燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第81話 秋月~駆逐艦のアイドル参上~

一通り派手なリサイタルが終わった後、拍手が響き渡る中で桃は次々と観客?達と握手をしていく。

 

「どうですか?桃の歌は?感動しましたか?」

「えっと………凄かった………かな?」

「アイドルって………那珂さんだけじゃなかったんですね………。」

「あたしは那珂ちゃん先輩の一番弟子なんです!」

 

その内、軽空母の瑞鳳と防空駆逐艦の秋月は、桃のペースに付いていけず呆気に取られている。

そんな2人に悪いと思ったのか、陽炎が強引に会話に割り込む。

 

「桃、満足したのならばそろそろ本題に移るわよ。………ゴメンなさい、瑞鳳さん、秋月。ちょっとこの子引っ張っていきます。」

「え?あ、陽炎さん待って!まだファンクラブ入会の紹介が………イダダダダダ!?顔はダメーーー!?」

 

頬を引っ張られた桃はそのまま食堂の出口へと連れられて行く。

そして、陽炎はそのまま廊下に出ると、強引に桃を長波達に振り向かせる。

 

「桃、紹介するわ。彼女達が第二十五駆逐隊の面々。今日からアンタの預かり先になる先輩達だから。」

「え?桃のファンクラブやバックダンサー、ユニット候補じゃないの?」

「いい加減にしろ!………あ、いや舞風はバックダンサーに近いかもしれないけど………とにかく、タウイタウイに来た目的は分かってるんでしょ?」

「別に………桃は地方巡業する為に来ただけだし………。」

 

桃がしゅんとしたのを見て、長波は重症だなと感じる。

彼女は姉達の存在を受け入れられていない。

勿論、確定情報ではない以上、姉達は深海棲艦になってないのかもしれない。

だが、不確定故に桃の頭に引っかかっているのは確かであった。

 

「………自己紹介がまだだったな。夕雲型4番艦の長波だ。一応、第二十五駆逐隊の旗艦をやっている。後ろにいるのが初霜、山風、舞風、朧、望月だ。」

「ど、どうも………桃だよ。」

「しばらくお前も含めて7人編成で様子を見る事になる。長波サマ達に与えられた使命はまずはお前の練度を高める事だと思っている。」

「れ、練度を高めるって………どうして!?」

「ストレートに言うが、お前は姉達がどうなっているか分からないからモヤモヤしているんだろ?だったらそれを確かめに行くのが手っ取り早い。でも、この南方海域は凶悪な深海棲艦が沢山いる。だから練度を高めなければ自分が轟沈するだけだ。」

「う………。」

「だから、まずは訓練でお前が何処まで付いていけるか見せて貰うぞ。艤装を持ってこい!」

「は、はい………。」

 

有無を言わさない長波の言葉に、桃はしぶしぶ装備品保管庫へと歩いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数時間後の夕食時、昼からの訓練を終えた桃は食堂でぐったりとしていた。

長波の訓練は基本、自他共に含めかなり厳しい。

それに加え夜間訓練や早朝訓練も行うんだから、第二十五駆逐隊に半ば強引に編入される形になった桃にしてみれば悲鳴を上げたくなるほどであった。

そんな伸びている桃から少し離れた所で長波達6人は会話をしていた。

 

「初霜、今日の訓練………桃の姿はどう見えた?」

「正直、練度はまだまだです。あの状態では危険な海域には連れていけないと思う。」

「………山風、桃の態度は?」

「わがまま………。望月は寝坊するけれど、訓練中は文句言わないからまだマシ………。」

「じゃあ、その望月。夜間訓練とかに桃は耐えられると思うか?」

「無理じゃない~?わがままの量が増えるだけだよ?」

「だよな………朧、この原因は何だと思う?」

「うーん、元々の性格もあるとは思うけれど、心の中で逃避しちゃってるからじゃないかな?」

「最後に舞風。今後の桃の指針について何か意見はあるか?」

「アイドル活動のように好きな事には一直線なんだから、少しでも興味を持たせる事ができれば頑張ってくれるんじゃないのかな?」

「興味か………。そこら辺も含めて、差し当たっての問題がある。」

『?』

「誰が、一緒の相部屋で寝て、夜と朝のアイツの面倒を見るかだ。」

『あー………。』

 

第二十五駆逐隊は、長波と望月、初霜と山風、朧と舞風で相部屋を使わせて貰っている。

一方で第十四駆逐隊は、休暇中は陽炎と皐月、霰と長月、潮と曙で相部屋を使っているから彼女達に頼むわけにもいかない。

つまり、桃の面倒を見る艦娘が、欠番の駆逐隊にいないのだ。

彼女のわがままっぷりを見る限り、夜は五月蠅そうだし、朝は確実に寝坊をしそうだし、部屋の相方にはかなり迷惑を掛けてしまう事になりかねない。

 

「だからって1人で眠らせるわけにもいかないし………。」

「ならば、私の部屋に招待しましょうか?」

「ん?」

 

長波が新たな声に反応すると、そこには秋月の姿があった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「うわー!?すごーい!?かわいいー!」

 

厳しい夜間訓練を終えてクタクタになって新しい寝室に案内されてきた桃が見たのは、部屋で跳ね回る自立行動型の長10cm砲ちゃんの姿であった。

秋月は駆逐艦ではあったがまだ相部屋のいない艦娘である。

その理由の1つとして、ここで跳ね回っている長10cm砲ちゃんの存在がある。

ペットのように愉快に動き回る姿は、普通の艦娘にとっては寝る際には五月蠅い存在になりかねないと彼女は思っており、今までは1人で使っていたのだ。

 

「ごめんなさい、もしも五月蠅く思ったのならば………。」

「ううん!あたし、こういうの凄く好き!秋月さん、ありがとう!」

「そう、良かった。長10cm砲ちゃんがいるとはいえ、1人だと寂しかったの。」

「こんなかわいい子達なのに………あたしだったらバックダンサーにしちゃうかなぁ?」

「うふふ、それだったらみんな喜んでくれそうですね。」

 

秋月はベッドに腰掛けると長10cm砲ちゃんの片割れを抱きしめる。

もう片割れは桃が抱きかかえており、2人で笑顔になっていた。

そして、しばらく愛でた後に、秋月から桃に問いかけていく。

 

「桃さん、どうですか?長波さんによる第二十五駆逐隊の訓練は?」

「厳しすぎー。夜になると山風さんが何か怖くなるしー。あんなに荒っぽくやらなくてもいいのにー。」

「やっぱり厳しくやってくれてるのね。それだけ桃さんの事、大事に想ってくれてるのがよく分かるわ。」

「え?どうして?めっちゃくちゃ桃に対して酷いよ、長波さん達!」

 

ぷんぷんと頬を膨らませる桃であったが、そのタイミングで扉が外から叩かれる。

秋月が出てみれば、そこには睦月と如月と古鷹が居た。

 

「アレ?何で3人が………。」

「私が呼んだんです。ちょっと狭いですけれど、3人の話を聞いてくれませんか?」

「う、うん………。宜しくお願いします。」

 

そこで桃は聞く事になる。

古鷹が以前慢心した事で庇った如月が轟沈してしまった事。

その如月が深海棲艦となった事で古鷹と睦月に襲い掛かった事。

最終的に睦月が深海棲艦如月と激しい海戦を繰り広げ、トドメを刺してしまった事。

奪還(ドロップ)はしたが、その出来事で長い間3人は気まずい想いをして離れていた事。

 

「……………。」

「睦月は去年の冬に北の海で死に掛かって、清霜ちゃん達に助けられたのです。そこでの出来事が切っ掛けで2人と和解できたんだよ。」

「あの………この出来事、長波さん達は………。」

「全部知ってるわ。勿論、如月が深海棲艦だった事も………ね。」

「そうですか………。」

「うふふ、軽蔑しないのね。」

「したら………桃はお姉達に顔向けできないかもしれないから………。」

 

ここで桃は初めて姉達の話題をする。

それを聞いて秋月は桃が心の奥底では深海棲艦化した姉達の存在を自覚している事を悟る。

秋月は、頃合いだと思い古鷹達に目配せをして更に会話を掘り下げる。

 

「パラオが再建中の時にですが、とある理由で援軍に向かった第二十五駆逐隊が危機に陥った事があります。その時の旗艦である長波さんは私達が援軍に間に合わなければ、全滅するか仲間を見捨てるかどちらかしか選べなかったんですよ。」

「長波さん達が………?あんなに強そうな人達なのに………。」

「逆です。そんな思いをしたから強くなって選択肢を増やしたいと思ってるんです。」

「選択肢を………増やす?」

「私が教えたんだ。絶望を味わう選択肢しか無いのならば、強くなって希望を持てる選択肢を増やすしか無いって。だから、桃ちゃんに対しても、いざという時に選べる選択肢の数を増やせるように、敢えて厳しく鍛えているんじゃないのかな?」

 

古鷹が言葉を引き継いだ事で、桃はしばらく考え込む。

何をしようにも、自身が弱ければ何も出来はしない。

増してやこの南方海域は、昼間に長波が言った通り凶悪な深海棲艦が沢山いる。

自分を鍛えなければ真実に辿り着く事すら出来はしない。

 

「確かに長波さんは言ってた………。練度を鍛える事が自分の使命だって。厳しくて何か荒っぽい艦娘だけど………本気で桃の事を心配してくれているのかな………。」

「そこは桃ちゃん自身が実際に聞いて確かめないといけないわね。如月達はあくまで聞いた事を伝えるだけだから。それに………お姉さん達と対峙した時にどうしたいのか決めるのも、桃ちゃんにしかできない事よ?」

「……………。」

 

静かでありながら優しい如月の言葉に、桃は只、俯いていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「相変わらずお前は寝坊ばかりだな………。ちょっとは自分の足で動こうとはしないのか?」

「ふああ~………。だって相方がしっかりしてるし~。」

 

次の日、長波は早朝訓練を行おうとして早起きをして、相変わらず眠っていた相部屋の望月を叩き起こして引っ張ってきていた。

恐らくもう、訓練海域には桃以外の4人の艦娘は揃っているだろう。

これが第二十五駆逐隊の日常であるのだが、起こす身としては毎回たまった物では無かった。

 

「そろそろ独り立ちしてくれ。全くこの後、秋月に頭を下げて桃も………。」

「アイタ!?何いきなり手を放してるわけ………って、ん?」

 

装備品保管庫で艤装を付けて訓練海域にやって来た長波と望月が見たのは、海域の真ん中に立つ桃の姿。

彼女は艤装を付けて、しっかりと時間前に集合していた。

 

「桃………あんなに疲れていたのにちゃんと眠れたのか?」

「考え事をしてたから、あんまり眠れてないかも………実は………。」

 

そこで、桃は昨日の夜に秋月、睦月、如月、古鷹から教えて貰った事を正直に語る。

 

「そっか………。古鷹さん達が………。」

「それでね………桃、一晩掛けて、お姉達の事しっかり考えてみたの。もしも、船を沈めているのがお姉達だったら、どうするのがいいのかなって。」

「答えは………出たのか?」

「あんまり出なかったかな………。でも、お姉達が罪の無い人達を沈めていってるって思ったら凄く苦しくなって………。」

「桃………。」

 

相当悩んだのだろう。

アイドルを自称しているのに、目にクマが出来ていた。

だが、彼女は意志のある瞳で長波を見ると、自分の意見を伝え始める。

 

「だから………お願いがあります。桃は………お姉達が苦しんでると思っている。何かに取り付かれて、殺戮衝動に襲われて………もしも見つけたら、静かに眠らせてあげたい。でも、桃だけじゃそれは出来ない事なんです。」

「強く………なりたくなったんだな。」

「うん。選択肢を広める為に………長波さん、桃を鍛えて下さい!」

 

頭を下げる桃の姿をしばらく見た長波は、周りにいる初霜、山風、舞風、朧、そして望月の目を見る。

全員、桃の覚悟を受け入れてくれていた。

だったら、やる事は1つだろう。

 

「………後で秋月達みんなに奢らないとな。」

「じゃ、じゃあ………!」

「そう言えば悪い。肝心な事を言ってなかったな。ようこそ第二十五駆逐隊へ。7人目の艦娘として歓迎する。一緒に精進しようぜ!」

「はい!」

 

差し出した長波の手を取った桃の笑顔が思いっきり弾けた。

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