらラジカセで音楽を流してくれていた。

 

「紹介するわ、あの子がアイドル………じゃなくて松型駆逐艦4番艦である桃よ。」

「言うまでも無いとは思うが………趣味はアイドルらしい。」

「あたしの歌を聞けーーー!!」

 

陽炎と長波がそれぞれ説明する中、何処からリスペクトしてきたのか、桃の派手な叫びが響いて来た。

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